【名無しさん】 2025年10月19日 18時6分17秒 | 猫でも書ける短編小説 |
【名無しさん】 2025年10月19日 17時57分53秒 | 魂が疾走る京都:秋華繚乱 京都競馬場、秋華賞のゲート裏。冷たい曇天の下、芝の感触が足元に力強さを伝える。三歳の私たちが、この二〇〇〇メートルで、ただ一つの称号を奪い合う。 【エリカエクスプレス】(10番・逃げ馬) 「ねぇ、みんな!聞こえてる!?私、エリカエクスプレスのレースは、ただ一つ!最初からクライマックスよ!フンッ、後ろでゴチャゴチャして、脚を温存するなんて退屈だわ!私の最高速度、ハロン11秒台前半の逃げについてこられる馬なんていない。春の悔しさは、今日、この京都で洗い流す!私こそが、この世代の真のスピードスターなんだから!」 熱く、荒々しく、彼女の栗毛の馬体から闘志が溢れ出す。ゲートが開くや否や、火を噴くようなスタート! 【インヴォーグ】(15番・先行馬) 「くっ、速い!速すぎるぞ、エリカ。でも、焦るな。私の持ち味は『粘り』。この大きな馬体(502kg)を最初から消耗させるわけにはいかない。今はエリカの作る流れに乗って、内目の好位を確保する。前にいるダノンフェアレディ(1番)の影を踏んで、しっかりと息を入れる。第三コーナーまで、我慢、我慢!先行集団で粘りきって、最後にもう一踏ん張りできれば、勝機は見える!」 インヴォーグは、エリカに次ぐ二番手で、虎視眈々と前を追う。 【エンブロイダリー】(11番・差し馬) 「良いペースだわ。私の計算通り。エリカエクスプレスが作り出すこの高速の流れは、中団にいる私に有利に働く。重要なのは、無駄な体力を使わないこと。揉まれない位置、少し外目で、いつでも進出できる体勢をキープ。まだ慌てる時じゃない。私の真価は、誰もが疲弊した最後の直線、残り200メートルでの『切れ味』。そこまで静かに待つ。全ては、女王の座をいただくための準備よ。」 エンブロイダリーは落ち着き払い、先行集団を視界に入れながら、静かに馬群の中を進む。 向こう正面。最初の1000メートルを通過。ペースは落ちない。 【ジョスラン】(3番・中団差し) 「しめしめ、この流れ、最高に私好みだ。私は小柄な方だ。だからこそ、この淀みないペースが、大柄な馬たちの体力を削っていく。私は内側の馬群で、最短距離を進む。道は必ず開く。開かなければ、こじ開けるまでだ。内を突いて、溜めて、溜めて、溜めまくれ。私の鋭い末脚は、直線に入ってから、初めて皆の脅威になる。今は、ただひたすら内側で息を潜める!」 ジョスランは、内々でしっかりと馬群に潜り込み、体力の温存に徹する。 【カムニャック】(17番・追い込み馬) 「フンッ、騒がしい。皆、目先のポジション争いに血道を上げている。私、カムニャックは、この世代の真の王者。勝つことが運命づけられている。焦る必要など、微塵もないわ。後ろで構えて、皆が消耗するのを待てばいい。私の爆発的な加速力は、並大抵の馬では対応できない。…ただ、インヴォーグが少し前にいるのが気になるわね。前が詰まるようなことだけは避けたい。大外から、優雅に、そして圧倒的に差し切るわ。」 カムニャックは、馬群の少し外、後方集団で、静かに勝負どころを待つ。 第三コーナー。勝負所の坂を下り始める。 【エリカエクスプレス】 「ハァッ…ハァッ…!!苦しい!体が鉛のように重い!でも、まだ、私にはリードがある!このリードが私の命綱!誰も来ない!…来ないで!…私の勝ち方、私のスタイルは、これしかないんだから!粘れ、私!」 逃げの代償が、彼女の脚に重くのしかかり始める。 その時、後方大外から、芦毛の馬体が弾けるように加速を開始した。パラディレーヌだ。 【パラディレーヌ】(18番・大外追い込み) 「ここだ!私が活きる場所は、ここしかない!皆が内のゴチャつきを嫌がって、中途半端な位置取りを選んでいる間に、私だけは大外一気を信じていた!馬群なんて関係ない!この長いストライド、この底知れないスタミナこそ、私がこの秋に磨き上げた武器!前を走る全馬を、風速で抜き去ってやる!私の白い馬体が、この京都の空に輝く瞬間よ!」 彼女は直線に向かうまでに、馬群の外側をまるで別次元のスピードで駆け上がる。 第四コーナーを回り、運命の最終直線!残り400メートル! エリカエクスプレスの豪脚が、ついに鈍化。その時、内からエンブロイダリーが抜け出した。 【エンブロイダリー】 「逃げ切らせないわ!お疲れ様、エリカ!ここからは私の舞台よ!内側の進路は開いた!私の体は軽い、バネが効いている!溜めに溜めた力が、今、瞬間最大風速で解き放たれる!見たか、これが私の『キレ』だ!すべてを懸けて、ゴールへ!」 彼女は瞬く間に先頭に躍り出る。しかし、そのすぐ外には、怒涛の勢いのパラディレーヌが迫る! 【パラディレーヌ】 「届く!届くわ!あと一歩!一完歩!エンブロイダリー!あなたを目標に、私、パラディレーヌは走ってきたのよ!私の奇跡は、ここで起こす!」 内からは、ジョスランも執念深く粘り込む! 【ジョスラン】 「くそっ、外のパラディレーヌが速すぎる!でも、私はまだやれる!最短距離を信じた私の脚は、まだ生きている!前の馬を捉えろ!あと少しだ!私にしかできない競馬を!」 そして、大本命のカムニャックは、ここでようやく馬群の外へ! 【カムニャック】 「遅れた…!判断を誤った!しかし、まだ終わらせない!私の女王のプライドにかけて、この一瞬を巻き返す!加速!加速しなさい、私!間に合え!」 残り100メートル!三頭の先頭争い! エンブロイダリーが粘る!パラディレーヌが迫る!エリカエクスプレスも死に物狂いで食い下がる! 「負けるもんか!私が、私が…!」(エンブロイダリー) 「あと一歩!」(パラディレーヌ) 「私の逃げは、終わらない!」(エリカエクスプレス) 首、首、首! ゴール板を、わずかにエンブロイダリーの鼻先が通過した。 勝利の咆哮と、敗北の息遣いが、曇天の京都競馬場に響き渡る。牝馬たちの熱い闘いが、ここに終結した。 |