「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: †聖騎士 紅桜†」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: 麒ヶ島宗麟」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」
澄み切った秋の京都競馬場に、号砲が響き渡った。 一斉に飛び出した二歳の牡馬たち。1600メートルの外回りコースを舞台に、これから彼らの最初の熱い戦いが始まる。
「さあ、俺の出番だ。誰も俺にはついてこれない、俺こそが風だ」 エイシンディード(牡2)は、迷うことなく先頭に立った。他馬の気配を背中に感じながら、自分の持つリズム、最高のペースを刻み始めることに陶酔する。 この自由、この孤高こそが、彼にとっての走りの本質だ。
そのすぐ後ろ、二番手のポジションをガリレア(牡2)が確保した。
「前の馬のペースが速すぎず、遅すぎず、これなら計画通りだ。一秒も早く先頭に立ってはならない。 あいつが壁となり、風を遮り、そして直線で必ず、必ず逆転する瞬間を待つのだ」
と、彼の中の真面目な計算が囁く。エイシンディードとの距離を一馬身ほどと保ち、緊張感のある走りを続ける。
好位の三番手には、カヴァレリッツォ(牡2)がつけた。
「完璧だ。この位置なら前を捉えることも、後ろの動きを察知することもできる。勝つために必要なのは、確実なポジションと冷静な判断力、 そして何より、この爆発する闘志だ。このメンバーで負けるわけにはいかない。アイツらを全部叩き潰してやる」
彼はエリートとしての自信と、強い闘争心を隠そうともしない。全身が勝利への渇望で満たされている。
四番手にはアイガーリー(牡2)が、そしてすぐ内にマイケルバローズ(牡2)が並び、先行集団の直後につけた。
「前の三頭は少し速いけれど、このペースに乗っておくのが一番堅実だ。自分の脚は短く鋭く、長く持続するものではない。 だから、ここで体力を温存し、直線でただひたすら、食い下がる脚を使う。最後まで諦めない、それが俺の走りだ」
アイガーリーは地道な努力を信じ、集団の波に身を任せる。
第三コーナーの坂を上り切る手前、ハロンタイムは緩やかに落ちた。レースは中盤の踊り場へと入る。
「……まだ動かない。まだ、だ。前の連中が勝手に体力を削り合っている。この程度の緩みでは、彼らはまだ俺の射程圏内には入ってこない」
最後方集団で、アドマイヤクワッズ(牡2)は、全身を深い緑のターフに溶け込ませるように静かに、静かに息を潜めていた。 彼の思考は長い。
「俺の持つ真の速さは、この世界に来たどの馬よりも鋭いと確信している。しかし、その速さを最大限に引き出すためには、 先行馬たちがその全速力を使い切り、わずかに呼吸が乱れる瞬間に、外の空気を吸い込んで、一気に爆発させなければならない。 この、他馬の全てを飲み込むような、強烈なラストスパートこそが、俺の存在証明なのだ。周囲の馬が、そろそろ焦り始めたのがわかる。 それが、俺が動くべき時が来たというサインだ」
一方、中団の外、グッドピース(牡2)はアドマイヤクワッズの動きを警戒しつつ、大味な勝負を仕掛けようとしていた。
「この位置から、一足先に仕掛ける。どうせアイツらは内、内とこだわるだろう。俺は外から、大外から一気に被せて、 直線で誰もが驚くような大駆けを見せてやる。目立って、勝つ。それが今日の目標だ」
第四コーナーをカーブし、いよいよ勝負の直線だ。 エイシンディードは依然として先頭。 だが、その背後に、カヴァレリッツォ、ガリレア、アイガーリーの三頭が馬体を並べて襲いかかる。
「よし、今だ! 俺のリズムは崩れていない!だが、後ろの息づかいが荒くなってきた」
エイシンディードは懸命に粘ろうとする。彼が作り上げた理想のペースが、彼の体を突き動かす最後の力だった。
「遅い! まだ先頭に立とうとしないのか、ガリレア!」
カヴァレリッツォは、我慢の限界だった。彼は内のガリレアを一瞬だけ睨みつけ、強烈な推進力で一気にマルチの横へ並びかける。
「もう待てない。ここだ、抜け出す!」
ガリレアも遅れて反応し、 「ああ、追いつかれた! だがまだ、まだ終わっていない!」 と懸命に食い下がる。
直線半ば、坂を駆け上がる勝負所。 カヴァレリッツォがエイシンディードを競り落とし、ついに先頭に立った。
「見たか! これが俺の勝負根性だ! あとはゴールまでこの勢いを維持するだけ!」
その時、後方から、これまで沈黙を守っていた影が一閃した。 アドマイヤクワッズだ。
「全ての時計が止まったように見える。先行馬たちが一歩ずつ前に進むその間に、俺は二歩、三歩と加速する。 この瞬間のために、俺は今まで我慢してきたのだ!風よ、前を走る全ての馬よ、道を空けろ! 俺の脚が、レコードの扉をこじ開ける!」
馬群の外、遥か大外から、彼は他の馬とはまるで違う次元の、驚異的なスピードで飛んできた。
中団で流れに乗っていたマイケルバローズは、 「なんて馬だ! あんなところにいたのか! 俺は、俺の脚はまだ残っているはずだ、だが、この壁は厚すぎる……」 と、周囲の流れに飲まれそうになりながらも必死に前を追いかける。
グッドピースも外から追い上げるが、 「速い! カヴァレリッツォとアドマイヤクワッズの加速が速すぎる! 俺の直線勝負を全て持っていかれた!」 と、大駆けの夢を砕かれ、それでも掲示板を目指して懸命に食い下がる。
先頭のカヴァレリッツォは、アドマイヤクワッズの驚異的な気配を肌で感じた。 全身の毛が逆立つほどの、絶対的なスピード。
「嘘だろ! まだ食い下がるのか!ここで負けるわけにはいかない! 俺の意地を見せてやる、一頭たりとも前にいかせはしない!」
彼は最後の力を振り絞り、首を前に突き出す。 ゴール板は目の前だ。その意地と、アドマイヤクワッズの圧倒的な脚が、 ほとんど同時にゴールを駆け抜けた。
一着、アドマイヤクワッズ。 二着、カヴァレリッツォ。 その差は、わずかにアタマ。 レコードタイムを刻んだ二頭の間に、勝者と敗者の明暗が分かれた瞬間だった。
懸命に粘ったエイシンディードやガリレア、そして最後で3着を?ぎ取った アイガーリーも、全てを出し切って栄光の舞台を走り終えた。 彼らの心臓の鼓動は、まだしばらくは、止まりそうになかった。
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