| 【名無しさん】 2025年11月1日 19時5分8秒 | 猫でも書ける短編小説 |
| 【名無しさん】 2025年11月1日 19時3分28秒 | 第1章:焦燥と静寂 ゲートが開いた。 乾いた京都の芝に、 私の蹄が力強く弾む。 今日は1400メートル、 スピードが全て。 マーブルパレスは 一目散に先頭を奪った。 (私の役目は、 この群れを引っ張ること。 たとえ最後まで 脚が持たなくても、 最初から全速力で 行くしかないのよ!) 外からはフルールジェンヌが、 内からはメイプルハッピーが ぴったりと私に並びかける。 (ああ、少し速すぎない? でも、止まるわけにはいかない。 ここが私の居場所!) すぐに背後から、 ブラックチャリスが 上がってきた気配を感じる。 彼女はいつも冷静で、 少しでも無駄な動きを嫌う。 (中団のイン、 最良のポジションを確保。 前が速いのは計算通り。 最後の直線、 私の切れ味を 見せつけてあげるわ。 勝つために、 最高の舞台が整ったわ。) 私は後方の集団にいた。 フェスティバルヒル。 焦りは禁物。 皆が速く行きたがっている。 でも、この流れは、 私のような 究極の末脚を持つ馬には むしろ歓迎すべき展開。 (皆、そこで力を使い果たせばいい。 私はこの位置で、 静かに、静かに、 獲物が疲弊するのを待つ。 私の父は、 私に爆発的な加速力を与えてくれた。 あとは、その力を、 どこで解き放つか、 それだけが問題よ。) 隊列は縦長になった。 3コーナーへ。 馬群の外目、 目立たない位置に ショウナンカリスがいた。 (誰も私を見ていない。 それがいい。 私は大穴。 皆の視線から外れたところで、 虎視眈々とチャンスを狙う。 前との差はまだあるけれど、 私の脚はまだ残っている。 直線で、 この真ん中から 一気に抜き去る。 驚かせてやるわ。) 内ラチ沿いの集団の中で、 メイショウハッケイは 少し窮屈そうに走っていた。 (ううっ、この位置は少し苦しい。 でも、ここで我慢するしかない。 内が空くのを信じて、 ギリギリまで脚を溜める。 このタイトな馬群を抜けて、 外に出す瞬間の爆発力に賭ける。 父が私にくれた この粘り強さを、 ここで見せるのよ!) 先頭のマーブルパレスは いよいよ苦しくなってきた。 (限界…もう誰も来ないで… 後ろの気配が どんどん迫ってくる… お願い、もう少しだけ、 この夢を見させて!) 4コーナーを回る。 先行集団が 一斉に動き出す。 ブラックチャリスが 内からスルスルと 先団に取りついた。 (さあ、ここからが本番! 完璧な手応え。 内を回った分、 脚は十分に残っている。 このまま一気に、 先頭を奪い切るわよ!) 外から、 ベレーバスクが 虎のような勢いで 進出してきた。 (我慢、我慢よ、ベレーバスク! 直線勝負は承知の上。 この伸びる手応えが 全てを物語っている。 私の長く使える末脚なら、 京都の長い直線も 苦にならない。 前を走る全ての馬を、 まとめて差し切る!) メイプルハッピーが 苦しい表情を見せる。 (ダメ、もうムリ! 前半から飛ばしすぎた。 私のスピードは ここまでなの… 皆、速い。 後ろから来る馬たちの 足音しか聞こえない…) 最終直線:交錯する魂 残り400メートル。 ブラックチャリスが わずかに先頭に立った! (もらった!このまま押し切る! 私の勝利よ! 皆、もう脚はないはず!) しかし、 後方から一頭、 矢のような勢いで 突っ込んできた馬がいた。 フェスティバルヒルだ! (来たわ!エンジン、解放! 溜めに溜めた私の脚は、 ここで爆発する! 前との差は、 一完歩、一完歩、縮まる。 私の前には、 誰もいさせない! これが、私の才能!) 真ん中を突っ切る ショウナンカリスも必死に追う。 (負けない!私はここにいる! 皆が私を大穴だと思っていたでしょう! 私の力を、 見くびらないで! このまま、 フェスティバルヒルに食らいつく!) その更に外から、 馬群を捌いて メイショウハッケイが 猛然と伸びてきた! (ここが、私の活路! 活路が開いた! この道こそ、 私が切り開く勝利への道! 私の根性は、 誰にも負けない! ブラックチャリス、 フェスティバルヒル、 前を行く全ての馬たち! 私にも、意地がある!) ブラックチャリスは必死に粘る。 (ダメ…脚が鈍ってきた… 後ろの音が、 フェスティバルヒルの爆音が、 すぐそこまで来ている! お願い、このままゴールまで粘って!) フェスティバルヒルは 一瞬にして ブラックチャリスを捕らえ、 先頭に躍り出る。 (勝った! この瞬発力、 誰にも止められない! 私の血統が、 ここで開花した!) しかし、その時、 内にいたメイショウハッケイが 鬼の形相で 頭を突き出した! (まだだ! 私は諦めない! ハナでもクビでもいい! ただ、先頭で ゴールを駆け抜けたい!) ショウナンカリスも 外からしぶとく食い下がる。 (クビ差!クビ差でいい! 夢を掴むには、 この一瞬しかない!) ゴール! フェスティバルヒルの力強い一撃が、 わずかに メイショウハッケイと ショウナンカリスの 猛追を退けた。 私の勝利だ。 フェスティバルヒルの 爆発的な末脚が、 全てをねじ伏せた。 (やった…!これが、 GIIIを勝つということ。 今日、この京都で、 私は幻想を現実に変えた! 私の物語は、 ここから始まる!) ショウナンカリスが 激しい競り合いの末、 2着をもぎ取る。 (負けた… でも、クビ差。 私は10番目の評価だった。 見返してやったわ。 この悔しさは、 次の舞台で晴らす!) メイショウハッケイは さらにハナ差で3着。 (ああ、届かなかった… 全てを出し切ったはずなのに… 悔しい。 このわずかな差を、 私は忘れない。 次こそは、必ず!) ブラックチャリスは 最後の最後で 力尽き4着に沈む。 (完璧なレース運びだったのに。 私の切れ味は、 あの爆発的な末脚には 及ばなかった… でも、この経験は 無駄にはしないわ。) 力尽きた馬たちが、 息を切らし、 ゴール板を通り過ぎていく。 京都の空に、 若き乙女たちの 激しい鼓動が響き渡った。 |