「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: †聖騎士 紅桜†」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」
「来た! これが俺の道だ!」
ミステリーウェイ(せん7)は、スタート直後から、ただひたすらに前だけを見た。 この東京芝二千五百メートル。 内枠の逃げ馬たちが行きたがらないのを確認するや、すぐさま彼は外から先頭を奪う。 このコースの長い直線と緩やかなカーブは、彼の持つスタミナを最大限に活かすための舞台だ。 ハンデ戦で課された56キロの斤量は、彼の背には重荷ではない。
(ミステリーウェイの思考) (これだ。これこそが、俺の理想の展開だ。誰にも邪魔させない。自分のリズムを刻む。 最初は少し速くても構わない。後続との間に、2馬身以上の差をつけろ。 そうすれば、皆、迷う。追うべきか、待つべきか。その一瞬の迷いが、命取りになる。 さあ、行こう。この美しい芝の上を、独り占めだ。)
長い1コーナーをカーブし、向こう正面に出る。 ミステリーウェイの独走状態は変わらない。 彼の後方、約2馬身の差で、 マイネルカンパーナ(牡5)とホーエリート(牝4)が併走しながら追走していた。
「あいつを行かせすぎだ!」
マイネルカンパーナは、小柄ながらも闘志溢れる走りで、 前との間隔を測る。 彼は、ミステリーウェイのペースが速すぎると感じていたが、 このまま放置すれば、二度と捕まえられないという恐怖もあった。
隣のホーエリートは冷静だった。 牝馬として課された55.5キロという斤量が、彼女に少しの余裕を与えていた。
(ホーエリートの思考) (ミステリーウェイ、素晴らしいペース。でも、速すぎるわ。 10番の男の子(マイネルカンパーナ)も焦っている。 私たちは2番手グループの3番手。この位置で完璧。 大事なのは、脚を溜めること。 東京の長い直線は、スタミナを削り取る魔物よ。 私の力は、ここから爆発するためにある。 3コーナーまではじっと、息を整える。)
中団集団は、先行3頭から大きく離れて追走していた。 その中心にいるのが、実力馬ローシャムパーク(牡6)だ。 59.5キロという酷なハンデを背負いながら、彼は落ち着き払っていた。
「重い。こんなに重い鉄枷を背負って走るのは初めてだ」
しかし、彼の精神力は並大抵ではない。無駄な動きはしない。 内目の5、6番手を静かに追走する。
(ローシャムパークの思考) (前は行かせすぎた。ミステリーウェイ、よくやる。 だが、このハンデで、ここで自分から動けば、確実に潰れる。 他の馬たちも、皆、迷いがある。 一番人気(スティンガーグラス)はどこだ。後方か。 ならば、私は中団で静かに構える。 3コーナーから4コーナーにかけて、一気に外に出して、 59.5キロを笑い飛ばすような末脚を見せてやる。 我慢。このレースで一番大事なのは、重いハンデに耐えうる我慢だ。)
最も後方に位置していたのは、1番人気の期待を背負うスティンガーグラス(牡4)。 彼は14番手から徐々に位置を上げていく。 彼は、自らの切れ味を信じ、この位置取りを選択した。
「慌てるな。2500メートルは長い。 この馬場の恩恵を最大限に受けるのは、私の脚だ」
ディマイザキッド(牡4)も、9番手付近の内ラチ沿いで、虎視眈々と前をうかがっていた。 彼は、内々を回ることで、少しでもロスを減らそうと、緻密な計算を巡らせていた。
レースが動き始めたのは、最後の向こう正面。 3コーナーの手前、ミステリーウェイは依然として先頭を譲らない。 しかし、ホーエリートが満を持してポジションを上げる。 そして、その後ろにいたボルドグフーシュ(牡6)も動いた。
「このままでは終われない。ここから巻き返す!」
ボルドグフーシュは、一気に2番手集団の先頭へ。 彼は、このレースにかける執念が誰よりも強かった。
(ボルドグフーシュの思考) (ミステリーウェイは強い。だが、そろそろ疲弊しているはずだ。 前との差はまだ2馬身ほど。絶好の射程圏だ。 3コーナーから4コーナー、この下りで一気に加速する。 内で詰まるな。外に出せ。ここからなら、58キロのハンデも跳ね返せる。 追い比べになったら、私の勝負根性が火を噴くはずだ。今だ、行け! 出し惜しみはするな!)
4コーナーを回ると、ミステリーウェイがまだ先頭。 しかし、後続との差は詰まり始めていた。 ホーエリート、ボルドグフーシュが並びかけようとする。
その時、中団からローシャムパーク(牡6)が一気に大外へ進路を取り、 そして、後方待機組のスティンガーグラスが、まるで矢のようなスピードで襲い掛かる。
(スティンガーグラスの思考) (最高のタイミングだ!前は皆、疲れ切っている! 私の脚は、この瞬間を待っていた! 14番手から9番手へ、そして今、先頭がもう目の前だ! この一気の加速! 誰にも止められない! このレースの主役は、私だ!届く! 届いてくれ!)
一気に外から伸びてきたスティンガーグラス。 その少し内では、ディマイザキッドが中央から馬群を捌き、3番手争いに加わっていた。
「私の選んだ道は間違いじゃない! ここだ! この道が伸びる!」
粘るミステリーウェイに、スティンガーグラスとホーエリートが並びかける。 残り100メートル。壮絶な追い比べ。 ホーエリートが力尽き、スティンガーグラスが一瞬、先頭に立つかに見えた。
しかし、ミステリーウェイの闘志は、まだ燃え尽きていなかった。 彼は、独走で培ったスタミナを最後の最後まで振り絞り、首を出す。
「まだだ! まだ終わらない! 俺のレースだ!」
ゴール板を駆け抜けたのは、ミステリーウェイ。 彼は、最後まで独り、自身のペースを貫き通し、この激闘を制した。 スティンガーグラス、そしてディマイザキッドが、 2分の1馬身差、アタマ差の激戦で2着、3着に雪崩れ込んだ。
彼らが刻んだレースは、彼らの激闘の証明であった。 二千五百メートルの長き旅は、一頭の孤高なランナーの勝利で幕を閉じた。
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