《君のいない教室》―君のいない教室で、私はまだ君を待ってる―2【猫でも書ける短編小説】


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【名無しさん】
2025年10月17日
12時47分33秒

猫でも書ける短編小説

第4章:図書室の窓に映る影
【名無しさん】
2025年10月17日
12時32分26秒

第5章:季節が巡るたびに

夏が近づいていた。
制服の袖は短くなり、校庭の木々は濃い緑に染まっていた。
千紗は、季節の移ろいに心が追いつかないまま、ただ日々を過ごしていた。

教室の窓から見える空は、律と見た空と同じ色だった。
けれど、そこに彼はいない。
季節が変わっても、千紗の中では春が終わっていなかった。

「千紗、プールの授業、どうする?」
友達が声をかけてきた。
「……見学する」
「そっか。無理しないでね」

律は、泳ぐのが得意だった。
「俺、イルカみたいに泳げるんだぜ」
「……イルカって、そんなに速かったっけ?」
「千紗、冷静すぎ。もっと夢見ようよ」
「……夢は見るけど、現実も見てる」

そんな会話をした夏の日。
彼の笑顔は、太陽の光に負けないくらい眩しかった。

千紗は、放課後に校庭の隅にあるベンチに座った。
そこは、律とアイスを食べた場所だった。
「チョコミントって、歯磨き粉みたいじゃね?」
「それ、言わないで。好きなんだから」
「千紗が怒ると、ちょっと嬉しい」
「……またそれ?」

彼の言葉は、いつも少しだけ千紗を困らせて、でも心を温めた。
今はもう、その声は聞こえない。
風が吹いても、木々が揺れても、彼の笑い声は戻ってこない。

季節が巡るたびに、律との思い出が色を変えていく。
春は、彼の不在を受け入れられなかった季節。
夏は、彼との記憶が鮮やかすぎて、胸が痛む季節。
秋は、彼がいないことに慣れてしまいそうで怖い季節。
冬は、彼の温もりが恋しくて、涙が止まらない季節。

千紗は、季節が巡ることが怖かった。
それは、律との距離が少しずつ遠ざかっていくような気がしたから。

「律……」
名前を呼ぶと、空が少しだけ曇った。
彼がいた季節は、もう戻らない。
でも、彼がいた記憶は、千紗の中で生き続けている。

季節が巡るたびに、千紗は少しずつ変わっていく。
それは、律が残してくれたものを、胸に抱えて生きていくということ。

【名無しさん】
2025年10月17日
12時31分56秒

第6章:願いがもしも叶うなら

夜の空気は、昼間の熱をすっかり忘れてしまったように冷たかった。
千紗は、ベランダに出て、空を見上げた。
星が、ぽつぽつと瞬いている。
その光は、遠くて、静かで、どこか律に似ていた。

「願いが叶うなら、もう一度だけ会いたい」
千紗は、誰にも聞かれないように、そっと呟いた。

律がいなくなってから、千紗は何度も“もしも”を考えた。
もしも、あの日、彼に「好き」と言えていたら。
もしも、あの坂道で彼が立ち止まっていたら。
もしも、奇跡が起きていたら。

そんな“もしも”は、現実には存在しない。
でも、心の中では、何度でも繰り返すことができた。

千紗は、机の引き出しから小さな箱を取り出した。
中には、律からもらった小さなキーホルダーが入っていた。
「これ、千紗っぽいから買った」
「……なんで?」
「静かだけど、ちゃんと光ってる感じ。俺、そういうの好き」

その言葉を、千紗はずっと忘れられなかった。
律は、千紗のことを見てくれていた。
誰にも気づかれないような部分を、ちゃんと見てくれていた。

だからこそ、もう一度だけ会いたかった。
もう一度、彼の声を聞きたかった。
もう一度、彼の目を見たかった。
そして、今度こそ「好き」と言いたかった。

「できないことは、もう何もない」
そう思えるほど、千紗は彼に会いたかった。
すべてをかけて、抱きしめてみせる。
たとえ、それが夢でも、幻でも、記憶の中でも。

星が、ひとつ流れた。
千紗は、目を閉じて願った。
「律に、もう一度だけ会わせてください」
その願いは、夜の空に吸い込まれていった。

奇跡が起きるなら、今すぐにでも彼のもとへ行きたい。
でも、奇跡は起きない。
それでも、願わずにはいられなかった。

千紗は、キーホルダーをそっと握りしめた。
その温度が、律の手のひらのように感じられた。

夜は、静かに更けていく。
願いは、誰にも知られないまま、星の海に溶けていった。

【名無しさん】
2025年10月17日
12時31分32秒

第7章:言えなかった「好き」

放課後の教室は、誰もいなくなっていた。
窓から差し込む夕陽が、机の上を赤く染めている。
千紗は、律が座っていた席の前に立っていた。

そこには、もう誰もいない。
けれど、彼の姿が見える気がした。
頬杖をついて、眠そうな目でこちらを見ている。
「千紗、今日も真面目だな」
そんな声が、幻のように耳に届く。

千紗は、そっと机に触れた。
冷たい木の感触が、胸の奥を締めつける。
この机に、彼は何度も肘をつき、ノートに落書きをしていた。
「好きな人の名前、書いてみろよ」
「……やだ」
「なんで? 俺、書くよ?」
「……勝手にすれば」

あのとき、千紗は笑ってごまかした。
本当は、心臓がうるさいほど鳴っていたのに。
彼の名前を、ノートの隅に何度も書いていたのに。
「好き」と言うことが、怖かった。

もし、言ってしまったら、今の関係が壊れてしまうかもしれない。
もし、気持ちが伝わらなかったら、もう話せなくなるかもしれない。
そんな不安ばかりが先に立って、言葉はいつも喉の奥で止まった。

でも今は、もう言えない。
彼は、もういない。
どれだけ願っても、どれだけ後悔しても、時間は戻らない。

千紗は、鞄から一枚の紙を取り出した。
そこには、律に宛てた手紙が書かれていた。
何度も書き直して、何度も破って、ようやく残った一枚。

『律へ
 あなたがいなくなってから、毎日が少しずつ色を失っていきました。
 教室も、通学路も、図書室も、全部あなたの残像でいっぱいです。
 本当は、ずっと言いたかったことがあります。
 私は、あなたが好きでした。
 あなたの声も、笑い方も、わがままなところも、全部。
 言えなくて、ごめんなさい。
 でも、今なら言えます。
 好きでした。大好きでした。
 ありがとう。』

千紗は、その手紙を律の机の中にそっと入れた。
誰にも見られないように、そっと、静かに。

夕陽が、少しずつ沈んでいく。
教室の影が長く伸びて、千紗の影と律の席が重なった。

「好きだったよ、律」
今度は、はっきりと声に出した。
誰もいない教室に、その言葉が静かに響いた。

それは、もう届かないかもしれない。
でも、自分の心には、確かに届いた。

千紗は、涙を拭いて、教室をあとにした。
夕陽の中、彼女の背中は少しだけ軽くなっていた。


【名無しさん】
2025年10月17日
12時30分54秒

第8章:新しい朝が来ても

秋の風が、制服の裾を揺らした。
千紗は、校門の前で立ち止まり、深く息を吸った。
空気が澄んでいて、空は高く、雲は遠かった。
季節は、確かに進んでいた。

文化祭の準備が始まっていた。
教室には色とりどりの飾りが並び、笑い声が飛び交っていた。
千紗は、その喧騒の中に身を置きながらも、心はどこか遠くにあった。

律がいたら、どんな役をやっていただろう。
きっと、ふざけて「俺、司会やるわ」とか言って、みんなを笑わせていたはず。
その姿を想像するだけで、胸が少しだけ痛んだ。

「千紗、ポスター描ける?」
クラスメイトが声をかけてきた。
「……うん、描くよ」
千紗は、微笑んで答えた。
その笑顔は、少しだけ自然だった。

放課後、美術室でポスターを描いていると、窓から夕陽が差し込んできた。
その光が、紙の上に柔らかく広がる。
千紗は、筆を止めて、窓の外を見た。

空が、律と見た空に似ていた。
あの日、彼と並んで歩いた帰り道。
「空って、毎日違うのに、なんか同じに見えるよな」
「……それ、ちょっと分かるかも」
「千紗が分かるって言うと、なんか嬉しい」

その記憶が、ふいに胸を打った。
彼の声は、もう聞こえない。
でも、彼の言葉は、今も千紗の中に生きている。

新しい朝が来ても、律はいない。
それは、変わらない事実だった。
でも、千紗は少しずつ、その事実と共に生きる方法を見つけ始めていた。

朝、目覚ましが鳴る。
制服に袖を通す。
通学路を歩く。
教室に入る。
誰かと話す。
笑う。
泣く。
そして、また眠る。

そのすべての中に、律の不在は確かにある。
でも、律の記憶もまた、確かにそこにある。

千紗は、ポスターに最後の色を塗った。
それは、律が好きだった青だった。
空の色に似ていて、少しだけ寂しくて、でも優しい色。

新しい朝が来ても、千紗は歩き続ける。
律のいない世界で、律と過ごした記憶を胸に抱いて。

【名無しさん】
2025年10月17日
12時42分0秒

第9章:君のいない教室で