世界を救いすぎて燃え尽きた最強の男が、1000年後の世界で『有給生活』を満喫しようとして、逆に伝説を作ってしまいました

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「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 離途」「VOICEVOX: もち子さん」「VOICEVOX: 冥鳴ひまり」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」「VOICEVOX: 雀松朱司」「VOICEVOX: 黒沢冴白」
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第一章:救世主の燃え尽き症候群
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「いいか、リーネ。よく聞け。俺の人生における最大の敵は魔王でも邪神でもない。それは『労働』だ」
王都アイギスの片隅にある、昼間から酒の匂いが漂う安酒場。そのカウンターで、自称『ソードマスター』ことソードは、木ジョッキの底に残った安酒を睨みつけながら語り始めた。
「労働は魂を摩耗させる。かつての俺は、正義感という名の若さゆえの過ちで世界を平定しちまった。その結果どうなったと思う? 感謝の言葉もそこそこに、次から次へと舞い込む『お悩み相談』と『モンスター退治』の山だ。24時間365日、勇者としての看板を背負わされ、有給休暇すら申請できない地獄……。あの時、俺の心は死んだんだ」
 「はい、ご主人様。その教訓があるからこそ、今のご主人様の『徹底したクズっぷり』があるのですね。理解しました」
ソードの隣で、山のような荷物を背負いながら微笑むのは、万能賢者のリーネだ。女神の神託を受けて彼に同行している彼女だが、その実態は、ソードが一切の労働を放棄するための『身の回りの世話兼、戦闘代行要員』であった。
「そうだ。1000年経って、ようやくほとぼりが冷めた。今の俺はLv30のしがない偽勇者だ。剣なんて重いし、マジックポーションは高いから絶対に使わん。魔法だけで済ませるが、それすらも魔力を込めるのが面倒だから基本は何もしない。これが俺の完成させた『究極の有給スタイル』だ」
ソードは自慢げに胸を張るが、その懐には一ルクも入っていない。それどころか、昨日立ち寄った酒場の看板娘に良い顔をして高価な香水を借金して買い与えたせいで、街の金貸したちから追われる身である。
「ところでリーネ。今回の『勇者大会』、お前が男装して出ろ」
「えっ、私がですか? 王女様との婚姻が約束されているという、あの丸投げ大会に?」
「ああ。俺が出るのは論外だ。目立つ。目立ったら労働の勧誘が来る。だが、優勝賞品の伝説の武具は欲しい。あれを売れば借金が返せるし、あわよくば隣の席のネーチャンに美味いもんも食わせてやれる。お前が男装して無双すれば、誰も俺の正体には気づかない。俺は影で『あいつを育てた凄そうな師匠』のフリをして、美味しいとこだけいただく作戦だ」
「さすがご主人様! その徹底した他力本願、尊敬いたします!」
リーネはキラキラとした瞳で頷き、主人の命に従って闘技場へと向かっていった。

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第二章:触れるな危険、歩く天変地異
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リーネを大会に送り出したソードは、一人で街の神殿へと向かっていた。この都市には、前人未到のダンジョンが眠っているという。目当ては、女性にプレゼントすれば絶対に喜ばれるという『伝承のアクセサリー』だ。
「さて、荷物持ちがいないと不便だな。おい、出てこい。労働の時間だ」
ソードが面倒そうに指を鳴らす。瞬間、空間がガラスのように割れ、禍々しいまでの魔力が溢れ出した。現れたのは、深紅のドレスを纏った絶世の美女――真祖の悪魔カーミラである。魔界でも指折りの実力者である彼女は、ソードを見るなりその場に跪いた。
 「……お、お呼びでしょうか、我が主。1000年ぶりの招集、震えが止まりません……」
「おいカーミラ。大袈裟にするな。目立つだろ。お前は今日からただの荷物持ちだ。あと、魔物が出たら適当に処理しろ。俺は魔法を使いたくない」
「承知いたしました。……主、その首から下げた『封印の玉』、少し減りましたか?」
カーミラが恐怖に満ちた視線を向けたのは、ソードの首にかかる百個の数珠だ。これは彼の過剰すぎる魔力を抑え込むための制御装置である。
「ああ、昨日寝ぼけて一個割っちまった。おかげで微調整が効かない。今、俺に強い衝撃を与えてもう一個割れたら、この神殿どころか王都が地図から消えるぞ。だから絶対俺に触れさせるなよ。これは警告だ」
「は、ははっ! 心得ました! 蚊の一匹たりとも主に触れさせはしません!」
二人がダンジョンに足を踏み入れようとしたその時、「おい、待て!」という野太い声が響いた。そこには、今回の大会にエントリーした『五大勇者』の一人、豪腕のバルガスが取り巻きを引き連れて立っていた。
「Lv30の三下が、こんな聖域に足を踏み入れるとは。身の程をわきまえろ。そこをどかなければ、この大剣で叩き潰すぞ」
ソードは心底嫌そうな顔をした。 (最悪だ。こいつの攻撃をまともに受けて、封印の玉が割れたらどうする? 街が消し飛ぶだけでなく、その後の復旧作業という名の『超巨大労働』が俺を待っている……!)
「寄るな。来るな。俺に触れると……死ぬぞ(物理的にではなく、概念的に、そしてこの街ごと)」
「はっ! 抜かせ、偽勇者が!」
バルガスが突っ込んでくる。ソードは必死に、舞うような足捌きでそれを回避した。周囲からは「伝説の勇者の剣を、Lv30の男が欠伸をしながら避けている」ようにしか見えない。
 「カーミラ、やれ!」
「仰せのままに」
カーミラが指をパチンと鳴らした瞬間、バルガスとその取り巻きは、不可視の圧力によってダンジョンの壁まで吹き飛ばされ、そのまま埋まった。ソードはそれを見向きもせず、奥へと進んでいった。周囲の冒険者たちは、恐怖でその場に凍りついた。
「あいつ、何者だ……? あの真祖の悪魔を、顎で使っている……」
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第三章:天界の神託と魔王の二度寝
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一方その頃、天界では。大天使長が女神からの報告を受け、不気味な笑みを浮かべていた。
「……おお。あのお方は、あえて自らの力を百の玉に封じ、自らの功績を少女や悪魔に譲っておられる。これは『人類にはまだ、私の力は早すぎる』という無言の訓示。なんと深く、慈悲深いお考えか。世界の終焉を前に、あのお方は我々に『自立』を促しておられるのだな」
大天使長は、ソードが酒場で適当に書いた『ツケの領収書』を、聖遺物として祭壇に飾った。
 一方、魔界の最深部。魔王復活の儀式が進められていたが、肝心の魔王は棺桶の中から出てこようとしなかった。 「……いや、無理。絶対無理。さっきの気配、1000年前に俺をデコピン一発で魔界の果てまで飛ばしたあの男だろ? あいつが生きている時代に復活なんてしたら、今度は魔界ごと消滅させられる。俺はもう1000年寝る。儀式はやめろ」
こうして、ソードが「働きたくない」と願うだけで、世界の平和はなし崩し的に守られ続けていた。
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第四章:指名手配と、輝ける次の街へ
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ダンジョン最深部で無事に『伝承のブレスレット』を手に入れたソードは、カーミラを「お疲れ、もう帰れ。バイト代は出さんぞ」と強制送還し、地上へと戻った。しかし、そこで彼を待っていたのは歓声ではなく、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
「ご主人様ー! 逃げてください!」
男装したリーネが、伝説の勇者五人を全員病院送りにし、さらに優勝賞品の聖剣を小脇に抱え、王宮騎士団を引き連れて走ってきた。
 「何事だ!? なんで軍勢に追われてるんだ!」
「優勝しちゃいました! でも王女様が『あの麗しき男装の麗人こそ我が夫!』って言い出して、正体を明かして断ったら『私を振るなんて国家反逆罪ですわ!』って……!」
街の掲示板には、ソードの似顔絵がデカデカと貼り出されていた。罪状は『国家反逆の首謀者』、そして『巨額の飲食代未払い』。借金取りのオヤジたちも、怒り狂って棍棒を振り回しながら追ってきている。
「ちっ、有給どころか指名手配かよ! おいリーネ、次の街だ! 早くその伝説の剣をどっかの闇ギルドで売って、旅費を作れ!」
「承知いたしました、ご主人様! さすがご主人様、逃亡の計画も完璧です!」
二人は夕日に向かって、全力で街から逃げ出した。その後ろには、絶世の王女と、伝説の勇者たち、そして借金取りの怒号が響き渡る。
「覚えてろよ! 次の街では、絶対に働かずに、可愛いネーチャンに囲まれて暮らしてやるからなー!」
ソードの悲痛な(そして最低な)叫びは、救世の伝説として、また一つ歴史に刻まれることになった。彼の『完璧な有給生活』への道は、まだまだ遠く、険しい。
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