「さあ、お遊びは終わりだ!」
スタートからずっと、ピュアキアン(牡4)は 自らの足音だけが響く静寂の逃げを貫いていた。 (この遅すぎるペースこそ、私の戦略だ。 みんながスタミナ温存していると思っているだろうが、 真の長距離は、私のペースで始まり、 私のペースで終わるものだ!)
彼のすぐ後ろ、二番手に控えるミクソロジー(せん6)は、 歯噛みする思いで我慢を続けている。 (この遅さは、異常だ。しかし、私が動けば 全ての馬を動かしてしまう。今は耐える時。 前の馬の動きを、一瞬たりとも見逃すな。)
インの好位、三番手で走るホーエリート(牝4)は、 周囲の状況を冷静に観察していた。 (みんな、息を吸いすぎているわ。 長距離戦なのに、最後の加速勝負になるなんて。 でも、これが現実。私は内ラチのこの道を 誰よりもロスなく走る。頑張ってきた堅実さを ここで証明してみせる!)
ホーエリートと併走するブレイヴロッカー(せん5)は、 静かに闘志を燃やす。 (最高のポジションだ。完璧な待機策。 3600メートルなんて、ただのスタート地点だ。 仕掛けの瞬間を逃すな。 先頭に立って、この長い直線を支配するのは私だ!)
中団にいるマイネルカンパーナ(牡5)は、 前の馬たちのわずかな隙間を探しながら進む。 (体が小さいからこそ、無駄な動きはできない。 私は、誰にも頼らず、自分自身のコースを信じる純粋さがある。 前との距離は十分。今はひたすら脚を溜めて、 私の心に宿る芯の強さを示す時を待つだけだ。)
そして、後方の大集団、ほぼ最後尾にいるのが ベテランのクロミナンス(牡8)だ。 「へい!みんなのんびりだね!元気いっぱいで最高!」 (このまったりとした流れ、大歓迎だ! これだけ溜めさせてもらったんだ。 若い子たちに負けない爆発力を、最後に使わせてもらうよ。 内か、外か……どこに道が開くか、じっくり見定める!)
二周目の向正面、ラップが再び13秒台まで落ち込み、 馬群は極度の静寂に包まれた。
(動け、動け!誰か動いてくれ!) ブレイヴロッカーの心は苛立ちに満ちていた。 我慢比べは限界に近付いている。
3コーナーの坂を上り切る直前、ついにブレイヴロッカーが 動いた。彼が外へ進路を取り、ラップが一気に12.2秒へ加速する。
「(来た!ここで動かなきゃ間に合わない! 逃げ馬はもう終わりだ。私が先頭に立つ!)」 ブレイヴロッカーが先頭のピュアキアンに並びかける。
その動きを見て、ホーエリートは冷静に内を確保したまま 加速に乗る。 (素晴らしい展開!ブレイヴロッカーが外へ行ってくれたおかげで、 私の理想の道が空いたわ! このアドバンテージを絶対に手放さない!)
後方集団のクロミナンスは、この加速を見逃さなかった。 (ふむ。先行馬たちがバテ始めた。 ピュアキアンは沈む。ミクソロジーも怪しい。 そして、勝負を急いだ馬たちは外へ、外へと動く。 …わかったぞ。私の道は、ここ、内ラチ沿いだ! 最も距離の短い、最高の進路をいただくよ!)
4コーナー。ピュアキアンが沈み、ブレイヴロッカーが先頭。 ホーエリートがぴったりと続き、 マイネルカンパーナも内目を突いてポジションを上げる。
クロミナンスは、中団の馬たちが外へ膨らむ隙を縫って、 内ラチ沿いに体を潜り込ませた。
「(このインの道が、私の活路だ。 ここからなら、あの瞬発力が100%活かせる! 褒められる走りは、最後の一瞬のためにあるんだ!)」 彼は最後の直線に向けて、体勢を整える。
最後の直線。残された距離は長い。 ラップは11.9、11.6、そして11.1秒という 異常なトップスピードを要求する。
ブレイヴロッカーは懸命に粘るが、ホーエリートが内から襲いかかる。 「(私、負けられない!まだ力が残っている! 諦めず、努力を積んだ私の根性を見せてやる!)」 ホーエリートがブレイヴロッカーを捉え、わずかに前に出る。
マイネルカンパーナも外へ出し、激しく食い下がる。 (あと半馬身!この差を詰めれば、私の勝ちだ! 真っ直ぐに、最後まで力を振り絞る!)
その時、内ラチから一頭の馬が、 地を這うような加速で伸びてきた。クロミナンスだ。 「楽しいね!速いね!最高だよ!」 彼の上がり33.5秒という驚異の末脚が炸裂する。
(よし、完璧だ。内はまだ伸びる! このまま前の二頭をまとめて抜き去って、 派手なフィナーレを飾るぞ!) 彼はベテランの意地と、若々しい好奇心に突き動かされ、 凄まじい勢いで差を詰める。
しかし、わずかに距離が足りなかった。 ホーエリートは、マイネルカンパーナとの激しい叩き合いを 首差で制し、先にゴール板を駆け抜けた。
「ふう、危なかったわ…みんな、凄かった。 私、最後までインを譲らなくてよかった。」 勝利を手にしたホーエリートは、安堵の息を吐いた。
クロミナンスは3着。 「あー、惜しかった!でも、内ラチを走るの、 本当に楽しかったよ!また、もっと褒められるように 次はもっと早く仕掛けてみるね!」 彼は、敗北すら明るい笑いに変えていた。
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