「泥濘の決意」誰もが勝利を渇望した一瞬の攻防、その心情を馬の視点で描く。【京都大賞典 2025 レース内容詳細】


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【名無しさん】
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第六十回 京都大賞典:泥濘の決意
ナレーション

古都の空は曇天、秋雨が去った後の京都レース場。芝2400メートルの外回りコースは、「稍重」の発表にもかかわらず、深い泥濘(ぬかるみ)を抱えていた。ここは伝統のGⅡ、天皇賞(春)やジャパンカップへ続く、古馬長距離王者を決める重要な試金石だ。

今日の戦いは、スピードだけでは許されない。要求されるのは、このタフな馬場を蹴り抜くスタミナと、内側の荒れを避け、活路を見出す冷静な判断力。

ゲートに並んだ18人のアスリートたち。彼らの瞳は、泥に汚れてもなお、勝利の炎を宿している。静かにファンファーレが終わり、長く厳しい2400メートルの旅路が今、始まる。

第一章:崩れる常識と外枠の咆哮

「さあ、ついてこい!このペースが、俺たちの勝利への道だ!」

ゲートが開くと、サンライズアース(牡4)が軽快に飛び出し、先頭に立った。58.0kgという重い宿命を背負いながら、彼は自らレースの旗振り役を買って出る。彼の目標はただ一つ、このタフな馬場で、後続に無駄な体力を使わせること。

「逃げ切ってやる。この重さも、この泥も、俺の力に変えてやる!」

彼のペースは決して速くない。しかし、この緩んだ馬場では、一歩一歩が重く、後続の脚にじわりと疲労を蓄積させていく。

そのサンライズアースを、昨年の覇者として期待されたドゥレッツァ(牡5)がぴったりとマークする。

「焦るな。先頭を走らせておけばいい。頃合いを見て、俺が引き継ぐ」

彼は経験に基づき、2番手でサンライズアースの動きを封じる。しかし、馬場の水分が重い。彼の蹴り上げる水しぶきが、疲労の度合いを物語っていた。

中団は、泥濘を避けるように静かに隊列を組んでいた。多くの実力者たちが、互いの動きを牽制し合っている。

中団後方、内ラチから少し離れた位置で、ディープモンスター(牡7)は静かに馬場の感触を確かめていた。彼はこのタフなコンディションを歓迎している。

「この重さ…僕の力の見せ所だ。内はもう荒れ始めている。皆が我慢比べをしているうちに、僕らは活路を見つけよう」

池江調教師の勝負服を纏った彼は、長年の経験から、この京都の馬場が「外差し」に傾きつつあることを嗅ぎ取っていた。彼は、勝負どころまで、体力を温存することに集中する。

そのディープモンスターよりもさらに後方、最後方の集団に、ヴェルミセル(牝5)は息を潜めていた。彼女は15番人気。誰も彼女に期待していない。

「どうせ注目されないなら、皆が通らない道を行く。私の体は軽い。この泥は、私にとってはチャンスだ!」

彼女は馬群の一番外側、観客席に近い大外に位置を取った。距離のロスは大きいが、誰も踏み荒らしていない新鮮なターフを選び、直線での一発に全てを懸けた。

レースは3コーナーへ。2400メートルという距離は、まだ長い。だが、勝負はすでに動いていた。

ドゥレッツァが痺れを切らし、サンライズアースに並びかける。

「もう待てない!ここからペースを上げるぞ!」(ドゥレッツァ)

しかし、サンライズアースは簡単に屈しない。重い58.0kgを背負いながらも、彼は先頭の座を譲らない。2頭の牡馬が激しく競り合った結果、ペースはやや加速し、中団以下の馬たちに**「動かなければならない」**という重圧を与えた。

内を走っていた先行勢、プラダリア(牡6)やサブマリーナ(牡4)は、この加速についていくことが精一杯。彼らの脚は泥に取られ、もう余力は残っていなかった。

「動かないと飲み込まれる!前に!前に!」

彼らは必死にもがくが、馬場が彼らの努力を裏切る。内側の深い轍(わだち)が、彼らの末脚を封じ込めた。

最終コーナー。いよいよ最後の長い直線だ。

先頭はサンライズアースとドゥレッツァ。泥と汗にまみれ、彼らの意地がぶつかり合う。

「ドゥレッツァ、お前には負けない!」(サンライズアース)
「くっ、重い!この馬場と重さが…!」(ドゥレッツァ)

ドゥレッツァは坂の途中でついに失速。サンライズアースは粘る。彼は逃げ馬としての限界を試していた。

しかし、このタフな展開と、内側の荒れた馬場という**「バイアス」**は、後方から大外へ持ち出した者たちに、最高の舞台を提供した。

ディープモンスターが、中団の外から力強く加速する。

「この瞬間のために、僕らは脚を溜めた!勝利は、このタフな道を知っている者のものだ!」

彼の体は泥を撥ね、一完歩ごとに前との差を詰めていく。長く続く彼自身の持続力と、荒れた馬場を苦にしないタフさが融合し、サンライズアースの貯金を一瞬で使い果たしていく。

そのさらに外、遥か大外からは、ヴェルミセルが、そしてショウナンラプンタ(牡4)が、信じられないほどのスピードで迫ってくる。

「私は止まらない!皆が諦める場所こそ、私のゴールよ!」(ヴェルミセル)
「間に合え!俺たちの末脚は、この馬場にこそ活きるんだ!」(ショウナンラプンタ)

彼女たちの上がり34秒台前半という末脚は、泥濘の馬場では光速に等しかった。

ゴール前100メートル。

粘るサンライズアースを、ディープモンスターが捉える。

「勝つのは、俺だ!」

彼はサンライズアースをわずかに抜き去るが、その直後方から、ヴェルミセルが猛烈な勢いで迫っていた。彼女の足音は、まるで奇跡の予兆だ。しかし、一歩届かない。

ディープモンスターが1着でゴールイン。
続いて、意地で粘り切ったサンライズアース。
そして、大波乱を演出したヴェルミセルが、その短い勝負服を泥まみれにしながら3着に飛び込んだ。

この日の京都は、単なる能力だけでは勝てないことを証明した。勝利の鍵を握ったのは、タフな馬場適性と、展開を読み切って外へ持ち出す勇気。ディープモンスターは、その全てを兼ね備えていた。そして、敗れた先行馬たちは、この泥濘の洗礼を浴び、再び王者の座を目指す決意を固めたのだった。