【名無しさん】 2025年10月16日 10時1分38秒 | 猫でも書ける短編小説 第36章 忠誠のメイド、フレア |
【名無しさん】 2025年10月16日 9時54分48秒 | 第37章 迷宮への準備と新たな誤解 王都の朝は、なぜかざわついていた。 宿の前を通る人々の声が、耳に残る。 「聞いた? 封印で魔力を止めたって話……」 「“神の代行者”って呼ばれてるらしいよ」 「“封印の導師”って名乗ってるらしいわよ。ちょっと中二っぽくて素敵」 ……誰だ、それ言い出したの。 僕はそっと壁に背を預け、目立たないように呼吸を整える。いや、目立ってないはずなんだけど。たぶん。きっと。おそらく。 『ルイさん、今、王都の広場であなたの似顔絵が売られています。しかも、なぜか羽が生えてます』 「羽!? 僕、飛ばないよ!? 飛べないよ!?」 『“封印の天使”というキャッチコピーがついてます。あと、なぜか後光が差してます』 「誰がそんな宗教画みたいな……!」 僕は思わず頭を抱えた。昨日、フレアが人型になったことも衝撃だったけど、今はそれどころじゃない。王都の人々の妄想力が、僕の封印術を勝手に神話化している。 「ルイ様」 その声に、僕はびくりと肩を跳ねさせた。振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。金髪に深紅のドレス、背筋の通った立ち姿。どこからどう見ても、貴族令嬢。 「えっと……どちら様……?」 「クラリス・フォン・エルミナ。王都の北領を治める家の娘ですわ」 「え、あ、はい……」 「あなたの封印、気品があるわ」 「……え?」 「魔力の流れが、まるで絹のように滑らかで、しかも芯がある。まさに貴族の所作。ああ、これが“封印の舞”なのね……!」 「舞ってないです! 僕、ただ封印してるだけで……!」 「その“ただ”ができる人が、どれだけいると思って? あなたは、世界の均衡を保つ者。神の代行者。封印の導師。封印の天使。封印の——」 「ちょ、ちょっと待ってください! 肩書きが増えてる! 誰がそんなに……!」 『クラリスさん、完全に誤解してますね。でも、ちょっと嬉しそうです』 「嬉しくないよ! いや、ちょっとだけ嬉しいけど、でも違うから!」 クラリスは、僕の手を取ろうとした。僕は慌てて後ずさる。すると、背後からふわりとした気配が近づいてきた。 「主に触れること、許されておりませぬ」 その声は、柔らかく、しかし芯があった。振り返ると、そこには完璧な礼儀作法で立つメイド姿のフレアがいた。炎の気配を纏いながらも、微笑みは静かで、どこか凛としている。 「あなたは……?」 「主の番竜、フレアと申します。かつてはイフリート・ロードと呼ばれておりました」 「えっ、あの伝説の……!?」 「今は、主のそばに在り、掃除と戦闘と茶菓子の準備を担っております」 「茶菓子!?」 『セリナさん、今、夢の中で紅茶を淹れています。ふわふわ指数、上昇中です』 「それ、今関係ある!?」 クラリスは一歩引き、フレアをじっと見つめた。 「……なるほど。あなたが“封印の天使”の守護者なのね」 「違います。主は天使ではなく、ふわふわの導き手です」 「ふわふわの……?」 「ふわふわは、力です」 「……なるほど?」 クラリスは、なぜか納得したように頷いた。僕はもう、何がどうなってるのか分からない。いや、分かりたくない。 「ルイ様、またお会いしましょう。次は、封印の舞をぜひ拝見したいですわ」 「舞わないですってば……!」 クラリスが去ったあと、僕はその場にへたり込んだ。フレアがそっとハンカチを差し出してくれる。 「主、汗が……。拭きましょうか?」 「う、うん……ありがとう……」 『主、モテ期です。セリナさんが目覚めたら、修羅場の予感です』 「やめて……僕、ただ封印してるだけなのに……」 『それが一番罪深いんです』 僕は、そっと空を見上げた。王都の空は、今日も晴れていた。けれど、僕の心は、なぜか曇りがちだった。 迷宮探索の準備は、着々と進んでいる。 でも、僕の周囲では、誤解と噂が勝手に育っていく。 セリナが目覚めたとき、僕は胸を張って言えるだろうか。 「僕は、ただ君を助けたかっただけだ」って。 そのためにも、僕は進まなきゃいけない。 封印の導師でも、神の代行者でもなく—— ただの、封印使いとして。 |
【名無しさん】 2025年10月16日 9時54分16秒 | 第38章 魔法学園と天才学徒ミリア 王都の南区にある魔法学園は、空に向かって伸びる尖塔と、魔力の風がそよぐ庭園が特徴だった。 僕はその門の前で、すでに三回深呼吸していた。いや、四回かもしれない。 「ルイ、顔が青いぞ。魔力切れか?」 ヴァルが僕の肩を叩く。優しさと豪快さが混ざったその手は、僕の呼吸を一瞬止める威力を持っていた。 「ちょっと緊張してるだけです……」 「学園に行くだけだろ?」 「それが一番怖いんです……」 『セリナさん、今、夢の中で入学式に遅刻してます。ふわふわ度、焦り気味です』 「それ、僕の緊張とリンクしてませんか?」 『たぶん、気のせいです』 アストレイアの紹介で訪れた魔法学園。目的は、封印術の研究者と情報交換すること。 でも、僕にとっては、魔法学園=陽の者の巣窟というイメージが強すぎて、すでに胃が痛い。 門をくぐると、制服姿の生徒たちが魔力の球を浮かせたり、空中に文字を書いたりしていた。 僕はそっと目を伏せる。視線を合わせたら、魔力で髪を燃やされそうな気がしたからだ。 「ルイさんですね?」 声をかけてきたのは、一人の少女だった。銀髪に淡い水色の瞳。制服の袖には、封印術専攻の紋章が輝いている。 「えっと……はい」 「ミリア・エルノアです。封印術専攻の主席です」 「し、主席……」 「先生の封印術、拝見しました。魔力の流れが、美しいです」 「せ、先生……?」 「はい。今日から、弟子にしてください」 『距離感近すぎです! セリナさんが夢の中で、机を挟んで距離を取ってます!』 「ちょ、ちょっと待ってください。僕、教えるのとか……その……」 「大丈夫です。私、吸収力は高いので」 「そういう問題じゃ……」 ミリアは、僕の手を取って、魔力の流れを感じ取ろうとした。僕は反射的に後ずさる。 すると、背後からふわりとした気配が近づいてきた。 「主に触れること、許されておりませぬ」 フレアだった。完璧なメイド姿で、炎の気配を纏いながらも、微笑みは静かで、どこか凛としている。 「あなたは……?」 「主の番竜、フレアと申します。掃除と戦闘と、距離感の調整を担っております」 「距離感の調整……?」 「主は繊細です。急接近は、魔力の乱れを招きます」 『セリナさん、今、夢の中で“適切な距離”について講義しています。ふわふわ度、理性的です』 「それ、どういう夢なんですか……」 ミリアは一歩引き、フレアをじっと見つめた。 「なるほど。主を守る炎の番竜……。でも、私は封印術を学びたいだけです」 「ならば、主のそばで、静かに学ぶがよろしいかと」 「……わかりました。では、隣の席で」 「隣は近すぎます。斜め後ろが適切です」 「……なるほど」 僕は、二人のやり取りを見ながら、そっと椅子に座った。学園の講義室は、魔力の流れが整っていて、心地よい静けさがあった。 「ルイ様!」 クラリスが、なぜか講義室に現れた。貴族令嬢のドレス姿で、完全に場違いである。 「あなたの封印、気品があるわ。学園でも話題ですわよ」 「え、えええ……」 「先生、クラリスさんはどなたですか?」 「いや、僕もよく……」 「主の封印術は、貴族の所作に似ていると評されております」 「それ、誰が言い出したの……」 『王都広報誌に載ってました。“封印の舞、貴族の気品”という見出しで』 「舞ってないですってば……!」 講義が始まると、ミリアは真剣な眼差しで僕の術式を見つめていた。 その視線は、まるで魔力の流れそのものを読み取るようで、僕は少しだけ背筋を伸ばした。 「先生の封印、優しさがあります。魔力を縛るのではなく、包んでいる」 「……そういうつもりで、やってます」 「セリナさんのため、ですよね?」 「……はい」 『セリナさん、今、夢の中でルイさんの封印を見て微笑んでます。ふわふわ度、安定中です』 僕は、そっと空を見上げた。学園の窓から見える空は、今日も晴れていた。 セリナの夢の中も、きっと晴れている。ふわふわの封印が、空に浮かんでいるのかもしれない。 そして、僕は思った。 誰かのために、封印を使うこと。 それが、僕の魔力の本質なのかもしれない。 |
【名無しさん】 2025年10月16日 9時53分42秒 | 第39章 迷宮の入り口と封印の試練 王都地下迷宮。その入り口は、王城の裏手にある苔むした石門だった。 見た目はただの古びたアーチなのに、近づくだけで空気が変わる。魔力が、静かに震えていた。 「いよいよだな、ルイ」 ヴァルが肩を叩いてくる。いつも通り豪快で、いつも通り僕の呼吸を止めかける。 「うん……でも、ちょっとだけ、足が震えてるかも」 「ちょっとじゃないぞ。地面が共鳴してる」 「えっ、ほんとに?」 「冗談だ。たぶん」 たぶんって何。 『セリナさん、今、夢の中で迷宮の地図を描いています。ふわふわ度、探検モードです』 「それ、僕より準備できてる気がする……」 リズが前に出て、遮断陣の構成を確認していた。彼女の指先が空気をなぞるたび、魔力の流れが整っていく。 「魔力の乱れ、微弱。封印術で対応可能。遮断陣は補助に回します」 「ありがとう、リズさん」 「ルイの封印術、以前より滑らかになってる。まるで、絹のように」 「また絹……」 『絹の封印使い、という異名が王都で広まりつつあります』 「それ、誰が言い出したの……」 フレアが僕の隣に立ち、静かに言った。 「主の封印は、柔らかく、しかし確か。絹のようであり、炎のようでもあります」 「炎は、ちょっと怖いかも……」 「ご安心を。我は、ふわふわの番竜。包み込む炎です」 『セリナさん、今、夢の中でフレアさんの炎をトースターに使ってます。ふわふわパン、焼き上がりです』 「それ、用途間違ってない……?」 ミリアが後ろから顔を出した。制服姿のまま、魔法学園から直行してきたらしい。 「先生、準備は万端です。封印術の実地演習、楽しみにしてました」 「演習って……これ、迷宮探索なんだけど……」 「学びは、いつも現場にあります」 「それっぽいこと言ってるけど、ちょっと怖いよ……」 そして、最後に現れたのは、王都の大英雄《レイガ=ヴァンデル》だった。 「遅れてすまん。王城の許可証の確認に手間取っていた」 レイガは、かつて王都の異変を鎮めた伝説の剣士。 その名を聞くだけで、王都の子どもたちが剣を振り回し始めるほどの英雄だ。 「ルイ。君の封印術は、今や王都の希望だ。迷宮での試練、君が中心になる」 「え、ええ……僕が……?」 「君が封じれば、我々が動ける。君が整えれば、我々が突破できる。そういう構成で動く」 「……わかりました」 迷宮の扉が、ゆっくりと開いた。石が軋む音とともに、冷たい空気が流れ込んでくる。 僕たちは、静かに一歩を踏み出した。 迷宮の内部は、思ったよりも明るかった。壁に埋め込まれた魔力灯が、淡く光っている。 でも、空気は重い。魔力が、層になって漂っている感じがする。 「封印術、試されるぞ」 ヴァルが言った通り、最初の部屋には、魔力のギミックが待ち構えていた。 「魔力の流れ、複雑。封印術で解くしかない」 リズが遮断陣を展開し、僕に視線を送る。 「ルイ、任せる」 「う、うん……」 僕は、そっと手を伸ばした。魔力の流れを感じ取り、封印術式を構築する。 封印するのではなく、包み込むように。魔力の暴れを、静かに沈めるように。 「……封」 術式が完成すると、ギミックが静かに消えた。壁が開き、次の部屋への道が現れる。 「やっぱり、伝説だな」 ヴァルがぽつりと呟いた。僕は、そっと首を振る。 「違うよ。ただ、セリナさんに……届くようにって、それだけ」 『セリナさん、今、夢の中で“届いた”って呟いてます。ふわふわ度、感動モードです』 「……ありがとう」 次の部屋では、魔力の波が不規則に跳ねていた。遮断陣でも止めきれないほどの乱れ。 「リズさん、ここは……」 「遮断陣、展開限界。ルイの封印術で、流れを整えて」 「わかった」 僕は、魔力の波を見つめた。跳ねるたびに、誰かの感情のように見えた。 不安、怒り、焦り——でも、どこか寂しさも混じっている。 「……包むよ」 僕の術式が、魔力の波を包み込む。跳ねる力が、静かに沈んでいく。 そして、部屋の中央にあった魔力核が、ふわりと光を放った。 「突破です」 ミリアが嬉しそうに言った。僕は、少しだけ胸を張った。 「先生、やっぱりすごいです。魔力の流れが、優しすぎて泣きそうです」 「泣かないで……僕も泣きそうだから……」 『セリナさん、今、夢の中で涙を拭いてます。ふわふわ度、しっとりモードです』 「それ、ふわふわなの……?」 迷宮の奥へ進むたびに、封印術の試練は続いた。 でも、僕は少しずつ、確かに進んでいた。 誰かのために、封印を使うこと。 それが、僕の魔力の本質なのかもしれない。 そして、僕は思った。 セリナさんに、届くように。 この封印が、彼女の眠りを解く鍵になるように。 迷宮の空気は冷たいけれど、僕の胸の奥は、少しだけ温かかった。 |
【名無しさん】 2025年10月16日 17時58分37秒 | 外伝『英雄の盤上』 《レイガ=ヴァンデル》の過去 英雄と呼ばれる所以 |