【名無しさん】 2025年9月29日 18時50分11秒 | 猫でも書ける短編小説 |
【名無しさん】 2025年9月29日 18時41分29秒 | 「風を裂く、最後の一瞬」 登場馬(擬人化キャラ) ウインカーネリアン:老練なベテラン、渋い職人肌。今回が集大成の覚悟。 ジューンブレア:若き女傑、勝気でプライド高いが不器用。 ナムラクレア:クールで冷静な切れ味の持ち主、最後の一撃を信じるタイプ。 サトノレーヴ:理想を追い求める実力派、頭脳派の冷静さを持つ。 ママコチャ:努力家で真面目な古豪。 その他の馬:脇役として登場。 あらすじ 秋晴れの中山競馬場。 16頭のスプリンターたちがゲートに収まる。 ハナを奪うことに命を懸けるジューンブレア、ベテランの意地を見せたいウインカーネリアン、そして最後方から一撃必殺を狙うナムラクレア。 レースは前半から激流となり、逃げ馬たちは息が上がる。 最後の直線、ウインカーネリアンは内ラチ沿いで耐え、ジューンブレアは不利を受けながらも必死に食い下がる。 大外からはナムラクレアが矢のように迫る――。 誰もが勝利を渇望した一瞬の攻防、その心情を馬の視点で描く。 『風を裂く、最後の一瞬』 本編 ――秋の空気が、胸に突き刺さる。 「……ここが俺の居場所だ」 ウインカーネリアンは深く息を吐いた。ゲートの中、鉄の匂いと緊張の匂いが混ざり合い、まるで世界が閉ざされたような感覚が広がっている。耳の奥で、観客のどよめきが遠くに聞こえた。 左隣には、若き女戦士――ジューンブレアがいる。鋭い視線を前だけに向けて、鼻先で小さく息を鳴らした。 「ベテランに譲る気はないわ。私がこの舞台を支配する」 その気配がひりつくように伝わってくる。右隣には冷静沈着なサトノレーヴ。彼は落ち着き払った顔で目を閉じていた。 ――今日が、俺にとって最後の大舞台になるかもしれない。 ウインカーネリアンはそう心の中で呟いた。8歳。スプリンターとしては決して若くはない。だが、このレースだけは譲れない。意地でも勝つと決めていた。 「スタート!」 乾いた音とともにゲートが一斉に開いた。 ジューンブレアが飛び出す。彼女の脚は迷いなく地面を蹴り、先頭を奪う勢いで加速していく。ウインカーネリアンも遅れずに並びかけた。二頭の鼻先が重なり、視界が激しく揺れる。 後ろからは蹄音が波のように押し寄せる。ママコチャがすぐ背後に迫り、ピューロマジックが外から被せてくる。まるで戦場だ。 「邪魔はさせない!」 ジューンブレアが内ラチ沿いに身体を寄せる。その動きに合わせてウインカーネリアンは外へ半歩移動した。スピードはさらに上がり、風が耳を裂く。 3コーナー――隊列が縦に伸びる。後方の集団に目をやると、ナムラクレアがじっと身を潜めていた。その瞳は静かで、しかし深い闘志が燃えている。 「……まだ動かないのか」 サトノレーヴがわずかに目を開いた。 ラップタイムは速い。自分でも分かるほど、前半から無理をしていた。それでもジューンブレアは譲らない。ウインカーネリアンも引くつもりはなかった。 「お前を越えて……俺は生きてきた!」 呼吸が荒くなる。心臓が爆発しそうだ。それでも脚は止まらない。後ろから迫る気配が一気に強くなる。ナムラクレアが動いたのだ。 4コーナー手前――外から一陣の風が吹き抜けた。 「来たか……!」 ナムラクレアは大外を豪脚で駆け上がる。その脚音は、まるで雷鳴のよう。サトノレーヴも合わせて進出してくる。 「内は荒れている……外が伸びる!」 一瞬の判断が勝敗を決める。だが、ウインカーネリアンは内を選んだ。最短距離で勝負する、それが自分の生き方だった。 直線―― ジューンブレアが先頭。鼻息が荒い。肩が震え、脚が悲鳴を上げている。それでも彼女は叫ぶように走った。 「絶対に、負けないっ!」 すぐ後ろ、ウインカーネリアンがぴたりとつく。その視線は鋭く、覚悟が宿っていた。 「俺の最後の舞台……ここで終わるわけにはいかねぇ!」 二頭の間に火花が散る。 残り200メートル――大外からナムラクレアが一気に飛んできた。鋭い末脚で他馬を飲み込み、まるで世界がスローモーションになるような速さだ。 「……速い!」 ジューンブレアの目が驚愕に染まる。 しかし、その瞬間。 ウインカーネリアンは内から身体をねじ込み、最後の一歩を踏み出した。風を切り裂くような走り。内ラチ沿いをかすめ、前へ――。 「まだ、終わっちゃいない!」 ゴール板が目前に迫る。視界の端にジューンブレア、外にはナムラクレア。三頭の鼻先が並ぶ。 その刹那、ウインカーネリアンはわずかに前へ出た。 --- ゴール後―― 荒い息を整えながら、ウインカーネリアンは顔を上げた。空は青く、観客の歓声が耳に飛び込んでくる。 「……勝ったのか?」 ジューンブレアが肩で息をしながら睨みつけてきた。悔しさと敬意が混ざった目だ。 「老いぼれが……粘りやがって……」 その声に、ウインカーネリアンは微笑んだ。 「お前がいたから、俺はここまで来れたんだ」 少し後ろ、大外を駆け抜けたナムラクレアが静かに立ち尽くしていた。彼女は何も言わず、ただ目を閉じた。その表情には満足と悔しさが入り混じっている。 観客席からの歓声が、ひときわ大きく響いた。 ――ウインカーネリアン、スプリンターズステークス制覇! 老兵が、最後にもう一度頂点を掴んだ瞬間だった。 ウインカーネリアンは胸の奥で静かに呟いた。 「ありがとう……これが俺の答えだ」 その声は、誰にも届かず、秋空へと消えていった。 |