「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: †聖騎士 紅桜†」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」「VOICEVOX: 麒ヶ島宗麟」
澄み切った京都の空気が、開いたゲートの音で一瞬にして張り詰めた。
(静かに、静かに……そうだ、俺の仕事はこれしかない。この流れを俺が創る) 内枠の先頭、トウシンマカオ(牡5)が全身のバネを爆発させ、弾けるように飛び出した。 一完歩目から他馬を圧倒する勢いでハナを奪い、向こう正面へと進路を取る。 「トウシンマカオ」は、自らの蹄跡がレースの全てを決めるという、 孤高の責任感に生きる馬だ。
その後ろ、絶好の位置でトウシンマカオを追走したのは、二頭の強者だった。
(完璧なスタートだ。あいつを盾にしながら、自分のリズムを刻む。今日は外目、 常に視界を開けて走る。風を感じて、脚の感触を確かめろ。勝つための準備は全て整った) 外目の二番手につけたジャンタルマンタル(牡3)は、 若いながらもその精神はすでに円熟している。 自信に満ちたその走りは、先行集団にいながら、まるで最終直線だけを 見据えているかのようだった。
内目の二番手、ジャンタルマンタルと並んで走るエルトンバローズ(牡5)は、 生真面目な努力家だ。 (トウシンマカオがやや速い。だが、ここで引けばすべてが崩れる。 理想のポジションはここ。内を利して、無駄なエネルギーを一切使わない。 完璧な仕事をして、最後の一歩で粘り切るのが俺の信条だ) 一分の隙もない追走を見せ、前を行くトウシンマカオの息遣いを集中して探っていた。
中団は混戦。好位の内側、四番手集団の最奥でガイアフォース(牡5)は沈黙していた。 (動くな。焦るな。俺の戦いはここではない。この高速馬場は前有利の流れを 作りやすい。だからこそ、この内ポケットで息を殺し、ロスのない円運動を続けろ。 直線で進路さえ開けば、俺の研ぎ澄まされた末脚は必ず火を吹く) 彼は、常に内を通り、最短距離を走ることに美学を見出す技巧派だった。
その外、中団集団のやや後ろでソウルラッシュ(牡6)は悠然としていた。 (ここならスムーズだ。外目だが、他馬に邪魔されない。この速い流れは歓迎。 むしろ、後ろの奴らが脚を溜める隙を与えすぎている。 この淀みこそが、俺が瞬時に加速するためのサインになる。 ベテランの意地を、ここから見せてやる) ソウルラッシュは、自らの判断力と安定した加速力に誇りを持つ馬だ。
そして、後方集団。彼らはすでに焦燥の中にいた。
(ちくしょう、前が速すぎる。スタートで少し置かれた分が、 致命的な差になっていく。だが、俺には爆発的な末脚がある。 最速の上がりを使えば、5馬身くらいの差は詰められる。 とにかく、インで我慢し、最後の瞬間に全てを懸けるしかない) ウォーターリヒト(牡3)は、自身の爆発力を信じ、内側でひたすら力を凝縮していた。
さらに後方、最後方に近い位置にいたのは、オフトレイル(牡5)だ。 (ああ、まただ。なぜいつも俺は、こんなにも後ろにいるんだ! この馬場、前は絶対に止まらない。俺が世界最速の脚を持っていたとしても、 こんな位置では届かない!だが、走るしかない。 俺の加速力で、この絶望的な差を一気に飲み込んでやる!) 彼は、桁違いの末脚を持つがゆえに、常に位置取りの悪さに苛まれる、 悲劇的な加速器だった。
レースは2コーナーを回り、中盤の淀みに差し掛かる。 (4ハロン目が11秒7。そして今、5ハロン目が11秒8。よし、ここで息が入った。 逃げ馬を視界に入れ、脚を溜める最高の形だ。俺の計画通りだ) ジャンタルマンタルが静かに、しかし確信を持って思考した。 その横のエルトンバローズも、 (完璧だ。これ以上ない理想的なペース。あとは直線で、誰よりも長く この速度を維持するだけだ)と、手応えを感じていた。
だが、トウシンマカオはすでに限界の淵を覗き始めていた。 (中盤で少し楽をした。今、後続が迫ってきている気配はない。 だが、この静けさが怖い。この後、奴らはきっとギアを上げてくる。 俺はどこまで耐えられる?この馬場で逃げ切るには、もう一度、 奴らの心を折るほどの加速を見せなければならない!) トウシンマカオは3コーナー手前で、意を決して再びペースアップを図った。
3コーナーの出口、残り600メートル。ラップは11秒4から11秒0へと急加速する。 いよいよ勝負所のサインが鳴り響いた。
(来た!逃げ馬が粘っている。だが、ここがチャンスだ。 後ろから一気に来られる前に、自分から動く。外へ持ち出せ。 ジャンタルマンタルの加速は、誰にも止められない!) ジャンタルマンタルはトウシンマカオの外へ並びかけ、早めのゴーサインを出した。 強靭なストライドが地面を蹴り、一瞬で速度の壁を突き破る。
(速い!ジャンタルマンタルが動き出した!こんなにも速く、まだ加速するのか!) 内側のエルトンバローズは、完璧だったはずの追走から一歩、 いや半歩ずつ離され始める感覚に襲われた。 (嘘だ、俺は全力だ。ここで負けるわけにはいかない!)
中団のソウルラッシュは、外目から進路を確保しながら加速する。 (この流れだ!この加速に付いて行ければ、勝機はある。 だが、ジャンタルマンタルが強すぎる。わずかな位置取りの差が、 この高速決戦では取り返しのつかない壁になる!)
内側のガイアフォースは、まだ我慢していた。 (まだだ。進路がない。ここで無理に動けば、ロスが増える。 前の馬が、少しでも外に膨らむのを待て。俺は、内、内、内。最短距離を貫く!) 彼は、虎視眈々と直線の入口、インコースのわずかな隙間を探していた。
その頃、後方からは地獄のような猛追が始まっていた。 (前が止まらないどころか、さらに速くなっている!差が縮まらない! 俺の最速の脚が、ただ空を切るだけのものになるのか!) ウォーターリヒトは内ラチ沿いで、全身の力を爆発させて加速する。 その上り3ハロンのタイムは、勝利を収めるべき爆発力だった。
オフトレイルは、最早、狂気の領域だった。 (世界で一番速く走っても、この差は覆せないのか!? 全ては、あのスタートのせいだ!だが、諦めない! 俺の人生は、この届かない距離を詰めるためにある!) 全馬最速の上がり32秒6。彼の走りは、もはやただのレースではなく、 位置取りという名の絶対的な法則への反逆だった。
直線。トウシンマカオの脚が鈍る。 (もう無理だ……後ろの奴らの加速に、ついて行けない……。 俺のレースは、ここで終わるのか) 誇り高き逃亡者は、猛烈なスピードで迫る後続の影に飲み込まれていった。
先頭に躍り出たジャンタルマンタルは、迷いなくゴールを目指す。 (後は突き放すだけ。このスピード、この瞬発力。俺こそが王だ。 誰にも並ばせない、誰にも捕まえさせない!) 完璧な位置取りから放たれた33秒1の末脚は、ライバルたちを絶望させた。
内から、わずかな隙を縫ってガイアフォースが猛然と伸びてくる。 (ここだ!開いた!内を突け!一頭でも多く、前へ!) ロスなく回ったメリットを活かし、内を切り裂くようにして2着を確保する。 彼は己の戦術が間違っていなかったことを証明した。
ウォーターリヒトとオフトレイルの2頭は、 驚異的なスピードで先頭集団を追い詰める。 (あと一歩!あと半馬身!) (お願いだ!届いてくれ!) しかし、高速馬場が生んだ先行勢の利はあまりにも大きすぎた。 彼らの魂の加速は、勝ち馬を脅かすことはできても、 位置取りの差という鉄壁の法則を打ち破るには至らなかった。
ジャンタルマンタルが先頭でゴール板を駆け抜けた。 彼の背中には、極限まで磨き抜かれた才能と、冷静な判断力が宿っていた。 その数瞬後に、悲鳴のような末脚たちが、誇りと後悔の残響を上げながら、 続々とゴールラインを通過していった。
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