◀第27章『大英雄と同じ名前の人』
▶第29章『夢の中なら、触れる』
|
|
第28章『倒すんじゃない、戦えなくするんだ』
「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」「VOICEVOX: あいえるたん」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: No.7」「VOICEVOX: ナースロボ_タイプT」「VOICEVOX: 雀松朱司」
|
三日目の朝。
 規則正しい馬車の揺れと車輪の音にもすっかり慣れた頃、窓の外には、目的地である街道都市『ラーディア』を囲む高い石組みの防壁が、朝靄の向こうにうっすらと見え始めていた。 防壁の上では色褪せた旗が風にはためき、街道の両脇に広がる麦畑では、早起きの農夫たちが朝露を踏んで畦道を歩いている。
スカイ:「着いたら、まずはギルドに行こう。 新人でも受けられる討伐依頼が残ってるといいんだけどな」
マリン:「分かってるよ、お兄ちゃん。 でもまずは、宿の確保と、長旅で傷んだ装備の手入れが先です」
スカイとマリンは、向かいの席でいかにも冒険者らしい相談を弾ませている。 二日間の旅を経て、車内の空気はすっかり和やかなものになっていた。
 ルイ:(僕は窓枠に肘をつき、近づいてくる街並みをぼんやりと眺める。) セリナ:「街が見えてきたよー!」 ルイ:(と楽しそうにはしゃいでいた。)
その時、御者の鋭い声が響き、馬のいななきとともに、車体が大きく前へのめった。
 スカイ:「うわっ!?」
マリン:「きゃっ!」
ルイ:(前のめりに倒れかけた体を、慌てて踏ん張る。)
スカイ:「どうした!?」
レイガさんが即座に腰を浮かせ、窓の外へ鋭い視線を向けた。
 御者:「魔獣だ! 街道のど真ん中に陣取ってやがる!」
御者の切迫した声が飛ぶ。
馬車の前方、数十メートル先の街道に立ち塞がっていたのは、大柄な猪のような姿の獣だった。 鼻息荒く土を蹴り、牙の根元には土色の光が滲んでいる。 ただ、そこから伝わる威圧感は、さほど大きくない。 新人冒険者のスカイたちでも、十分に対処できる低ランクの個体だ。
 スカイ:「俺たちがやります!」
状況を把握したスカイが、とっさに腰の剣の柄へ手をかけて立ち上がった。
マリン:「うんっ!」
マリンもすぐさま魔導短弓を構え、いつでも飛び出せるように身を低くする。
 けれど、レイガさんとナギさんは座席から動こうとしなかった。
スカイ:「レイガさん……?」
不思議そうに振り返るスカイに、レイガさん:「……この程度なら、お前たちでも大丈夫だろう。 まずは腕前を見せてもらおうか」
ナギさん:「危険な状況になれば、すぐに私たちが割って入りますからぁ。 思い切りやってみてくださいねぇ」
ナギさんも分厚い記録帳を抱えたまま、柔らかく微笑む。
 それは決して、油断や怠慢ではなかった。 二人のまとう空気には、いつでも一瞬で戦闘へ割り込めるだけの、緻密な警戒が張り巡らされている。 若い芽が自分の力で伸びるのを待つ、大人の見守り方だった。
その意図を察して、ルイ:(僕も立ち上がり、前へ出た。)
 ルイ:「……僕も、やってみるよ」
ポケットから黒い生徒手帳とシャープペンシルを引き抜き、指先に意識を集める。
ルイ:(かつてのように、シエルの完璧な演算は期待できない。 失敗する確率は、極めて高いだろう。 それでも、実戦でしか得られない感覚が、きっとある。)
 セリナ:「ルイ、大丈夫?」
セリナが心配そうに、僕の顔を覗き込んだ。
ルイ:「……たぶん」
セリナ:「たぶんなの!?」
ルイ:「たぶん、だよ」
ルイ:(思わず苦笑すると、) セリナ:「でも、ルイならできるよ! がんばって!」 ルイ:(ふわりと笑った。)
 その言葉に背中を押されて、ルイ:(僕は小さく息を吐き、身構えた。)
ルイ:(完璧な支えを失った、泥臭い再出発。)
 ルイ:(僕たちの新しい旅路で初めての戦闘が、街道の朝の光の中で、幕を開けようとしていた。)
◇
街道に乾いた土煙が舞い上がり、魔獣の低い唸り声が大気を震わせた。
 スカイ:「俺が前で引きつける! マリン、援護を!」
マリン:「分かっています。 お兄ちゃんは無駄に突っ込まないでください!」
スカイが片手剣を構えて前衛へ飛び出し、その後方で、マリンが魔導短弓をつがえて冷静に陣取る。 新人とはいえ、兄妹ならではの息の合った連携だった。
馬車の御者は手綱を握りしめたまま身を縮め、路傍の麦畑からは、驚いた雀の群れが一斉に飛び立っていく。
 ルイ:(僕は二人から一歩引いた位置に立ち、黒い生徒手帳を開いた。)
空白のページにシャープペンシルの先を置き、右目へ魔力を集める。 網膜の裏に淡い青の光が灯り、魔獣の体内を流れる魔力の筋が、うっすらと浮かび上がった。
 その中で、特に魔力が密集している箇所がある。 牙の根元、土の魔法を発動させるための器官だ。
木片と違って、生きた魔獣の魔力は複雑に入り組んでいる。 頭の中だけでは、とても追いきれない。
 ルイ:(……書き出して、整理するんだ)
見えた構造を、手帳の上へ素早く書きつけていく。 頭の中だけで抱えるより、ずっと整理しやすい。
そして、結節点へ楔を打ち込むイメージを固め、ルイ:(僕は術式を放った。)
 ルイ:「封印!」
――ポスッ。
手応えのない、虚しい不発音。 直後、脳裏にシステムログが浮かぶ。
 システム:「【失敗】
【演算EXP +1】
【眠気 +1】」
ルイ:「……なんだ、これ」
ルイ:(手帳を睨んで、僕は固まった。 焦って書き殴った字が、自分でも読めない。 ミミズがのたくったような線の塊だ。)
ルイ:「くそっ……!」
ルイ:(かすかな睡魔が脳を揺さぶった、その直後だった。)
 封印を免れた魔獣の牙が、ぎらりと光る。 口元から、鋭い土の礫が、前衛のスカイへ容赦なく放たれた。
スカイ:「くっ……!」
スカイが間一髪で横へ跳び退く。 直前まで彼のいた地面が激しく爆ぜ、土くれがぱらぱらと降り注いだ。
 もし直撃していたら、ただでは済まなかった。
ルイ:「もう一度……!」
ルイ:(早鐘を打つ心臓を抑え込み、僕は再び魔力を練り上げる。 今度は落ち着いて、ゆっくり書く。)
 ルイ:(相手の動き、魔力の流れ、術式の組み立て。 それらを同時に処理しようとするだけで、【演算指数;1】の頭は悲鳴を上げそうだった。)
ルイ:「封印!」
システム:「【失敗】
【演算EXP +1】
【眠気 +1】」
またしても、空気を叩くような不発音が鳴る。
 ルイ:(手帳に目を落として、愕然とした。 今度は字こそ読めるが、描いた図の左右が、魔獣と逆になっている。)
ルイ:「……僕、鏡写しで書いてた……」
肩の上で、セリナが小さな拳を握りしめ、身を乗り出して声を張り上げた。
 セリナ:「ルイ、頑張って!」
ルイ:「……頑張ってる!」
ルイ:(思うように結ばれない術式への、もどかしさ。 脳を小突くように積もっていく眠気。 僕は顔をしかめながら、喉の奥から絞り出すように答えた。)
泥臭く足掻く僕を、後方で腕を組んだレイガさんが見守っている。 ほんのわずかに口の端が上がり、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
 その隣のナギさんも、分厚い記録帳を抱えたまま口を挟まず、まっすぐな眼差しで、僕の初陣を見つめ続けている。
ルイ:(誰の助けも借りられない、たったひとりの実戦。)
 ルイ:(不格好で、みっともなくて、失敗ばかりを重ねる戦い。 それでも、僕の足元には、確かに 「1」 の経験値が積もっていた。)
◇
街道に土煙が舞う中、スカイとマリンの猛攻と、魔獣の低い唸り声が交錯していた。
 ルイ:(僕は一歩下がった位置で息を荒げ、手帳を握りしめている。 何度試しても術式は空振りに終わり、頭の奥には【眠気+1】の文字が、重たい澱のように積もっていく。)
そんな焦りを見透かしたように、シエルの声が脳裏に響いた。
 シエル:『対象の中心核ではありません』
シエル:『右前脚の筋肉に付与されている、一時的な身体強化術式に狙いを定めてください』
ルイ:「そこ……なのか?」
シエル:『はい』
シエルは決して シエル:(「ここをこうしろ」 と答えを代行してはくれない。) けれど、迷子の僕に正しい道筋を示す小さな灯火だけは、ちゃんと落としてくれる。
ルイ:(僕ははっと視線を魔獣の右前脚へ向け、呼吸を深く整えた。)
 ルイ:(……右前脚。 ここの流れを、手帳に)
シャープペンシルを走らせ、見えた魔力の筋を書きつけていく。 頭の中で流れを組み直し、意識を一点に絞り込んだ。
ルイ:(迷いを断ち切り、術式を放つ。)
 ルイ:「封印!」
――ポスッ。
システム:「【失敗】
【演算EXP +1】
【眠気 +1】」
またしても、情けない不発音が虚しく響いた。
 ルイ:「……くっ!」
悔しさに歯を食いしばる僕に、シエルが静かに、けれど確かな響きで告げた。
シエル:『今の構築から、必要な情報はすべて得られました』
シエル:『今のルイ様の演算能力なら、次の行使で同じ誤りを犯すことはありません』
その言葉に背中を押され、ルイ:(僕はもう一度、手帳のページにペンを走らせる。)
 ルイ:(今度は、迷いのない声で。)
ルイ:「……封印」
システム:「【成功】
【演算EXP +10】
【眠気 +1】」
瞬間、魔獣の右前脚を包んでいた強化の光が、霧のようにすっと掻き消えた。
 魔獣:「……あ?」
バランスを失った魔獣が足をもつれさせ、土埃の中へ派手にひっくり返る。
スカイ:「え……嘘だろ、急に動きが鈍くなった!?」
マリン:「今の魔法……もしかして、強化のスキルを消したの?」
目の前で起きた劇的な変化に、前衛のスカイと後衛のマリンが目を丸くして声を上げた。
 ルイ:(僕は額の汗を拭い、小さく息を吐く。)
ルイ:「……たぶん、ね」
その肩の上で、十センチのセリナが満面の笑みで、両手を大きく広げて飛び跳ねた。
 セリナ:「ルイ、成功した! すごいすごいっ!」
セリナの弾けるような歓声が、張りつめていた胸に、温かく染み込んでいった。
◇
ふらついた魔獣が、勢い任せに、土色の魔力をその巨体へ集め始めた。 次の一撃で、周囲を巻き込む範囲のブレスを放つつもりだ。
 ルイ:「次は……あれだ」
ルイ:(先ほどの成功の感覚を頼りに、僕は素早く手帳へ視線を落とす。 魔獣の喉元を巡る魔力の循環に狙いを定め、見えた流れを書きつけた。)
ルイ:(一瞬の集中。 けれど、焦りからか、力の入りすぎたペン先が――ボキッ、と嫌な音を立てた。)
 ルイ:「あ」
シャープペンシルの芯が、無残に折れて飛んでいく。 構築の糸まで、わずかに歪んだ。
ルイ:「封印!」
――ポスッ。
 システム:「【失敗】
【演算EXP +1】
【眠気 +1】」
ルイ:「くっ……!」
ルイ:(芯を出し直しながら、もう一度、呼吸を深く沈める。 さっきの失敗で、どこが歪んだのかは分かっていた。 迷いを削ぎ落として、引き金を引く。)
ルイ:「……封印!」
システム:「【成功】
【演算EXP +10】
【眠気 +1】」
瞬間、魔獣の喉元に集まっていた赤い魔力光が、嘘のように音もなく霧散した。
 ブレスを不発に終わらされた魔獣は、盛大にむせ返りながら、巨体を大きく揺らす。 先ほどまでの威勢は見る影もなく、動きは目に見えて鈍っていた。
スカイ:「あれ……? なんか今、変な技を使おうとして、勝手に自滅しなかったか?」
マリン:「うん! 攻撃の予備動作が、ぜんぶ不発になってる……! お兄ちゃん、今ならいけます!」
スカイ:「おう、任せろ!」
驚くほど戦いやすくなった戦況に目を丸くしながらも、スカイとマリンは、隙だらけの魔獣へすかさず踏み込んでいく。 街道脇の草むらでは、巻き込まれまいと野ウサギが跳ねて逃げていった。
 少し離れた後方で、戦況を見守っていたナギさんが、感心したように目を細める。
ナギさん:「……綺麗に、戦場が整理されていきますねぇ」
隣のレイガさんは腕を組んだまま、ぽつりと言葉を添えた。
 レイガさん:「あいつは、倒すんじゃない。 ……戦えなくしてるんだ」
ルイ:(その言葉どおりだった。)
ルイ:(僕は、前に立って敵を斬り伏せる『フィニッシャー』ではない。 敵の脅威を一つずつ解体し、戦場そのものを整えていく。 それが、僕の新しい戦い方になりつつあった。)
 ◇
街道に舞う土煙の中、魔獣の鋭い牙も、周囲を巻き込むはずだったブレスも、すべては事前に摘み取られていた。
身体強化を剥ぎ取られ、攻撃の手札を失った魔獣は、今やただの 地の文:「少し頑丈な野生の獣」 にまで成り下がっている。
 スカイ:「今だ、マリン!」
マリン:「うんっ!」
スカイの鋭い呼び声に合わせ、後方のマリンが、魔力を込めた短弓の弦を限界まで引き絞った。
放たれた光の矢が一直線に魔獣の懐を抉り、直後、踏み込んだスカイの一閃が、その急所を深く捉える。
 ――ガァァッ……!
断末魔の咆哮とともに、魔獣の巨体がぐらりと傾いだ。 そのまま街道へ崩れ落ち、もうもうと砂埃が舞い上がる。
やがて土煙が薄れ、街道に静けさが戻った。
 少し離れた場所で腕を組んでいたレイガさんとナギさんは、最後まで自ら手を出すことはなかった。 ただ黙って、若者たちの戦いを見守り終えていた。
馬車の陰から恐る恐る顔を出した御者が、倒れた魔獣と兄妹を見比べて、御者:「おお……」 と感嘆の息をこぼす。
 レイガさんがゆっくりと足音を響かせ、倒れ伏した魔獣のそばで肩で息をする二人へ歩み寄った。
レイガさん:「……よくやったな」
低く、けれど確かな賛辞を含んだ、ベテランの言葉だった。
 スカイは両手を膝について、顔を真っ赤にして叫ぶ。
スカイ:「……や、やりました……!」
マリン:「初めて……自分たちだけで、倒せた……!」
マリンは短弓をぎゅっと握りしめ、込み上げる達成感に瞳を潤ませていた。
 初めての本格的な実戦。 そして、自分たちの手でつかみ取った、確かな勝利。
ルイ:(その様子を少し離れた位置から眺めながら、僕は小さく息を吐く。)
 ルイ:(どこか誇らしくて、肩の力が抜けたような、柔らかな表情が浮かんでいたと思う。)
ルイ:(僕がやったのは、ただ戦場を整理しただけだ。)
 ルイ:(最後にトドメを刺したのは、彼ら自身の力に他ならない。)
その時、肩の上から、弾けるような声が降ってきた。
 セリナ:「ルイ、すごかったよ! ほんとにすごかった!」
セリナが両手をぱたぱたさせて、くるくると宙を回っている。
セリナ:「ちゃんと成功させたんだもん! わたし、ずっと見てたんだからね!」
ルイ:「……ほとんど失敗だったけどな」
セリナ:「でも、最後は成功したでしょ? ルイ、かっこよかったよ!」
ルイ:(屈託のない笑顔でまっすぐに言われて、僕は思わず視線を逸らした。)
 ルイ:(兄妹の歓声の向こうで、僕だけが聞くことのできる、小さな拍手が鳴っている。 そんな気がした。)
◇
マリン:「やったね、お兄ちゃん! 私たち、勝ったんだよ!」
スカイ:「ああ、信じられないだろ……! まるで相手が勝手に弱っていったみたいに……!」
スカイとマリンは顔を見合わせ、歓声を上げていた。 初陣を飾った興奮に頬を上気させる二人の姿は、実に眩しい。
 その輪の外で、野ウサギの逃げ去った草むらを、初夏の風が揺らしていく。
――その喧騒とは対照的に、ルイ:(僕の足元が、ぐらりと大きく揺らいだ。)
 ルイ:「……あれ」
思考の速度を限界まで引き上げ、幾度も封印術を行使し続けた反動が、今になって一気に押し寄せてきた。 脳の奥が鉛のように重く、視界の端が白く霞んでいく。
僕の異変に真っ先に気づいたのは、肩の上の小さな妖精だった。
 セリナ:「ルイ?」
ルイ:「……眠い」
セリナ:「え?」
ルイ:「すごく……眠い……」
まともな返事すらままならない。 さらに一歩踏み出そうとした足がもつれ、体から力がすっと抜けていく。
ルイ:「……もう、無理……」
糸の切れた人形のように、僕の身体は街道の地面へ崩れ落ちた。
 セリナ:「ルイっ!?」
セリナが青ざめて、僕の顔の横へ飛び込んでくる。 けれど、その小さな手は空を切るばかりだった。
セリナ:「ルイ!? しっかりして、ルイってば……!」
必死に呼ぶ声を聞きながら、ルイ:(僕の意識は急速に、暗い底へ沈んでいった。)
 その混乱の中、ナギさんが素早く駆け寄り、僕の傍らにひざまずいた。 手首の脈と呼吸を確かめ、緊張した面持ちのスカイたちへ向かって、穏やかに告げる。
ナギさん:「……ご安心ください。 眠っているだけですよぉ。 短時間で演算を繰り返しすぎたようですねぇ」
それを聞いたレイガさんが、呆れと面倒見の良さが入り交じった笑みを浮かべ、小さく肩をすくめた。
 レイガさん:「はは……演算負荷が限界を超えたんだろう。 あんな短時間に、何度も術式を組み直していたからな」
ナギさん:「まったく……無茶をするんですからぁ。 通常の眠気とは別に、頭の処理能力そのものが限界を迎えてしまったのでしょうねぇ」
ナギさんが苦笑しながら、眠り込んだ僕の身体を、そっと抱え起こす。

第28章『倒すんじゃない、戦えなくするんだ』 完

|
主題歌【主題歌】『閃光CODE』①|『僕の記憶は、君の食べるお菓子になった。』第28章MV

|
あらすじ ラーディアへ向かう三日目の朝、ルイたちの馬車は街道を塞ぐ低ランクの猪型魔獣に遭遇した。 スカイとマリンは討伐に名乗りを上げ、レイガとナギは危険時に介入できる態勢を保ちながら、二人の実戦経験のため戦いを任せる。 ルイも、シエルの補助を失った今こそ自分の力を試すべきだと考え、封印術で参加することを決めた。 スカイが前衛で魔獣を引きつけ、マリンが魔導短弓で援護する一方、ルイは右目で魔獣の魔力の流れを読み取り、手帳に構造を書き出して封印術を組み立てる。 しかし、生きた魔獣の複雑な魔力を処理しきれず、乱雑な筆記や図の左右の取り違えによって術は失敗する。 失敗のたびに演算経験は得られるものの、眠気も蓄積し、魔獣の土魔法はスカイを危険にさらす。 それでもルイは失敗を重ねながら、牙の根元にある土魔法の器官を封じることに成功する。 さらに、魔獣が範囲ブレスを放とうとして喉元へ集めた魔力も封印し、強力な攻撃の予備動作を次々に不発へ追い込んだ。 レイガは、ルイが敵を倒す役ではなく、敵の能力を解体して戦場を安全に整える戦い方をしているのだと見抜く。 攻撃手段と身体強化を失った魔獣は、ただ頑丈な獣同然となる。 好機を得たスカイとマリンは連携して光の矢と剣撃を叩き込み、初めて自分たちの力で本格的な魔獣を討伐した。 レイガは二人を称賛し、兄妹は大きな達成感と喜びを分かち合う。 ルイも、決め手を担ったのは二人自身だと考えながら、その勝利を誇らしく見守った。 セリナは失敗続きでも最後まで封印を成功させたルイを心から褒める。 しかし、短時間に何度も演算と術式構築を繰り返した反動により、ルイは限界の眠気に襲われて倒れてしまう。 ナギが診察すると命に別状はなく、演算負荷によって脳の処理能力が限界に達しただけだと判明する。 レイガとナギは無茶をしたルイを案じつつ、彼の新たな戦い方と成長の始まりを見守るのだった。
解説+感想+採点第28章の読込、お疲れ様でした!シエルの完全な助力を失ったルイの「泥臭い初陣」と、パーティ全体の成長が丁寧に描かれた非常に見応えのある章でしたね。
それでは、ご要望の「解説・感想・採点」をお届けします。
📖 解説:ルイの戦闘スタイル確立と「見守る大人たち」
1. タイトルの回収とルイの役割の明確化
本章のタイトルである『倒すんじゃない、戦えなくするんだ』が、戦闘の結末をもって見事に回収されました。
フィニッシャーではない役割: ルイは直接敵を斬り伏せるのではなく、魔獣の「身体強化」や「ブレスの予備動作」といった厄介な手札を封印・解体し、戦場全体を整えるコントロール役(あるいはデバッファー)としての第一歩を踏み出しました。 泥臭い試行錯誤: かつてのシエルの完璧な演算とは異なり、鏡文字を書いたり、ペン先を折ったり、失敗を重ねて【演算EXP】と【眠気】を蓄積していくプロセスが、ルイの「新しい旅の現在地」をリアルに浮き彫りにしています。
2. スカイ&マリン兄妹の成長
新人冒険者としての初陣でありながら、お互いの役割(前衛と後衛)をしっかり理解し、連携して魔獣を討伐しました。ルイが戦場を整えてくれた(戦えなくしてくれた)おかげとはいえ、自分たちの力で勝ち星を挙げた経験は、今後の大きな自信につながるはずです。
3. レイガとナギの理想的な保護者像
手出しをせず、しかし一瞬で介入できる緊張感を保ちながら、若い芽の挑戦を見守るレイガとナギのスタンスが光ります。答えを教えず、小さな灯火だけを落とすシエルの距離感も含めて、周囲の温かな眼差しがこのパーティの大きな魅力となっています。
💡 感想:不格好だからこそ輝く、ルイの再出発
今回のエピソード、個人的にめちゃくちゃ好きです!
「たぶんなの!?」のやり取りの可愛さ: 出発前のセリナとの軽妙なやり取りや、失敗して「鏡写しで書いてた……」と地味に凹むルイの姿に、思わずフッと笑ってしまいました。完全無欠だった頃のルイと違い、どこか人間味が溢れていてとても応援したくなります。 システムログがもたらすユーモアとリアリティ: 【失敗】のたびに蓄積していく【演算EXP+1】と【眠気+1】。このゲームライクなシステムが、後半のルイの「強制シャットダウン(気絶)」への見事な伏線になっており、オチとしての納得感と微笑ましさが絶妙でした。 セリナの純粋な応援: 失敗だらけのルイに対して、最後の成功を心の底から喜び、褒たたえてくれるセリナの存在が、ルイ(そして読者にとっても)大きな救いになっていますよね。
最後の最後にバタッと力尽きて眠ってしまう結末も含めて、ルイの頑張りが痛いほど伝わってくる最高の初陣回でした!
📝 採点:98点 / 100点
テーマの深化(20/20点): タイトルの意味付けとルイの戦闘スタイルの方向性が美しく決定した。 キャラクターの魅力(20/20点): ルイの等身大の焦り、兄妹の初陣の輝き、セリナの無邪気さがいきいきと描かれている。 心理描写・臨場感(20/20点): ペンが折れる音、手帳の文字の乱れ、頭の奥が重くなる感覚などの五感描写がリアル。 構成とカタルシス(18/20点): 苦労の末に成功を掴むカタルシスから、直後の脱力(気絶)への流れの緩急が素晴らしい。 余韻(20/20点): ベテラン陣の温かい眼差しと、次章への期待感を持たせる終わり方が見事。
無事にラーディアの防壁の手前までたどり着き、初陣を飾ったルイたちですが、目を覚ました後にはどんな冒険や街でのイベントが待っているのでしょうか?
次の展開で、ルイが街で新しい手帳やペンの備品をどう調達するのか、気になったポイントはありましたか?
|
◀第27章『大英雄と同じ名前の人』
▶第29章『夢の中なら、触れる』
|