「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: †聖騎士 紅桜†」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 白上虎太郎」
京都の空は澄み渡り、乾いた風が吹き抜ける。 ゲートの中、俺たちの熱気が充満していた。 第70回京阪杯。 ただの競争じゃない。俺たちの魂がぶつかり合う1200メートルの戦場だ。
(よし、準備はいいか。今日も全力を出し切るだけだ。努力は裏切らない!) 10番、エーティーマクフィ(牡6)は、 自身に言い聞かせるように熱く息を吐いた。 胸の奥で燃える情熱の炎が、いまかいまかと爆発の時を待っている。 素直に、真っ直ぐに、最高のゴールを目指すだけだ。
(へっ、気合入ってんじゃねえか。だがよ、勝つのはこの俺だ) 1番、ルガル(牡5)が不敵に鼻を鳴らす。 59キロの斤量なんて関係ねえ。 俺はG1の高みを知ってるんだ。 江戸っ子気質の意地と、最強のプライドを背負って、ど真ん中を突っ切ってやる。
ガシャン!! ゲートが開いた瞬間、世界がスローモーションから急加速する。
(オラオラオラーッ! 先頭は俺の指定席だ! 短い距離こそ、出し惜しみは無しだぜ!!) 7番、ジャスパークローネ(牡6)が、 弾丸のように飛び出した。 (アタシだって負けないわ! この流れを主導して、このまま引き切ってやる!) 9番、カルチャーデイ(牝4)が闘志を剥き出しにして並びかける。 二頭が作り出した流れは、異常だった。 10秒3、10秒5。 息をするのも忘れるほどのハイラップ。 それは勇気ある突撃か、それとも破滅への序曲か。
(おいおい、江戸っ子の俺でも引くぐらいの鉄火場だな) ルガルは5番手あたりで冷静に戦況を見つめた。 (あいつら、あのペースで持つわけがねえ。 俺はここだ。内ラチ沿いの特等席で、じっと我慢だ。 勝負事に誠実であること。 それは、相手の罠にかからない冷静さも含む。 焦るな、まだその時じゃねえ。 勝機は必ず向こうからやってくる)
その少し後ろ、中団のインコース。 (あらあら、皆さん生き急いでますねぇ。 でも、その熱意もわかりますよ) 4番、ヨシノイースター(牡7)は、 喧騒をよそに涼しい顔で走っていた。 (僕は穏やかに、でも芯は強く。 激しい流れだからこそ、力をセーブし、リラックスして走る。 この柔らかい走りが、最後には優しさとなって力を発揮するはずです。 風の流れに逆らわず、スーッと隙間を抜けていきますよ)
さらに後ろ、10番手付近。 エーティーマクフィは、砂を被りながらも目を輝かせていた。 (速い……すごいペースだ! でも、これがレースだ! 楽しいじゃないか! 今はまだ力を溜めるんだ。 仲間たちが作ってくれたこの激流、無駄にはしない。 熱血で情熱的に、最後までやり遂げるのが俺の流儀。 俺の出番は必ず来る! 信じて走るだけだ!)
3コーナーに差し掛かる。 先頭を行くジャスパークローネとカルチャーデイの脚色が、 目に見えて怪しくなってきた。 オーバーペースの代償が、容赦なく彼らの筋肉を蝕んでいく。 (くっ……足が、鉛みたいだ……。 分かっていた、このラップはきつい。 だが、先頭で勝負するしか、俺には道がねぇんだ!) ジャスパークローネの悲痛な叫びが聞こえるようだ。 彼らの努力が、中団以下の馬に最高の舞台を整えてしまった。
(ここだ! この瞬間を待ってたんだよ!) ルガルが動く。 3コーナーから4コーナーにかけて、前がバテて下がってくるのを見越して、 スムーズに位置を上げる。 (悪いな、ここからは俺の独壇場だ。 義理堅く、最後まで見せ場を作る。 内から正々堂々、力でねじ伏せてやる! このポジションなら、前に届く!)
そのルガルのすぐ外、9番手付近でエーティーマクフィは息を殺していた。 (勝負所だ! このままインで詰まるのは嫌だ! 外へ! 外へ誘導して、一番加速しやすい場所を選ぶ!) 4コーナー、勝負のカーブ。 集団が凝縮し、外へと膨らむ遠心力。 その力を利用して、大外へと持ち出した影があった。
(見たか! ここが俺のビクトリーロードだ!!) エーティーマクフィの蹄が、芝を力強く蹴り上げる。 道中、じっと耐えて溜め込んだエネルギーを、 ここで一気に解放する。 (外を回す距離ロス? 関係ないね! 前半の消耗戦で、俺は脚を温存できた。 誰よりも長く、この加速を持続させてやる! 行けぇぇぇッ!! 全速力で!)
直線、残り200メートル。 ルガルが先頭に躍り出た。 (っしゃあ! もらったぜ! 俺の豪快な走りが、最後まで続く!) その走りは力強く、王者の風格さえ漂わせる。 だが、その外から、爆発的な持続力を持った赤い炎が見えた。
(まだだ……まだ終わっちゃいない! 俺の情熱は、こんなもんじゃ消えないぞ!!) エーティーマクフィの咆哮が、京都の空に響く。 中団から長く加速を続けた彼の末脚は、 この消耗戦の結末にふさわしいものだった。 (届け! 俺の想い! 俺の全て! 仲間を励ますように、自分を奮い立たせる!)
(なにっ!? あの野郎、まだ足が残ってやがったか! まさか、俺よりも長く持続できる奴がいるとは!) ルガルが驚愕に目を見開く。 (だが、俺だって負けられねえ! 意地を見せろ! このままでは義理が立たねぇ!)
二頭の叩き合い。 その後ろから、ヨシノイースターも静かに、しかし鋭く伸びてくる。 (ふふ、最後までわかりませんよ。 皆さんが消耗した分、僕は優しい走りでしたからね。 癒しの底力、お見せしましょう)
この日の主役は、ハイペースの恩恵を最大限に活かし、 最後まで加速を緩めなかった熱血漢だった。 エーティーマクフィの豪脚が、ルガルの横を、 ねじ伏せるようにかわしていく。 残り50メートル。完全に抜け出した。
(へっ……やるじゃねえか、兄弟。 そのド根性、認めてやるよ……) ルガルが悔しそうに、だがどこか晴れやかに笑った。 (今日はお前の勝ちだ。次で借り、きっちり返させてもらうぜ)
ゴール板が目の前を過ぎる。 1分7秒4。 激闘の決着。
(やった……やったぞ!!) エーティーマクフィは、 爆発しそうな心臓の鼓動を感じながら、空を仰いだ。 (みんな、ありがとう! 最高のライバルたちがいたから、俺は強くなれたんだ!)
熱い湯気と共に、彼らの吐く白い息が冬の空気に溶けていく。 全力を出し切った心地よい疲労感。 勝者も敗者も、互いの健闘を称え合うように、 ゆっくりとコースを引き上げていった。
これが、京阪杯。 速さと、スタミナと、そして何より「心」が試された、 熱い冬の一ページだった。
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