研究室の窓から差し込む冬の朝日は、散乱したデータの山を白く照らしていた。神宮寺教授は、湯気を立てるマグカップを片手に、モニターを食い入るように見つめている。
「教授、おはようございます。早速ですが、2026年の競馬初め、『金杯』の時期ですね。中山金杯と京都金杯、どっちを研究対象にするか決めましたか?」
佐倉がノートパソコンを広げながら尋ねると、神宮寺は不敵な笑みを浮かべて振り返った。
「佐倉くん、君は初詣に行くとき、お賽銭箱の真ん前を陣取るタイプ? それとも、あえて隅っこの空いている場所から願いを投げるタイプ?」
「え……まあ、空いている方ですかね。揉みくちゃにされるのは勘弁ですし。」
「正解よ。競馬も同じ。みんなが群がる『順当な勝ち』なんて、お年玉にもなりゃしないわ。私たちが狙うのは、誰も見ていない隅っこで光る『泥だらけの金塊』、つまり穴馬よ。そして、その金塊が最も埋まっているのは……『中山金杯』一択ね。」
教授の思考:中山という名の「障害物競走」
なぜ京都ではなく中山なのか。それは「不確定要素」という名のスパイスが効いているからよ。
第一に、京都金杯の罠について。京都は開幕週で芝がピカピカ。おまけに平坦。こうなると「内枠を引いてスピードがある馬」がそのままゴールまで滑り込むだけの、ある種の運ゲーになりやすいわ。分析の余地が少ない、いわば「単純なかけっこ」ね。
第二に、中山の魔力について。一方の中山2000メートルはどう? 急カーブが4回、最後には心臓破りの急坂。おまけにハンデ戦。これはもう「かけっこ」じゃなくて「障害物競走」よ。足が速いだけのスポーツカーじゃなくて、小回りが利いて力強い四輪駆動車が必要になる。
第三に、オッズの歪みについて。世の中のファンは「直近の着順」ばかり見る。広い東京コースで惨敗してきた馬が、中山に替わった瞬間に「水を得た魚」のように激走する。この「場所代わりのジャイアントキリング」こそが、分析で導き出せる最高の穴馬なの。
つまり、京都は「運」を競い、中山は「知略」を競う舞台なのよ。
「地元のガキ大将」を探せ!
「佐倉くん、京都金杯はね、足の速いお坊ちゃんたちが綺麗に並んで走るレースよ。でも中山金杯は違う。ここは、クラスで一番足が速いわけじゃないけど、なぜか『ドッジボールの時だけ異常に強いガキ大将』が勝つ場所なの。」
「ドッジボール……。つまり、小回りが利いて、相手を弾き飛ばすパワーがある馬ってことですね?」
「その通り! 中山には『中山職人』と呼ばれる馬たちがいるわ。東京競馬場みたいな広くて綺麗なところではスピードについていけず大敗して、みんなから『もうダメだ』と見捨てられる。でも、彼らの履歴書をよく見て。『中山コース:1-0-0-0』なんて数字が隠れていたら……それはもう、お宝の地図を見つけたも同然よ。」
教授はホワイトボードに力強く「中山金杯」と書き殴った。
「いい? 佐倉くん。開幕週の綺麗な芝という『隠れみの』に惑わされちゃダメ。実力馬が不慣れな坂に戸惑い、位置取りをミスする。その横を、中山を知り尽くしたベテランや、捲土重来を期す伏兵がスルスルと抜け出す。これこそが、論理的に穴馬を仕留めるカタルシスよ。」
「なるほど……。運任せの京都より、分析しがいのある中山で、新年一発目の『ジャイアントキリング』を狙うわけですね!」
「話が早くて助かるわ。さあ、ターゲットは決まった。次は、16頭の候補生の中から、本物の刺客を選び抜くわよ!」
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