第一章(前半)「先行するマスコットと狙撃手の静寂(しじま)。 異常なる最速ラップ10秒6の衝撃」
阪神競馬場のターフには、甘い桜の香りが風に乗って漂っている。
しかし、ゲートに収まった乙女たちの網膜に映るのは、穏やかな春の景色ではない。 そこに展開されているのは、息の詰まるような死線にも似た、仮想現実のフィールド特有のヒリヒリとした緊張感だ。
8番――ロンギングセリーヌ(シリカ)は、ゲートの中で小刻みに震えていた。
視界の端で強豪たちのHPバーが不気味に揺れるたび、耳を伏せて縮こまる。
ロンギングセリーヌ【シリカ】:「(どうしよう、周りのみんな、レベルがすっごく高そうっす! ピナ、私に……私に勇気を!)」
極度の緊張が限界に達した瞬間、無機質な電子音(スタート・サウンド)と共に鉄の扉が開かれた。
だが、その直後。 フィールドに致命的な「バグ」が発生したかのように、外枠の馬が突如として内側へ斜行。 整然としていたばぐんが大きく波打ち、接触の衝撃と怒号が交錯する。
ロンギングセリーヌ【シリカ】:「ひゃああああっ! 当たらないでええぇぇ!」
パニックを起こしたロンギングセリーヌのステータス・バーが、恐怖で臨界点を突破した。 彼女は目を固く閉じたまま、使い魔に背中を押されるような猛烈なダッシュを繰り出し、戦場の最前線へと躍り出た。
最初の1ハロンは12秒4。 しかし、そこからたたき出された次の1ハロンは、驚愕の「10秒6」――。
それは、SAOの全記録を遡っても類を見ない、システムのエラーを疑うほどの異常な爆走だった。
ギャラボーグ【リズベット】:「ちょっと、前のチビっ子! いくらなんでもオーバークロックしすぎじゃないのっ!?」
5番――ギャラボーグ(リズベット)が、鍛錬された鋼の蹄で火花を散らしながら突っ込んでくる。
ギャラボーグ【リズベット】:「(アタシが丹精込めて鍛造(ビルド)したこの筋肉が、もう悲鳴を上げてるわ! でも、アインクラッドの職人は絶対に途中で投げ出さないんだから!)」
リズベットはギリギリと歯を食いしばり、5番手という地獄のような前線に必死に食らいつく。 そのすぐ斜め前、4番手を涼しい顔でキープする6番――アイニードユー(シノン)が、氷のような冷徹さで言い放った。
アイニードユー【シノン】:「ギャラボーグ、足音がうるさいわよ。 ……ターゲットの軌道予測がブレるじゃない」
ギャラボーグ【リズベット】:「はぁ!? あんたがちんたら『狙撃ポイント』なんて探してるから、アタシが前を掃除してやってんじゃないの!」
顔を真っ赤にして噛みつくリズベットを、シノンは視線すら合わせずに冷たくあしらう。
アイニードユー【シノン】:「不要なサービスね。 私は一撃で済ませる。 ……この狂ったラップ(ラグ)の中でもね」
ギャラボーグ【リズベット】:「掃除? ただの猪突猛進よ。 風の計算も弾道予測もできない『脳筋』な前衛は、大人しく私の射線を空けてちょうだい」
アイニードユー【シノン】は、銃身のように真っ直ぐ前を見据えたまま、一定のストライド(刻動)を狂わせない。
ギャラボーグ【リズベット】:「なんだとぉ!? アタシの自慢のハンマー(蹄)で、その澄ました頭かち割ってやろうか!」
アイニードユー【シノン】:「……心拍数が上がりすぎよ、リズ。 ここで勝手に自滅(デッド)したいなら、ご自由にどうぞ」
ギャラボーグ【リズベット】:「ムキーッ! 言わせておけば! 絶対にあんたより先に、あのゴール板(ターゲット)をぶち抜いてやるんだから!」
ギャラボーグ(リズベット)は怒りでステータスを真っ赤に染め、さらに馬体を寄せてプレッシャーをかける。
そんな狂乱の先行争いを余所に、ばぐんの中団9番手には、嵐の中心のような異質な静寂が横たわっていた。
15番――スターアニス(アスナ)。
白銀の流星を宿した馬体は、密集するばぐんの中で一切の無駄を削ぎ落とし、システムと完全に同期(リンク)したかのように折り合っている。
スターアニス【アスナ】:「(前の集団、HPゲージの消費が早すぎるわね。 ……このままなら、終盤でリソース切れを起こす。 私はここをキープよ)」
スターアニス【アスナ】:「おいお嬢ちゃん! そんな中途半端な位置で、何スカしてやがんだ!」
隣を走る馬が、挑発するように泥(ポリゴン)を跳ね上げる。
だがスターアニスは、涼やかな瞳で前方の「仮想ライン」を見据えたまま、微かに口角を上げた。
スターアニス【アスナ】:「スカしてるわけじゃないわ。 私はただ、一番確実な『攻略ルート(システム・パス)』をトレースしてるだけ」
スターアニス【アスナ】:「ケッ、エリートぶるなよ! 最後に泣きを見るのはお前だぜ!」
スターアニス【アスナ】:「……そう。 なら、その言葉、ゴールした後にそっくりそのままリザルト・パネルで返してあげるわ」
スターアニス(アスナ)が細めた瞳から冷ややかな殺気(ヘイト)を放つと、隣の馬は物理的な衝撃を受けたように怯み、舌打ちをして距離を取った。
スターアニス【アスナ】:「(無駄な小競り合いはスタミナ・リソースの浪費。 私の剣(末脚)は、最後に一度だけ――勝負を決める瞬間に振るえばいいの)」
そして、先頭から遥か後方。
他馬から見れば絶望的とも思える17番手の位置で、11番――ジッピーチューン(ユウキ)は、弾けるような満面の笑みを浮かべていた。
ジッピーチューン【ユウキ】:「あはははっ! すごいすごい! みんなすっごい速いね! 楽しいなぁ!」
ジッピーチューン【ユウキ】:「(風が気持ちいい! ボクの身体、もっともっとスピード出せそうだよ! 限界なんてどこにもないんだ!)」
全身でターフを蹴る喜びを表現し、高鳴る鼓動をリズムに変えてさいこうほうを滑走する。 その横で、7番――アランカール(リーファ)が呆れたように息を吐いた。
アランカール【リーファ】:「ちょっと、ジッピーチューン! 笑ってる場合じゃないってば、もう3コーナーだよ!? 間に合わなくなっても知らないからね!」
ジッピーチューン【ユウキ】:「平気平気! リーファも感じるでしょ? この『風の集まる感じ』!」
アランカール【リーファ】:「風……? まあ、確かに前を遮るオブジェクトがないから、空気抵抗(ドラッグ)は最小限だけど……」
アランカールが耳をピンと立て、サラマンダーの魔法騎士のごとく周囲の複雑な気流を探る。 彼女の感覚が、フィールド上に集束しつつある「勝利への奔流」を捉え始めていた。
ジッピーチューン【ユウキ】:「でしょ! ここから一気に羽ばたくんだよ! 見ててね、ボクの最高のダッシュ(ソードスキル)!」
アランカール【リーファ】:「もう、無茶ばっかりなんだから! ……でも、そういうとこ、嫌いじゃないよ。 私も一緒に行くっ!」
アランカール(リーファ)もまた、ジッピーチューンの無邪気な熱に当てられた。 空を駆けるシルフの誇りを取り戻すように、彼女は自らの脚に爆発的な推力を溜め込む。
[向正面]むこうじょうめんから第3コーナー。
前半の狂ったようなオーバーペースが嘘のように、4ハロン目から時計は11秒6、11秒5と、まるで嵐の前の静けさのように緩やかなリズムへと遷移した。
だが、その「静寂」は先頭を走るロンギングセリーヌ(シリカ)にとって、残酷な限界の宣告でもあった。 肺を焼くような呼吸が、ヒューヒューと悲鳴を上げ始める。
ロンギングセリーヌ【シリカ】:「(はぁ、はぁ……もうダメっす……HPが、完全にレッドゾーンっす……ピナ、ごめん……っ)」
視界が赤く点滅し、システムが「警告」を鳴らす。 そんな瀕死の獲物に対し、直後方でアイニードユー(シノン)が、スコープの焦点を絞り込むように瞳を細めた。
アイニードユー【シノン】:「(風速、距離、バイタルデータ……補正完了。 完璧ね。 ……そろそろ、弾(末脚)を込めるわ)」
氷のような静寂。 シノンの指先が、目に見えない引き金(トリガー)へとそっとかけられた。
ギャラボーグ(リズベット)が、限界まで負荷をかけた筋肉の軋む音を響かせ、シノンの背後から猛然と並びかける。
ギャラボーグ【リズベット】:「アタシの炉(しんぞう)の温度は今、最高潮よ! 逃げも隠れもしない、真正面から一気にたたき潰す!」
鍛造師の魂を蹄に宿し、彼女はフィールドの摩擦すら熱量に変えて加速する。
そして――。
中団で凪のように静止していたスターアニス(アスナ)が、その細くしなやかな前脚に、爆発的なエネルギーを充填した。
スターアニス【アスナ】:「(ターゲット確認……。 そろそろね。 ――システムへのアクセス権(管理者権限)、もらうわよ)」
アスナの瞳が銀色に輝いた瞬間、彼女の周囲だけがフレームレートを無視したかのように加速を開始する。
第4コーナー。
仮想現実の殻を突き破り、真実の頂点を決めるための「最終決戦(ファイナル・フェーズ)」が、今、咆哮とともに幕を開けた。
第二章(後半)「閃光と絶剣のクロッシング。 急坂を切り裂くスター・スプラッシュとマザーズ・ロザリオ」
阪神の第4コーナー。
猛烈な遠心力が、乙女たちの身体を外へ外へと弾き飛ばそうと牙を剥く。
むせ返るような青芝の匂いと、限界まで熱された汗の蒸気が混ざり合い、視界を「戦場の霧」のように覆い尽くしていた。
ロンギングセリーヌ【シリカ】:「(……足が、もう1ミリも動かないっす。 HP、完全にゼロ……リタイアっす……)」
先頭で孤独な逃走を続けていたロンギングセリーヌ(シリカ)。 その意識が、ここでついに断絶した。 白目を剥き、システムからパージされるようにズルズルと後退していく。
その横を、一筋の冷徹な瞳が通り過ぎた。
アイニードユー【シノン】:「……シリカ、お疲れ様。 あなたの作った弾道(コース)、無駄にはしないわ」
アイニードユー(シノン)が、愛銃を構えるような極限の低姿勢で直線へと向く。
アイニードユー【シノン】:「さあ、ここからは私の射程距離(レンジ)。 ……システム、フル・ブースト起動」
ギャラボーグ【リズベット】:「甘いって言ってんのよ! スナイパーが最前線でしゃしゃり出てんじゃないわよ!」
ギャラボーグ(リズベット)が、炉から溢れ出したような凄まじい熱気を放ち、内側から激しいショルダー・タックルをかます。 バチバチと鋼の蹄がぶつかり合い、仮想世界(アインクラッド)の摂理を書き換えるような火花がターフに飛び散った。
アイニードユー【シノン】:「くっ……リズ! あなた、重装甲のくせに随分と身軽じゃないの……っ!」
アイニードユー(シノン)が、激しい接触に顔をしかめながらも、卓越した体幹制御(バランサー)で姿勢を立て直す。
ギャラボーグ【リズベット】:「ハハッ! アタシの鍛え上げたビルドは伊達じゃないのよ! このまま先頭まで一気にぶち抜くわ!」
アイニードユー【シノン】:「……計算外のラグばかりね。 でも、ここからが私の真の射程(レンジ)よ」
二頭のデッドヒートが直線で激しい火花を散らし、フィールドの処理速度を奪い合う。 だが、その狂騒を嘲笑うかのように、中団に潜んでいた「静かなる影」がついにその封印を解いた。
スターアニス(アスナ)。
スターアニス【アスナ】:(……前衛のヘイト管理は完璧ね。 ここから一気に――アタッカーへスイッチするわよ)
白銀の馬体が沈み込み、次の一歩で世界のフレームレートが書き換わる。
スターアニス【アスナ】:「いくわよ……。 スター・スプラッシュ!!」
鼓膜を劈くような高周波の風切り音。 直後、おおそとから放たれた白銀の流星が、物理法則を置き去りにして突き抜けた。
上がり33秒7。
それは、仮想現実の演算(システム)すら凌駕する、文字通りの「閃光」による一閃だった。
アイニードユー【シノン】:「なっ……アスナ!? 速すぎるわ、スコープの追従(トラッキング)が追いつかない……!」
アイニードユー(シノン)が驚愕に目を見開く。 その網膜に映るスターアニスの背中は、もはやデジタルな残像の彼方へと消えかかっていた。
ギャラボーグ【リズベット】:「ウソでしょ!? あんな後方から、一瞬でアタシを置き去りにするなんて……!」
ギャラボーグ(リズベット)の、重厚なハンマーを振り下ろすような渾身の脚取りが、まるでスローモーションのように止まって見える。 それほどの速度差。
スターアニス【アスナ】:「ごめんね、二人とも! この光の先――勝利(ゴール)には、私が一番乗りよ!」
スターアニス(アスナ)が圧倒的な演算速度(トップスピード)で、瞬く間に2馬身半のセーフティ・リードを築き上げる。 もはや勝負は決した――観衆の誰もが、白銀の勝利を確信した。
だが、本当の「風」は、全ステータスを置き去りにしたさいこうほうから吹き荒れた。
ジッピーチューン【ユウキ】:「あはははっ! アスナ、ずるいよ! ボクも混ぜてよねっ!」
絶望的な17番手。 物理限界を無視した軌道。 ジッピーチューン(ユウキ)が、信じられない「飛翔」を見せて迫りくる。
ジッピーチューン【ユウキ】:(……剣の重さ、風の匂い、心臓の鼓動――全部、全部感じる! ボクは今、ここで、この瞬間、たしかに生きてるんだ!!)
彼女の背後に、紫色の巨大な11枚の翼が広がった。
スターアニスと同じ、驚異の上がり33秒7。
しかし、その一歩一歩は「閃光」の刺突とは異なる、11連撃のオリジナル・ソードスキルをたたき込むような、異次元のストライドだった。
アランカール【リーファ】:「ユウキ!? ちょっと、速すぎるってば! 私のアラン・アーツ(加速魔法)が……全然追いつかないよ!」
アランカール(リーファ)が必死に風の精霊の加護を詠唱し、大気を切り裂いて追走するが、その背中は残酷なほどに遠ざかっていく。
ジッピーチューン【ユウキ】:「リーファはそこで見てて! ボクが一番美味しいところ(勝利)、もらっちゃうからね!」
アランカール【リーファ】:「もう、勝手なんだから! ……でも、やっぱりユウキの『自由』には、誰も敵わないなぁ」
リーファが苦笑いを見せた瞬間、ジッピーチューン(ユウキ)は瞬く間に前線のアイニードユー(シノン)を射程に捉え、並びかける。
ジッピーチューン【ユウキ】:「シノン、そこどいて! ボクの剣が当たっちゃうよ!」
アイニードユー【シノン】:「……チッ、今度は絶剣(ユウキ)!? 私の弾幕(ポジショニング)を、こうも簡単に掻き潜るなんて……!」
シノンは舌打ちをしながらも、精密な演算で4着のラインを死守すべく、限界まで削れたスタミナを振り絞って粘り抜く。 だが、彼女の視界を掠めていったのは、紫の閃光が描く11の軌跡――「マザーズ・ロザリオ」の残像だった。
ジッピーチューン【ユウキ】:「あはっ、ごめんね! でも、すっごく楽しいよ、シノン!」
アイニードユー【シノン】:「……ふざけないで。 次は絶対に、その眉間に弾丸(トップスピード)をたたき込んであげるわよ」
ジッピーチューン(ユウキ)が風のようにアイニードユー(シノン)を交わし、ギャラボーグ(リズベット)の背中を捉える。 だが、あと数インチというところで、無情にもフィールドの終点――ゴール板が訪れた。
空中に鮮やかな「VICTORY」の文字が踊る。
圧倒的な光の軌跡をターフに刻みつけ、スターアニス(アスナ)が堂々の1着。
泥臭く、だが誇り高く粘り通したリズベットが2馬身半差の2着。
さいこうほうから全ユニットを抜き去る勢いで飛んできたユウキが、コンマ差の3着。
冷静に最適解を守り抜いたシノンが4着。
そして、最後まで風を纏い続けたアランカール(リーファ)が5着。
一方で、力尽きたロンギングセリーヌ(シリカ)は、18着という過酷なリザルトを抱え、システムからログアウトするように静かに膝をついた。
エピローグ【桜冠の守護者たち】 阪神競馬場の巨大スクリーンが、確定したちゃく順を「リザルト・パネル」として映し出す。
勝利したアスナは、白銀の髪をなびかせて、敗れた友たちへと静かに微笑みかけた。
スターアニス【アスナ】:「みんな、いい戦い(クエスト)だったわ。 ……でも、この桜の冠だけは、誰にも譲れなかったの」
舞い散るピンクの花びらが、消えゆくポリゴンの欠片のように夕陽にキラキラと輝く。
仮想現実と現実が交錯した「桜花賞」。
彼女たちの戦いのログは、ターフに刻まれた深い蹄跡とともに、観客たちの記憶という名のストレージに永遠に保存(セーブ)された。
エピローグ(後半)【検量室前(ログアウト後の愚痴タイム)】 検量室前。 仮想現実(フィールド)の緊張から解き放たれ、現実(リアル)へと帰還した乙女たちが集まる。
スターアニス【アスナ】:「ふぅ……なんとかクリアね。 でも、阪神のボス(坂)、意外とタフだったわ」
スターアニス(アスナ)がひたいの汗を拭いながら、晴れやかな表情で微笑む。
スターアニス【アスナ】:(ふふっ。 これでまた一つ、キリト[君]くんと一緒に住むログハウスに飾る勲章が増えたわね)
勝利の余韻に浸るアスナに、ギャラボーグ(リズベット)が頬を膨らませて詰め寄った。
ギャラボーグ【リズベット】:「ちょっとアスナ! あの末脚(ソードスキル)、いくらなんでも反則じゃないの!? アタシがコツコツ積み上げたマージンが、一瞬で台無しよ!」
スターアニス【アスナ】:「リズだって、あのシノンを相手にあんなに泥臭く粘れたじゃない。 まさに職人魂がこもった、いい鍛冶仕事(ビルド)だったわよ?」
ギャラボーグ【リズベット】:「褒められても嬉しくないわよ! ……次は、アタシのマスターメイス(自慢の脚)で、その涼しいツラをかち割ってやるんだからね!」
そこへ、ジッピーチューン(ユウキ)が重力を無視したような足取りで、満面の笑みを浮かべて飛び込んできた。
ジッピーチューン【ユウキ】:「あははっ! 面白かったー! ねえねえ、もう一回走ろうよ、今すぐにさ!」
ジッピーチューン【ユウキ】:(あと少し……あとコンマ数秒の演算(タイム)があれば、リズにも届いたのに! でも、最高にいい勝負(クエスト)だったなぁ!)
アイニードユー【シノン】:「冗談じゃないわ。 あなたの不規則な機動のせいで、私のスコープの調整が狂ったわよ。 ……次は確実に、そのひたいにヘッドショット(末脚)を決めるわ」
アイニードユー(シノン)が呆れたようにため息をつき、勝負の証である砂埃をパッパと払う。
ジッピーチューン【ユウキ】:「シノンってば、いつもクールぶってるけど、最後はすっごく必死な顔してたよ! ターゲット・ロックされて焦っちゃった?」
アイニードユー【シノン】:「……ユウキ、あなた、今すぐ私のライフルでリスポーン地点まで送られたいの?」
ジッピーチューン【ユウキ】:「あはは、弾が届く前にボクが斬り捨てちゃうもんね!」
スターアニス【アスナ】:「……二人とも、その辺にしておきなさい。 ここは神聖なセーフエリアよ。 デュエルは禁止。 」
スターアニス(アスナ)が、ギルドリーダーのような優雅なたしなめで二人を静止させた。
春の阪神競馬場――。
彼女たちの終わらないデスゲーム(青春)は、舞い散る桜吹雪と、晴れやかな笑い声と共に幕を閉じたのである。
【SAO ~阪神アインクラッドの桜冠~ 完結】
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