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『根岸決戦!砂上に咲いた狼牙風風拳』~ドラゴンボール~ 根岸ステークス編
「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」「VOICEVOX: 離途」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: ちび式じい」「VOICEVOX: 四国めたん」
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東京競馬場、ダート1400メートル。 冬の乾いた陽光が、黄金色の砂を照らしている。 ゲートの中に並んだ戦士たちは、それぞれの野望と、 そしてどこか抜けた個性を爆発させようとしていた。
「1番、ウェイワードアクト(牡6)……です!」
白い帽子を揺らしながら、ウェイワードアクトが少しだけ前に出た。
「ぼ、僕が……前を走ります。 みんなを……引っ張れるように。 超能力で、道を……切り拓きます」
一瞬、空を仰ぎ、そして必死に声を張る。
「み、見ててください……天さん!」
(だ、大丈夫……計算は合ってる。 時速60キロで、この距離を走り続ければ……勝てる、はずだよ)
算数は得意なはずなのに、なぜか胸の奥がざわつく。 彼は理屈を振り払うように、小さな体に―― 必死で気合を注入していた。
その隣で、黒い帽子を被った実力派が―― いや、実力派を自称する男が、 必要以上に大きな動きでマントを翻した。
「3番! オメガギネス(牡6)!」
「ガッハッハッハ! これが――世界王者のオーラというやつだ!」
「砂ごときに負けると思うなよ! ひれ伏せ、ひれ伏せぇ! この軟弱者どもがぁ!」
(ひ、ひいいい……ッ!? な、なんだこの圧迫感は……! せ、狭い! ゲートが狭すぎるぅ!)
(お、お腹が……。 いや違う、これは……武者震いだ! そう、王者の闘志が……っ)
表情は豪胆、背中は大きく。 だがその内心は、プレッシャーと恐怖で 今にも弾け飛びそうになっていた。
そして、この日の主役候補―― いや、本人にその自覚がまるでない男は、 最後方のゲートで盛大な欠伸を噛み殺していた。
「8番、インユアパレス(牡5)……っと」
「はぁ……だりぃ。 なんで俺が一番人気なんだよ。 目立つとロクなことねぇんだっての」
(早く終わんねぇかな……。 終わったら、あの店で 骨付き肉を三本……いや、五本はいけるな)
(そもそも走るってのは、 ヤバい時に逃げるためにやるもんだろ。 わざわざ競う意味が分かんねぇよ……)
その身体には、 誰もが恐れるほどの潜在能力が眠っている。 だが、本人のやる気は―― 仙豆一個分どころか、 皮一枚分も残っていなかった。
ゲートが開いた。 爆音と共に、砂の戦いが幕を開ける。
ウェイワードアクトが、反射的に前へ飛び出した。
「い、行くよ……! こ、これなら……前に出られる……はず……!」
だが次の瞬間、外から砂を蹴散らすように迫る影があった。 エンペラーワケアだ。
低く、苛立ちを抑えた声で呟く。
「おい、小さいの。 そのペースは無謀だ。 このまま行けば、全員まとめて潰れる」
「ひ、ひっ……! で、でも……ぼ、僕が下がったら……」
「少しは抑えろと言っている! 俺は、無駄に命を賭ける気はないぞ!!」
外からの圧力は、 言葉など意に介さぬかのように迫る。
(……計算が狂っている。 想定より速すぎる……)
しかし、ウェイワードアクトは、 抗うようにペースを上げてしまう。
その背後で、 エンペラーワケアがは歯噛みしながら叫ぶ。
「……馬鹿がぁ!。 こんな愚かな突撃は 後方の奴らの思うツボだぞ!!」
最初の200メートルは12.5秒。 争いが激化した次の200メートルで、 計測時計は「11.2秒」という異常な数字を刻んだ。
最初の200メートルは12.5秒。 争いが激化した次の200メートルで、 計測時計は「11.2秒」という異常な数字を刻んだ。
(おいおい……。 いくらなんでも、飛ばしすぎだろ)
中団の内、 どこか余裕ぶった視線で前を見ている男がいる。
「2番、ロードフォンス(牡6)!」
「フッ……見てろよ。 今日は違うんだ。 もう“噛ませ犬”なんて言わせねぇ」
(俺は……狼だ。 群れに流されず、 ここぞって時に牙を剥く)
(前で暴れてる連中は、 どうせ最後に失速する。 そこを――俺が持ってく)
ロードフォンスは、 うまくやっているつもりで、 内ラチ沿いの最短ラインへと滑り込んだ。
――それが、 “完璧な判断”だったかどうかは、 まだ誰にも分からない。
その少し後ろ。 青い帽子の努力家が、 容赦なく跳ね返る砂を真正面から浴びていた。
「7番、ダノンフィーゴ(牡4)……っ!」
「くっ……砂、痛っ……! でも……これくらいで下がってたら、 ずっと置いていかれるだけだ……!」
声は震えている。 だが、脚は止まらない。
(正直……怖い。 みんな強すぎるし、 前でドンパチやってる連中は別世界だ)
(でも……あいつがやる気ないなら…… インユアパレスが寝てるなら…… ここは、俺が踏ん張るしかないだろ)
ダノンフィーゴは、 必死に呼吸を整えながら、 前の背中だけを見据える。
(……鼻がない分、 肺はちゃんと使え。 俺は、俺なりにやるしかないんだ)
3コーナー付近。
先頭で粘るウェイワードアクトは、 異常なラップの激流に呑まれ、 目に見えて脚色を鈍らせ始めていた。
「はぁ……はぁ……。 て、天さん……ちょっと……苦しい……」
(おかしい……。 このペースなら、まだ……もつ、はず……)
(……あ。 さ、最初の計算…… 繰り上げ、忘れてた……かも……)
小さな身体が、必死に踏ん張る。 だが、理屈と現実のズレは、 容赦なく肺を締め付けていた。
そのすぐ後ろ。 ピンクの帽子に紛れるように、 余裕たっぷりの視線を送る老人がいる。
「10番、バトルクライ(牡7)……フォッフォッフォ」
「若いのは元気じゃのう。 だが……元気すぎるのも、考えものじゃ」
そう呟きながらも、 視線はしっかり前―― 12番、マピュースを捉えている。
(脚の運び……重心…… ほう、あれは計算して走っとる)
(……それにしても、 若い牝馬は、後ろ姿まで無駄がないわい)
その視線に気づいたのか、 マピュースが苛立たしげに尾を振った。
「12番、マピュース(牝4)!」
「ちょっと、そこのお爺さん! レース中に視線がいやらしいのよ!」
「何を言うか。 ワシは純粋に、 走りの“美”を観察しておるだけじゃ」
「はっ。 言い訳が昭和すぎるわね」
マピュースは鼻で笑い、 冷静に進路を計算する。
(前は無理をしてる。 後ろは様子見……)
(なら、答えは一つ。 一番効率のいいラインで、 私が抜けるだけよ)
「見てなさい。 感情で走る時代は、もう終わりよ」
レースは4コーナーへと差し掛かる。
逃げ続けたウェイワードアクトの脚は、 ついに限界を迎えていた。
「はぁ……はぁ……。 て、天さん……ごめ……」
小さな体が、わずかに内へと揺れる。 その瞬間、背後から容赦ない圧が押し寄せた。
――飲み込まれる。
先頭にいたはずの姿は、 一気に集団の中へと沈んでいった。
その様子を、 不機嫌そうに眺めている馬がいる。
1番人気、インユアパレスだ。
「あーあ……。 やっぱ無理してたよな」
(前が詰まってやがる。 ちっ、だから逃げは嫌いなんだ)
(内も外もゴチャゴチャ…… どっち行っても面倒くせぇな)
「……外か。 余計な体力、使わせやがって」
文句を垂れながら、 インユアパレスは大きく外へ持ち出す。
「さっさと終わらせて、 肉食いに行かせろっての」
その瞬間―― 内側の狭いスペースに、 ひとつだけ、空白が生まれた。
そこへ、 迷いなく滑り込む影がある。
ロードフォンスだ。
「……あ」
気づいた時には、もう遅い。
「へ、へへ……。 悪いな。先、行かせてもらうぜ」
(内が空く……。 読み通りだ)
(やっぱ俺、 こういうのだけは上手いんだよな)
ロードフォンスは、 自分でも驚くほど滑らかに、 内ラチ沿いへ身体をねじ込ませる。
「東京の直線は長ぇ。 ここは―― 俺の狼牙風風拳の間合いだ!」
その背中は、 まるで勝利を確信したかのように 軽やかだった。
一方、中団。
オメガギネスは、 世界王者の仮面を貼り付けたまま、 必死に4コーナーを回っていた。
「ガッ……ガッハッハ……! つ、ついてくるがいい……!」
(は、速い……! なんで急に、こんな……!)
(だ、誰か止めろ! これは……これは陰謀だ!)
だが脚は言うことを聞かない。 笑顔は引きつり、 その背中には、恐怖だけが貼り付いていた。
砂塵の向こうに、 東京の長い直線が姿を現す。
――魔のラップ。 11秒2。
先行勢の余力は、 すでに削り取られていた。
先頭で耐えていたウェイワードアクトの視界が、 ゆっくりと白く滲む。
「……天さん」
それだけを、 かすれる声で呟く。
(……ああ。 やっぱり、計算どおりには……いかないね)
小さな体が、 ふっと軽くなった。
次の瞬間―― 集団が、一気に前へと流れ込む。
その隙間を、 白い閃光が切り裂いた。
「――今だ!」
ロードフォンスが、 内から一気に弾ける。
(完璧だ……! タイミングも、進路も!)
東京競馬場、残り400メートル。 長い直線と、 容赦ない坂が立ちはだかる。
ロードフォンスは、 勝利を確信したまま、 その坂へと突っ込んでいった。
――さあ直線だ。 東京競馬場の名物坂が、全員に平等に牙を剥く。 だが、この期に及んで平等を信じている者など一人もいない。
「どきな! ここからは――」
叫んだのは、 一度は落ち、何度も落ち、それでも毎回“次こそ主役”を信じてきた男。
2番ロードフォンス(牡6)、 内ラチすれすれを舐めるように突き抜ける。
(来た……! 完璧だ! 誰も俺を見てない時間帯から、 誰も文句を言えない位置に一気に浮上! これが――これが“生き残り続けた者”の勝ち筋だ!)
「見てろよ! 今回は噛ませじゃねえ! インタビューはセンター、カメラ目線で――狼牙風風拳だ!」
……なお、 この時点で彼の脳内には勝利後のカメラ割りしか存在していない。
一方その背後。 “世界王者”を名乗る男は、 世界で一番みっともないフォームで坂を登っていた。
3番オメガギネス(牡6)。 別名――ミスター・サタン。
「ガッ、ガッハッハ! どうしたどうした! ついて来れんのかぁ!?」
(やばいやばいやばい! 坂!? 聞いてない! 誰だこんなコース設計したのは! いや違う、これは陰謀だ! きっとセルかブウの残党だ!)
足は重い。 呼吸は荒い。 なのに口だけは、止まらない。
「おい1番人気! 王者の背中を見る権利をやろう! 今ならサインも――」
――無視された。
8番インユアパレス(牡5)。 闘争心? そんなものは冷蔵庫に置いてきた男である。
「……うるせえなぁ」
眠たそうに首を振る。
「今、ミディアムレアかウェルダンかで 人生の分岐点なんだよ。 話しかけんな、ヒゲ」
「なっ……!? 貴様、王者に対して――!」
「王者? あー……そういやそんな設定あったな」
(はぁ…… もう走る意味なくね? ここで本気出しても、 勝ったら取材、負けても取材。 どっちにしてもメシ遅くなるだけだろ)
インユアパレス、 堂々の戦意喪失宣言。
「俺は9着でいい。 人混み避けて帰れるしな」
そして先頭。 坂の頂上が、少しずつ近づく。
ロードフォンスの脚が、 ほんの一瞬――鈍った。
(……あれ? 坂、こんな長かったっけ? いや、気のせいだ。 これは演出だ。 主人公は、最後に苦しむものなんだ!)
その背後で、 全員が、全く別の理由で歯を食いしばっていた。
――だが、地獄はまだ終わらない。 東京競馬場の外ラチ。 そこから**場違いなほど澄んだ「気」**が、ふわりと流れ込んだ。
「……フォッフォッフォ」
笑い声は、軽い。 だが、脚音だけが異様に静かだった。
10番バトルクライ(牡7)。 年齢相応の白い毛並み、丸まった背中。 誰がどう見ても――もう限界に見える。
「いやあ~、最近は運動不足でのう。 この坂、わしにはちと堪えるわい」
(……本当は、もう十分じゃ。 若いもんの邪魔をする歳でもあるまい)
そう思った、その瞬間。
前方で―― 若い牝馬が、完璧なライン取りで抜け出そうとした。
12番マピュース(牝4)。 冷静、計算、合理性の塊。
(今。 ここで仕掛ければ、5着は堅い。 無駄な消耗も、リスクも――)
その背中を見た時、 バトルクライの目から――一切の濁りが消えた。
「……ほう」
背筋が、伸びる。 歩幅が、変わる。 地面を蹴る“音”が、消えた。
(若いの。 今の一瞬―― 油断したのう)
「――フォッフォッフォッ!」
7歳馬とは思えぬ、 爆発的な一完歩。
(34秒8。 技でも力でもない。 ただ“無駄を削ぎ落とした結果”じゃ)
――それは、亀仙流。
「ちょ、ちょっと!? なんでこの爺さん、急に速くなってんのよ!?」
マピュースが悲鳴を上げる。
「若いの。 計算は大事じゃが…… “見落とし”もまた、計算のうちじゃよ」
「嫌よ! あんたのハゲ頭を目標にするなんて、 私の美意識が許さないわ!」
「フォッフォッフォ。 安心せい。 ゴールしたら――」
「一言でも続けたら警察呼ぶわよ!!」
(……あっ、戻ったわね。 この爺さん)
マピュースは歯を食いしばる。
(最悪。 でも――この一瞬だけ本気出すタイプ、 一番タチが悪いのよ……!)
残り100メートル。
先頭では、 ロードフォンスが必死に粘っていた。
「負けるかよ! 俺はもう、脇役じゃねえんだ!」
(後ろ……来てる。 あの、スケベ爺…… いや違う――あれは、達人の背中だ)
その背後から、 再び――
「フォッフォッフォ。 安心せい、若いの」
バトルクライの脚が、 ほんの一瞬、緩む。
(……勝ち切る必要はない。 教えるだけで、十分じゃ)
そして、 また少し、ヨボヨボになる。
「いやあ~、やっぱり疲れたわい。 年寄りは、無理はいかんのう」
(……なんだよそれ!!)
ロードフォンスが、 心の中で叫んだ。
その背後―― 内ラチの最狭部から、必死すぎる気が突っ込んできた。
「7番、ダノンフィーゴ(牡4)! だ、だめだ! ここで諦めたら、 また“悟空の横にいるだけの人”で終わっちゃう!」
(くそっ、くそっ……! 僕は主役じゃない。 でも――最後まで立ってるのは、いつも僕だ!)
ダノンフィーゴは、 フォームも何もかも崩れたまま、 気合いだけで脚を叩きつける。
(気円斬! ……いや、撃てないけど! でもこの隙間なら、気持ちだけは切り裂ける!)
鼻の穴を限界まで広げ、 バトルクライの内側へ、 文字通り体をねじ込んだ。
「おっと、若いの。 そこは――」
亀仙人が一瞬だけ、振り返る。
(……来たか。 最後まで諦めん、その顔)
だが、脚は伸ばさない。 勝負は、もう決している。
ゴール板が、迫る。
「狼牙風風拳――!」
いや、もう拳も技も関係ない。
「――フィニッシュだあああ!!」
ロードフォンスが、 吠えるようにゴールへ飛び込んだ。
(勝った……? 俺が……? 噛ませ犬じゃ、ない……?)
1着、ロードフォンス。 2着、バトルクライ。 3着、ダノンフィーゴ。
レースが終わった瞬間、 張り詰めていた“気”が、霧のように消える。
バトルクライは、 急に腰を押さえ、ヨロヨロと歩き出した。
「いやあ~、疲れた疲れた。 やっぱり歳には勝てんのう」
(……一瞬、本気出しすぎたわい)
その横で、 ダノンフィーゴは芝に手をつき、 息を切らして笑った。
「はぁ……はぁ……。 3着か……」
(でも、最後まで逃げなかった。 それだけで……今日は、上出来だ)
ふと顔を上げると、 ロードフォンスがこちらを見ていた。
「……やるじゃねえか」
「え? あ、ありがとう……!」
(今の、認められた? 今の、たぶん……)
一方。
検量室前では、 4着に敗れたオメガギネスが、 腕を組み、胸を張っていた。
「ガッハッハ! 惜しかったな! だが聞いてくれ諸君!」
報道陣に向かって、 人差し指を突き上げる。
「実はあの4コーナー、 地面に怪しいスイッチがあってな! 世界王者たる私は、 それを踏まぬよう跳んだのだ!」
(……本当は、腹が痛くて踏ん張れなかっただけだが)
「つまり! 4着という結果は、 平和を守った代償なのだ!」
誰も頷いていない。
だが、オメガギネスは満足そうだった。
(よし。 今日もカリスマは守られた)
それを聞いたインユアパレス(9着)が、 心底どうでもよさそうに鼻を鳴らした。
「おい、ヒゲ親父。 嘘つくのも才能だな。 それより、その派手なマント――肉と交換しねえか?」
「な、何を言い出す! これは世界王者の証だぞ!」
「腹が減ってんだよ。 4着の賞金で、なんか旨いもん奢れ。 それで全部忘れてやる」
「……うむ。仕方あるまい。 特別だ。今日だけは私の奢りにしてやろう!」
(ふう……助かった。 深く追及される前に話題を変える。 4着? 世界王者としては、上出来だな)
オメガギネスは満足げに頷いた。
その少し先で、 勝者ロードフォンスが仲間に囲まれていた。
「見たかよ! これが俺の……俺の、ちゃんとした勝ちだ!」
(へへっ……。 噛ませ犬じゃなくて、 今日はちゃんと主役だよな)
胸を張るが、 視線はもう、次の戦場を探している。
(次は…… もっと強え奴と、やり合いてえな)
その横で、 バトルクライが腰をさすりながら笑った。
「フォッフォッフォ。 いやあ、良いレースじゃったわい」
きょろきょろと周囲を見回す。
「さて……マピュースちゃんは――」
「こっち見ないで!」 砂を払いながら、マピュースが吐き捨てる。 「エステ行って、全部洗い落としてくるの! アンタの視線ごとね!」
「つれないのう……」
(若いってのは、ええもんじゃ)
バトルクライは、どこか楽しそうだった。
少し離れた場所で、 ダノンフィーゴは自分の脚を見つめていた。
「3着か……」
息を整え、 小さく、しかし確かに笑う。
「あと一歩だったけど…… でも、僕にしては上出来だよね」
(最後まで、逃げなかった。 それだけで……今日は、十分だ)
「次は鼻があったら、 もっといける気がするよ」
少し考えて、付け足す。
「……いや、なくてもいいか。 もう慣れてるし」
冬の東京競馬場。 砂塵は静まり、歓声だけが余韻として残る。
勝った者も、 負けた者も、 それぞれの“役割”を胸に刻みながら――
戦士たちの物語は、 また次のステージへと続いていくのだった。
1着:ロードフォンス(モデル:ヤムチャ) 2着:バトルクライ(モデル:亀仙人) 3着:ダノンフィーゴ(モデル:クリリン) 4着:オメガギネス(モデル:ミスター・サタン) 5着:マピュース(モデル:ブルマ) 1番人気:インユアパレス(モデル:ヤジロベー) 逃げ馬:ウェイワードアクト(モデル:チャオズ) エンペラーワケア (モデル:ピッコロ)
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あらすじ 東京ダート1400mの冬の日差しの下、個性派ぞろいの面々がゲートに収まり、逃げ宣言のウェイワードアクトは超能力で道を切り拓くと震えながらも先手を主張した。 一方で世界王者を自称するオメガギネスは派手にオーラを誇示しつつ内心では圧迫感と恐怖に揺れており、人気の中心インユアパレスは欠伸混じりにやる気のなさを隠そうともしなかった。 出遅れずにゲートが開くとウェイワードアクトは反射的に飛び出し、外からはエンペラーワケアが無謀なペースを諫めるように圧をかけて並びかけた。 最初の200mは12.5秒、続く200mは11.2秒という異常なハイラップになり、エンペラーワケアは集団全体が潰れると怒声を飛ばした。 中団インで機をうかがうロードフォンスは今日は噛ませ犬ではないと内ラチ最短を選択し、前の消耗を見越して牙を研いだ。 後方寄りのダノンフィーゴは砂を浴びながらも弱気を封じ、やる気のないインユアパレスの代わりに踏ん張ると心に決めて前だけを見る。 3コーナーでウェイワードアクトは計算違いに気づき息が上がり、無理な先行の代償として目に見えて脚色が鈍った。 バトルクライは若さの暴走を達観しつつもマピュースの重心と線の美しさを観察し、彼女は最も効率的なラインを選び抜け出す準備を整えた。 4コーナーではウェイワードアクトが限界を迎えて内にヨレ、先頭から沈み込み、隊列は一気に密集して混戦の様相となった。 インユアパレスは詰まった進路に舌打ちし、逃げも団子も好まず集中を欠いたまま不完全燃焼の位置取りに甘んじた。 外ラチから澄んだ気が流れ、バトルクライが「フォッフォッフォ」と笑って歩幅を変え、無駄を削ぎ落とした一完歩で達人の脚を解放した。 マピュースは完璧な出口での抜け出しを図るも、その一瞬の油断を突いたバトルクライが年齢を感じさせない加速で横を射抜いた。 亀仙流の本質は力でも技でもなく省略の極致だと示すように、バトルクライは34秒台の持続を確かに刻んで若さの均衡を崩した。 マピュースは下世話な絡みを拒絶しつつも一瞬本気を出す達人の厄介さを見抜き、諦めずに効率を保って食らいついた。 直線残り100mでロードフォンスは内ラチ沿いから粘り腰を見せ、後ろの達人の気配に恐れず狼の牙でゴールを睨んだ。 バトルクライは勝ち切るより教えることを選ぶように一瞬脚を緩め、再び年相応のヨボヨボを被って背中で語った。 最内の最狭部ではダノンフィーゴが体をねじ込んで気合で脚を叩き、気円斬のイメージで隙間を切り裂くように加速した。 亀仙人は振り返ってその顔に諦めがないことを確かめつつ伸びを抑え、勝負の帰趨を前の二頭に委ねた。 ロードフォンスは狼牙風風拳の咆哮のようにフィニッシュへ飛び込み、ついに噛ませ犬の殻を破って先頭でゴール板を駆け抜けた。 結果はロードフォンス1着、バトルクライ2着、ダノンフィーゴ3着で、澄んだ気は霧のように引き、場内に安堵の呼気が満ちた。 バトルクライは腰を押さえて老体を装いつつも一瞬の全開を悔いず、教える役回りを果たした満足感を胸に笑みを浮かべた。 ダノンフィーゴは芝に手をついて息を整え、逃げずに最内を差した自分を小さく誇り、次への自信を得た。 ロードフォンスは仲間に囲まれて「ちゃんとした勝ち」を噛みしめ、視線は早くも次の強者との戦いへ向かっていた。 検量室前でオメガギネスは4着を世界平和の代償と豪語し、腹痛の真相を隠してカリスマ維持に成功したと自分に言い聞かせた。 インユアパレスは9着に沈み、マントを肉と交換しろとオメガギネスに絡み、やる気のなさと食欲だけは一流ぶりを見せた。 マピュースは砂を払いエステ行き宣言で達人の視線を拒みつつ、合理の精度と一瞬の落とし穴を胸に刻んだ。 エンペラーワケアは愚かな突撃に歯噛みした教官役としての苛立ちを残し、次こそは全体最適を守らせると心に誓った。 ウェイワードアクトは計算の繰り上げ忘れを悔やみ、天さんへの謝罪を胸に次は理屈と現実を一致させると小さく拳を握った。 砂の痛みに耐えたダノンフィーゴは「鼻がなくても戦える」と冗談で自分を鼓舞し、平常心を保つ術を覚えた。 バトルクライは若さの眩しさを楽しみつつも距離を弁え、必要な瞬間だけ火を灯す老練の在り方を示して舞台袖に退いた。 ロードフォンスの勝利は流れを読み最短を貫く胆力の勝利であり、噛ませ犬という物語上の役割を書き換える一撃となった。 レース全体は暴走の前半、最適化の中盤、達人の介入と自我の覚醒が交差する終盤という三幕で構成され、各々のキャラが役割の意味を更新した。 冬の東京に歓声の余韻が残り、勝者も敗者も自分の役割を胸に次章へ歩き出し、砂上に咲いた狼牙風風拳の物語は続いていく。 そして観客もまた、力と知恵と矜持がせめぎ合う短距離戦がもたらす痛快さを反芻し、次のゲートが開く瞬間を待ち望んだ。
解説+感想この小説(というか競馬擬人化パロディ?)、めちゃくちゃ面白かったです。 一言で言うと「ドラゴンボール愛と競馬愛が爆発して、結果的に両方とも昇華されてる」って感じ。 特に良かったポイントを挙げると:キャラの役割再解釈が絶妙すぎるヤムチャ(ロードフォンス)を「噛ませ犬の殻を破る」主人公ポジに持ってきたのが最高。 いつも負け役・空気役のヤムチャが、今回は「最短最内を貫く胆力」で勝つって、まじで救済回みたいで胸熱。 「ちゃんとした勝ち」を噛みしめるシーンとか、読んでて「よっしゃあああ!」って声出そうになった。 亀仙人(バトルクライ)の「教えるために勝ちを譲る」演出これがもう達人すぎる。 「勝ち切るより教えることを選ぶ」「一瞬脚を緩めて背中で語る」って、完全に亀仙人の「亀仙流の本質は省略の極致」っていう哲学を競馬に落とし込んでる。 しかも最後ヨボヨボ装って満足げに退場とか、老害カッコいいの極みだわ…。 クリリン(ダノンフィーゴ)の地味だけど確かな成長最内を気合でねじ込んで気円斬イメージで伸びる描写、好きすぎる。 「鼻がなくても戦える」って自分を鼓舞するあたり、クリリンらしい不屈さが滲み出てて泣ける。 全体の三幕構成とテーマのまとまり暴走の前半 → 最適化の中盤 → 達人の介入+自我の覚醒の終盤これが綺麗にレース展開とリンクしてるのが上手い。 ただのギャグ擬人化じゃなくて、ちゃんと「役割の更新」「自分の物語を書き換える」っていうテーマが一本通ってるのが素晴らしい。 あと細かいネタの散りばめ方も上手くて笑った オメガギネス(サタン)の「世界平和の代償で4着」「腹痛の真相隠し」 インユアパレス(ヤジロベー)の「マントを肉と交換しろ」 ウェイワードアクト(チャオズ)の「計算の繰り上げ忘れ」こういう小ネタが各キャラの性格を完璧に拾ってるから、ドラファンならニヤニヤが止まらない。 総じて、「ギャグとして読み始めても、最後にはちょっと感動してる」という、すごくバランスのいい作品でした。 砂上に咲いた狼牙風風拳、タイトルからして既に優勝してる。 次章もあったらぜひ読みたいです(特にピッコロ先生がどう全体最適を叩き直すのか気になる…)。 いやー、最高に楽しい時間でした。 ありがとう!
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