「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: †聖騎士 紅桜†」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」
東京競馬場、陽は高かった。 芝は乾ききり、その弾力が、これから始まる壮絶なスピード比べの舞台を整えている。 1400メートル、瞬発力と持続力が問われるこの舞台に、若き私たちが集結した。 ゲートが開く。一瞬の静寂の後、爆発的な轟音と共に、私の物語が始まった。
私、ルートサーティーン(牡)は、この東京の空気を全身で浴びた。 スタートが全て、それが短距離の鉄則だ。 一歩目からトップギアに入れ、他の馬たちの気配など気にしない。 意識はただ前、芝の感触を噛み締め、風を切り裂くことに集中した。
(よし、完璧な出足だ。最初の100メートルで先頭を奪った。このままリードを広げ、みんなの脚を削ってやる。私の持ち味は持続するスピード、この差が最後まで生きるはずだ。後ろからのプレッシャーを感じる。特にあの黄色い影、ダイヤモンドノット(牡)の気配がすぐそこだ。彼の爆発力は危険だが、前半で脚を使わせれば...)
二番手にぴったりとつけるダイヤモンドノット(牡)は、冷静だった。 彼は私の背中を見つめ、静かに呼吸を整えている。
(ルートサーティーンが飛ばしていくのは予想通り。あれが彼の勝ちパターン。だが、東京の馬場は速い。このペースで持続されると終いが苦しくなる。ここで焦って追いかけない、それが鉄則だ。今は力を溜める時。私は直線勝負に賭けている。この位置なら、彼がバテるのを待つだけでいい。あの華奢な体の私を、みんなは速いだけの馬だと思っているだろうが、私の心臓は鋼だ。最後の直線、一番伸びるのは私だと信じている。)
そして、三番手集団の少し後ろ、好位集団の内側にはシャオママル(牡)がいた。
(今日の馬場は本当に速い。これ以上前に行くと脚がもたない、このペースは危険信号だ。前にいるルートサーティーンとダイヤモンドノットは強気すぎる。私は内ラチ沿いのこのポジションを絶対に譲らない。エネルギーの浪費は最小限に。まだ勝負所ではない、まだ我慢だ。直線に入って、内が空くか、前が沈むか、その一瞬を逃さない。あの二頭が激しくやり合うことで、私に有利な展開になる。後ろの馬たちの足音もまだ聞こえない。完璧に待機できている。)
一方、中団の馬群に揉まれていたのは、レッドスティンガー(牡)だった。
(この速い流れは私の得意とするところではない。もっとゆったりとした流れで、終いの鋭さを生かしたかった。だが、これが京王杯。文句は言えない。今は前にいる馬たちの後ろで、風除けを使いながら体力を温存するしかない。問題は、この位置から直線で抜け出せるかどうかだ。皆が脚を溜めているから、横の壁が厚い。直線までこの馬群を捌ききれるか、それが最大のヤマ場だ。私には一瞬の切れ味がある。それを信じるしかない。)
三、四コーナーを通過し、ルートサーティーン(牡)はまだ懸命に粘り続けている。 しかし、その体は既に悲鳴を上げ始めていた。
(直線だ!あと400メートル!頼む、もってくれ私の体!誰も来ないでくれ!誰も…来ないで…)
その時、背後から音もなく殺気立った気配が迫った。 ダイヤモンドノット(牡)が動いたのだ。
(ルートサーティーン、もう限界だ。ここで仕掛ける!私は待っていた、この瞬間のために。残り200メートル、トップスピードに乗せろ!他の馬の気配は感じない、勝つのは私だ!この加速、誰にも止められない!私の武器は、瞬時の爆発力と持続性の両立。この一気の伸びで、全てを置き去りにする!)
ダイヤモンドノット(牡)が私、ルートサーティーン(牡)を捕らえた。 同時に、大外からは、まるで別次元の速さで一頭の牝馬が飛んできた。 それが、遥か後方でじっと息を潜めていたトワニ(牝)だった。
(まさかここまで来られるなんて!直線が短すぎた!もっと前にいたかった!だけど、今の私の脚は最高に切れている!前を行く馬たちはもう止まり始めている。この大外の空いた空間が私の道だ。内にいる馬たち、あなたたちが削り合ったおかげで、私はまだ脚を残せている。目標は、一番前を走る馬の影。私の小さな体でも、この切れ味さえあれば届く。あと少し、あと一完歩!)
トワニ(牝)の驚異的な末脚は、瞬く間に中団を抜き去り、先行集団に襲いかかった。 内側では、シャオママル(牡)が粘る。
(内が開かない、開かない!でも、前にスペースができた!ここで、内ラチ沿いを強引にねじ込む!体がぶつかることなど気にしない、これが勝負!外のトワニの脚は脅威だ、だが、私のこの粘り腰で、意地でもこのポジションを守る!)
さらに馬群の真ん中、大勢に埋もれていたフクチャンショウ(牡)もまた、諦めていなかった。
(私はここまで誰もが届かないと思った、大穴の男だ!この馬群の中から突き抜けてやる。内に、内にもう一頭分、スペースを!よしいま、開いた!あとは前に行く馬たちを信じて、この短い直線を駆け抜けるだけ。トワニの脚は速いが、私は中団で溜めた脚を全て出し切る!大勢を抜き去る、この瞬間がたまらない!)
壮絶な叩き合いの末、私の体はとうとう止まってしまった。最初にゴールを駆け抜けたのは、やはりダイヤモンドノット(牡)。 彼は私のスピードを最大限に利用し、最後に全てを出し尽くす完璧なレースをしたのだ。
フクチャンショウ(牡)が外から強襲したトワニ(牝)をクビ差抑えて2着を確保。 トワニ(牝)は衝撃の末脚で3着に突っ込んだ。 力尽きた私は、その激しい争いを横目に、ただただゴール板を通り過ぎるしかなかった。 これが京王杯。若きスピードスターたちの、最初の挫折と栄光の物語だ。 そして、私たちはもう一度、この舞台を目指す。
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