小説『真宮寺教授の秘密講義』
第1章:データの深淵、中二病の誘惑《デブ猫競馬》
【
トップ】
【
パカパカ競馬予想】
【
日程表】
【
WIN5予想】
【
動画で見る短編小説】
「……教授、それ、さっきから鼻から煙出てますよ。あと、そのチョコ、2026年限定の『推し活応援パッケージ』ですよね? また散財したんですか」
学生の佐倉は、半ば呆れた顔で研究室の重いドアを閉めた。室内には甘ったるいカカオの香りと、なぜか微かに焦げたような匂いが漂っている。
真宮寺:「うるさいわね、佐倉くん。これは脳への直接的な電気刺激よ。この超激辛・猫耳デコチョコが、私の灰色の脳細胞を加速させるの。それに散財じゃないわ、これは『未来への投資』。私の推しが次のアニメで主役を張るための、ささやかな供物よ」
佐倉:「投資っていうか、ただの課金ですよね……。それより、例の件はどうなったんですか? 今週末の重賞、どちらを解析対象にするか。僕、昨日から気になって夜も眠れず、結局朝まで『ウマ娘』の育成してました」
(ああ、佐倉くん。相変わらずお人好しな顔をして。3歳馬のレースなんて、人間でいえば中学2年生の運動会に命を懸けるようなものよ。昨日まで足が速かった子が、今日には成長痛で走れなくなる。そんな不安定な『成長曲線』を計算式に組み込めと? 無理ね。データの海に溺れて死ぬのがオチだわ。ここは大人たちの、薄汚れた、もとい、完成された実力を徹底的に解剖してあげるべきね)
真宮寺:「……朝までゲームしてた言い訳を私に言わないで。でも、ターゲットの選定は終わったわ。候補は2つ。東京新聞杯(GⅢ)と、きさらぎ賞(GⅢ)。佐倉くん、君はどっちが『美味しい』と思う?」
佐倉:「えー、そりゃあ、きさらぎ賞じゃないですか? 3歳重賞って『伝説の始まり』感があってワクワクしますし。去年の勝ち馬だって、その後クラシックで活躍しましたよね」
真宮寺:「ワクワク? 佐倉くん、あなたは競馬を少年ジャンプの読みすぎた読者目線で見てるのかしら。私たちが求めているのは『物語の感動』じゃない。『再現性の高い勝利』よ。いい? データ分析の観点から言えば、きさらぎ賞は『ノイズの塊』なのよ」
佐倉:「ノイズ……ですか? 期待の若駒たちが走る、清々しいレースじゃないですか」
真宮寺:「清々しいどころか、泥沼よ。まずキャリアを見て。きさらぎ賞に出るような3歳馬は、まだ1戦や2戦しか走っていない。統計学的に言えばサンプルサイズ不足でエラーを吐き出すレベル。昨日たまたま勝ったのか、本当に強いのか、数字が嘘をつく隙間が広すぎるのよ」
佐倉:「でも、東京新聞杯だって古馬(大人)のレースだから、もう能力の限界が見えてて面白くないんじゃ……」
真宮寺:「そこがいいのよ! 東京新聞杯の出走馬たちは10戦、20戦と戦ってきたベテラン。彼らの限界値、得意な展開、苦手な季節……すべてが数値化されて丸裸なのよ。予測値の標準誤差が極めて小さい、いわば『数学の優等生』たちの集まり。それに比べてきさらぎ賞は、突然変異を待つガチャみたいなものよ」
佐倉:「ガチャって……。でも、コース的にはどちらも公平ですよね? 京都も東京も広いコースですし」
真宮寺:「甘いわね。東京芝1600mは日本屈指の公平なコース。直線が長くて紛れが少ない。実力のある馬が実力通りに伸びてくる。一方、京都1800mの3歳戦はどう? 少頭数になりやすくて、道中ゆっくり走り、最後だけ一生懸命走る『超スローペース』になりがち。これじゃ、能力差じゃなくて『位置取り』や『仕掛けのタイミング』っていう、データ化しにくい変数で結果が決まっちゃうのよ」
佐倉:「ジョッキーのさじ加減一つで変わっちゃうのは、確かにデータ分析泣かせですね」
真宮寺:「そう。最近のアニメでもそうじゃない。主人公の『根性』とか『覚醒』で勝敗が決まるのは、画面の中だけで十分なの。私たちはもっと冷酷に、時計と斤量を信じるべきだわ。ほら、この私のスコアリングを見て」
| 評価項目 |
①東京新聞杯 |
②きさらぎ賞 |
| データの蓄積量 |
★★★★★ |
★★☆☆☆ |
| コースの公平性 |
★★★★★ |
★★★★☆ |
| ペースの予測性 |
★★★★☆ |
★★☆☆☆ |
| 能力比較の容易さ |
★★★★☆ |
★☆☆☆☆ |
佐倉:「うわ、スコアが倍くらい違う……。これ、もう答え出てるじゃないですか」
真宮寺:「当然よ。初心者が『夢』を見るならきさらぎ賞もいいけれど、私たちがやるのは『攻略』。既に答え(実績)が出ている大人たちの戦いを、精緻なフィルターで濾し取っていく。これが真宮寺流。わかったら、さっさと東京の馬場状態のデータをサーバーから落としてきなさい」
佐倉:「わかりました、教授! 今週のターゲットは東京新聞杯、確定ですね。早速準備します」
真宮寺:「いい返事ね。じゃあ私は、昨日から配信が始まった『異世界転生したけど、馬の耳が聞こえすぎて困る』の最新話をチェックしてからにするわ。これも立派な資料よ、多分」
佐倉:「……絶対、ただのアニメ鑑賞ですよね」
結論:データが導き出した戦場は「東京新聞杯(GⅢ)」。
大人の事情と数値の暴力が支配する、マイルの迷宮へ――。