真宮寺教授の秘密講義《デブ猫競馬》
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第二章:第一次選定、あるいは「落選」の美学
研究室の空気は、解析ソフトが吐き出す熱気と、若葉が持ち込んだコンビニの「激辛明太ポテトチップス」の匂いで奇妙に混ざり合っていた。神宮寺教授は、眉間にしわを寄せながら、11頭の馬名が並ぶホログラムを睨みつけている。
神宮寺:「さて、佐倉くん。準備はいいかしら。今から行うのは、いわゆる『オーディション』の第一次審査よ。キラキラした夢を抱いて集まった若駒たちの中から、論理という名の不採用通知を叩きつける冷酷な作業。ワクワクするわね」
佐倉:「教授、言い方が相変わらずドSですね……。若葉さん、驚かないでくださいね。これがこの研究室の『日常』ですから」
若葉:「ええよええよ! ウチ、こういう選抜モノの番組大好きやねん! 最初に落ちるんは誰や? 歌が下手な子か? それともダンスが盆踊りになっとる子か?」
神宮寺:「競馬はエンターテインメントである前に、残酷な統計学よ。若葉、まずはこの子を見て」
神宮寺が指差したのは、モウエエデショーという名前だった。
若葉:「モウエエデショー? 名前はめっちゃ強そうやん! 『もうええでしょ!』って言いながらライバルを突き放す感じやろ?」
神宮寺:「逆よ。むしろ『もうええでしょ(勘弁してください)』とファンが泣きたくなるようなデータだわ。佐倉くん、この子の経歴を初心者の若葉にもわかるように説明してあげて」
佐倉:「はい。若葉さん、この馬はですね、プロの舞台に上がるための『予選(未勝利戦)』を勝ち上がるのに4回もかかっているんです。しかも、最後に勝ったのは小倉という、今回の戦場である中山とは全く質の違う、いわば『地方の小さなライブハウス』なんです」
若葉:「ライブハウス……? 広いステージじゃないん?」
佐倉:「そう。中山競馬場は『日本武道館』のような、急な坂があって、非常にタフさが求められる場所。そんな場所で、プロデビューに手間取った子が、いきなりトップクラスの精鋭たちと戦って勝てると思う?」
若葉:「ううむ。のび太くんがジャイアンとスネ夫と出木杉くんを相手に、いきなり100メートル走で勝とうとするようなもん?」
神宮寺:「良い例えね。しかもこの子、中山のコースですでに何度も走って、ボロ負けしているの。データ的に見て、ここでいきなり覚醒して魔法少女に変身する確率は、私が明日からアイドルデビューする確率より低いわ」
統計上の足切り。それは「情」を捨てる行為。でも、数字の裏にある馬たちの努力を切り捨てるたびに、自分の心が少しずつ機械化していくような錯覚を覚えるわ。……いや、そんなセンチメンタルは不要。私はただの、観測者なのだから。
若葉:「ほな、モウエエデショーくんは落選やね。バイバイや! 次は?」
神宮寺は、次にメイショウソラリスの名前を赤く染めた。
神宮寺:「この子は、すでに一度『大きな模試(重賞)』を受けて、11頭中の11位、つまり最下位を叩き出しているわ。しかも、その時の『実力スコア(指数)』が86。今回の合格ラインは105以上よ。若葉、あなたならこの子を合格させる?」
若葉:「うわっ、それは厳しいなぁ……。佐倉助手、86点と105点って、どれくらい違うん?」
佐倉:「そうですね……。100メートル走で言えば、勝ち馬がゴールした時に、まだ20メートルくらい後ろで必死に足を回しているくらいの差です。しかも前走で大敗したショックというのは、馬にとっても大きい。今回、メンバーのレベルはさらに上がるんです。逆転のシナリオが、どこにも見当たりません」
若葉:「なるほど。一回赤点取った子が、いきなり全国模試でトップ狙うんは無理があるってことやね。納得や!」
「そして、最後はこの子。バリオス」
若葉:「ええっ! この子、前走のデビュー戦で勝っとるやん! ピカピカの新星やないの?」
神宮寺:「そう、そこが罠なのよ。若葉。佐倉くん、この『一発屋』の危険性を教えてあげて」
佐倉:「バリオスは確かにデビュー戦を勝ちました。でも、キャリアはたったの『1戦』。弥生賞という過酷なレースを過去に勝った馬たちのデータを調べると、例外なく3回以上は実戦を経験しているんです。中山の急坂は、経験の浅い若駒にとっては、迷路に放り込まれたようなものなんですよ」
若葉:「ええーっ! 才能だけじゃあかんの? 最近のアニメの主人公みたいに、最初からチート能力で無双できへんの?」
神宮寺:「アニメと現実は違うのよ、若葉。競馬は『経験値』という名の武器が必要な戦場。まだ一度も敵と剣を交えたことがない子が、歴戦の勇者たちに囲まれて、最後まで冷静に走れると思う?」
若葉:「……確かに、ウチも初めてのバイトでレジ打ちした時は、テンパってお客さんに『温めますか?』って聞くところを『お幸せですか?』って聞いてもうたわ。経験値、大事やね……」
神宮寺:「結論は同じよ。モウエエデショー、メイショウソラリス、バリオス。この三頭は、私たちの検討リストから永遠に抹消される。論理的に見て、彼らが掲示板に乗る姿は、私の網膜には映らない」
若葉:「よっしゃ! 三頭消えた! これで残り8頭や! だいぶ絞れてきたんちゃう?」
信じる……。科学者には、最も似合わない言葉ね。さあ、次は第二次選定。さらに深く、残酷に、この『弥生賞』という迷宮を解剖していくわよ。