| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時34分6秒  | 猫でも書ける短編小説 ◀第三章:【夜明け前の選択】 ▶第八章:【指輪の意味】  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時13分40秒  | 第四章:【朝焼けの約束】 海辺の空が、淡い桃色に染まり始めていた。 沙耶は毛布を肩にかけたまま、波打ち際に立っていた。足元に寄せては返す波が、まるで新しい時間の始まりを告げているようだった。 「朝焼けって、こんなに綺麗だったんだね」 悠人が隣に立ち、静かに言った。 「うん。昨日までの私には、見えなかったかも」 「それなら、今日からは一緒に見ましょう。何度でも」 沙耶は、指輪に触れた。冷たい銀の感触が、今は心地よかった。 それは、誰かに与えられたものではなく、自分で選んだものだった。 「ねえ、悠人くん」 「はい」 「私、少しずつでいいから変わりたい。誰かにすがるんじゃなくて、自分で歩けるように」 「その歩みの隣に、僕がいられたら嬉しいです」 「…ありがとう」 車に戻ると、悠人は後部座席から紙袋を取り出した。中には、コンビニで買ったサンドイッチと温かい缶コーヒーが入っていた。 「朝ごはん、簡単だけど」 「十分だよ。こういうの、好き」 二人は車のボンネットに腰掛けて、朝の海を眺めながら食事をとった。 言葉は少なかったけれど、沈黙はもう寂しくなかった。 食べ終えた頃、沙耶のスマートフォンが震えた。 画面には、彼からのメッセージが表示されていた。 「久しぶり。元気にしてる?」 沙耶は、しばらくその文字を見つめていた。 そして、そっとスマートフォンを伏せた。 「もう、いいかな」 「…うん」 「この週末は、私のものだから」 悠人は微笑み、車のエンジンをかけた。 帰り道は、少し遠回りしてもいい気がした。  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時13分15秒  | 第五章:【月曜日の窓辺】 月曜日の朝。 沙耶はいつものように目覚ましの音で目を覚ました。けれど、何かが違っていた。 部屋の空気が、少しだけ軽くなっている。窓から差し込む光が、昨日までよりも柔らかく感じられた。 鏡の前で髪を整えながら、沙耶は自分の指に光る銀の指輪を見つめた。 それは、週末の夜に受け取ったもの。けれど、ただの記念ではなかった。彼女の心に、確かな重みを持っていた。 職場に着くと、いつものようにパソコンを立ち上げ、メールを確認する。 同僚たちの会話が耳に入る。週末の話、恋人とのデート、家族との時間。 沙耶は、少しだけ微笑んだ。自分にも、語れる週末があったことが嬉しかった。 昼休み、悠人が彼女の席にやってきた。 「お昼、一緒にどうですか?」 「うん、行こう」 二人は近くのカフェで、静かにランチをとった。 話題は他愛もないことばかりだったけれど、沙耶の心は穏やかだった。 「週末、ありがとう」 「こちらこそ。あの夜が、僕にとっても特別でした」 「…これからも、週末だけじゃなくて、平日も隣にいてくれる?」 悠人は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。 「もちろん。週末の指輪が、毎日の約束になるなら、こんなに嬉しいことはないです」 沙耶は、窓の外に目を向けた。 風がビルの隙間を抜けて、街の音が遠くに響いていた。 彼女はもう、誰かを待つだけの週末を過ごしてはいなかった。 自分で選び、自分で歩き出したその先に、誰かが隣にいてくれる。 それだけで、世界は少しだけ優しくなる。  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時12分43秒  | 第六章:【揺れる影、確かな灯】 火曜日の午後。 沙耶は外回りの仕事で、久しぶりに銀座のオフィス街を歩いていた。 秋の風がビルの隙間を抜け、彼女の髪を揺らす。 ふと、交差点の向こうに見覚えのある後ろ姿が目に入った。 スーツ姿の男性。 歩き方、肩の傾き、スマートフォンを耳に当てる仕草。 ――彼だった。 沙耶の心臓が跳ねた。 思わず立ち止まり、息を飲む。 彼は電話を終えると、こちらに気づいたように目を向けた。 「…沙耶?」 「…久しぶり」 数秒の沈黙。 そして、彼は微笑んだ。 「元気そうだね。連絡しようと思ってたんだけど、タイミングがなくて」 「そう…」 沙耶は、左手をそっとポケットに入れた。指輪を見られたくなかったわけではない。ただ、見せる必要もないと思った。 「今度、ゆっくり話せる?」 「…ごめん。もう、話すことはないと思う」 「そうか。…変わったね」 「うん。少しだけ」 彼は何も言わずに頷き、歩き出した。 沙耶はその背中を見送った。心は、思ったよりも静かだった。 その夜、悠人と駅前のカフェで待ち合わせた。 彼女は、昼間の出来事を話すか迷っていた。 「何かあった?」 悠人が尋ねる。沙耶は、少しだけ迷ってから頷いた。 「今日、元彼に会ったの」 「…そうだったんですね」 「でも、不思議と何も揺れなかった。むしろ、ちゃんと終わったって思えた」 悠人は、少しだけ目を伏せてから、沙耶の手を取った。 「それなら、よかった。君が前に進めたなら、それだけで嬉しい」 沙耶は、指輪を見せるように手を握り返した。 「この指輪が、私の灯りになってる。ありがとう、悠人くん」 カフェの窓の外では、秋の夜風が街を包んでいた。 過去は通り過ぎ、未来はまだ遠い。 でも、今この瞬間だけは、確かに温かかった。  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時12分18秒  | 第七章:【平日の光、週末の種】 水曜日の午後。 沙耶はオフィスの窓辺に立ち、外の空を見上げていた。秋晴れの空は高く、雲ひとつない。 ふと、週末の海辺を思い出す。あの夜の風、波音、そして悠人の指先の温度。 「沙耶さん、企画書の件、少し相談してもいいですか?」 後輩の声に振り返る。 「うん、いいよ。会議室で話そうか」 仕事は忙しい。けれど、心は以前よりも穏やかだった。 誰かに振り回されるのではなく、自分の足で立っている感覚。それは、週末の夜に芽吹いた小さな種のようだった。 夕方、悠人からメッセージが届いた。 「今日は少し遅くなるけど、帰りに駅で会えますか?」 沙耶はすぐに「うん、待ってる」と返した。 駅のベンチで、彼を待ちながら、沙耶は手帳を開いた。 そこには、週末に書いた言葉が残っていた。 その言葉が、今の彼女を支えていた。 悠人が現れたのは、夜の帳が降りた頃だった。 「お待たせ。遅くなってごめん」 「ううん。待つの、嫌じゃなかったよ」 二人は並んで歩きながら、駅前の小さなパン屋に立ち寄った。 「ここのチーズパン、好きなんです」 「じゃあ、週末の朝に一緒に食べよう」 週末は、特別な夜だけじゃなく、静かな朝にも広がっていた。 沙耶は、指輪に触れながら思った。 この絆は、週末だけのものじゃない。 平日の光の中でも、ちゃんと育っている。  | 
| 【名無しさん】 2025年10月24日 15時57分35秒  | ▶第八章:【指輪の意味】 |