「さあ、みんな、楽しませてやるぜ!」
ゲートが開くと同時に、ショウナンマグマ(せん6)が 灼熱の炎のように飛び出した。 1800メートルという距離で、最初の600メートルを 33秒台で刻むハイペース。 (これが俺の競馬だ!誰もついて来れると思うな! 後ろをちぎって、自分の体力とスピードを信じて 逃げ切るんだ!このタフな流れこそ、俺の持ち味だ!)
二番手、ナムラエイハブ(牡4)は、 荒れる展開を嫌い、必死に食らいつく。 (速い、速すぎる!でも、ここで離されたら もうチャンスはない。我慢だ。 この暴走を、直線で冷静に捕まえる!)
好位集団のイン、デビットバローズ(せん6)は、 持ち前の明るさとは裏腹に、驚くほど冷静だった。 「(このペースは確実に潰れる。俺たちは動いちゃダメだ。 逃げ馬の炎が燃え尽きるのを、笑顔で待つんだ。 堅実に、ロスなく、脚を溜めることが このタフな流れでの勝利につながる!)」
デビットバローズと並び、クールなセンツブラッド(牡3)は、 レースの流れを静かに分析していた。 「(データ通り、先行馬はスタミナを削りすぎた。 3ハロン目が終わって、ラップが落ちた今、 ここが我慢のピーク。この好位をキープし、 3歳という若さで、古馬の壁を冷静に打ち破る!)」 彼は純情な闘志を胸に、一歩も譲らない。
中団外目を追走するグランヴィノス(牡5)は、 馬群の外を回らざるを得ない苛立ちを感じていた。 (最悪だ。この位置では、確実にコースロスが大きい。 だが、ここで下がるわけにはいかない。 力の違いで、この不利をねじ伏せるしかない! 私は、1番人気として期待されているのだから!)
後方集団、天然でふわふわしたマテンロウレオ(牡6)は、 他の馬たちに囲まれ、ひたすら息を潜めていた。 「(ふむふむ、前の人たちが一生懸命走ってくれてるね。 私はここで風を感じて、ゆったりする時間だ。 速いペースのおかげで、このまま内々を回れば 最後の直線で、みんなをびっくりさせられるかも!)」 勝負事には一途な負けず嫌いの彼は、 この展開利を最大限に活かすつもりでいた。
遥か最後方にいたブラックシールド(牡6)は、 ただひたすら前だけを見て、じっと我慢する。 (この位置は苦しい。でも、この超ハイペースが 私に追い風を運んでくれているはずだ。 最後の3ハロン。誰よりも速い脚で、 この馬群を全て飲み込む。そのための貯金だ!)
向正面、ラップが11秒台後半まで落ち込む中弛み。 逃げ馬ショウナンマグマが、苦しそうに息を入れる。 (息を入れろ!まだだ!まだ粘れるはずだ!)
3コーナーを回り、4コーナーへ。 ショウナンマグマの炎は、すでに消えかかっていた。 後続集団が一気にその差を詰める。
「(来たぞ!潰れるぞ!今だ!)」 デビットバローズとセンツブラッドが同時に判断した。 ショウナンマグマのすぐ後ろ、内側の最短距離を狙って 彼らは加速を開始する。
デビットバローズは、笑顔の裏に秘めた堅実さを発揮する。 (焦るな、焦るな。センツブラッドは速い。 でも、俺は絶対にインを譲らない。 この位置から、先行勢の外側を回る馬を全て出し抜く!)
センツブラッドは冷静に、デビットバローズと並びかける。 (デビットバローズは手強い相手だが、3歳の斤量と 私の分析力で勝つ。直線で前に出す隙は与えない!)
その時、後方のマテンロウレオが、馬群のインに できたわずかな隙間を見つけた。 (わあ、道が空いた!みんなが外へ行ってくれたから、 私は最短距離で曲がれるね!ラッキー!) ふわふわした見た目とは裏腹に、彼は最速でインを突いた。 (ここが私の勝負所だ。褒められる走りをしなきゃ!)
グランヴィノスは、外を回る大きなロスを承知で 懸命に加速する。 (外からでも、私の力なら届くはずだ! 曲がる距離が長い分、この直線の入り口で 一気に前を射程圏に捉えなければならない!)
そして、遥か後方のブラックシールドも、 最終コーナーで加速を開始した。 (私は後方大外。前との差は絶望的。 でも、ここまでのハイペースは、 私の脚を最大限に活かすための布石だ。 さあ、最後の500メートル。全てを懸けろ!)
最後の直線。逃げ馬ショウナンマグマは失速し、後退。 デビットバローズとセンツブラッドが先頭を奪い、叩き合いになる。 (粘る!この位置から、最後まで持続させろ!) (負けない!3歳の意地だ!)
その内から、マテンロウレオが驚異的な伸びを見せる。 (みんな、すごい力だね!でも、私も頑張る! 私は内ラチ沿い!誰よりも距離は短い!) デビットバローズとセンツブラッドに一気に迫り、 三つ巴の激しい争いとなる。
グランヴィノスも外から懸命に追うが、 4コーナーでのロスの分、わずかに届かない。 「(くそ!距離が足りない!この差が埋まらない!)」
ブラックシールドが繰り出す上がり33.8秒は、 他の馬を上回るが、前との差を詰めるのが精一杯だった。
ゴール直前。デビットバローズが、 最後の力でわずかに一歩前に出た。 「(よし、勝った!俺の堅実さが報われた! みんな、ありがとな!)」
デビットバローズがセンツブラッドの追撃を凌ぎ、勝利。 マテンロウレオが、一瞬の隙を突いたインからの伸びで 3着をもぎ取った。
炎と氷が混ざり合った、タフで厳しい1800メートルの勝負は、 最も冷静に、そして最もロスなく走った デビットバローズに軍配が上がったのだった。
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