第 1 章 瞬速の君臨者
乾いたターフが 2000m の高速決着を予感させる。 G1 の重圧が空気を震わせ、私の体温はすでに沸騰寸前だ。 3 歳の若き挑戦者、マスカレードボール(牡)。 最高の舞台で、最高のスピードを見せてやる。
スタートの瞬間、私の意識は前へと向いた。 誰もが予想した通り、 4 歳のメイショウタバル(牡)が 他の追随を許さない勢いでハナを奪う。
「さあ、ついてこられるものならついてこい! G1 を制した俺の逃げは、誰にも止められない!」
彼の豪快な走りに、私は満足感を覚える。 ペースが速ければ速いほど、直線の私の爆発力は活きる。 1 コーナーを 9 番手、ミュージアムマイル(牡 3 歳)のすぐ内側で通過。 最も経済的なコースを選び、虎視眈々と機を窺う。
2 番手には、牡 5 歳のホウオウビスケッツが食らいつく。
「タバル、お前には負けられない。このポジションこそが俺の生命線だ。 粘り、粘り、最後の 1 完歩まで粘り通す!」
彼の闘志は前向きだが、この速すぎるペースが彼のスタミナを 少しずつ削っていくのを感じる。
後方 14 番手。 5 歳のシランケド(牝)は、その遅れを一切気にしていなかった。
「よし、これでいい。もっと離してくれて構わない。 私の武器は、誰も持たない究極の瞬発力。直線で全てをひっくり返す。 前が壊れる瞬間を待つだけだ」
彼女の 3 ハロン 31.7 の末脚は、このメンバーの中でも別格だ。 彼女は、勝つための唯一の道を冷静に選んでいた。
向こう正面。 4 歳牡馬のタスティエーラは 5 番手。 好位で我慢の競馬を選択している。
「海外での勝利は偶然ではない。私は G1 を勝てる実力を持つ。 今は内側で 1 息入れる。進路さえあれば、私の持続的な速さが ここで証明されるはずだ」
しかし、彼の周囲は少し窮屈になりつつあった。 1 歩でも踏み間違えれば、直線で脚を余すことになりかねない。
そのすぐ外、 6 歳の古豪ジャスティンパレス(牡)は、落ち着き払っていた。 3 コーナー手前で、 4 番手から 6 番手へと冷静にポジションを調整する。
「慌てるな、慌てるな。この G1 は 2000m だが、 勝負は 3 歳の切れ味と古馬の持続力の戦いだ。私はスタミナで勝る。 直線まで脚を温存し、他馬の切れ味が鈍ったところを一気に飲み込んでやる」
彼の視線は、直線 400m 先のゴールを見据えている。
勝負の 3 コーナー。 ペースメーカーのメイショウタバルの走りが、わずかに重くなり始めたのを、 皆が感じ取った。
「くそ、脚が…、しかし、まだだ!まだ粘れる! 4 コーナーまで、 1 ハロンでも長く!」
逃げ馬の悲鳴が、後続に希望を与える。 4 歳牡馬のアーバンシックが 後方 11 番手から徐々に外に持ち出し、 4 コーナーでの爆発に備える。
「休み明けだが、私のスタミナと切れ味は本物だ。前が消耗した分、直線で突き抜ける。 1 頭でも多くの馬を抜き去る!」
彼の全身から闘志が溢れ出す。
そして、私の 3 歳最強のライバル、ミュージアムマイルも同時に動いた。 4 コーナーで 9 番手から外へ進路を取る。
(マスカレードボール、お前を先に動かせはしない。 私の G1 の経験がここで活きる。 お前より外、お前より早く、 1 番いい進路を奪う!)
彼は 4 コーナーで 7 番手まで押し上げ、 私よりも 1 馬身ほど前に出た。
最終直線! 500m の勝負。
先頭のメイショウタバルは 1 コーナーから ずっとハイペースを刻んだ疲れで、そのリードは 1 瞬で溶けた。
私の加速力は全てのものを上回る。 4 コーナー 8 番手から 一瞬で先頭に躍り出る。
(マイル!ダービーの悔しさを、この G1 で晴らす。 私の 2000m は、誰よりも速く、誰よりも鋭い!)
しかし、外からミュージアムマイルが、 3 歳の若さと G1 馬の意地で迫りくる。 ( 1 着は私のものだ!この 32.3 秒の末脚は誰も止められない!)
2 頭の 3 歳馬が火花を散らす。
内からはジャスティンパレスが、6 番手の経済コースから、必死に食い下がる!
「あと 1 押し、あと 1 押しだ!私の G1 の経験が、 3 着の座を掴むための最後の武器だ!」
彼の持続力が、 4 歳馬たちの追撃を封じ込める。
大外 14 番手から、 まるで飛ぶような勢いでシランケドが迫る!
(届く!届いている! 31.7 秒は伊達じゃない! 1 頭でも多く、 1 着の首を獲る!)
彼女の末脚は、 1 頭だけ違う景色を見ている。 驚異的なスピードで、前の馬たちを次々と交わしていく。
残り 100m。 私の脚は他の追随を許さない。ミュージアムマイルを完全に抑え、 彼の 1 馬身前の状態は縮まない。 3 着争いは大混戦。 ジャスティンパレスが 3 着に粘り込み、 シランケドが 4 着でゴール板を駆け抜けた。
私、マスカレードボールは 1 着でゴールを通過。 3 歳の頂点へ。私の心臓の鼓動は、この G1 の勝利を雄弁に物語っていた。 最高の 2000m だった。
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