第1章 「出現! 逃げる地球人と怒れるエリート王子! ~ゲートという名の狭い修行部屋から放たれた七つの気~」
阪神競馬場のターフに、春の柔らかな日差しが降り注ぐ。
青々とした芝の匂い。 そこに混じる、乾いた土の気配。
大観衆のどよめきが、地鳴りのように足元から這い上がり、 空気そのものを震わせていた。
――だが。
ゲート。
冷たい鉄の箱に押し込められた彼らにとって、 その熱狂は、すでに“外の世界”のものだった。
狭い。逃げ場はない。 そして――濃い。
見えない“気”が、空間そのものを満たしていた。
フレイムスター【クリリン】:「ひぇぇ……。な、なんだよこの圧……! 横から、とんでもねぇ気が流れてくるぞ……!」
1番、牡3歳・フレイムスターが、ブルブルと馬体を震わせる。
耳が伏せられ、呼吸が浅くなる。 ただそこに“いる”だけで、削られていくような感覚。
フレイムスター【クリリン】:(もう帰りたい……。なんで俺の周り、戦闘狂みたいな奴らばっかなんだよ……!)
額から流れた冷や汗が、鼻先を伝い、ぽたりと芝へ落ちる。
それはまるで―― 戦いの始まりを告げる、一滴の合図だった。
アルトラムス【孫悟空】:「ゲートの中ってよぉ、修行の部屋にしちゃあ――ちっとばかり狭すぎねぇか?」
隣で、大きなあくびを噛み殺したのは、4番、牡3歳・アルトラムス。
張り詰めた空気の中で、その声だけが妙に軽い。
アルトラムス【孫悟空】:(腹減ったなぁ……。ゴールしたら、飼い葉百杯くらい食わせてくれよな!)
底抜けに明るい気配が、 息苦しい緊張を、まるで“意味のないもの”のように押し流す。
ローベルクランツ【ベジータ】:「貴様……! この神聖なスタート前に、なんという間の抜けただらしなさだ!」 ローベルクランツの怒声が弾ける。
首筋の血管が浮き上がり、 その気は鋭く、周囲を刺すように膨れ上がる。
アルトラムス【孫悟空】:「なんだよぉ。おめぇの方こそ、ワクワクしすぎて顔が怖ぇぞ? リラックスしろよ!」
アルトラムスは尻尾を揺らし、屈託なく笑う。
――圧を、まるで感じていない。
ローベルクランツ【ベジータ】:「誰が顔が怖いだ! 俺はこのレースを支配する、誇り高きエリートなのだ!」
ガンッ!!
前肢がゲートを叩きつけ、金属音が響く。 怒りと共に、気がさらに膨張する。
カフジエメンタール【ピッコロ】:「ふん……相変わらず騒がしい」
その喧騒を、切り離すような声。
カフジエメンタール。
目を閉じたまま、深く、ゆっくりと息を吐き出す。 「少しは気を練らんか。外に振り回されているようでは、話にならん」 その場にいながら、どこか遠い。 周囲の圧すら、意に介していない。
カフジエメンタール【ピッコロ】:(直線の長さこそが、真の“精神と時の部屋”……)
カフジエメンタール【ピッコロ】:(ここで浮き足立つようでは――未熟だ)
微動だにせず、ただ己の内へと潜る。
その静けさだけが、 逆に異様な存在感を放っていた。
ガシャンッ!!
無機質な金属音が、空気を引き裂く。
次の瞬間―― 七つの影が、一斉に“解き放たれた”。
溜め込まれていた気が、爆ぜる。
1800メートル。 超絶バトルが、今――幕を開けた。
フレイムスター【クリリン】:「太陽拳っ……じゃなくて、逃げるが勝ちだぁぁっ!!」
先陣を切ったのは、フレイムスター。
迷いはない。 生き残るための、全力のスタート。
一気に加速し、内ラチ沿いへ。 そのまま、あっという間にハナを奪い取る。
フレイムスター【クリリン】:(よしっ……! これならいける! 俺だって――意地を見せて、掲示板に乗ってやるんだ!)
風を切り裂きながら、必死に逃げる。
その走りは、技でも才能でもない。 “覚悟”そのものだった。
ローベルクランツ【ベジータ】:「チッ……小賢しい真似を。だが――泳がせておくのも、エリートの余裕だ」
ピタリと一馬身差。2番手。
無理には行かない。 だが、逃がしもしない。
踏みしめる一歩一歩が重い。 まるで、地面を支配するかのように。
その視線は、常に前だけを捉えている。
その直後、3番手。
カフジエメンタールは、静かに位置を取る。
無駄な動きは一切ない。 ただ、最短距離をなぞるように。
“まだ、その時ではない”とでも言うように。
外。
ぴたりと並走する、もう一つの影。
シーズザスローン【天津飯】:「四身の拳は無理だが……四肢をフル回転させて食らいつく!」
歯を食いしばり、前を睨む。
シーズザスローン【天津飯】:(削るしかない……! 俺の力は、それしかない!)
脚を使うたびに、確実に何かが減っていく。
それでも止めない。
その走りは―― まさに、“気功砲”。
自らを削りながら、前へと食らいついていく。
一方――アルトラムス。
中団5番手。 無理に行かない。競らない。
ただ、風を正面から受け止めながら、 前を行く馬たちの尻尾を、楽しげに追っている。
アルトラムス【孫悟空】:「……へへっ、いいな。みんな、いい走りしてるじゃねぇか」
余裕の呼吸。緩まないリズム。
アルトラムス【孫悟空】:(まだだ……まだ気は高まらねぇ)
アルトラムス【孫悟空】:(あいつらの脚色――しっかり見とくぞ)
戦っていない。 だが、すでに“勝つための準備”は始まっている。
そのすぐ後ろ。
気配を消すように、一頭。
ウップヘリーア。
ウップヘリーア【孫悟飯】:「すみません、お先に失礼します……って、まだ早いですよね」
控えめな口調。 脚取りもまた、控えめ。
だが――
その内側にある“何か”が、わずかに揺らいでいた。
ウップヘリーア【孫悟飯】:(走るのもいいですけど……本当は、馬房でゆっくり本でも読みたいんです)
穏やかな思考。 だが、その奥底。
押さえ込まれた力が、静かに脈打っている。
まだ、出ていない。 だが――“出る”。
そんな予感だけが、確かにあった。
そして最後方。
ぽつりと離れた、7番手。
ブリガンティン【ヤムチャ】:「へっ! 見てな! 俺の華麗なコーナリング! 狼牙風風――走だ!!」
ブリガンティンが、大きく土を跳ね上げる。
タイミングは完璧。 仕掛けも悪くない。
……はずだった。
ブリガンティン【ヤムチャ】:(あ、あれ? 計算では今頃、先頭のはずなんだが……)
踏み込む。だが、進まない。
風が、強い。
ブリガンティン【ヤムチャ】:(なんでだ……? なんで俺だけ、こんなに向かい風なんだ!?)
リズムが噛み合わない。 加速が、どこかで鈍る。
必死に前を追う。 だが――差は、縮まらない。
ただ一頭、流れから取り残されるように、 後方で空回りしていた。
レースは向正面へ。
「10.9」という序盤の激流。 そこから、わずかに――確実に、流れが緩み始める。
「11.6」――「12.2」――
そして、5ハロン目。
「12.5」
極端な減速。
風の音が、ふっと消えた。
空気が重く淀み、 まるで時間そのものが引き延ばされたかのような錯覚。
――静かすぎる。
それは休息ではない。 嵐の直前に訪れる、不気味な“間”。
フレイムスター【クリリン】:「ひぇぇ……なんか後ろが静かすぎて、逆に怖いよぉ……!」
フレイムスターが、汗を散らしながら必死に逃げる。
太陽を反射した汗が、細かく弾ける。 呼吸は荒く、脚はすでに悲鳴を上げ始めている。
フレイムスター【クリリン】:(誰か……来てるよな!? 絶対来てるよな!?)
フレイムスター【クリリン】:(振り返りたくない……でも、気になって仕方ないよぉ!)
“見えない追撃”に、心が削られていく。
ローベルクランツ【ベジータ】:「おい、クリ……フレイムスター! 貴様、もっと真面目に走らんか!」
背後から叩きつけられる怒声。
ローベルクランツ【ベジータ】:「この程度のペースで満足しているのか!? 俺の踏み込みに――地面が追いついてこん!」
一歩ごとに、芝が沈む。
力が強すぎる。 出力が、馬場の許容を上回っている。
ローベルクランツ【ベジータ】:「芝が柔らかすぎるぞ……この俺の脚を受け止めきれんとはな!」
苛立ちが、そのまま“圧”となって前へ押し寄せる。
フレイムスター【クリリン】:「ええっ!? 俺のせいじゃないよぉ! ハナを切るって、風当たりが強いんだよぉ!」
フレイムスターが涙目で叫び返す。
風を受け続ける苦しさ。 逃げ続ける孤独。
それでも脚は止めない。
ローベルクランツ【ベジータ】:「言い訳など聞きたくない!」
ローベルクランツの声が、さらに低くなる。
ローベルクランツ【ベジータ】:「この俺の前を走るのなら――死ぬ気で飛ばせ!!」
圧が増す。
まるで背中を押されているのか、 それとも――追い立てられているのか。
逃げるしかない。
逃げるしか――なかった。
アルトラムス【孫悟空】:「ハハハ! ローベルクランツ、おめぇ本当に元気だなぁ!」
5番手から、アルトラムスが屈託のない声を飛ばす。
風に乗るその声は軽い。 だが――脚は、まったく乱れていない。
アルトラムス【孫悟空】:(なんだか、みんな脚を溜めてるみてぇだな……)
アルトラムス【孫悟空】:(よし。オラも、もうちっと我慢だ)
まだ動かない。 まだ、上げない。
ただ“その時”を待つ。
ローベルクランツ【ベジータ】:「黙れ、アルトラムス! 貴様はそこで砂でも噛んでいろ!」
ローベルクランツが吐き捨てる。
アルトラムス【孫悟空】:「ししし! 砂より飼い葉の方がうめぇぞ! ……おっ?」
ふと、アルトラムスの表情が変わる。
アルトラムス【孫悟空】:「……来るな」
3コーナー。
淀んでいた空気が、ゆっくりと動き出す。
バラバラだった“気”が、 ひとつの流れに引き寄せられていく。
12.5まで落ち込んだラップが――
「12.0」
わずかな加速。
だが、その“わずか”が、すべてを変える。
筋肉が引き締まる。
呼吸が、深く、荒くなる。
脚に溜めていたものが、 少しずつ――外へ滲み出す。
誰も仕掛けていない。
それでも、全員が分かっている。
――もうすぐだ。
目に見えない圧が、膨れ上がる。
逃げるフレイムスター。 構えるローベルクランツ。 沈むカフジエメンタール。 削るシーズザスローン。
そして――
まだ笑っている、アルトラムス。
戦いは、次の瞬間に“変わる”。
カフジエメンタール【ピッコロ】:「ふん……気の流れが変わったな。ここからが、本番というわけか」
カフジエメンタールが、わずかに目を開く。
重く被っていたメンコを、ひとつ外したかのように―― ギアが、静かに噛み合う。
カフジエメンタール【ピッコロ】:(騒がしい連中だ……だが)
カフジエメンタール【ピッコロ】:(俺の“視界”からは、誰も逃れられん)
一歩、また一歩。
無駄のない加速で、 前を行く二頭との距離を、確実に詰めていく。
それは力ではない。 “精度”で削り取るような進出。
フレイムスター【クリリン】:「ひぃぃっ! な、なんだよこれぇぇっ! 後ろからとんでもない化け物たちの気が迫ってくるぅ!」
フレイムスターが悲鳴を上げる。
背中に、圧がかかる。
見えないはずの“何か”が、 確実に距離を詰めてくる感覚。
脚を回す。さらに回す。
フレイムスター【クリリン】:(来るな……来るな来るな来るな……っ!!)
逃げても、逃げても―― その気配は、離れない。
阪神外回り。
その牙が、静かに剥かれる。
逃げ場のない、長い直線。 誤魔化しの効かない、純粋な力の勝負。
残酷なほど真っ直ぐで―― そして、どこまでも長い。
各馬の“気”が、限界まで膨れ上がる。
ぶつかり合い、軋み、 今にも弾けそうなほどに張り詰める。
そのすべてを抱えたまま――
第4コーナーが、目前に迫る。
第2章 「限界突破! 炸裂する超(スーパー)末脚! ~重いメンコを脱ぎ捨てた魔王と、坂の上で界王拳を叫ぶアホ面の馬~」
第4コーナー。
一瞬だけ―― 阪神のターフが、息を止めた。
極限まで圧縮された“気”が、 臨界点に達する。
――そして。
弾けた。
先頭集団は横一線。
蹄が芝を叩く轟音が、 地鳴りのようにコース全体を震わせる。
実質8ハロン目。
電光掲示板に叩き出された数字――
「10.8」
その瞬間、流れが“壊れた”。
緩やかだったレースが一変し、 全馬が限界を踏み越える加速へと突入する。
フレイムスター【クリリン】:「ひぇぇっ……! もう無理だよぉ! 後ろからの圧が強すぎて、目が回りそうだぁ!」
フレイムスターが、涙と汗を散らしながら叫ぶ。
脚はすでに限界。
それでも、止めない。
内ラチ沿い。 一歩でも前へ。
フレイムスター【クリリン】:(ここで止まったら……全部終わりだ……!)
意地だけで、踏みとどまる。
ローベルクランツ【ベジータ】:「フン……無様な姿を晒すな」
外から、影が覆いかぶさる。
ローベルクランツ【ベジータ】:「ここは誇り高きエリートである俺が――引き受けてやる」
一気に進出。
並ぶ。いや――
奪いに行く。
力でねじ伏せるように、 その位置を“上書き”する。
冷酷な笑みが浮かぶ。
フレイムスター【クリリン】:「見てろよ! 俺だって意地を見せて、絶対に掲示板にしがみついてやるんだからな!」
フレイムスターが、かすれる声で叫び返す。
折れない。まだ折れない。
ローベルクランツ【ベジータ】:「チッ……なら勝手にそこで砂でも噛んで這いつくばっていろ!」
ローベルクランツの声が低く響く。
ローベルクランツ【ベジータ】:「俺は――王者の走りを見せるだけだ!」
さらに踏み込む。
その一歩が、他馬とは明らかに違う。
重く、速く、そして強い。
ローベルクランツの強靭な前肢が、 フレイムスターの「太陽拳」のような粘りを――叩き潰す。
内ラチ沿いの抵抗が、崩れる。
その瞬間。
直線。
ローベルクランツが、単独先頭へと躍り出た。
(勝った……!)
確信。
(このまま誰にも前を譲らず――俺が、ナンバーワンになる!)
脚は止まらない。 むしろ、さらに伸びる。
勝利を確信したその走りは、 一瞬だけ“完成”に見えた。
――だが。
背後。
音が、違う。
カフジエメンタール【ピッコロ】:「ふん……浮き足立つな」
低く、冷えた声。
カフジエメンタール【ピッコロ】:「この直線の長さこそが――真の“精神と時の部屋”だ」
カフジエメンタール。
無理に外へは出ない。 無駄にぶつからない。
ただ――
“そこにある隙間”へと、滑り込む。
カフジエメンタール【ピッコロ】:(見える……)
カフジエメンタール【ピッコロ】:(この流れ、この位置、この呼吸)
カフジエメンタール【ピッコロ】:(すべて、計算通りだ)
魔貫光殺砲のように――一直線。
馬群のわずかな裂け目を、正確に貫く。
重く縛りつけていたものを、引きちぎるように首を伸ばし、 一気に加速。
ローベルクランツへと、迫る。
シーズザスローン【天津飯】:「四身の拳……は無理だが――四肢をフル回転させて食らいつく!」
シーズザスローンもまた、並びかける。
脚は悲鳴を上げている。 呼吸も限界。
それでも――踏む。
シーズザスローン【天津飯】:(修行が足りん……! だが――)
シーズザスローン【天津飯】:(それでも、ここで止まるわけにはいかん!)
削る。
削って、削って、なお前へ。
その走りは、もはや技ではない。 “覚悟”そのもの。
だが――
阪神外回りの直線は、甘くない。
長い。あまりにも長い。
前に出た者ほど、試される。
そして、その奥。
まだ姿を見せていない“何か”がいる。
気配だけが、膨れ上がる。
彼らの想像を、遥かに超えた――
“怪物たち”が。
ウップヘリーア【孫悟飯】:「すみません――お先に失礼します!」
その声と同時に。
ウップヘリーアの“気”が、弾けた。
ウップヘリーア【孫悟飯】:「ボクはもう……逃げたりしません!」
馬群の外。
それまで抑え込まれていた力が、一気に解放される。
脚が、伸びる。
一完歩ごとに、景色が変わる。
ウップヘリーア【孫悟飯】:(脚が……熱い……!)
ウップヘリーア【孫悟飯】:(でも――ここで諦めたら、ピッコロさんに怒られちゃうな!)
穏やかだった気配が、別物へと変わる。
静から、爆発へ。
アルティメットな末脚が、 一気に前との差を削り取る。
――だが。
その覚醒すらも、飲み込むものがいた。
空気が、裂ける。
アルトラムス【孫悟空】:「オラ、おめぇたちの脚色見て――驚いたぞ!」
声が、弾む。
楽しそうに。
アルトラムス【孫悟空】:「もっともっと――速く走ろうぜ!!」
大外。
オレンジ色の闘気を纏ったかのように――
アルトラムスが、来る。
それは、加速ではない。
“別の次元”への移行。
中団5番手。
ずっと、溜めていた。
見ていた。
待っていた。
――そして今。
すべてを解き放つ。
地面を蹴るたびに、速度が跳ね上がる。
距離の概念を無視するように、 一気に前へと迫る。
ウップヘリーアの伸びすら、 まるで止まっているかのように置き去りにする。
ローベルクランツ【ベジータ】:「ハァーッ!! このまま逃げ切ってやる!!」
ローベルクランツが、咆哮する。
ローベルクランツ【ベジータ】:「もはや俺の前に立つ者は――誰もいない!!」
筋肉が軋む。
骨が鳴る。
限界を超えた出力で、ターフを叩き砕く。
だが――
背後の“気”に、気づく。
異質。
理解不能。
(なんだ……あの気は……!?)
振り返るまでもない。
分かる。
あれは――
“常識の外”だ。
アルトラムス【孫悟空】:「よぉ、ローベルクランツ! おめぇ、すっげぇ速えな!」
声が、すぐ横で弾ける。
アルトラムス【孫悟空】:「オラ――ワクワクしてきたぞ!」
並ぶ、という概念すらない。
気づいた時には、もう“そこにいる”。
アルトラムスが、横にいた。
無邪気に笑いながら。 「な、なんだと……!?」 ローベルクランツの瞳が見開かれる。 「貴様のような下級生が……なぜ、そんな化け物みたいな末脚を残している!?」 理解が、追いつかない。 理屈が、崩壊する。
アルトラムス【孫悟空】:「よし……」 アルトラムスの表情が、わずかに引き締まる。
アルトラムス【孫悟空】:「こっからが――本当の勝負だ!」
踏み込む。
その瞬間。
“気”が、弾け飛んだ。
アルトラムス【孫悟空】:「限界突破で見せてやっぞ――」
一拍。
アルトラムス【孫悟空】:「界王拳だぁぁぁっ!!」
世界が、置き去りになる。
一完歩ごとに、距離が消える。
風が、遅れる。
景色が、歪む。
ローベルクランツの視界から、 アルトラムスの背中が――消えた。
ローベルクランツ【ベジータ】:「なぜだ……!」
叫びが、裂ける。
ローベルクランツ【ベジータ】:「なぜ、あのアホ面の馬に――届かんのだぁぁぁっ!!」
 脚は動いている。 全力で、踏んでいる。
それでも――
差は、開く。
上がり33.1秒。
それは、誰も踏み込めない領域。
限界を超えた先にある、“超”絶ストライド。
阪神の急坂など、存在しない。
重力すら、意味を持たない。
アルトラムスは――ただ前へ。
ただ、自由に。
アルトラムス【孫悟空】:(腹減ったなぁ……)
アルトラムス【孫悟空】:(ゴールしたら、飼い葉を腹いっぱい食いてぇな!)
その呑気な思考とは裏腹に。
その走りは、純粋な“暴力”となって――
前を行くすべてを、飲み込んだ。
遥か後方。
ただ一頭だけ、流れから完全に取り残された影があった。
ブリガンティン【ヤムチャ】:「な、なんだよこれ……! おかしいだろ! 狼牙風風走が不発だぞ……強風のせいか!?」
ブリガンティンが必死に脚を伸ばす。
踏んでいる。 回している。 だが――進まない。
差は、広がる一方。
ブリガンティン【ヤムチャ】:(ちょっと脚をひねったかな……いや、違う!)
ブリガンティン【ヤムチャ】:(つ、次は本気を出すから……見ててくれよな!)
最後まで前を向いたまま、 ただ一人、戦い続けていた。
歓声が――爆発する。
地鳴りのような拍手が、阪神のターフを震わせた。
先頭。
ゴール板を、最初に駆け抜けたのは――
アルトラムス。
破格の末脚。
すべてを飲み込む、圧倒的な勝利。
3/4馬身差。
2着――ローベルクランツ。
最後までその脚を緩めることなく、 誇りを貫き通した走り。
そこから、3馬身。
3着――カフジエメンタール。
無駄のない軌道。 計算し尽くされた差し。
クビ差の4着。
ウップヘリーア。
その奥底に眠る力の片鱗を、確かに刻みつけた。
そして――
逃げに逃げたフレイムスターが、意地の5着。
最後まで踏みとどまり、 掲示板にその名を刻み込む。
アルトラムス【孫悟空】:「ししし! みんな、すっげぇ強かったな!」
アルトラムスが、空を見上げて笑う。
アルトラムス【孫悟空】:「またオラと――勝負してくれよな!」
阪神の青空。
その下で響く笑い声は、どこまでも軽く、自由だった。
戦いは終わった。
だが――
その胸に残った“ワクワク”だけは、消えない。
■ 読者(競馬民)のツッコミ・レビュー掲示板
【悲報】今日の毎日杯、物理法則が仕事してない件についてwww
1. 名無しのサイヤ人 おい、アルトラムスの上がり33.1ってなんだよ。 最後の方、蹄が地面についてなかっただろ。あれ絶対舞空術使ってるって。
2. 名無しの地球人 >>1 俺も見た。ゴール直前に「界王拳!」って叫び声聞こえた気がするわ。 実況「一気に突き抜けたー!」 俺「いや、瞬間移動だろ今の」
3. 名無しの王子ファン ローベルクランツ(ベジータ)の「おのれぇぇ!」がスタンドまで聞こえてきて草。 2着なのにあの悔しがり方、完全に宿命のライバルに出会っちゃった顔してたな。
4. 名無しの緑メンコ カフジエメンタール(ピッコロ)が冷静に「魔貫光殺砲(内突き)」決めてて笑ったわ。 一人だけ競馬やってたな。周りは格闘技やってたけど。
5. 名無しのヤムチャ推し ブリガンティン……。「狼牙風風走が不発だぞ!」って言いながら 最後方で強風に煽られてる姿、様になりすぎてて涙が出てきた。 次は栽培マン(未勝利馬)に負けないでくれよ……。
6. 名無しの通りすがり これ、ラノベ化決定だろ。 タイトル『オラ、こんなに速ぇ奴と走れてワクワクすっぞ!』 ……って、そのまんますぎて草。でも全巻買うわ。
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