| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時44分35秒  | 猫でも書ける短編小説 ◀エピローグ:【週末の先へ】 ▶数年後の章:【朝の光、ふたりの時間】  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時9分45秒  | 番外編:【届かなかった週末(彼の視点)】 週末が来るたび、スマートフォンの画面を見ては、彼女の名前を指でなぞっていた。 「連絡しなきゃ」と思いながら、指はいつも途中で止まる。 理由は、はっきりしていた。自分が彼女にふさわしくないと、思ってしまったからだ。 仕事が忙しくなったわけじゃない。 ただ、彼女の笑顔に応えられる自信がなくなっていた。 彼女は優しくて、まっすぐで、いつも僕を信じてくれていた。 その信頼が、重く感じるようになっていた。 何度かメッセージを書いては消した。 「元気?」 「会いたい」 「ごめん」 どれも、今さらすぎて、送れなかった。 そして、あの日。 銀座の交差点で、彼女に再会した。 変わっていた。いや、変わったのは彼女の目だった。 もう僕を待っていない目。 誰かを見つけた人の目だった。 「話せる?」と聞いた僕に、彼女は静かに「もう、話すことはないと思う」と言った。 その言葉は、優しさと決意が混ざっていた。 僕は、何も言えなかった。 彼女の左手がポケットに入っていたのは、偶然じゃないと思う。 きっと、そこには誰かから贈られた指輪がある。 そしてその指輪は、僕が渡せなかったものだ。 週末は、彼女にとって“待つ時間”だった。 でも今は、“歩く時間”になったんだろう。 僕は、彼女の背中を見送りながら思った。 「ありがとう」と言えばよかった。 「ごめん」と言えばよかった。 でも、もう遅い。 週末は、もう彼女のものじゃない。 彼女と誰かのものになった。 そして僕は、誰の週末にもなれなかった。  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時9分14秒  | 番外編:【遠ざかる灯(彼の回想)】 最初に彼女と出会ったのは、雨の日だった。 職場のエントランスで傘を忘れた彼女に、自分の傘を差し出した。 「一緒に駅まで行きましょう」 その言葉に、彼女は少し驚いた顔をしてから、笑った。 それが始まりだった。 週末だけの時間。 仕事が忙しい彼にとって、沙耶との時間は癒しだった。 彼女はよく笑い、よく話し、そしてよく待ってくれた。 でも、次第にその「待つ姿」が、彼には重くなっていった。 彼女の瞳に映る期待が、自分の未熟さを突きつけてくるようで。 「もっと会いたい」 「もっと話したい」 その言葉に応えられない自分が、彼女を傷つけている気がした。 ある週末、彼は約束を破った。 理由は、仕事でも体調でもなかった。ただ、会う勇気がなかった。 その日から、彼は少しずつ距離を置いた。 連絡を減らし、言葉を選ばなくなった。 彼女が泣いていたことも、気づいていた。 でも、見ないふりをした。 「自分がいない方が、彼女は自由になれる」 そう思い込もうとしていた。 そして、連絡は途絶えた。 時が経ち、街で偶然彼女を見かけた。 彼女は変わっていた。 強くなっていた。 誰かの隣で、もう「待つ人」ではなく「歩く人」になっていた。 彼はその背中を見ながら、心の中で呟いた。 「ありがとう。そして、ごめん」 でも、その言葉はもう届かない。 彼女の指には、銀の指輪が光っていた。 それは、彼が渡せなかったもの。 そして、彼女が自分で選んだ未来の証だった。  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時8分42秒  | 番外編「届かないかもしれないけれど」 沙耶へ この手紙を君が読むことはないかもしれない。 でも、どうしても言葉にしておきたかった。 あの週末から、ずっと胸の奥にしまっていたことを。 君と過ごした時間は、僕にとって確かに温かいものでした。 雨の日に傘を差し出したあの瞬間から、君の笑顔に救われていた。 週末の短い時間でも、君といると世界が少しだけ優しくなった気がした。 でも僕は、君の優しさに甘えていた。 「待ってくれるだろう」と思い込んで、何度も約束を曖昧にして、 何度も君の瞳に影を落とした。 本当は、君の涙に気づいていた。 でも、向き合う勇気がなかった。 君が僕を待つことをやめたとき、 僕は初めて「失った」という言葉の重さを知った。 そして、君が誰かの隣で笑っている姿を見て、 その笑顔が、僕のものではなくなったことを受け入れた。 君の指に光る指輪を見たとき、 胸が痛んだ。 でも同時に、少しだけ安心した。 君が、ちゃんと前を向いて歩いていることが嬉しかった。 この手紙に返事はいらない。 ただ、君に「ありがとう」と「ごめん」を伝えたかった。 そして、君の未来が穏やかでありますようにと、心から願っています。 週末の夜に、君のことを思い出すたび、 僕は少しだけ優しくなれる気がします。 さよなら、沙耶。 そして、ありがとう。 ――彼より  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時8分18秒  | 番外編【:風にほどける言葉(沙耶の視点)】 日曜日の午後。 沙耶は部屋の片づけをしていた。引っ越しを控え、古い書類や箱を整理していると、ひとつの封筒が目に留まった。 差出人の名前はなかった。けれど、筆跡に見覚えがあった。 彼――かつて週末だけの恋を交わした人。 指先が少し震えながらも、沙耶は封を切った。 中には、静かに綴られた手紙が入っていた。 「この手紙を君が読むことはないかもしれない」 その一文で、彼の声が耳に蘇った。 彼が何を思い、何を言えずにいたのか。 そのすべてが、言葉になっていた。 「ありがとう」「ごめん」――その二つの言葉が、彼のすべてだった。 沙耶は、手紙を読み終えたあと、しばらく窓辺に立っていた。 風がカーテンを揺らし、遠くで電車の音が聞こえる。 彼の言葉は、もう彼女を縛らなかった。 むしろ、そっと背中を押してくれるようだった。 「…ありがとう」 彼女は、誰もいない部屋でそう呟いた。 そして、手紙をそっと箱に戻し、封を閉じた。 それは、過去を否定するためではなく、ちゃんとしまうためだった。 その夜、悠人と並んで歩く帰り道。 沙耶はふと、彼の手を強く握った。 「どうしたの?」 「ううん。ちょっとだけ、過去にさよならしてきたの」 「…そっか」 悠人は何も聞かなかった。 ただ、彼女の手を握り返してくれた。 風が吹いていた。 その風は、ほどけた言葉を遠くへ運んでいった。  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 16時1分4秒  | ▶数年後の章:【朝の光、ふたりの時間】 |