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『Re:ゼロから始める府中生活(ターフライフ)―京王杯の死闘―』
「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: ずんだもん」「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 春日部つむぎ」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 雨晴はう」「VOICEVOX: 冥鳴ひまり」
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五月の東京。
五月晴れの空を焼き切るような陽光が、乾いた芝の匂いを濃密に立ち上らせる。
スタンドから降り注ぐ地鳴りのような歓声は、もはや応援ではなく、喉を焼く熱を孕んだ「重圧」だ。 ゲートの中で、黒鹿毛の馬体――ワールズエンドは、小刻みな震えを抑え込めずにいた。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:(熱い、痛い、苦しい……!だけど、ここで足を止めたら、またあの地獄のような敗北を繰り返すだけだろ!)
執念という名の毒が、全身を駆け巡る。ワールズエンドは、額を伝う汗を荒々しく振り払った。 大外に近い過酷な枠順。心臓の鼓動が、まるで鐘の音のように耳の奥でガンガンと鳴り響いている。 だが、その緊張を力ずくでかき消すように、隣のゲートから「生理的な忌避感」を伴う異様な気配が漂ってきた。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「あぁ……ああああ!1番人気!これこそが!私への!寵愛!期待に応えなければ……勤勉であらねばなりませんッ!」
そこにいたのは、ファンダム。 首を真横にへし折れんばかりに傾け、血走った目で虚空を見つめながら、唾棄すべき呪文をブツブツと撒き散らしている。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「おい!お前、まさかその首の角度のまま走るつもりじゃねえだろうな?悪いが、俺の辞書に『譲る』なんて言葉はねーんだよ!」
ワールズエンドが必死の形相で睨みつけると、ファンダムは口端から泡を飛ばし、鼓膜を抉るような奇声を上げた。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「怖い?怖いとはなんですかぁ!それは!私への!勤勉さへのッ!畏怖デスカァァァ!?」
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「誰が畏怖するか!ただただ不気味なんだよ!俺の完璧なスタートの邪魔だけはするなよ、マジで!」
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「あぁ……あなた、いい執念をしていますねぇ。ですが!福音書に記された勝者は……この私デェェェェス!」
バキバキと、生物の限界を超えた音で関節を鳴らすファンダムに、ワールズエンドは顔を引きつらせた。 だが、その喧騒のわずか数馬身内側。そこには、凛とした覇気を纏い、一点の迷いもなく前を見据える「王」の姿があった。
アサカラキング【クルシュ・カルステン】:(私は王になる。誰の後塵を拝することなく、ただ一点の曇りもない先頭を突き進む。それが私の道だ)
アサカラキング――その双眸に宿るのは、高潔なまでの決意。微動だにせず、ただ己が支配すべきターフの先を見つめ、開扉の瞬間を待っていた。
ガシャン、という無機質な金属音と共に、鉄の扉が弾け飛んだ。 12秒2――平均的な入り。だが、その静寂は刹那すら持たない。 土塊が宙を舞い、猛り狂う馬群が押し寄せる。 その直後、戦慄が走った。ワールズエンドが、自らの命を削り取るような猛烈な加速を開始したのだ。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「ハァ、ハァ……っ!なんだよこのペース!殺しにきてんのかよ!?運営は俺に恨みでもあるのかッ!」
口では呪詛を吐き散らしながらも、内臓を焼き焦がすような急加速の波を自ら作り出していく。 時計は――10秒8。 最短距離という名の「針の穴」を通すべく最内へ斜めに切れ込み、文字通り強引に、先頭の座を奪い取った。 だが、その孤独な玉座へ、アサカラキングとファンダムが執拗に牙を剥く。
アサカラキング【クルシュ・カルステン】:「ワールズエンド、君の執念は認める。だが、この玉座を安売りするわけにはいかないのだ!」
アサカラキングが、王者の風格を纏った雄大なフットワークで外から圧力をかける。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「どけよ王様!今は俺が先頭なんだ!お前こそ、俺の切り開いた道から退けッ!」
アサカラキング【クルシュ・カルステン】:「不遜だな!だが、その不遜さこそが、今の私には心地よい!お前たちの挑戦、すべて正面から受け止めてやろう!」
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「話が通じねえ!どいつもこいつも俺の邪魔ばっかりしやがって……畜生、死ぬ気でついてきやがれ!」
先頭集団が殺人的なペースで主導権を奪い合う、そのすぐ後ろ。 激しく土飛沫が舞う中団の密集地帯では、悲鳴にも似た「絶望の計算」が上がっていた。
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:(待ってくださいよ!2ハロン目10秒8!?そんなの商売あがったりですよ!完全に採算割れじゃないですか!)
マイネルチケット――オットー・スーウェンは、あまりの急展開にキリキリと痛み出した胃の辺りを、前脚で抑えるようにして走っていた。
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:「ちょっと失礼!通してください!僕、これから大事な商談(ゴール)があるんです!」
少しでもロスの少ないインコースへ潜り込もうとするが、そこに逃げ場のない「筋肉の壁」が立ち塞がる。
ラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】:(『地を這う蟻が空の竜を笑う』ってな!お前らの小細工、全部この俺様の筋肉で粉砕してやるぜ!)
ラケマーダ――ガーフィール・ティンゼルが、黄金の毛並みの下で筋肉を隆起させ、鼻息荒く立ちはだかった。
ラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】:「おいおい、俺様の進路を塞ぐってのか?死にてえ奴から前に出ろ。俺様の弾力に弾き飛ばされるぜ!」
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:「そんな殺生な!譲り合いの精神ってものがないんですか、この野蛮な連中は!」
ラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】:「ああん!?俺様の高尚な格言がわかんねえのか?学がねえな!『逃げるウサギは土を食う』だ!」
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:「あーもう!わかりましたよ、行けばいいんでしょ!泥臭く走って、あとで絶対請求書回しますからねッ!」
マイネルチケットは涙目で、他馬に揉まれる過酷な外側をキープし、逆転の機を伺う。
馬群は死の入り口、3コーナーへと差し掛かる。
本来ならここで一度「息が入る」はずだが、刻まれたラップは11秒1から11秒4。
数値上はわずかに緩んだように見えて、その実、一瞬の油断も許されない高負荷の持続戦。脱落者がいつ出てもおかしくない。
その地獄の熱気から切り離されたかのような後方集団。
青い冷徹なオーラを纏う者が、氷の瞳で戦況を分析していた。
セフィロ【レム】:(最速の上がり……すべてはレムの計算通りです。ワールズエンド様が命を削って切り開いた道を、レムが完璧にトレースします)
セフィロ――レムは、前方の見苦しい喧騒を一切無視し、ただひたすらに爆発的な末脚のエネルギーを、その四肢に溜め込んでいる。
セフィロ【レム】:「ブリンカーで視界を絞っていますが……それでも、前の馬たちの醜い欲が透けて見えます。不快ですね。……消えてください」
冷ややかな独白を遮るように、すぐ横からニヤリと笑う影が重なった。
ワイドラトゥール――エキドナが、血の匂いが漂う戦場で、お茶会でも開くような優雅さで並走してきた。
ワイドラトゥール【エキドナ】:(へぇ、あそこでスローに落とさず加速を維持するんだ。君の脳内、今どういう物質が分泌されているのかしら?興味深いね)
ワイドラトゥール【エキドナ】:「ねえ、そこの君。今のコーナー、どういう心境で外に膨らんだのか、詳しく教えてくれないかな?君の『絶望のプロセス』を、ボクのコレクションに加えたいんだ」
セフィロ【レム】:「……邪魔です。ワールズエンド様の視界に、あなたのような無粋な存在が入ることは、レムが許しません。どいてください」
ワイドラトゥール【エキドナ】:「怒らないでよ。君の怒りの成分、ボクの知識欲(コレクション)に加えたいんだ。どうだい、ボクと契約して、その脚をボクに捧げないかい?最高の景色を見せてあげられると思うのだけれど」
セフィロ【レム】:「あなたのごとき魔女に、捧げるものなど何一つありません。レムのこの脚は――あの方の背中を追い、支えるためだけに存在するのですから」
セフィロは氷のような言葉でピシャリと撥ね退け、さらに深く、魂を研ぎ澄ますように呼吸を沈めた。
前方では、いまだワールズエンドが内ラチ沿いの「絶対領域」を死守している。
しかし、そのすぐ外側に張り付くファンダムの挙動に、決定的な狂いが生じ始めていた。
ハイペースでの外回しという過酷な距離ロス、そして急加速の代償が、呪いのように彼の肉体を蝕み始めていたのだ。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「指が、足りない……!1400メートルを走りきるための、見えざる手(末脚)が、あまりにも足りないのですよぉ!」
ファンダムは涎を撒き散らし、自らの歯を砕かんばかりにギリギリと鳴らす。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:(計算外……。福音書の記述と違う……。脚が、動かない……?怠惰……怠惰ですねぇ、私ッ!これでは、あの方に合わせる顔がぁ……あああああッ!)
「寵愛」を失いかけた狂信者の絶叫が、ターフに虚しく響き渡る。
3コーナーの中間地点。
最短距離を強欲に貪り、内をロスなく進むワールズエンド。
外で吹き付ける風と重圧(プレッシャー)を一身に受け続ける、ファンダムとアサカラキング。
胃を焼く苦痛に耐え、血反吐を吐く思いで中団に潜むマイネルチケット。
そして――最後方、嵐の前の静寂の中で「大外一気」の刃を研ぎ澄ますセフィロ。
誰一人として安息を許されない、極限の耐久戦。
地獄の釜の蓋が開く「最終4コーナー」が、すぐ目の前まで迫っていた。
地鳴りのような大歓声が空気を震わせ、足元の芝が生き物のようにうねり始める。
運命を分ける第4コーナー。ここでレースという名の獣が、その鋭利な牙を剥いた。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:(ここで抜かれたら、全部終わりだ……!内ラチ沿いだけは、死んでも誰にも譲らねえッ!)
ワールズエンドは、肺を焼く灼熱の痛みに耐え、遠心力に抗いながら最内を回る。
ペースは全く落ちない。いや、落ちるどころか――掲示板に刻まれるラップは11秒0、10秒9。
ここにきて、世界を突き放すような狂気じみた再加速が開始されたのだ。
それはまさに、心臓が爆ぜるたびに「死」と「再生」を繰り返すような、終わりのない地獄の行軍。ワールズエンドの眼前に、府中・五百二十五メートルの「審判の直線」が広がった。
その直後、無謀なまでの「寵愛」を求めて早すぎる勝負に出たファンダムの肉体が、ついに悲鳴を上げた。
終始外を回らされた致命的な距離ロスと、前半の過負荷という名の「報い」が、完全に彼の脚を止める。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「あああああ!噛み合わない!歯車がぁ!噛み合わないのデェェェス!!」
ファンダムは白目を剥き、生物学的にあり得ない角度で首を振り回しながら、絶叫をターフに撒き散らす。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「うわっ、こっち見んな!怖いんだよ!そのまま大人しく下がってろ!」
ワールズエンドが顔を引きつらせて怒鳴りつけると、ファンダムは血の涙を流さんばかりの形相で、震える指を彼へ突き出した。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「なんという……なんという屈辱!私を置いていくというのですかぁ!?あなた、怠惰……怠惰ですねぇぇぇぇッ!!」
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「俺のどこが怠惰なんだよ!こっちは死ぬ気で心臓叩き起こして走ってんだろがッ!」
ワールズエンドの怒声を置き去りに、狂信者は力なく、泥濘のような後方へと沈んでいった。
そのすぐ横で、アサカラキングもまた、静かに己の限界を悟ろうとしていた。
アサカラキング【クルシュ・カルステン】:「……ブリンカーの奥で、己の弱さが顔を出す。だが、私はそれを許さない。王は常に孤独で、そして強くあるべきだ」
肺を焼くような荒い息を吐きながらも、その走法はどこまでも高潔で、凛烈な美しさを保っている。
アサカラキング【クルシュ・カルステン】:(……ここまでか。だが、悔いはない。私の走りは、確かにこのターフに――王の道として刻まれた)
前方の壁が瓦解し始めた中団では、地獄の進路取り争いが勃発していた。
ラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】:(ハッ、4着か。……まあ、『転んだ石が山を作る』とも言うしな。次は俺様が一番上だ!)
ラケマーダ――ガーフィールは、内側から力任せに前をこじ開けようと、その黄金の肩甲骨を躍動させる。しかし、失速した馬たちが牙城となり、ほんの一瞬、その爆発的な歩法に急ブレーキをかけさせられた。
ラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】:「おいおい、俺様の進路を塞ぐってのか?死にてえ奴から前に出ろ。俺様の弾力に弾き飛ばされるぜッ!」
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:「ちょっと待って!ぶつかりますって!少しは頭を使って、期待値を計算して走ってください!」 その猛り狂う筋肉の隙間から、涙目のマイネルチケット――オットーが割り込むように抗議した。
ラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】:「ああん!?俺様の高尚な格言がわかんねえのか?学がねえな!とにかくどけ!俺様が通る道が、そのまま勝利への道なんだよ!」
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:「もう!やっぱり最後は僕が泥を被って、全部押し付けられるわけですか!覚えてなさいよッ!」
マイネルチケットは毒づきながらも、瞬時に「最速の回収ルート」を見定める。巧みに外へと舵を切り、他馬の干渉を受けないクリアな進路へ躍り出た。
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:(ここでインを突けば……いや、リスクが大きすぎます。ここは着実に外から損を拾わず、次への投資(3着)を確定させましょう……!)
商人としての冷徹な算盤が、彼の四肢から長く、粘り強い末脚を引き出していく。
だが、その狂騒のすべてを大外から飲み込むような、凄絶なまでの「青い殺気」が迫っていた。
セフィロ【レム】:(アタマ差……。いいえ、これはワールズエンド様がレムに、『もっと頑張れ』と言ってくださっているのですね)
セフィロ――レムだ。
四コーナー、彼女は群れを成す凡百の馬たちを見捨て、完全に視界の開けた大外へと進路を叩き出した。
前半の激流を最後方で静かにやり過ごし、心臓の奥底に溜めに溜め込んだ莫大なエネルギー。それが今、上がり3ハロン32秒6という、理を外れた「鬼がかった末脚」となって爆発する。
セフィロ【レム】:「ワールズエンド様!レムはここです!あなたの背中を追いかけて、ここまで来ました!」
恐ろしいまでの加速で、まるで止まっているかのような他馬をごぼう抜きにしながら、彼女は歓喜に声を震わせる。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「くるな!今は余裕ねーんだよ!俺は……俺は絶対に、一番高いところでアイツに笑って見せなきゃなんねーんだよッ!」
ワールズエンドは肺が爆ぜる一歩手前で、必死に首を前に突き出し、届かぬ女神への執念を燃やす。
セフィロ【レム】:「そんなに照れなくても大丈夫です。レムが後ろから、あなたのすべてを肯定して差し上げますから」
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「照れてねえ!ガチで怖えんだよその目は!くるな、まだくるなァ!」
セフィロ【レム】:「さあ、覚悟してください。レムの鬼がかった末脚……ご堪能あれ」
残り100メートル。
内で魂を削り、泥臭い粘り腰を見せるワールズエンド。
外から鬼の気迫を纏い、愛の重さで世界を蹂躙するセフィロ。
二頭の積み上げた時間が、意地と意地が、火花を散らして衝突し――。
並んで飛び込んだ、一瞬の静寂の先にあるゴール板。
僅かに、本当に僅かに――ワールズエンドの鼻面が、残酷なまでの勝負の世界を制していた。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「……ふぅ、勝った。勝ったんだな……。見てろよ、俺が最高に格好いいところ、世界に見せつけてやったからな……!」
ワールズエンドは四肢の感覚を失い、膝から崩れ落ちそうになりながらも、歓喜混じりの荒い息を吐き出す。
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:(俺を選べ、運命!俺だけが、お前を……一番高い表彰台へ連れて行ってやれるんだからな!)
だが、勝利の余韻という名の聖域をぶち壊すように、後方から不気味な絶叫が響き渡った。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「ッ!クソッ、砂が目に……!誰だよ今、俺の輝かしいキャリア(福音書)に泥を投げたデカブツはぁぁぁ!」
泡を吹いて悶絶し、地を転がるファンダムが、目を血走らせてワールズエンドを呪わしく指差す。そのあまりの形相にワールズエンドが顔を引きつらせていると、隣に並んだセフィロが、心底不快そうに氷の言葉を投げつけた。
セフィロ【レム】:「……邪魔です。ワールズエンド様の視界に、あなたのような無粋な存在が入り込むこと、レムが許しません。……消えてください」
ワールズエンド【ナツキ・スバル】:「いや、お前が一番怖いんだよ!その執念深さ、どうにかしろ!」
セフィロ【レム】:「いいえ、ワールズエンド様。これこそが、レムの愛の形ですから」
五月の東京、騒乱と狂気。そして英雄の帰還。
ワールズエンドの物語は、この喧騒と共に、また新しいページを捲り始めた。
ワールズエンドとセフィロが演じた死闘の熱を追うように、少し遅れて入線したマイネルチケットは、ゴールを過ぎるなり芝に突っ伏した。
マイネルチケット【オットー・スーウェン】:「あいたた……。また胃がキリキリしてきましたよ。僕、平和に回ってきたいだけなんですけどねぇ。もう、どいつもこいつも脳筋ばっかりで……。誰がこのレースの収支を、損益分岐点を計算していると思ってるんですか!」
泥にまみれた算盤を弾くような独白。その横を、怒り心頭のラケマーダが地響きを立てて通り過ぎる。
ラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】:「暑苦しいんだよ!俺様のゴールドな毛並みに汗を飛ばすんじゃねえ!器が狭いって言われんぞ、おぉん!?」
黄金の毛並みを逆立てて吠える「盾」の横を、さらに遥か後方、幽鬼のような足取りでゴール板を通過する影があった。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「指が、足りない……!1400メートルを走りきるための、見えざる手(末脚)が、あまりにも、あまりにも足りないのですよぉ!」
ファンダムは、完全に焦点の合わない目で、もはや手の届かなくなった五月の青天を仰ぐ。
ファンダム【ペテルギウス・ロマネコンティ】:「ああああ……怠惰……怠惰ですねぇぇ……ッ!」
熱狂と狂気、そして消えない胃痛が入り混じる東京のターフ。
残酷なまでの持続力勝負は、こうして一人の少年の「執念」が、「運命」を僅かに凌駕するという形で幕を閉じた。
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【1着】ワールズエンド(牡5) 【イメージ:ナツキ・スバル】 【2着】セフィロ(牝6) 【イメージ:レム】 【3着】マイネルチケット(牡4) 【イメージ:オットー・スーウェン】 【4着】ラケマーダ(牡6) 【イメージ:ガーフィール・ティンゼル】 【8着】ファンダム(牡4・1番人気) 【イメージ:ペテルギウス・ロマネコンティ】 【逃げ馬】アサカラキング(牡6) 【イメージ:クルシュ・カルステン】 【牝馬枠】ワイドラトゥール(牝5) 【イメージ:エキドナ】
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『Re:ゼロから始める府中生活(ターフライフ)―京王杯の死闘―』ラノベ版 プロローグ:五月の陽光と死の予感
五月の東京競馬場。 五月晴れの空を焼き切るような陽光が、乾いた芝の匂いを濃密に立ち上らせる。 スタンドから降り注ぐ地鳴りのような歓声は、もはや応援ではなく、喉を焼く熱を孕んだ「重圧」そのものだ。
ゲートの中で、黒鹿毛の馬体――ワールズエンドは、小刻みな震えを抑え込めずにいた。
> ワールズエンド【ナツキ・スバル】: > (熱い、痛い、苦しい……! だけど、ここで足を止めたら、またあの地獄のような敗北を繰り返すだけだろ!)
執念という名の毒が、全身を駆け巡る。 大外に近い過酷な枠順。心臓の鼓動が、まるで鐘の音のように耳の奥でガンガンと鳴り響いている。 だが、その緊張を力ずくでかき消すように、隣のゲートから「生理的な忌避感」を伴う異様な気配が漂ってきた。
「あぁ……ああああ! 1番人気! これこそが! 私への! 寵愛! 期待に応えなければ……勤勉であらねばなりませんッ!」
そこにいたのは、ファンダム。 首を真横にへし折れんばかりに傾け、血走った目で虚空を見つめながら、唾棄すべき呪文をブツブツと撒き散らしている。
「おい! お前、まさかその首の角度のまま走るつもりじゃねえだろうな?」
ワールズエンドが必死の形相で睨みつけると、ファンダムは口端から泡を飛ばし、鼓膜を抉るような奇声を上げた。
「怖い? 怖いとはなんですかぁ! それは! 私への! 勤勉さへのッ! 畏怖デスカァァァ!?」
「誰が畏怖するか! ただただ不気味なんだよ!」
その喧騒のわずか数馬身内側。 そこには、凛とした覇気を纏い、一点の迷いもなく前を見据える「王」の姿があった。
アサカラキング【クルシュ・カルステン】。 その双眸に宿るのは、高潔なまでの決意。彼女はただ己が支配すべきターフの先を見つめ、開扉の瞬間を待っていた。
第一章:十秒八の断頭台
ガシャン! という無機質な金属音と共に、鉄の扉が弾け飛んだ。
最初の1ハロンは12秒2。平均的な入り――だが、その静寂は刹那すら持たない。 土塊が宙を舞い、猛り狂う馬群が押し寄せる。その直後、戦慄が走った。 ワールズエンドが、自らの命を削り取るような猛烈な加速を開始したのだ。
> ワールズエンド【ナツキ・スバル】: > 「ハァ、ハァ……っ! なんだよこのペース! 殺しにきてんのかよ! 運営は俺に恨みでもあるのかッ!」
口では呪詛を吐き散らしながらも、内臓を焼き焦がすような急加速の波を自ら作り出していく。 時計は――10秒8。 最短距離という名の「針の穴」を通すべく最内へ斜めに切れ込み、文字通り強引に、先頭の座を奪い取った。
「ワールズエンド、君の執念は認める。だが、この玉座を安売りするわけにはいかないのだ!」
アサカラキングが、王者の風格を纏った雄大なフットワークで外から圧力をかける。
「どけよ王様! 今は俺が先頭なんだ!」
「不遜だな! だが、その不遜さこそが、今の私には心地よい!」
先頭集団が殺人的なペースで主導権を奪い合う、そのすぐ後ろ。 中団の密集地帯では、悲鳴にも似た「絶望の計算」が上がっていた。
「待ってくださいよ! 2ハロン目10秒8!? 完全に採算割れじゃないですか!」
マイネルチケット【オットー・スーウェン】は、キリキリと痛み出した胃を抑えるようにして走っていた。
「ちょっと失礼! 僕、これから大事な商談(ゴール)があるんです!」
「『地を這う蟻が空の竜を笑う』ってな! お前らの小細工、全部この俺様の筋肉で粉砕してやるぜ!」
黄金の筋肉を隆起させたラケマーダ【ガーフィール・ティンゼル】が、鼻息荒く立ちはだかる。
「あーもう! わかりましたよ! 泥臭く走って、あとで絶対請求書回しますからねッ!」
第二章:青き殺気と魔女の囁き
馬群は死の入り口、3コーナーへと差し掛かる。 本来ならここで息が入るはずだが、ラップは11秒1から11秒4。一瞬の油断も許されない高負荷の持続戦。
その地獄の熱気から切り離されたかのような後方集団。 青い冷徹なオーラを纏う者が、氷の瞳で戦況を分析していた。
「最速の上がり……すべてはレムの計算通りです。ワールズエンド様が命を削って切り開いた道を、レムが完璧にトレースします」
セフィロ【レム】。 彼女は前方の喧騒を一切無視し、爆発的なエネルギーを四肢に溜め込んでいる。
「……消えてください」
冷ややかな独白を遮るように、すぐ横からニヤリと笑う影が重なった。 ワイドラトゥール【エキドナ】が、お茶会でも開くような優雅さで並走してきたのだ。
「へぇ、あそこで加速を維持するんだ。君の『絶望のプロセス』を、ボクのコレクションに加えたいね」
「……邪魔です。あなたのような無粋な存在がワールズエンド様の視界に入ることを、レムが許しません」
セフィロは氷のような言葉で撥ね退け、さらに深く、魂を研ぎ澄ますように呼吸を沈めた。
一方、先頭付近では、ファンダムの挙動に決定的な狂いが生じ始めていた。
「指が、足りない……! 1400メートルを走りきるための、見えざる手(末脚)が、あまりにも足りないのですよぉ!」
ファンダムは涎を撒き散らし、自らの歯を砕かんばかりにギリギリと鳴らす。
「怠惰……怠惰ですねぇ、私ッ! これでは、あの方に合わせる顔がぁ……あああああッ!」
第三章:審判の直線、鬼がかった末脚
地鳴りのような大歓声が空気を震わせ、足元の芝が生き物のようにうねり始める。 運命を分ける第4コーナー。
「ここで抜かれたら、全部終わりだ……! 内ラチ沿いだけは、死んでも誰にも譲らねえッ!」
ワールズエンドは遠心力に抗いながら最内を回る。 ペースは落ちない。いや、掲示板に刻まれるラップは11秒0、10秒9。 世界を突き放すような、狂気じみた再加速。
「あああああ! 噛み合わない! 歯車がぁ! 噛み合わないのデェェェス!!」
外を回らされたファンダムが、絶叫と共に泥濘のような後方へと沈んでいく。 その横で、アサカラキングもまた、静かに己の限界を悟っていた。
「……ここまでか。だが、悔いはない。私の走りは、確かにこのターフに刻まれた」
前方の壁が瓦解し始めたその時。 すべてを大外から飲み込むような、凄絶なまでの「青い殺気」が迫る。
> セフィロ【レム】: > 「ワールズエンド様! レムはここです! あなたの背中を追いかけて、ここまで来ました!」
上がり3ハロン32秒6。 理を外れた「鬼がかった末脚」が爆発する。止まっているかのような他馬をごぼう抜きにしながら、彼女は歓喜に声を震わせる。
「くるな! 今は余裕ねーんだよ! 俺は……俺は絶対に、一番高いところでアイツに笑って見せなきゃなんねーんだよッ!」
「そんなに照れなくても大丈夫です。レムが後ろから、あなたのすべてを肯定して差し上げますから」
「照れてねえ! ガチで怖えんだよその目は!」
残り100メートル。 内で魂を削るワールズエンド。 外から愛の重さで世界を蹂躙するセフィロ。
二頭の意地と執念が火花を散らして衝突し――。 並んで飛び込んだ、一瞬の静寂の先にあるゴール板。
僅かに、本当に僅かに――ワールズエンドの鼻面が、残酷なまでの勝負の世界を制していた。
エピローグ:英雄の帰還と消えない胃痛
「……ふぅ、勝った。勝ったんだな……」
ワールズエンドは四肢の感覚を失い、膝から崩れ落ちそうになりながらも、歓喜の息を吐き出す。
「見てろよ、俺が最高に格好いいところ、世界に見せつけてやったからな……! 俺を選べ、運命!」
だが、勝利の余韻をぶち壊すように、後方から幽鬼のような絶叫が響いた。
「指が、足りない……! ああああ……怠惰……怠惰ですねぇぇ……ッ!」
泡を吹いて悶絶するファンダム。 その後ろで、泥にまみれたマイネルチケットが芝に突っ伏している。
「あいたた……。また胃がキリキリしてきましたよ。誰がこのレースの損益分岐点を計算していると思ってるんですか!」
熱狂と狂気、そして消えない胃痛が入り混じる府中のターフ。 残酷なまでの持続力勝負は、一人の少年の「執念」が「運命」を僅かに凌駕するという形で、その幕を閉じた。
ワールズエンドの物語は、この喧騒と共に、また新しいページを捲り始める。
(完)
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