第二章:光速の潜伏者リスト:マイルのダークマター
神宮寺教授は、佐倉が提示した登録馬データと、自身の「3つの光速」理論を突き合わせた。彼女の瞳は、まるで高性能のレーダーのように、データのノイズの中から真の「潜伏者」を捉えようとしていた。
(神宮寺教授の思考:「マイルCSの鍵は、人気馬の『盲点』を突くこと。ジャンタルマンタル、アスコリピチェーノ、ソウルラッシュ、ガイアフォースあたりが上位人気を形成するでしょう。彼らの戦績は文句なし。だが、我々が狙うのは、その『光』の影に隠れた『ダークマター』。特に、『光速のリカバリー』と『光速のアウトロー』を兼ね備えた馬が、最も高配当をもたらす可能性が高いわ。前走でGIIを勝っても、GIの大敗歴や、ステップ外のローテで人気が落ちる馬…そこよ、佐倉くん。そこが『価格の歪み』であり、我々プロの小説家が描くべき波乱のプロットだ。」)
「佐倉くん、素晴らしいデータよ。早速だけど、君のリストアップした候補馬に、私の『3つの光速』理論を適用してみましょう。」
1.光速のリカバリー(GIトラウマを乗り越えた者)
「このパターンに最も強く該当するのは、『レーベンスティール』と『エコロヴァルツ』ね。」
候補1:レーベンスティール(牡5/58.0kg)
「レーベンスティールを見て。前走は『毎日王冠』で5番人気1着。これは文句なしのGII勝利よ。しかし、今回のマイルCSで人気が下がる要素がある。」
「はい。教授の言う『GIトラウマ』ですね。昨年秋の『天皇賞(秋)』8着、今年の『AJCC』12着など、中長距離路線でのGI・GIIでの大敗歴が残っています。マイル経験が少なく、『マイル適性への疑問』が低人気を呼ぶ可能性があります。」
「その通り。そして、彼の父は『ネオユニヴァース』(サンデーサイレンス系)。これは『光速のディープインパクト』の系統にも連なる。中距離からの参戦で成功した『ネオリアリズム』と同じ『スタミナ優位の先行押し切り』という『光速のアウトロー』の要素も兼ね備えている。もし4番人気以下になるなら、『リカバリー』と『アウトロー』のハイブリッド型として最優先候補よ。」
候補2:エコロヴァルツ(牡4/58.0kg)
「エコロヴァルツも面白いわ。『安田記念』7着(7番人気)、『大阪杯』4着(10番人気)。GIで人気薄ながら着順以上に善戦している。特に『天皇賞(秋)』11着(13番人気)という大敗直後なのにも関わらず、前走までGI戦線で戦い続けたという点が評価できる。もし、この天皇賞(秋)の大敗で人気が急落するなら、『光速のリカバリー』のチャンスよ。」
2.光速のアウトロー(異端のローテーション)
「次に、マイル戦の常識を打ち破るローテーション、『光速のアウトロー』を体現する馬。それは、『ワイドラトゥール』と『ロングラン』ね。」
候補3:ワイドラトゥール(牝4/56.0kg)
「この馬は短距離色が強いわね。前走『スワンS』で12番人気2着。過去のデータでは、GIIスワンSからの馬は、短距離色が強すぎるため、マイルで評価が落ちやすい。しかし、2024年3着のウインマーベル(前走スプリンターズS)と同じ『短距離スピード型アウトロー』の道を歩んでいる。」
「しかも、彼女は『愛知杯』(10番人気1着)や『スワンS』(12番人気2着)で、人気を遥かに上回る大激走を見せている。まさに『光速のリカバリー』ならぬ『光速の奇襲』のプロ。牝馬の56kgも、アスコリピチェーノと同じ斤量でハンデがない。もし彼女が10番人気以下になるなら、短距離GIIで培ったスピードをマイルの高速馬場で活かす『奇襲のアウトロー』として、大穴候補ね。」
候補4:ロングラン(せん7/58.0kg)
「この7歳セン馬は、『光速のアウトロー』と『光速のディープインパクト』を兼ね備えている可能性があるわ。前走『毎日王冠』8着(9番人気)で人気を落としているけれど、今年の春に『マイラーズC』(5番人気1着)、『小倉大賞典』(4番人気1着)と、マイル~中距離で連勝している。彼は、マイルの速さではなく、『持続的なスタミナ』で押し切るタイプよ。」
「高齢馬の傾向で見ると、6歳が1勝1着、7歳以上は着外が多いですが、彼自身はGII勝ちの実績があり、衰えを見せていません。」
「ええ。ネオリアリズムの例(7番人気3着)のように、『スタミナでマイルを制圧するアウトロー』として、高齢馬というバイアスで人気が落ちれば、狙い目よ。京都マイルでのマイラーズC勝ちという『Course Capability』の証明がある点も、他の伏兵にはない強みだわ。」
3.特注:マジックサンズ(牡3/57.0kg)
「最後に、佐倉くん。特に注意すべきは、この3歳馬よ。」
「『マジックサンズ』ですね。前走『富士S』10着(2番人気)。前々走『NHKマイルC』2着(3番人気)。」
「そう。『光速のリカバリー』とは真逆の『前走の人気裏切り』。前走GIIで2番人気で10着に敗れたことで、人気は急落するはず。しかし、彼は『NHKマイルC』2着というマイルGIでの実績がある。この敗戦を『GIへの叩き』と見做すか、『能力の限界』と見るかで、評価が大きく分かれる。」
「GI実績がありながら、富士Sの失敗で人気が落ちれば、絶好の狙い目になりますね。GIでの好走(2着)という『光速のディープインパクト』の裏打ちがありながら、前走の失敗で人気が落ちる『光速のリカバリー』逆説パターンです。」
「その通りよ。富士Sの敗戦は、世間への『偽装工作』。本番で7番人気以下になれば、この3歳馬は危険な『潜伏者』になるわ。」
最終結論:プロットの完成
「佐倉くん。今年の『潜伏者リスト』は、レーベンスティール、ワイドラトゥール、ロングランを核とし、特にマジックサンズを『GI実績を隠した特注』として警戒する。我々は、人気という名のノイズを排除し、『3つの光速』という真理を掴んだ。あとは、小説の結末を見届けるだけよ。」
「教授、エコロヴァルツは入れないのですか?」
特別講座:エコロヴァルツ:潜伏者の「可能性」と「保留」
「佐倉くん、鋭い指摘ね。エコロヴァルツを『最終リストの核』に入れなかった理由を説明しましょう。彼は『光速のリカバリー』の要素を確かに持っているわ。」
エコロヴァルツが保留された理由 「エコロヴァルツは『安田記念』7着(7番人気)、『大阪杯』4着(10番人気)と、人気以上の着順を取ってきています。直近の『天皇賞(秋)』11着(13番人気)という大敗直後で、人気は急落するでしょう。これは『リカバリー』の条件を完璧に満たしている。」
「では、なぜリストの核に入らないのでしょうか?」
「それはね、佐倉くん、『光速のディープインパクト』と『光速のアウトロー』のどちらの『決定的な証明』もまだ弱いからよ。」
1.「光速のディープインパクト」(瞬発力・上がり)の弱さ:
彼はまだ、京都の高速馬場で上がり33秒台前半を叩き出した実績に乏しいわ。マイルCSの高速馬場は、一瞬の切れが命。彼が G1 で善戦してきたのは、中距離的なスタミナや持続力を活かした結果と見ている。核となる3頭(レーベンスティール、ロングラン、マジックサンズ)は、それぞれ**「中距離での勝利(スタミナ)」、「マイラーズC勝利(コース)」、「NHKマイルC2着(瞬発力)」というマイルでの『決定的な裏付け』**を持っている。
2.「光速のアウトロー」(異端ローテ)の不適合:
彼は、中距離 G1 からの参戦だけど、ネオリアリズムのような「中距離 G2 勝ち」という明確な実績を背負っていない。ローテ自体は異端でも、過去の穴馬のように「圧倒的なG2勝利」という勢いがないため、単なる『疲弊したG1組』と見なされてしまう危険性があるわ。
「つまり、エコロヴァルツは『リカバリー』のタネは持っていますが、『京都マイルを制圧するための武器』が他の候補馬よりも見えにくい、ということですね。」
「その通りよ。彼は『可能性を秘めた潜伏者』。最終的なオッズと、当日の馬場状態を見て、『マジックサンズの次に買い目を検討すべき』『ボーダーラインの潜伏者』として、リストの端に置いておくべきよ。彼を核に入れると、リストの『斬新さ』が薄れてしまうからね。」
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