小説『真宮寺教授の秘密講義』

第2章:老兵とスランプ、そして残酷な計算《デブ猫競馬》


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「……教授、その眼鏡、もしかして新しく買い替えました? なんか、フレームから微かに青白い光が漏れてる気がするんですけど」
真宮寺教授は、最新のスマートグラス(自称・確率変動可視化ゴーグル)を指先でクイと押し上げた。
真宮寺:「これ? 某リンゴ社の最新モデルを魔改造して、JRAの過去10年分の全レースラップをAR表示できるようにしたの。これで世界が数字の羅列に見えるわ。あ、佐倉くん。君の顔の横に『本日の運勢:32%(昨日比-5%)』って出てるわよ。さっき食べたコンビニの新作スイーツ、糖質が予測値をオーバーしてるわね」
佐倉:「余計なお世話ですよ! ……で、そのサイバーな視界で、東京新聞杯の馬たちはどう見えてるんですか? 登録馬は16頭。ここからどうやって絞り込むんですか?」
(名前の響きや過去の栄光だけで馬を買う人間が多いけれど、データは嘘をつかないわ。特に冬の東京マイル。冷徹な物理法則が支配するこの舞台で、限界を超えた馬に居場所はないのよ。佐倉くん、君もいつか名前のキラキラ感に騙されないようになるといいわね。最近流行りの『異世界転生して全知全能になったけど、スマホの充電器を忘れた』みたいな、設定過多で中身が伴わないアニメのタイトルみたいにね)
真宮寺:「いい? 競馬っていうのは『物理』なの。感情やドラマで馬が速くなるなら、私は今頃ハリウッドの脚本家になってるわ。まずは第1次選定。物理的・統計的に3着以内に入る確率が極めて低い『データのゴミ箱行き』を4頭選ぶわよ」
佐倉:「データのゴミ箱って……相変わらず口が悪いですね。で、まずは誰を消すんですか?」
真宮寺:「一頭目はメイショウチタン。9歳、牡馬。二頭目はサクラトゥジュール。同じく9歳のせん馬よ」
佐倉:「えっ、どっちもベテランじゃないですか! サクラトゥジュールなんて去年、京都金杯を勝ってるんですよ? まだやれるって、ファンは期待してますよ」
真宮寺:「ファンの期待はデータに含まれないわ。9歳という年齢をどう考えているの? 人間に換算すれば定年退職が見える年齢よ。1分32秒台のスピードを要求されるマイル重賞は、大学生の100m走みたいなもの。過去の指数の推移を見ても、彼らの心肺機能はピークアウトしている。思い出補正で馬券を買うのは、元カノの写真を見ながら今の生活を嘆くくらい無意味よ」
佐倉:「……なんか心に刺さる言葉を混ぜるの、やめてもらえます? わかりました、9歳馬2頭は厳しい、と。じゃあ3頭目は?」
真宮寺:「シリウスコルト、5歳馬よ。これは『距離適性のミスマッチ』ね。彼の好走歴は2000m前後に集中しているわ。2000mでバテている馬が、さらに速い流れのマイルへ短縮して、しかも58kgという重い斤量を背負わされる……。フルマラソンでバテた人に『次は荷物を重くして100m走をやりなさい』って言ってるようなものよ。物理的に忙しすぎて、最後は脚が空っぽになるわ」
佐倉:「うわぁ、それは地獄だ……。じゃあ、最後の4頭目は? もしかして、あのGⅠ馬ですか?」
真宮寺:「そうよ。シャンパンカラー。NHKマイルカップの覇者だけど、今回は最高斤量の59kg。直近のスランプ状態(14着、8着、6着)でこの重荷を背負って復活する確率は、統計的に無視できるほど低いわ。いわば、高カロリーすぎて健康診断で引っかかるフォアグラのようなもの。美味しい思い出はあるけど、今の健康状態(能力値)では毒になるわね」
佐倉:「……美味しいけど、体には悪い。厳しいなぁ。これで12頭ですね」

【第1次消去馬:4頭】

1. メイショウチタン(能力減退・年齢)
2. サクラトゥジュール(加齢・コース適性不足)
3. シリウスコルト(距離不足・近走不振)
4. シャンパンカラー(斤量過多・スランプ)
真宮寺:「厳しいのが勝負の世界よ。さて、脳が燃えるような刺激を補充しなきゃ。佐倉くん、次はいよいよ『適性の壁』でさらに絞り込むわよ」

残された検討候補は12頭。
データはさらにミクロな領域――「走破時計の限界」へと踏み込む。