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神宮寺教授の秘密講義 キーンランドカップ(前編)
「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: もち子さん」「VOICEVOX: 満別花丸」
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第1章『過酷なサバイバルと、 最初に消去される六つの残滓』
蝉時雨が分厚いガラス窓をけたたましく叩く、 真夏の鳴門。
冷房がキンキンに効いた研究室の片隅で、 若葉は目元にハンカチを押し当て、 ズビズビと鼻を鳴らしていた。
若葉:「うっ、 ううっ……なぎさちゃんたち、 ほんまに泥の海を生き抜いて、 よう頑張りましたわ……! 秋の焼き芋パフェの建国、 うちも全力で支持しますぅ……!」
神宮寺教授:「ふふっ、 見事なエンディング(正常終了)だったわよ、 若葉」
神宮寺教授は、 ゆったりとしたオフィスチェアに深く腰掛けたまま、 琉球ガラスのマグカップを傾けた。
神宮寺教授:「絶望の泥の海から、 自らの意志と体温で『365日の祝祭』という未来をリペアしてみせた。 あの過酷なサバイバルの着地として、 これ以上ないほど美しいカタルシスね」
佐倉助手:「ええ。 生存基準法違反ギリギリの環境から、 海洋生態系の回復(魚釣り)まで到達した生存プロセスは、 非常に論理的かつ感動的でした」
佐倉助手が、 使い込まれたThinkPadのキーボードに指を添えながら、 静かな声で言葉を継ぐ。
佐倉助手:「ですが若葉さん。 あなたが涙を流して感動している間に、 こちらの『生存競争』もすでに実行(デプロイ)の準備に入っていますよ」
佐倉のノートパソコンから、 メインの4Kモニターへズラリと並んだ十六頭の馬柱データが転送された。
若葉:「おおっ! いよいよキーンランドカップですね! 札幌の芝1200メートル、 息つく暇もない電撃戦ですやん!」
若葉が慌てて涙を拭い、 特製ノートと赤ペンを構える。
神宮寺教授:(札幌の1200メートル。 ただのスピード勝負じゃないわ。 今回は外枠に前へ行きたい馬が固まったことで、 序盤のポジション争いが極めて過酷な激流(オーバーペース)になる。 基礎体力を持たない個体は、 なぎさたちのように絶望の海を生き抜く強靭さがない限り、 絶対に生き残れないわ)
神宮寺教授はマグカップをコトリと置き、 白衣を翻してホワイトボードの前へ歩み出た。
神宮寺教授:「第一段階のスクリーニングを開始するわ。 重賞レベルの基礎スピードが物理的に不足している馬、 勝負への意志(気配)が薄い馬、 そして展開の罠に致命的にハマる馬。 ……この六頭を、 容赦なくパージ(削除)するわよ」
若葉:「六頭も一気に!? どの馬を消すんです?」
若葉がパイプ椅子から身を乗り出す。
神宮寺教授:「まずは、 ⑦マイネルジェロディと⑥ジョーメッドヴィンよ」
教授の真紅のマーカーが、 キュッと音を立てて二つの名前に斜線を引く。
若葉:「ええっ? どっちも穴馬として一発ありそうな雰囲気ちゃいます?」
佐倉助手:「いいえ、 客観的数値がそれを完全に否定しています」
佐倉が眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、 冷徹な声でデータを読み上げた。
佐倉助手:「⑦マイネルジェロディの基本能力値は『47.7』。 これは16頭中でダントツの最下位です。 重賞メンバーに入ると、 純粋なスピード能力で物理的に足りません」
佐倉はさらにウィンドウを切り替える。
佐倉助手:「⑥ジョーメッドヴィンも能力値が下から二番目。 展開が向いたとしても、 上位陣の決め脚と比べると歴然とした差があり、 差し比べになれば確実に競り負けます」
若葉:「うわぁ……エンジンそのものの排気量が全然足りてへんのや……」
若葉が唸りながら、 ノートの二頭にバツ印を書き込んだ。
神宮寺教授:「続いて、 ⑫レッドアヴァンティと⑨イツモニコニコもシステムから除外するわ」
教授が振り返り、 妖しく微笑む。
若葉:「イツモニコニコちゃん、 名前はめっちゃ可愛いのに! なんでアカンですか?」
神宮寺教授:「名前の愛らしさでゴール板を駆け抜けられるほど、 競馬の物理法則は甘くないわ。 この馬は陣営の『勝負気配スコア』がメンバー中最低の56点なの」
神宮寺教授が肩をすくめる。
神宮寺教授:「前走から間隔が詰まっていて、 重賞に向けて照準を合わせた調整強化が読み取れないわ。 『使いながら状態を保つ』現状維持の域を出ていないのよ」
佐倉助手:「⑫レッドアヴァンティも同様です」
佐倉が淀みなく補足する。
佐倉助手:「先行力が極端に低く、 ほぼ確実に後方へ置かれます。 さらに勝負気配評価において、 最終段階で馬体に気になる様子があるとのエラーログも検出されており、 後方から物理的に届かない位置でレースを終える確率が高いです」
若葉:「やる気(勝負気配)もなくて、 ポジションも絶望的……。 そりゃあ、 いくら可愛くても即デリートですわ」
若葉が深く納得したように頷く。
神宮寺教授:「そして最後。 この激流の『完全な犠牲者』となる二頭よ。 ⑯ロードフォアエースと⑤ゾンニッヒを消去しなさい」
真紅のマーカーが、 力強くホワイトボードを叩く。
若葉:「ちょっと待ってください! ロードフォアエースは前に行けるし、 ゾンニッヒは後ろから差してくるから、 どっちかは展開が向くんちゃいますの!?」
若葉が両手を広げて抗議のポーズをとる。
神宮寺教授:「甘いわね、 若葉。 戦術の表面(UI)しか見えていないわ」
教授が切れ長の瞳を細め、 モニターの枠順表を指差した。
神宮寺教授:「⑯ロードフォアエースは『大外16番枠』に入ってしまったの。 内にウインカーネリアンやエイシンディードといった強力な先行馬がズラリと並んでいるわ。 外からポジションを取りに行くには、 相当なスタミナ(脚)を浪費させられるのよ」
佐倉助手:「中一週で大幅な上積みがない状態では、 その展開負荷を跳ね返して粘り込む基礎体力を有していません」
佐倉が冷ややかに言い放つ。
佐倉助手:「そして⑤ゾンニッヒは、 先行激化で展開が向いたとしても、 決め脚の指数が『74.4』。 同型のダノンマッキンリーやパンジャタワーといった本物の鬼脚を持つ上位陣に、 さらに後ろから確実に撫で斬りにされます」
若葉:「なるほど……! 自分の力で良い位置を取れんし、 後ろで待ってても自分より速いバケモノにおいしいトコ全部持っていかれるんや!」
若葉がポンと手を打った。
神宮寺教授:「その通りよ。 絶対的な基礎能力不足、 勝負への意志の欠如、 そして過酷な展開と枠順の逆風」
神宮寺教授はマーカーのキャップをカチリと閉め、 不敵な笑みを浮かべた。
神宮寺教授:「これらを抱えた六頭(⑦、 ⑥、 ⑫、 ⑨、 ⑯、 ⑤)は、 札幌1200mという過酷なサバイバルを生き残る資格を持たないわ。 さあ、 残る十頭からさらにノイズを削ぎ落とすわよ。 ……次の階層(第2章)へ進む準備はいいかしら?」
第2章『激流の代償と、 駆逐される五つの残響』
ブラインドの隙間から差し込む真夏の西日が、 ホワイトボードに書かれた十頭の馬名を赤く染め上げている。
若葉は、 エアコンの冷風を真正面から浴びながら、 特製ノートのリストを食い入るように見つめていた。
若葉:「ふぅ……これで六頭消えて、 残るは十頭。 能力も高くて勝負気配もある、 強そうな馬ばっかり残りましたやん!」
若葉がペンのお尻で頭をコツコツと叩く。
若葉:「ここからさらに五頭も削るんですか? なぎさちゃんたちがガラクタの中から使える部品を探し出すみたいに、 めっちゃシビアな選別になりそうですわ……」
神宮寺教授:「ええ。 残った彼らは間違いなく実力者よ」
神宮寺教授は、 デスクの角に優雅に腰掛けたまま、 真紅のレーザーポインターを指先で弄んだ。
神宮寺教授:「けれど、 ここは『小回り・短い直線の札幌1200m』。 そして今回は、 強力な同型馬が多数揃ったことによる『オーバーペース(先行激化)』という明確な罠が口を開けて待っているわ。 ……この物理的条件と展開の残酷なフィルターにかけて、 さらに五頭をシステムから排除するのよ」
教授がポインターのスイッチを入れ、 真っ先に一頭の馬体を照射した。
神宮寺教授:「まずは、 ⑬ロジケープよ」
若葉:「ええっ!? ロジケープちゃん、 近走連勝中でめっちゃ勢いありますやん! 勝負気配も高めやってデータに出てましたよ?」
若葉が慌てて出走表を指差す。
佐倉助手:「気配の良さだけでは跳ね返せない『格と基礎スピードの壁』が存在するのよ、 若葉さん」
佐倉助手が、 タイピングの手を止めることなく無機質な声で解説する。
佐倉助手:「ベースとなる基礎能力値が『60.5』。 これは残る10頭の中で最低の数値です。 好位・中団から抜け出すには先行馬を差し切るだけの重賞級のスピードが必要ですが、 先行力も決め脚も平凡な数値を記録しています」
若葉:「うわぁ……。 頑張って生きてきたけど、 重賞っていう絶対的なシステム(壁)の前では、 根本的なスペック不足で弾かれてまうんやね」
若葉が、 少しだけ悲しそうにノートのロジケープに斜線を引いた。
神宮寺教授:「次に消去するのは、 ⑭サウンドモリアーナよ」
教授の冷徹な声が続く。
神宮寺教授:「武豊騎手への乗り替わりや勝負気配は不気味だけれど、 彼女はデータ構造上、 最も展開の罠にハマる危険性が高い個体よ」
若葉:「展開の罠……?」
神宮寺教授:「ええ。 先行力は高いけれど、 決め脚が『33.5』と出走馬中ワーストクラスなの。 外枠側に強力な同型馬がいて間違いなく先行争いが激化する中、 息の入らない展開になれば……この決め脚の無さでは、 直線で確実に失速するわ」
教授が、 両手で作った波がパシャリと崩れるようなジェスチャーを見せた。
若葉:「ああっ! まるで、 限界まで酷使された古いバッテリー(体力)が、 プツンって切れて動かんくなるみたいに!」
佐倉助手:「……独特な表現ですが、 本質的にはその通りです」
佐倉がわずかに眉をひそめつつ同意する。
佐倉助手:「さらに、 ⑪リラエンブレムもここでパージします。 ルメール騎手への乗り替わりで人気を集める要素は揃っていますが、 今回は大幅な距離短縮戦。 札幌1200m特有のテンの速さ、 特に今回の激流のペースに追走で苦労し、 脚を削られて見せ場なく終わるリスクが期待値を上回ります」
神宮寺教授:(ルメール騎手という強力なパッチ(修正プログラム)を当てても、 元のシステムの適性がズレていれば、 このスプリントの激流は乗りこなせないわ)
若葉:「なるほど! 距離が短なったら、 走るリズムも全然変わってまうってコトやね」
若葉がウンウンと大きく頷く。
神宮寺教授:「さあ、 いよいよ大物のデバッグ(削除)よ」
神宮寺教授がホワイトボードの前に立ち、 二頭の有力馬の名前をマーカーで力強く丸く囲んだ。
神宮寺教授:「⑩ダノンマッキンリーと、 ⑧ウインカーネリアン。 この二頭も消去よ」
若葉:「ええええええっ!?」
若葉が今日一番の特大の悲鳴を上げた。
若葉:「ダノンマッキンリーちゃんは決め脚すごいし、 ウインカーネリアンちゃんは先行力トップちゃいますの!? どっちかは絶対に来るパターンやん!」
神宮寺教授:「若葉、 あなたはまだ『コース形態』という絶対的な物理法則を理解していないわね」
教授がマーカーのキャップを外し、 ダノンマッキンリーの名前にバツ印を書き込んだ。
神宮寺教授:「ダノンマッキンリーは展開の恩恵は大きいけれど、 札幌の短い直線では『位置取り』が命なの。 彼の先行力は極端に低く、 道中で確実に置かれるわ。 物理的に『届かない』可能性が極めて高いのよ」
若葉:「ほな、 ウインカーネリアンちゃんは!? 前に行けるから大丈夫でしょ!」
佐倉助手:「彼こそが、 今回の『オーバーペースの最大の標的』になる危険な人気馬です」
佐倉が、 氷のように冷たい声でトドメを刺す。
佐倉助手:「外側にエイシンディードなどの同型がおり、 自分のペースで逃げ・先行ができない可能性が高い。 決め脚が低いため競り合いになれば脆く、 さらに20週の休養明けの9歳馬。 ……この激しい展開負荷に、 最後まで耐え切る底力に疑問符が付きます」
若葉:「9歳のお爺ちゃん馬が、 若いもんの激しいポジション争いに巻き込まれて息切れする……! ううっ、 休ませてあげてーっ!」
若葉が両手で顔を覆い、 見えないウインカーネリアンに向かって泣き真似をした。
神宮寺教授:「……これで、 第2段階のスクリーニングは完了よ」
神宮寺教授は、 真っ赤な斜線で埋め尽くされたホワイトボードを満足そうに見つめた。
神宮寺教授:「純粋なスピードの限界、 激流への適性不安、 コース形態との致命的な不一致、 そしてオーバーペースの犠牲者。 ……すべてのノイズを弾き出し、 私たちの手元には、 この過酷なサバイバルを勝ち抜く『精鋭5頭』だけが残ったわ」
教授は振り返り、 最高に知的で傲岸な笑みを教え子たちへ投げかける。
神宮寺教授:「さあ、 この5頭に最終的な役割(印)を与えていくわよ。 ……次の階層(第3章)へ進む準備はいいかしら?」
第3章『絶対的安定感の証明と、 激流を制する五頭の陣形』
研究室の大型モニターには、 過酷な二段階のスクリーニングを生き残った『精鋭5頭』のデータが、 静かに、 しかし圧倒的な熱量を秘めて輝いていた。
若葉:「ふぅぅ……これでついに、 うちらのドリームチームが完成したんですね!」
若葉が特製ノートを両手でバンッと叩き、 目を輝かせる。
若葉:「③パンジャタワー、 ⑮エイシンディード、 ④エーティーマクフィ、 ①ナムラクララ、 ②ルシード。 ……この五頭から、 どうやって絶対的な本命(ROOT)を決めるんですか?」
神宮寺教授:「重要なのは『どんな状況でも3着以内に食い込む絶対的な安定感』よ」
神宮寺教授は、 琉球ガラスのマグカップを置き、 白衣のポケットから真紅のマーカーを取り出した。
神宮寺教授:「今回のキーンランドカップは、 外枠の先行馬たちが作り出す『激流(オーバーペース)』と、 小回りという『位置取りの制約』が同時に襲いかかってくる極限の環境(システム)なの。 その両方のバグに耐えうる、 最もエラーの少ない個体から印を打っていくわ」
教授はホワイトボードに向かい、 キュッと心地よい音を立ててバツ印を描き込んだ。
×(押さえ);【2番】ルシード
若葉:「ルシードちゃんが一番下(押さえ)ですか! 内枠で立ち回りやすそうやのに!」
若葉が首を傾げる。
神宮寺教授:「立ち回りの上手さは認めるわ。 でも、 彼にはハイペースの決め手勝負になった時に『切れ負けするリスク(決め脚不足)』があるの」
教授の解説を、 佐倉助手が淡々と引き継ぐ。
佐倉助手:「しかし、 鞍上のD.レーン騎手は騎手偏差値トップの数値を誇ります。 内枠2番というアドレスを最大限に活かし、 好位のインに潜り込んで直線でしぶとく3着に粘り込ませる『技術的なアドバンテージ』を評価し、 押さえ(×)としてシステムに残します」
若葉:「なるほど! 騎手っていう最強の外部デバイスで、 馬のスペック不足を補うんやね!」
神宮寺教授:「そういうことよ。 ……次は、 最内枠の利と状態の良さを買うわ」
教授のマーカーが流れるように動く。
△(連下);【1番】ナムラクララ
若葉:「ナムラクララちゃんは連下(△)! 最短ルートで突っ込んでくる差し馬ですね!」
神宮寺教授:「ええ。 先行勢が外側で激しく競り合う中、 浜中騎手が最短ルートを通って直線で強襲してくる3着候補の筆頭よ」
神宮寺教授は少しだけ間を置き、 残る三頭のリストを見つめた。
神宮寺教授:「さあ、 ここからがこのレースの『核(コア)』となる三頭よ。 ……特注(▲)は、 激流を前で受け止めながら最後まで生き残るポテンシャルを持つ個体ね」
▲(単穴);【15番】エイシンディード
若葉:「先行力98.0のバケモノですね!」
若葉がノートの数値を指差す。
若葉:「でも教授、 さっきウインカーネリアンちゃんを『オーバーペースの標的になる』って言って消しましたやん! エイシンディードちゃんも外枠(15番)から前に行くから、 同じ運命(エラー)になるんちゃいますの?」
神宮寺教授:「素晴らしい疑問ね、 若葉。 でも、 エイシンディードが他の先行馬と決定的に異なるのは『決め脚(終いの粘り強さ)』を持っている点よ」
教授が不敵に笑う。
神宮寺教授:「激流を前受けしながら自ら押し切る『勝ち切る力』を秘めている。 ……本命を逆転するシナリオがあるとすれば、 この馬しかあり得ないわ」
若葉:「ほな、 その本命と対抗は!?」
若葉がパイプ椅子から身を乗り出す。
神宮寺教授は振り返り、 ホワイトボードの中央へ、 美しく、 そして絶対的な二つの印を刻み込んだ。
◎(本命);【3番】パンジャタワー
〇(対抗);【4番】エーティーマクフィ
若葉:「本命はパンジャタワー! 能力値も決め脚もダントツの1位ですね!」
若葉がガッツポーズを決める。
神宮寺教授:「ええ。 陣営の勝負気配も『S-』の単独トップ。 そして最大の強みは『展開不問の自在性』よ」
教授の声が、 研究室の空気をキリッと引き締める。
神宮寺教授:「外枠勢がやり合って激流になれば中団で脚を溜め、 直線一気に突き抜ける。 仮に前が落ち着いても、 好位から自力でねじ伏せることができる。 ……馬場や展開のバイアスをすべて自力で無効化する、 文句なしの主役(絶対的軸馬)よ」
若葉:「ほな、 対抗の〇エーティーマクフィちゃんは?」
佐倉助手:「彼は『激流の恩恵を最も受ける絶好のポジショニング』が約束されているわ」
佐倉が、 コース図上にエーティーマクフィの想定位置をプロットする。
佐倉助手:「内枠寄りの4番枠から『先団直後~中団』という、 先行激化に巻き込まれないベストポジションを無理なく確保できます。 前が潰し合う中、 中団から確実に脚を使える堅実なバランス型です」
カチリ、 とマーカーのキャップが閉まる音が響き、 ホワイトボードには完璧な五頭の陣形が完成した。
◎ 3 パンジャタワー 〇 4 エーティーマクフィ ▲ 15 エイシンディード △ 1 ナムラクララ × 2 ルシード
若葉:「完璧ですやん! ◎パンジャタワーちゃんを軸にして、 この五頭のボックスか流しで買えば、 回収間違いなしですね!」
若葉がホクホク顔でノートを抱きしめる。
若葉:「これで今度こそ、 焼肉特上カルビ食べ放題が確定ですわーっ!」
だが、 神宮寺教授は無邪気に喜ぶ教え子を横目に、 窓の外の青空へ視線を泳がせていた。 その切れ長の瞳には、 自ら組み上げた完璧な数式に対する、 微かな、 しかし拭いきれない『疑念』が影を落としていた。
神宮寺教授:(本当に、 そうかしら? 第10章でシエルOSがセリナの管理者権限をあっさりと奪い取ったように。 ……私たちが計算した『絶対的な能力と安定感』というこの美しい環境モデルすら、 たった一頭の未知のバグによって、 コンマ数秒でオーバーライド(上書き)されてしまうのではないかしら?)
教授は白衣のポケットの中で、 ギュッと拳を握りしめる。
若葉:「教授? なんかまた、 小難しい顔してはりますよ?」
若葉が不思議そうに覗き込んでくる。
神宮寺教授:「……なんでもないわ」
神宮寺教授はふっと表情を和らげ、 最高に知的で傲岸な笑みを浮かべた。
神宮寺教授:「ただ、 この完璧すぎる数式が、 本番の熱量(Runtime)でどう処理されるのか……。 日曜日が待ち遠しくなっただけよ」
第4章『幸福な檻のバグと、 数式を狂わせる予期せぬノイズ』
鳴門の海に沈みゆく真夏の太陽が、 分厚いブラインドの隙間から研究室へ強烈な茜色の光の筋を投げかけていた。
壁掛けエアコンは変わらず冷気を吐き出しているものの、 夕日に照らされたホワイトボードの『精鋭五頭』の赤い文字が、 まるで熱を帯びて脈打っているように見える。
若葉:「よっしゃー! これで週末は完璧ですわ!」
若葉は両手をぐーんと上に伸ばして背伸びをした。
若葉:「◎パンジャタワーちゃんを絶対軸にして、 他の四頭に流す! 能力も展開も枠順も、 全部がうちらの味方しとる『最強の布陣』ですやん!」
佐倉助手が、 排熱音を立てていたノートパソコンの画面をパタンと閉じた。
佐倉助手:「ええ。 先行激化というバッドステータスを乗り越え、 能力と展開の恩恵を最大限に享受できる五頭。 ……大衆のノイズを完全にパージした、 極めて堅牢で論理的なポートフォリオと言えます」
二人の達成感に満ちた声を聞きながら。
神宮寺教授は、 デスクの上に置かれた琉球ガラスのマグカップの縁を指先でなぞり、 なぜかひどく冷ややかな、 しかし底知れない熱を秘めた瞳でホワイトボードを見つめていた。
……カツン。
手にしていた真紅のマーカーが、 手から滑り落ちるようにデスクへ放り投げられる。
若葉:「……教授?」
その乾いた音に、 若葉がキョトンと首を傾げた。
神宮寺教授:(美しいわ。 能力、 枠順、 展開。 すべてが計算通りに噛み合ったこの陣律は、 どこから見ても論理的な最適解。 ……でも、 第10章のシエルOSが、 セリナが作り上げた『絶対的な檻(楽園)』の管理者権限をコンマ数秒で乗っ取ったように、 完璧に管理された水槽なんてものは、 予測不能なバグによってあっさりと破綻する運命にあるのよ)
神宮寺教授:「ねえ、 二人とも」
教授はゆっくりと立ち上がり、 白衣のポケットに両手を突っ込んだ。
神宮寺教授:「私ね……この完璧に組み上げたマトリクスを、 心の底から疑っているのよ」
若葉:「はいぃ!?」
若葉がパイプ椅子から転げ落ちそうになり、 慌ててデスクの端を掴んだ。
若葉:「ちょ、 ちょっと待ってくださいよ! 今、 自分で『馬場や展開のバイアスをすべて自力で無効化する不動の軸馬』ってドヤ顔で宣言してはりましたやん! なんで急にちゃぶ台ひっくり返すようなこと言うんですか!?」
神宮寺教授:「論理的だからこそ、 疑うのよ」
教授は窓枠に寄りかかり、 夕陽に染まる海を見下ろした。
神宮寺教授:「私たちは今回、 基礎能力の低いマイネルジェロディたちや、 展開に泣くウインカーネリアンを『能力が足りない』『環境に適合できない』という物理法則を理由に切り捨てたわよね。 つまり彼らを、 システムの処理対象外として『不要(ゴミデータ)』のごとくパージしたわけよ」
佐倉が眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、 静かな声でカットインする。
佐倉助手:「ええ。 あの極度にタフな激流のスプリント戦において、 不利なポジションや能力不足で突っ込む行為は、 競走馬のエネルギーを瞬時に枯渇させる自殺行為に他なりません。 生き残れる確率は計算上、 限りなくゼロに近いです」
神宮寺教授:「そう、 計算上はね」
教授が振り返り、 妖しく微笑んだ。
神宮寺教授:「でも、 若葉。 あなたの書いた『外伝・第10章』で、 精神崩壊したはずのレオンが、 シエルのデバッグ措置から戻ってきた結果……どんな謎の超展開ロジックを引き起こしたか覚えているかしら?」
若葉:「ええっと……」
若葉が、 胸に抱いていた小説の原稿束をパラパラと捲る。
若葉:「ああ! 『なぜか猛烈に皿が洗いたくなったんだ!』って、 背後から赤黒いオーラ漏らしながら、 気合いで皿洗いし始めたんですよね!」
神宮寺教授:「その通りよ」
教授の瞳に、 知的な歓喜の炎が灯る。
神宮寺教授:「絶望を経て破壊者として産声を上げたはずの彼が、 全く予測不能なベクトル(皿洗い)で自己修復(リハビリ)を始めた。 どんな論理的なアンカー(楔)を刺せば、 そんな健やかにバグった出力になるのか、 私の計算機でも全く予測できなかったわ」
若葉:「……あ」
若葉がハッと息を呑み、 ホワイトボードの『消去馬リスト』を見つめた。
神宮寺教授:「競馬というシステムも全く同じなの。 ゲートが開いた瞬間、 私が計算した『前が激化して差し・追込が有利』という美しい水槽のルールを、 たった一頭の馬の狂気(バグ)が粉砕してしまうかもしれない」
教授は、 まるで愛しい恋人のことを語るように熱っぽい声を出した。
神宮寺教授:「レオンが理不尽な超展開で皿洗いを始めたように。 ……私たちが『絶対に届かない』『能力が足りない』と証明した馬たちの中から、 私たちの予測を軽々とオーバークロックして、 大外の強者たちを薙ぎ払って飛んでくる未知のイレギュラーが出現するかもしれないわ」
佐倉が、 深く得心のいったように静かに頷く。
佐倉助手:「事前の静的解析(Static)では検知できない、 レース実行中(Runtime)における、 競走馬たちの予測不能な『バグの自己修復』……ということですね」
若葉:「それって……うちらが『絶対に沈む』って切り捨てた馬たちが、 理屈抜きで飛んでくるかもしれへんってコトですか?」
若葉が、 信じられないものを見るような目でホワイトボードを見上げる。
佐倉助手:「教授は、 ご自身の完璧な演算モデルが、 現実の熱量(Runtime)に敗北する可能性を期待しているのですね」
佐倉の口元に、 天才の抱える矛盾を好ましく思うような、 微かな笑みが浮かんでいた。
神宮寺教授:「ええ。 競馬がもし、 私の計算した数式通りにしか動かない幸福な檻なら、 そんなものただの退屈な算数ドリルよ」
教授はデスクへ戻り、 放り出していたマーカーを綺麗に並べ直した。
神宮寺教授:「私が『絶対に沈む』と証明した灰色の海を、 圧倒的な熱量で突き破ってくる未知の来訪者(バグ)。 ……その人知を超えた不協和音を突きつけられる瞬間こそが、 私にとって至高のエンターテインメントなのよ。 予想を当てることは当然のタスクだけれど、 予想を美しく破壊されることは、 研究者にとって最高の『報酬』なの」
若葉は呆れたように大きく肩をすくめ、 やがてふふっと吹き出した。
若葉:「ほんま、 教授ってば度し難い競馬変態(マゾ)ですねぇ! 自分の予想が当たるのも嬉しいけど、 それ以上に自分の予想をぶっ壊してくる『レオンくん』みたいなスゴいバグが見たいってコトでしょ?」
神宮寺教授:「最高の褒め言葉として受け取っておくわ」
研究室の壁に掛けられたデジタルクロックが、 静かに時間を刻んでいる。
夕陽が沈み、 部屋の中に深い藍色のグラデーションが広がり始めていた。
神宮寺教授:「だから日曜日、 この五頭の陣形が綺麗に勝ってくれても嬉しいし、 全く別の不協和音が私たちのポートフォリオを吹き飛ばしてくれても構わないわ」
神宮寺教授が、 凛とした声を響かせる。
神宮寺教授:「どちらに転んでも、 ゲートが開くという『不完全な開演(ファンファーレ)』が、 私たちに新しい『世界の波形』を観測させてくれるのだから」
若葉が 若葉:「よっしゃあ!」 と力強くガッツポーズを作った。
若葉:「ほな、 日曜日のキーンランドカップは、 アリーナの最前列で観測させてもらいますわ! うちらの要塞が勝つか、 それとも外から理不尽なツッコミみたいなバグ馬が飛んでくるか……めっちゃ楽しみになってきました!」
神宮寺教授:「さあ、 今週の前編(事前デバッグ)はこれにて終了よ」
神宮寺教授は白衣の襟を正し、 窓の向こうの暗闇へ向かって不敵な笑みを投げかけた。
神宮寺教授:「大衆の計算が追いつかない、 極上のノイズ(結果)を探しに……いざ、 北の大地の電撃戦へ!」
重厚な扉がカチリとロックされる音が、 週末の開演を待つ熱狂を、 静かに研究室の中へと閉じ込めた。
『神宮寺教授の秘密講義 キーンランドカップ(前編)』――完
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作中で語られる「意識低い系デブ猫無料趣味小説」第50章『世界の理をハックして辿り着いた365日の祝祭』『沈みゆく世界のリペア・ストラクチャ~世界の理をハックして辿り着いた365日の祝祭~』『滅びた世界でも、私たちは前を向いて生きていく』80とは?
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作品解説:『世界の理をハックして辿り着いた365日の祝祭』
概要とテーマ
本作は、終末を迎えた荒廃した世界を舞台に、致命的な傷を負った4人の少女・少年たちが、過酷な生存競争(システム)を乗り越えて「人間らしい日常」を取り戻していく姿を描いた、感動的な群像劇です。
タイトルの「365日の祝祭」が示す通り、かつては「明日を生き延びるためのコスト(生存確率)」に追われていた彼らが、自分たちの意志(ルール)で世界をハックし、失われた季節やささやかな日常の温もりを再び手に入れていく過程が、鮮烈な色彩と瑞々しい筆致で綴られています。
登場人物と「修復(リペア)」の軌跡
なぎさ 物語の語り部であり、底抜けの明るさと圧倒的な食欲(特盛りデラックス!)を持つムードメーカー。かつては動かない左腕(マシュマロ)や激痛の走る右足に苦しんでいましたが、完全に全快し、世界を全身で謳歌します。 りん 論理的で少しぶっきらぼうなチームの頭脳(整備士)。物理法則やデータで物事を捉えていましたが、仲間たちとの日々を通じて、そのトゲトゲしい「ルール」の裏に隠された深い優しさを表現するようになっていきます。 ハル 夢地図(防水ノート)を綴り続ける少年。かつては凍てついた数式や絶望のデータばかりを眺めていましたが、仲間と共に「未来のログ」を一つずつチェック(達成)していくことで、本当の意味での「人間としての生」を取り戻します。 もみじ かつては外骨格スプリントや点滴チューブに縛られていた少女。自分の足で立ち、夏の空気を胸一杯に吸い込んで「美味しい」と呟くシーンは、本作の最大のカタルシスの一つです。
本作の魅力と見どころ
1. 「生存(サバイバル)」から「生活(くらし)」への移行 かつては水を濾過し、カロリーを計算し、痛みに耐えるだけの「死なないための時間」だった日々が、トマトの栽培、魚釣り、海でのバカ騒ぎといった「人生を味わうための時間」へと昇華されていくコントラストが非常に美しいです。 2. 五感に訴えかける鮮やかな描写 サファイアのようにきらめく海、夏の夜明けの黄金色の光、真っ赤なトマトの瑞々しさ、そして潮風の匂い。絶望的な終末世界を背景にしながらも、そこに対比される「生命の輝き」が読者の五感を優しく刺激します。 3. 「夢地図」という名の希望のログ ハルくんのノートに刻まれていくチェックマーク($☑$)は、彼らが絶望を乗り越えた確かな足跡です。どんなに過酷な世界であっても、自分たちの意志で未来を定義し、一歩ずつ歩みを進めれば「無敵の未来」に辿り着けるという強いメッセージが込められています。
世界の終わりの向こう側で、傷だらけの身体と心を抱えながらも、自分たちの手で「眩しい夏」と「新しい季節の巡り」を勝ち取った4人。読み終えたあと、温かな余韻と明日への活力が心いっぱいに広がる、極上のヒューマンドラマです。
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第50章『世界の理をハックして辿り着いた365日の祝祭』『沈みゆく世界のリペア・ストラクチャ~世界の理をハックして辿り着いた365日の祝祭~』『滅びた世界でも、私たちは前を向いて生きていく』80

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