| 【名無しさん】 2025年10月27日 14時40分19秒 | 猫でも書ける短編小説 |
| 【名無しさん】 2025年10月27日 14時18分36秒 | 【菊花賞】三千の頂へ、魂の咆哮 小雨がぱらつく京都。芝は水を含み、重い。しかし、この雨も、三歳牡馬の頂点を決める最終戦、菊花賞の熱を冷ますことはできない。淀の坂の下、十八頭分の魂が、スタートの瞬間を待っている。 「行かせてもらうぜ、誰にも邪魔はさせない!」 白い鼻先がゲートを突き破った瞬間、ジーティーアダマンは決めた。誰が何と言おうと、この馬場だろうと、自分のスピードこそが正義だ。後続を置き去りにし、圧倒的なリードを築く。1コーナーを回る頃には、彼はすでに遠い幻。周りの声など聞こえない。ただ風を切り裂き、自分と、この長すぎるトラックとの戦いに酔いしれる。 (これでいい。このペースこそ、俺の領域だ。後ろは勝手に消耗する。俺は、このまま…) 馬群の中団、少し後ろからレースを眺めるエネルジコは、冷静だった。深い黄色の勝負服が雨に濡れて光る。 「…無謀だ。あのペースじゃ、三千はもたない。消耗戦に持ち込みたいのは分かるが、今日は馬場が重い。力を溜める、ただそれだけだ」 彼は二冠に届かなかった悔しさを知っている。この長距離戦では、感情に流されず、ただひたすら自分のリズムを刻むことが重要だ。彼は自分の能力を信じている。この重い馬場は、むしろ彼に味方する。静かに、虎視眈々と、前を走る馬たちの呼吸を探った。 前から4番手、絶好の位置につけたのは、一目でわかる猛烈な闘志を持つエキサイトバイオ。 「逃げたあいつは放っておけ。問題は後ろだ。俺は常に上位で、風を感じていなければ落ち着かない。この位置で、このまま。粘るぞ。今日の俺は、そう簡単には屈しない」 3番手には、小柄ながらも驚異的なスタミナを持つレッドバンデが続いた。 「ふむ。この位置は悪くない。前の馬の影に入り、スタミナを温存する。勝負は最終コーナー。そこまで耐えきれば、僕の粘り勝ちだ」 後方では、皆の視線が集中する二頭が、じっとその時を待っていた。 中団で落ち着き払った様子のゲルチュタール。彼は非常に理詰めで、常に最高の効率を求める。 「この馬場で、誰もが苦しむ。前半は力を抑え、最小限のエネルギー消費で進む。勝負どころは4コーナーから直線にかけて。そこから一気に加速する。それが、この三千メートルを走り切る唯一の方法だ」 そのさらに後ろ、集団の一番外で大きくゆったりと構えるのは、長距離戦でこそ真価を発揮するエリキング。彼は、圧倒的な切れ味を持つがゆえに、常に最後方から行く。 「焦るな、まだだ。三千メートルは俺の時間だ。前半は景色を楽しむ。周りが苦しくなって、呼吸が乱れた頃に、俺の足が火を吹く。俺の才能は、直線で全てを飲み込むためにあるんだ」 そして、馬群最後方、ほとんど視界に入らない位置にいるミラージュナイトは、静かに、しかし熱い決意を胸に抱いていた。 「誰もが俺を見ていない。それでいい。俺はここにいる。前がどれだけもがこうと、俺は自分のペースを貫く。この長い道のりが、俺を最強にする。直線、すべてをひっくり返してやる!」 向こう正面。レースは静かに動く。誰もがジーティーアダマンとの差を測り、自分のスタミナと相談しながらペースを調整し始めた。そして、2周目の3コーナー。いよいよ勝負が動き出す。 先頭のジーティーアダマンの脚が、わずかに重くなる。 (…体が、重い。こんなはずでは。スピードが…落ちる?いや、俺はここで止まれない!) その隙を見逃さず、2番手にいたエキサイトバイオが一気に差を詰める。3番手にはレッドバンデ。 「来た!さあ、ここからが本当の勝負だ。粘れ、粘り通すんだ!」(エキサイトバイオ) しかし、この動きは中団の馬たちにとっては最高の合図だった。 エネルジコが動いた。一気に外へ持ち出し、加速する。 「今だ。彼らの消耗は始まっている。ここで仕掛けなければ、長すぎる直線で差せない。行け、俺の闘志よ、炎となれ!」 ゲルチュタールもすかさず反応し、エネルジコに並びかけるように進出。 「完璧だ。このタイミングしかない。前に蓋をされず、ベストの加速。あとは、最後までこの脚を持続させるだけ!」 4コーナー。先頭はついにエキサイトバイオ!彼の肉体は悲鳴を上げている。 (もうダメだ!いや、あと少し、このまま、ゴールまで!) しかし、すぐ外にはエネルジコが猛然と並びかける。さらにその後ろ、馬群の外から一頭、まるで弾丸のような加速で、エリキングが飛んでくる! 「待たせたな。ようやく俺の出番だ。三千を走り切った疲労?そんなもの、俺の爆発的な加速の前には無意味だ。行け!全速力で、すべてを置き去りにしろ!」(エリキング) 直線、残り400メートル。壮絶な叩き合いが始まった。 先頭で懸命に粘るエキサイトバイオを、エネルジコが競り落とす。 「負けるか!俺の力はこんなものじゃない!」(エネルジコ) しかし、エネルジコのすぐ外から、エリキングの猛追が始まる!その勢いは、他の馬を寄せ付けない。 「届く!届いてくれ!」(エリキング) そして、そのさらに後方から、大外を一頭、とてつもない末脚でミラージュナイトが突っ込んでくる! (…見えた。ゴールまでの道筋が!この脚、このスタミナは、誰も知らない俺の秘密だ!) 残り100メートル。エネルジコとエリキングが、ほとんど馬体を並べて火花を散らす。 「俺は、勝つために、ここまで来たんだ!譲れない!」(エネルジコ) 「まだだ!俺の脚は、ここで終わらない!」(エリキング) しかし、エネルジコには、まだわずかな余裕が残っていた。最後の力を振り絞り、エリキングの追撃を振り切る。 ゴール! わずかに、しかし確実に、エネルジコの鼻先が、先に白い線に飛び込んだ。彼は、淀の坂を登りきり、三千メートルの頂点に立った。その体は、雨と汗と、勝利の熱で震えていた。 「…やった。俺たちの…三冠だ!」(エネルジコ) 2着には、驚異的な追い込みを見せたエリキング。そして、最後まで粘り、3着に滑り込んだのは、大穴の意地を見せたエキサイトバイオだった。4着にゲルチュタール、5着にレッドバンデが続き、彼らもまた、三千の道のりを走り切ったことに深い満足感を覚える。 雨の中、彼らの咆哮が、三歳の頂上決戦の終わりを告げていた。 |