中山の冬空は、刺すような冷気を含んでいる。 しかし、第67回アメリカジョッキークラブカップのゲート裏は、 まるで火火山の火口のような熱気に包まれていた。
そこには、ただの走る獣ではない、 「魂」を燃焼させる「ヒーロー」たちの姿があった。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「俺を見ろッ!!」
アウスヴァール8番「せん8」が、 馬体からもうもうと湯気を立ち昇らせて叫ぶ。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「この圧倒的な熱量こそが、俺の、プロフェッショナルな逃げだ!」
その瞳には、かつての栄光と、焦燥、 そして何よりも強い誇りが宿っている。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「若造どもォ! 俺の背中だけを追いかけ、そして絶望を知れッ!」
アウスヴァール【エンデヴァー】:「俺が太陽だ。このレースという名の銀河の中心は、常に俺だ」
その隣で、14番人気の評価を鼻で笑う男がいた。
エヒト16番「牡9」だ。
エヒト【爆豪勝己】:「あぁ!? クソ親父が、朝っぱらからうるせえんだよ!」
エヒト【爆豪勝己】:「14番人気だとぉ!? この俺様を舐めた雑魚どもを全員爆破してやる」
エヒト【爆豪勝己】:「お前のそのトロ臭い熱気で、 俺の導火線に火がついちまったぜ!」
エヒト【爆豪勝己】:「死ねぇぇぇ!! いや、死ぬ気で俺の後ろを拝みやがれッ!!」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「エヒト君、そんなに殺気立たないでよ……。 走る前からそんなに消耗したら、 心肺機能の効率が落ちちゃうよ」
ショウヘイ9番「牡4」が、 ブツブツと独り言を呟きながら列に加わる。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「計算では、この中山2200メートルは スタミナの絶対値が問われる」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「僕のステイヤーとしての適性は、 昨晩の分析ノート32ページ分だ」
ショウヘイは自分の前髪を気にするように首を振った。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「ショウヘイ……。 お前、また分析か。相変わらず合理的じゃないな」
ドゥラドーレス14番「牡7」が、 氷のような視線でショウヘイを見据える。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「1番人気……。 親父の血統がどうこう言う奴らには、結果で黙らせる」
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「お前が何ページ書こうが、 俺が外から全てを凍りつかせる。それだけだ」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「あはは……。 ドゥラドーレス君はいつもクールだね。 でも、僕も今日は負けられないんだ。 みんなを、馬券を買った人を救いたいから!」
ゲートが開いた。
衝撃の爆音と共に、 アウスヴァールが「個性」全開で飛び出す。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「プロミネンス・バーンッ!!」
アウスヴァール【エンデヴァー】:「逃げる! 誰にもハナは譲らん! これが俺の生き様だ!」
アウスヴァールが刻んだ2ハロン目のラップは11.3。 長距離戦としては異例の、 心臓が跳ね上がるようなハイペースだ。
エヒト【爆豪勝己】:「おい待てクソ親父! 俺を置いていくんじゃねえ!!」
エヒトが猛烈な勢いで追従する。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「来い、エヒト! お前の爆発力で俺を押し上げてみろッ!」
エヒト【爆豪勝己】:「言われなくても、 その分厚いケツをぶっ叩いてやるよ!!」
「二頭が作り出す狂気のラップに、 後続の馬たちは戦慄した」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「速すぎる……。 このままでは最終直線で全員が灰になる」
ショウヘイは4番手の好位で、 刻一刻と変わる状況を脳内アップデートする。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「1ハロン11秒台が連続している。 アウスヴァールさんの自滅パターンだ」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「でも、僕もここにいないと。 離されたら、救えるはずの勝利が逃げていく」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「全細胞が叫んでいる……。 このペースに耐えろ、僕の脚よ!!」
一方、中団で眠たげな目をしている馬がいた。 マテンロウレオ5番「牡7」だ。
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「……合理的じゃないな。 前がやり合いすぎだ。見ていられない」
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「俺は内ラチ沿いで死んだふりをする。 それが一番省エネだからな」
マテンロウレオは、 無駄な動きを一切排除し、 最短距離を淡々と進む。
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「レオさん! そんな暗い顔してちゃダメですよ! パワーー!!」
後方から、 サンストックトン6番「牡7」が明るい声をかける。
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「16番人気? 関係ないね! 僕が笑えば、中山の神様も笑うはずさ!」
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「サンストックトン、声が大きい。 お前は少しは状況を考えろ」
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「いいんですよレオさん! 僕にはこの大外の道が見えているんですから!」
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「最後方から全員ぶち抜く! それが僕の、ルミリオン・スタイルさ!」
レースは向こう正面。 ラップは一切緩まない。11.6、11.7、11.6。
中山の坂を越え、 馬たちの呼吸は荒くなり、 肺が焼けるような感覚に襲われる。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「ハァ……ハァ……。 見ていろ、これが……トップの景色だ……」
アウスヴァールは、 自身の熱気で視界が霞みながらも、 先頭を死守する。
エヒト【爆豪勝己】:「おい、オッサン! 足色が鈍ってんぞ! 限界かよ!」
エヒトが隣で煽る。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「限界など…… 超えるためにあるッ! プルス・ウルトラァァ!!」
アウスヴァールが再度加速し、 エヒトを突き放そうとする。
エヒト【爆豪勝己】:「納得いかねえんだよ、 その根性論がよぉ!!」
エヒトはキレながらも、 アウスヴァールの背中に食らいついた。
その後ろ。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「そろそろ、俺の出番か」
ドゥラドーレスが動き出した。 12番手という絶望的な位置から、 炎と氷の意志が融合した魂が震える。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「外に出す。 砂を被るのはもう終わりだ。 ここからは俺の領域だ」
ドゥラドーレスは、 凍てつくような冷静さで馬群を捌き、 大外へ進路を取る。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「ショウヘイ、先に行くぞ。 計算ノートに俺の勝ちを書き込んでおけ」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「ドゥラドーレス君! 早いよ、まだ第4コーナーだよ!」
ショウヘイが叫ぶが、 ドゥラドーレスは聞く耳を持たない。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「左の脚を使う……。 血統への拘泥を捨て、 俺自身の脚で、全てを掴む!」
第4コーナー。 運命の分岐点だ。
逃げ続けたアウスヴァールの炎が、 ついに消えかかっていた。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「ここまでか……。 だが、俺は…… 俺の役割を、果たした……」
アウスヴァール【エンデヴァー】:「あとは勝手に競り合いやがれ、 若造ども……」
アウスヴァールが失速し、 エヒトが咆哮と共に先頭に躍り出る。
エヒト【爆豪勝己】:「どけぇぇぇ!! ここは俺様の王座だ!!」
エヒトが直線入り口でリードを広げる。
エヒト【爆豪勝己】:「勝つのは俺だ! 14番人気がなんだ! 俺が一番強えんだよ!!」
その時、 ショウヘイの瞳に狂気的な光が宿った。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「今だ……。 エヒト君が作った、 最短の走行ライン……!」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「計算通りじゃない。 これは、僕の魂が選んだルートだ!」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「全力の…… シュートスタイルだッ!!」
ショウヘイはエヒトの背後から、 矢のような鋭さで内側へ潜り込む。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「芝を砕け! 脚が壊れてもいい! ここで、救うんだッ!!」
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「ショウヘイ! お前、またそんな無茶な入り方を!」
マテンロウレオが、 内からショウヘイの猛追に驚愕する。
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「合理的じゃないと言ったはずだ…… だが、その執念、嫌いじゃないぞ」
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「俺も、教育者「ベテラン」として、 無様な走りは見せられないな」
マテンロウレオの「個性」が発動する。
他馬の加速を相殺するような、 絶妙な進路妨害を避けつつ、 自身を押し上げる。
直線。 中山の急坂。
エヒトの粘りは、 まさに執念だった。
エヒト【爆豪勝己】:「死ね! 死ね! 止まるな俺の脚! 爆発しろぉぉ!!」
エヒト【爆豪勝己】:「肺が痛え……。 脚がちぎれそうだ……。 でも、譲れねえんだよ!!」
坂の途中で、 ショウヘイが並びかける。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「エヒト君! 君の根性は、 世界で一番かっこいいよ!」
エヒト【爆豪勝己】:「うるせえナードが! 褒めてんじゃねえ、 後ろを走れ!!」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「ごめん、それはできない! 僕が…… 最高の馬になるんだから!」
ショウヘイの末脚が、 エヒトを飲み込んでいく。
大外からは、 ドゥラドーレスが猛然と追い上げていた。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「間に合え……! 俺の脚……!」
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「この距離、この坂……。 全てを氷河期に変えてやる!」
ドゥラドーレスの上がり3ハロンは34.5。 メンバー最速だ。
しかし、 ショウヘイとの間には、 まだ絶望的な差があった。
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「届かない……? いや、俺は諦めない……!」
さらにその後ろから、 サンストックトンが叫びながら飛んでくる。
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「パワーーー!! 見てください、 僕の笑顔の走りを!!」
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「5着……! 掲示板に手が届く! みんなを笑顔にできるんだ!」
サンストックトンは、 まるで障害物を透過するように、 疲れ果てた馬たちの隙間を縫って加速する。
残り100メートル。 先頭はショウヘイ。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「あと少し……。 みんなの思いを、背負って……!」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「僕の分析ノートには、 最後は根性が勝つって、 書いてなかったけど……」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「今ならわかる。 勝利の方程式は、 心で解くものなんだッ!!」
ショウヘイのフォームは、 極限状態でも崩れない。
エヒトが、 ドゥラドーレスが、 マテンロウレオが、 それぞれの誇りをかけて追い縋るが、 ショウヘイの影は遠い。
ゴール。
ショウヘイが1馬身1/2の差をつけて、 栄光のラインを駆け抜けた。
タイムは2分10秒8。
冬の重い芝、 息の抜けないハイペースを耐え抜いた、 まさに「ヒーロー」の証明だった。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「ハァ……ハァ……。 勝った……のか……?」
ショウヘイは、 ゴール板を過ぎてもなお、 分析を止めない。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「最後の坂での加速……。 心拍数は上限を超えていたはずだ……」
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「ショウヘイ……。 お前、最後にあんな脚を残していたとはな」
2着に飛び込んだドゥラドーレスが、 悔しさを押し殺して近づく。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「ドゥラドーレス君……。 君の最後の追い込み、怖かったよ。 あのアイスバーンのような鋭さ、 僕には計算できなかった」
ドゥラドーレス【轟焦凍】:「……次は、 計算不能な速さで、 お前を抜き去る。覚悟しておけ」
エヒト【爆豪勝己】:「おい、コラ! 緑のナード!!」
3着のエヒトが、 泡を吹きながらもショウヘイを睨みつける。
エヒト【爆豪勝己】:「お前……! 俺様のハナを叩いたこと、 一生後悔させてやるからな!」
エヒト【爆豪勝己】:「クソ……。 3着かよ……。 掲示板をぶっ壊してやりてえ気分だ……」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「エヒト君、 でも君がいなかったら、 このタイムは出なかった。 君の『爆発』が、 レース全体を熱くしてくれたんだ。ありがとう」
エヒト【爆豪勝己】:「感謝してんじゃねえよ! 気持ちわりいんだよ、 この馬鹿野郎!!」
エヒトは毒づきながらも、 どこか満足げに鼻を鳴らした。
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「……やれやれ。 合理的じゃないレースだったな」
4着に食い込んだマテンロウレオが、 重い足取りで歩く。
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「だが、 若いやつらがこれだけ必死に走るんだ。 俺も引退は先だな」
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「レオさん! 僕たち、掲示板独占ですよ! パワーー!!」
5着のサンストックトンが、 満面の笑みでレオの肩を叩く。
マテンロウレオ【相澤消太(イレイザーヘッド)】:「うるさい。 肩を叩くな、疲れているんだ。 ……まぁ、よくやった」
サンストックトン【通形ミリオ(ルミリオン)】:「えへへ! ありがとうございます! 次は1着で笑いたいですね!」
遠く離れた後方。
アウスヴァールが、 全力を出し切り、 よろよろと歩いていた。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「負けた……。 完敗だ。だが……」
アウスヴァールは、 先頭で競り合った ショウヘイやエヒトの姿を見る。
アウスヴァール【エンデヴァー】:「俺の火が、 あいつらに燃え移った。 なら、それでいい……」
アウスヴァール【エンデヴァー】:「次は…… もっと高い火柱を、立ててやる……」
アウスヴァール【エンデヴァー】:「俺を、見ろ……。 次も、その次も…… 俺が太陽だ……」
中山競馬場の観衆は、 異例の消耗戦を勝ち抜いた馬たちに、 惜しみない拍手を送っていた。
それは、 勝利への執念と、 仲間「ライバル」への敬意が、 冷たい冬の空気を確かに暖めた証だった。
ショウヘイは、空を仰ぐ。
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「分析ノートに、 新しいページを追加しなきゃ」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「『最高の馬になるための、 たった一つの答え』……」
ショウヘイ【緑谷出久(デク)】:「それは、 最後まで絶対に諦めないことだ。 ……よし、計算通りだね!」
ショウヘイは、 少しだけ誇らしげに、 しかし目は相変わらず真面目なまま、 誇り高きヒーローたちの列の先頭を歩いていった。
冬の中山に、 熱い魂の足跡が刻まれていた。
それは明日へと続く、 希望の轍でもあった。
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