「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」「VOICEVOX: 麒ヶ島宗麟」「VOICEVOX: 離途」「VOICEVOX: †聖騎士 紅桜†」
東京競馬場、乾いたダートコースは赤茶色の絨毯のように広がり、私たちの蹄音を待っていた。
マイルの戦い、一瞬のスピードと、千六百メートルを駆け抜ける持続力が問われるこの舞台で、私たちは互いの力を信じ、己の限界に挑む。
ゲートが開く。轟音と土塊が舞い上がる中、一頭の影が矢のように飛び出した。
「行くぞ!誰も私を捕まえられない!」アサカラキング(牡5)は砂を蹴り上げ、最初から全速力で先頭に躍り出た。
(これが私の走り方だ。誰にもペースを握らせず、私自身の呼吸でレースを支配する。後ろの連中が戸惑っているのが手に取るようにわかる。 あの先頭集団から離れて、二馬身、三馬身と差を開けていく。向こう正面に入るまでに、皆の意表を突く差をつけるんだ。前半で脚を使わされたって構わない、 私にはこの大逃げをやり抜く力がある。苦しくなったら、この風を、この砂の感触を信じろ!)
その数馬身後ろ、第二集団の先頭で、ペプチドナイル(牡7)は静かに舌打ちした。
「若い連中が無茶をする。だが、そのペースは直線で必ず響く。私は彼らに一馬身差で食らいつき、常に視界に入れておく。 年々、脚は重くなっているが、この経験と勝負勘は誰にも負けない。この位置でじっと息を殺し、3コーナーで先頭の馬が失速するのを待つ。 勝負はそこからだ。無駄な動きはしない。私の体に染み込んだこのリズムこそが、私の武器だ。)
先行集団のすぐ後ろ、好位のインに、イルクソールカフェ(牡3)はぴったりと収まっていた。彼は、レース全体を俯瞰しているようだった。
「アサカラキングの大逃げ、予想通りだ。速すぎる。あれは必ず潰れる。重要なのは、私自身のペースを守ること。 前のペプチドナイルの少し外側、風の影響を受けにくいこのポジションが最良だ。3コーナーまでこのまま流れに乗り、直線入口で一気に加速する。 私の持ち味は、長く良い脚を使い続けること。この溜めが、後半のロングスパートの源になる。まだ若いと言われるが、この冷静な判断力こそが、私を勝利に導く。」
ルクソールカフェの隣、少しだけ外を回る形で、マテンロウコマンド(牡3)は懸命に食らいつく。
「ここで離されたらもう届かない。ルクソールカフェは速い。彼に遅れをとるな。私は派手な脚はないが、ひたむきに最後まで伸び続ける真面目さがある。 目標は、彼と同じ位置で4コーナーを迎えること。直線で彼について行ければ、私にも勝機がある。この砂の重さを乗り越えて、一歩一歩、粘り強く進むんだ。 後ろからの足音はまだ遠いが、油断はできない。」
一方、中団の外目、虎視眈々と前を見るサンライズフレイム(牡5)。
「逃げ馬は知ったことではない。私が見るのは、この中団にいる有力馬たちの動きだ。彼らがいつ仕掛けるか、その一瞬を逃さず、外から伸びていく。 まだ脚は満タンだ。ダートマイルは混戦になりやすい。インの砂を被らず、いつでも外に持ち出せるこの位置は悪くない。 直線の坂を駆け上がるとき、私の爆発力が全てを飲み込む。」
遥か後方、馬群の壁に守られ、ビダーヤ(牡4)は静かに、しかし確実に体力を温存していた。
「焦るな、今は我慢の時間だ。前は速い。先行馬が作り出したこのペースは、後方待機組にとっては最高の展開だ。内ラチ沿いの深い砂を避け、 馬群の切れ目を縫うように進めばいい。3、4コーナーで外に出すか、それとも内を突くか。それが私の命運を分ける。 この差を一気に詰める鋭い脚が私にはある。その一瞬に賭ける。」
そして、最後方で、全ての馬の背中を見つめるコスタノヴァ(牡5)。 彼は、自らの豪脚に絶対的な自信を持っていた。
「初手は致命傷とも言えるくらい出遅れたが、私ならまだやれる。」 冷静に状況を分析し逆転の手を探る。 (全員、私より前にいる。それでいい。私は一人で走っている。このスピード、このスタミナ、誰にも真似できない。 前を行く彼らの砂煙が、私を鼓舞する。まだだ。まだ動く時ではない。 3コーナー、4コーナー、馬群が凝縮する中で、私は最小限の動きでロスを抑える。)
(残り800メートル、前との差はまだ大きい。しかし、先行馬たちが消耗しているのが手に取るようにわかる。 特に先頭のアサカラキングの影が揺らぎ始めた。4コーナーを回った瞬間、私は世界で一番速い馬になる。 この大きな体をバネにし、全てを振り絞る。3馬身半の差?そんなものは一瞬で消し去れる。私の脚が、この砂の上で、伝説を作るのだ!)
4コーナーを回り、いよいよ東京の長い直線だ。 大逃げを打ったアサカラキング(牡5)の脚色が急に鈍り、馬群に飲み込まれ始めた。 彼の体が悲鳴を上げている。
「持たない…もう砂が重い…私の逃げは…ここまでか… だが、私は最高の舞台を作ったぞ…!」
その失速を合図に、好位集団のルクソールカフェ(牡3)が、満を持してスパートを開始した。
「来た!最高のタイミングだ!アサカラキングが沈み、ペプチドナイルの勢いも鈍った!私の前には、もう誰もいない! ここからが私の舞台だ!誰も追いつけない、圧倒的な差をつけてゴールしてやる!まだ奥に脚がある、この若さが、私の爆発力だ!」
ルクソールカフェの強烈な加速に、隣にいたマテンロウコマンド(牡3)は、ついて行くことができなかった。
「速い…なんて加速だ…!私も懸命に追っているのに、まるで壁にぶつかったように離される! それでも、諦めるな!2着、3着争いは熾烈だ!最後までこの脚を伸ばしきれ!」
後方では、コスタノヴァ(牡5)のスイッチが入った。 彼はまるで弾丸のように、馬群を縫うどころか、一頭一頭を抜き去り始めた。
「道が開けた!この砂の感触、私の体が一番求めていた感触だ!全てを抜き去る、 届く!あの先頭の馬に届く!だが、直線は短い!残り200メートルでこの差!全身のバネを使い、もう一段階、ギアを上げろ!」
内に潜んでいたビダーヤ(牡4)も、ルクソールカフェが外へ出した瞬間、開いたわずかなインのスペースを突いて飛び出した。
「内だ!このわずかな隙間が、私の活路だ!他の馬たちは外へ外へと行っている!私は最短距離を通る! コスタノヴァの脚は脅威だが、このインの粘り腰は負けない!2着争い、絶対に譲らない!」
そして、外から伸びてきたサンライズフレイム(牡5)。
「くそっ、あと一歩が届かない!ルクソールカフェの脚が違いすぎる! この体、この魂、全てを前へ!ビダーヤ、コスタノヴァ、お前たちには負けない!」
先にゴール板を駆け抜けたのは、最後まで冷静に、そして圧倒的な力で加速したルクソールカフェ(牡3)だった。 彼は3馬身半の差をつけ、若き王者の座に就いた。
しかし、本当に熱かったのは2着争いだ。 猛烈に追い込んだコスタノヴァ(牡5)が、インで粘り切ったビダーヤ(牡4)をハナ差で抑えきり、2着。 サンライズフレイムはわずかに及ばず僅差の4着に泣いた。
砂塵が晴れたとき、それぞれの馬の心には、次なる戦いへの熱い誓いが刻まれていた。 この武蔵野ステークスは、彼らのマイル戦線における、新たな序章に過ぎないのだ。
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