| 【名無しさん】 2025年10月12日 18時28分47秒 | 猫でも書ける短編小説 |
| 【名無しさん】 2025年10月12日 18時4分59秒 | 「紫電、開かれた外側の道」【第1回アイルランドトロフィー（GⅡ） 2025 レース内容詳細】 ラヴァンダ（牝4）。私の肌を打つ東京の風は冷たい。しかし、私にはわかる。この硬い芝、この外枠15番。今日、この舞台は、私のような差し馬のために用意されたのだ。内側で争う愚かな馬たちよ、道を開けなさい。私の勝利のシナリオは、既に完成している。 『轟音と共に、ゲートが開く！』 「さあ、始めようか！」 最内1番のアドマイヤマツリ（牝4）は、文字通り弾丸のように飛び出した。彼女はプライドの塊だ。「私のレースだ！私のペースだ！誰にも先頭は譲らない！」という激しい叫びが、後続にペースの速さを叩きつける。彼女の強気さが、先行集団を形成する。 3番手のセキトバイースト（牝4）は、真面目で融通がきかない。「この位置をキープ！指示された通り、前へ！前へ！」彼女はただひたすらに、前に進むことしか考えない。 中団の内側、4番手にいたアンゴラブラック（牝4）は、冷静沈着そのものだ。「焦らない。このインの重圧は、私にとっての燃料だ。直線まで、力を温存する。」彼女は周囲の喧騒を遮断し、獲物を待つ豹のように、静かに呼吸を繰り返す。 一方、中団の外。1番人気を背負うボンドガール（牝4）は、周囲への苛立ちを隠せない。「どうしてこんなに詰まるの！？私はもっと走れるのに！」生まれ持った才能と、期待の重さに、彼女の心は乱れがちだ。 そして、私は7番手。ボンドガールの外、最も外側の空気に触れる位置で、静かに彼女たちを見下ろしていた。「いいわ。もっと争いなさい。貴女たちが体力を削るほど、私の道は開く。」私はただ淡々と、中団で脚を溜めた。 遥か後方には、常識外れの二頭がいる。 10番ライラック（牝6）。彼女は自分の末脚を神聖な力だと信じている。「私の脚は、直線のためにある！今、私はただの肉体。しかし、直線を向けば飛翔する翼となる！」彼女の体は、エネルギーの塊だ。 15番手。セフィロ（牝5）は、極端なまでに孤高だ。「私に他馬の動きは関係ない。私は、最速の証明をするだけだ。目標はゴール板！距離はまだある！」 3コーナー、そして4コーナーへ。 先行集団の馬たちが、悲鳴を上げ始めた。アドマイヤマツリの激しいペースは、内側の重い芝で、一気に彼女のスタミナを吸い取った。「体が重い…！？なぜ、こんなに粘れないの！」彼女はプライドをかけて踏ん張るが、脚の回転は鈍くなる。セキトバイーストも同様に失速。 私はこの瞬間を待っていた。 「さあ、道を開けなさい！」 私は自ら、馬群の外を大きく回る。私の脚が踏みしめる芝は軽い。ここが、私、ラヴァンダの独壇場だ！ 加速！ 私の肉体が、内側の馬たちを置き去りにする。内側の馬たちが羨望と絶望の視線を私に送るのがわかる。 「紫電一閃！私に追いつける馬はいない！」 私は上がり32.4秒の鋭い脚で、一気に先頭へと躍り出る。 だが、私の横で、アンゴラブラックが驚異的な粘りを見せていた。「インで耐えたのは無駄じゃない！私の地力はこんなものじゃない！」彼女は、内側から体を押し込み、私に食らいつく。 その外、カナテープが老練な計算で伸びてくる。「経験の差を見せてやる！若造には負けん！」 残り200メートル！ 先頭は私。その時、背後から地鳴りのような咆哮が響いた。 ライラックだ！「私の翼を、見ろ！」彼女は馬群の外を切り裂き、私に迫る。彼女のスピードは常軌を逸している。 そして、セフィロ！最後方から直線一気、そのスピードはライラックすら上回る！「最速証明完了！貴様らが私のゴールだ！」彼女の上がり32.2秒は、勝利を確信する私に、一瞬の恐怖を与える。 「負けるか！私は運命を選んだ！」 私は、喉が焼けつくのも構わず、最後の力を振り絞った。ライラックが、セフィロが、アンゴラブラックが、私の首筋に触れようとする。 ゴール！ 私は、全身の疲労と、勝利の熱狂に包まれた。 僅かに半馬身。勝利の女神は、この日の馬場を読み切った私、ラヴァンダに微笑んだ。 私の隣を、アンゴラブラックが通り過ぎた。彼女の目は悔しさに燃えている。「次こそは…このインの重圧を力に変える！」 ライラックは、届かなかったハナ差に、静かな怒りを滲ませる。「私の翼はまだ未完成か…。必ず、このラヴァンダを打ち破る！」 私は勝利の余韻に浸りながら、静かに息を整えた。このGⅡの勝利は、私という存在を証明するものだ。そして、今日の敗者たちの熱い魂が、次なる戦いへの火種となることを、私は知っていた。 |