真宮寺教授の秘密講義《デブ猫競馬》
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第一章:戦場の選定、あるいは等身大フィギュアへの遠き道
研究室の重厚な扉を蹴破らんばかりの勢いで飛び込んできたのは、大学院生の若葉だった。彼女の纏う空気は、春の嵐というよりは、物欲という名の熱帯低気圧に近い。
若葉:「教授! ウチ、今日こそはドカンと当てて、あの超高級な等身大フィギュア買いたいんです! 予約締切が迫っとるんよ!」
神宮寺教授は、デスクの上に広げられた三体のホログラム・ディスプレイから視線を外さず、冷徹な声で応えた。
神宮寺:「若葉、その騒音レベルはデシベル計で測るまでもなく受忍限度を超えているわ。それに、競馬を『ドカンと当てる』というギャンブル的思考で捉えているうちは、あなたは一生そのプラスチックの塊を手に入れることはできないでしょうね」
若葉:「ええっ、そんなん殺生や! 教授、あんたは天才なんやろ? データの魔術師、確率の支配者、そして今期アニメの『魔法少女マジカル・データ』のモデル疑惑まである、あの神宮寺教授やんか!」
神宮寺:「……最後の情報はどこから仕入れたのかしら。佐倉くん、後で詳しく聞き出しておいて」
神宮寺の傍らで、うず高く積まれた資料を整理していた助手の佐倉が、苦笑しながら眼鏡を押し上げた。
佐倉:「わかりました、教授。若葉さん、落ち着いてください。教授は今、今週開催される複数の重賞レースについて、どの戦場が最も『論理的な勝利』を収めやすいかを選定しているところなんです」
若葉:「そうなん? 佐倉助手! ほな、ウチにピッタリの『億万長者コース』はどれや?」
若葉が身を乗り出してホログラムを覗き込む。そこには三つのレース名が浮かんでいた。
- 中山牝馬ステークス(GIII)
- フィリーズレビュー(GII)
- 弥生賞ディープインパクト記念(GII)
神宮寺:「まず、中山牝馬ステークス。これは論外よ。いい、若葉? 競馬には『ハンデ戦』という悪魔のシステムがあるの。重い荷物を背負わされた実力馬と、羽根のように軽い荷物で走る伏兵。さらに気まぐれな女の子(牝馬)たちの戦い。過去10年、一番人気の馬が勝った確率は驚異のゼロパーセント。これはもはやレースではなく、闇鍋パーティーだわ」
若葉:「ゼロ!? そらアカンわ。ウチ、闇鍋は嫌いや。こないだの飲み会でチョコバナナと納豆入れたん誰やねん」
確率は残酷だわ。人間は数字で未来を飼い慣らそうとするけれど、馬の心までは計算できない。特にこのレースは、データの外側にある『運』の要素が強すぎる。初心者にギャンブルの洗礼を受けさせるには最適だけれど、私の『美学』には反するわね。不確定要素を削ぎ落とした先にしか、真実は見えてこないのだから。
神宮寺:「フィリーズレビュー。これも却下ね。1400メートルという短距離に、これからスターを目指す女の子たちが20頭以上もひしめき合う。スタート直後のポジション争いは、まるで限定グッズの物販列に並ぶオタクたちのよう。接触、進路妨害、何でもありの格闘技よ。一番人気が勝てない呪いはここでも健在だわ」
若葉:「物販列……! それは死闘やね。ウチもこないだのイベントで始発から並んで、目の前で完売した時の絶望感と言ったら……。教授、そんな地獄にウチを放り込まんといて!」
佐倉:「落ち着け、若葉さん。だからこそ、教授は三つ目のレースを選んだんだ」
佐倉が穏やかに解説を引き継ぐ。
佐倉:「弥生賞ディープインパクト記念。これこそが、我々が今週挑むべき戦場です。若葉さん、このレースの特徴を見てください。登録馬が少なく、実力差がはっきりしている。そして何より、全馬同じ条件、同じ重さの荷物を背負って走る『馬齢戦』だ。余計なハンデの駆け引きがない」
若葉:「おっ、なんか真面目なレースっぽいな! 佐倉助手、具体的に何がええのん?」
神宮寺:「過去10年で、一番人気の馬が三着以内に入る確率は70パーセント。頭数も11頭前後と少なく、馬たちの走るスペースも十分にある。つまり、実力のある馬が、実力通りに走り、実力通りに結果を出す可能性が極めて高いということ。データの再現性を信じるならば、ここ以外に選択肢はないわ」
若葉:「なるほど……。的中率重視ってことやね! でも教授、配当が安くなるんちゃう? ウチ、等身大フィギュアが……」
神宮寺:「若葉、投資の基本は『負けないこと』よ。外れればゼロ、当たればプラス。その積み重ねがフィギュアへの最短ルートなの。それに、このレースには『堅実な表面』の裏側に、まだ誰も気づいていない『論理的な穴』が隠れている予感がするわ……。私の直感が、このデータ群の中にノイズを感じている」
若葉:「ノイズ……? 教授、かっこええやん! まるで見昨日の深夜アニメのラストシーンみたいや!」
神宮寺:「……昨日の深夜アニメ? ああ、あの第三話で急に作画が怪しくなった作品のことかしら? あの展開の裏切り方は、データ的には予測可能だったけれどね」
神宮寺教授は不敵に微笑み、ホログラムを操作して、登録馬の一覧を表示させた。
神宮寺:「さあ、佐倉くん。若葉に競馬の、いえ、世界の構造を教えてあげましょう。ターゲットは『弥生賞ディープインパクト記念』。まずは、この中に紛れ込んだ『走る必要のない馬』たちを、論理という名のメスで切り捨てていくわよ」
佐倉:「了解です、教授。若葉さん、ノートの準備はいいですか? ここからが本番ですよ」
若葉:「任せとき! ウチのペンは、今すでに火を噴きそうやねん!」
一番人気が強い。少頭数で紛れがない。……そんな教科書通りの回答を、私が心の底から信じているとでも? 競馬というカオスにおいて、『論理』ほど疑わしいものはない。それでも、私たちは数字を積み上げるしかないのだけれど……。さあ、この茶番がどこまで真実に近づけるか、試してみましょうか。