機動戦士ウマダムZZ
~京都のジュドーは賞金の夢を見るか?~
~京都記念の激闘~
(機動戦士ガンダムシリーズ編)

宇宙世紀2026年2月15日。場所は京都競馬場。
伝統のGⅡ・京都記念。そこは重力に魂を引かれた古馬たちが、春のGⅠ戦線へ向けて鎬を削るコロニー(競馬場)である。
だが今日の京都は、どこかおかしい。ゲートに収まる各馬の精神波(サイコミュ)が、明らかに異常な数値を叩き出しているのだ。

1番人気、5枠6番エリキング(牡4)。
彼はゲートの中で、演説を始めていた。

「立てよ、国民(ファン)! 我がオッズ1.8倍は正義の証である! 優良種たる私が勝利し、京都の芝を我が領土とすることこそ、真理なのだ!」

(フン、当然だ。私のIQ(競走馬能力)は240だ。このメンバーで負ける要素など万に一つもない)

──いや、あんた馬だから。IQとかないから。

そんな独裁者の演説を、隣の枠で鼻ホジ(蹄ホジ?)感覚で聞いている男がいた。
8枠12番ジューンテイク(牡5)。
彼は荒っぽい野良犬のような目をギラつかせ、電光掲示板の「1着6200万円」の文字だけを凝視していた。

「おいおい、うるさいのがいるな。御託はいいんだよ。俺は稼ぎに来てんだ。妹のリィナ……じゃなくて、俺の生活のためにな!」

(6200万……。これだけありゃ、美味いカイバが死ぬほど食える。……やるしかないだろ、俺の脚!)

──妹関係ないんかい。ただの食いしん坊かよ。

そして、ゲートの隅で殺気を撒き散らす古豪が約一名。
5枠5番バビット(牡9)。
9歳。人間で言えば脂の乗り切ったベテランだが、その瞳孔は完全に開いていた。

「ヒャッハー! 我慢できねえ! ここが戦場か! 俺のウェブ(逃げ)で全員蜘蛛の巣にしてやるぜぇ!」

(逃げるぞ……逃げて逃げて、後ろの連中が泡食う顔を拝んでやる! 快感だぜ!)

カオスである。
ニュータイプ研究所の失敗作たちが集まったようなパドックを経て、今、運命のファンファーレが鳴り響いた。

ガシャン!!

ゲートが開く。
第119回京都記念、スタート!

予想通り、5番バビット(ヤザン)がロケットスタートを決めた。

「野郎ども! 死神が通るぜ! ついて来れる奴はいねえのかぁ!?」

バビットは一気にハナを主張。その姿はまさに戦場の野獣。
だが、その直後である。
常識外れの動きを見せた馬がいた。大外枠の12番ジューンテイク(ジュドー)だ。

「待てよおっさん! タダ食いはさせねえぞ!」

(控えてスローペース? 冗談じゃない。そんなお上品なレースじゃ金にならねえんだよ!)

ジューンテイクは内へ切れ込みながら、あろうことか暴走気味のバビットに馬体を併せに行ったのである。
京都の外回り2200m。長丁場にも関わらず、開始早々からのタイマン勝負。

「ああん? なんだ小僧、俺と遊ぼうってのか? 命知らずだな!」
「遊びでやってんじゃないんだよ! 俺は生きるために走ってんだ!」
「生意気な口を! なら地獄の果てまで付き合いな!」
「上等だ! あんたのペースにはさせない!」

1コーナーから2コーナー。
先頭の2頭(*5,12)だけが突出する展開。
これに一番割を食ったのが、3番手付近にいた4番エコロディノス(牡4・ジェリド)だった。

「な、なんだあいつらは!? セオリーを無視するな! 俺はエリートなんだぞ! 俺の計算を狂わせるな!」

(くそっ、前に行きたいのに行けない! 俺が動けば潰れるし、待てば前が残る……。なんでいつも俺ばっかり貧乏くじなんだ!)

──ジェリドさん、安定の不憫ポジションですね。

一方、1番人気のエリキング(ギレン)は、なんと後方9番手で優雅に構えていた。

「慌てるな。所詮はオールドタイプ(凡馬)の潰し合いだ。私は歴史が動くのを待っていればいい」

(ふふふ、私の計算では、前の2頭は向こう正面で自滅する。そこを私が悠々と差し切る……完璧なシナリオだ)

──その余裕が、後で命取りになるんですよ総帥。

向こう正面。
ここでレースは奇妙な膠着状態に入る。
ハロンタイム13.2秒。
前の2頭が、示し合わせたようにペースを落としたのだ。

「へっ、小僧。少しはやるじゃねえか。息を入れるタイミングを知ってるな?」
「当たり前だろ。ガムシャラなだけじゃ、大人(古馬)には勝てないってね」
「カッカッカ! 気に入った! だがな、ここからが本当の地獄だぜ?」
「望むところだ。……稼いでやるよ、骨の髄まで!」

バビットとジューンテイクは、並走したまま互いに視線だけで会話を交わす。
一見ペースが緩んだように見えるが、それは「嵐の前の静けさ」。
後続集団にいた3番サフィラ(牝5・エマ)が、その不穏な空気に気づく。

「……気持ち悪い静けさね。前の男性陣、何やら良からぬことを企んでいるわ」

(規律が乱れています。バビットのような野蛮な方が先導するなんて、生理的に受け付けません!)

「おい女! そこどけよ! 俺が前を見るんだ!」

後ろからエコロディノス(ジェリド)が焦って顔を出す。

「あら、レディに対して失礼ね。少しは身だしなみ(フォーム)を整えたらどう?」
「うるさい! 俺はティターンズ(良血)のエリートだぞ! お前みたいな女に指図される覚えはない!」
「……これだから汚らわしい男は嫌いです。修正してあげましょうか?」
「なっ、なんだその目は!?」
──中団では痴話喧嘩発生中。

そんな中、後方のエリキング(ギレン)だけは、まだ動かない。

(まだだ……まだ動く時ではない。民衆よ、私の絶対的な末脚を信じて待つのだ)

だが、彼の「絶対的な計算」には、致命的なバグがあった。
京都の坂は、待ってくれないのである。

3コーナー。運命の坂の下り。
残り800m。
ここで、ジューンテイク(ジュドー)のスイッチが入った。

「ここだ……! ここからが俺のターンだ! 行けえええ!」

(11秒9……11秒4! ペースを上げて後続の脚を削る! これが俺の必勝パターンだ!)

ジューンテイクがロングスパートを開始。
隣のバビット(ヤザン)も呼応する。

「ギャハハハ! 来るか小僧! そうだ、そうでなくちゃ張り合いがねえ!」
「おっさん、もう燃料切れだろ! 悪いけど先に行かせてもらうぜ!」
「舐めるな! 俺は楽しめりゃそれでいいんだよ! 道連れにしてやる!」
「しつけえんだよ! ……でも、嫌いじゃないぜその根性!」

2頭が加速する。
ラップタイムは11秒台前半へ突入。
これに焦ったのが、後方待機の貴族たちだ。

後方11番手付近にいた1番ヘデントール(C.ルメールの魂搭載)が、泡を食って動き出す。
(Oh...マエ、トマラナイネ。コレハ、ヤバイデース)

そして、エリキング(ギレン)もようやく事態の深刻さに気づく。

「……む? 計算外だ。なぜ前の馬はバテない? 重力に魂を引かれていないというのか!?」

(まずい。この位置取りは……私の采配ミスか? いや、認めたくないものだな!)

4コーナー。
ジューンテイクは外からバビットをねじ伏せにかかる。
中団のエコロディノス(ジェリド)は、内を突こうとして進路を探すが……。

「どけ! どけええ! そこは俺の通り道だ!」
「あら、強引な殿方ね。推測ですがここは譲りません」

サフィラ(エマ)が壁になり、ジェリドは一瞬ひるむ。

「くそっ、またか! なんで俺はいつもこうなんだぁぁぁ!」
──ジェリド、安定の不運属性発動。

直線コース。残り400m。
ついにジューンテイク(ジュドー)が先頭に躍り出た。
バビット(ヤザン)は力尽き、後退していく。

「へっ……やるじゃねえか小僧。……あばよ、後は好きにしな」
「ありがとよ、おっさん! アンタの背中、悪くなかったぜ!」

ジューンテイク、単独先頭!
ここからが、彼の真骨頂だ。
ラップタイム11.1秒。極限のスタミナ勝負。

「アニメじゃない! 本当のことさ! これが俺の力だぁぁぁ!」

(燃えろ俺の筋肉! 6200万が目の前で待ってるんだ! リィナ、見ててくれ!)

だが、大外から黒い影が迫る。
エリキング(ギレン)だ。
彼は大外ブン回しという、王者の(あるいはヤケクソの)コース取りを選択した。

「見よ! この上がり33.1秒の衝撃を! ジーク・ジオン!」

(届く……! 私の計算では、ゴール板の手前1メートルで逆転するはずだ!)

「総帥! いやエリキング! 速すぎる!」

内から食い下がるエコロディノス(ジェリド)が叫ぶ。

「黙れ俗物! 貴様らは私の引き立て役だ!」
「ふざけるな! 俺だって……俺だって勝ちたいんだぁ!」

残り200m。
粘るジューンテイク。
飛んでくるエリキング。
必死に追うエコロディノス。

ジューンテイクの視界が歪む。息が切れる。
(きつい……! 肺が焼けるようだ……。でも、ここで止まったら、俺はただのジャンク屋だ!)

「落ちろぉぉぉ! 蚊トンボども!」

エリキングのプレッシャーが背中に刺さる。

「させるかよ! 俺には……俺には生活がかかってんだよぉぉぉ!」

ジューンテイクが、最後の力を振り絞って首を伸ばす。
それは、エリートには決して出せない、泥にまみれた「底力」だった。

ゴールイン。

1着、8枠12番ジューンテイク。
2着、5枠6番エリキング。その差、1/2馬身。
3着、4枠4番エコロディノス。

掲示板に順位が灯る。
ジューンテイクは荒い息を吐きながら、空を見上げた。

「……勝った。……勝ったぞ! 見たか大人たち!」

(へへっ、6200万……。これで今夜は焼肉だ。いや、寿司もいいな)

一方、2着に敗れたエリキング(ギレン)は、クールダウンしながらブツブツと独り言を呟いていた。

「……フン。あえて言おう、カスカスであると」
「負け惜しみですか、総帥」

3着のエコロディノス(ジェリド)が、悔し涙を流しながら突っ込む。

「黙れ。これは敗北ではない。戦略的撤退だ。たかが半馬身、誤差の範囲内だ」
「その誤差で負けたんですよ! ああもう、俺の初GⅠ制覇への道が……」

そこへ、12着に沈んだバビット(ヤザン)が、ヘラヘラと笑いながら戻ってきた。

「カッカッカ! 派手に散ったぜ! おい小僧、よくやったな!」
「うるせえよおっさん。……でもまあ、アンタが逃げてくれたおかげで走りやすかったぜ」
「ちっ、可愛げのねえガキだ。次は潰してやるからな」

5着のサフィラ(エマ)は、呆れたように彼らを見つめていた。

「……まったく、男ってどうしてこう野蛮なのかしら。少しは品性を学びなさい」
(でも、ジューンテイクさんのあの執念……少しだけ見直したわ)

こうして、第119回京都記念は幕を閉じた。
ジューンテイクの魂の叫びが、京都の空にこだまする。

「聞いたか! 俺が主役だ! ……で、賞金の振込先どこだっけ?」
──最後まで金かよ!

ちゃんちゃん。