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レモンの果実~聖域の観察者が魔法を捨てて、灰色の世界で君と色づく旅に出るまで~
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レモンの果実~聖域の観察者が魔法を捨てて、灰色の世界で君と色づく旅に出るまで~

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レモンの果実~聖域の観察者が魔法を捨てて、灰色の世界で君と色づく旅に出るまで~とは
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灰色の世界に閉じこもる“観察者”と、すべてを塗り替える“巫女”。その出会いは、静寂を壊す侵入ではなく、運命を動かす最初の一滴だった――。
第01章「神託の巫女と静寂の塔」
世界を「記録するだけ」で生きてきた、孤独な魔法学徒ルイ。 色を失った彼の視界に広がるのは、無機質で冷たいモノトーンの現実だけ。
だがある日、彼の“聖域”である図書塔に現れたのは―― 鼻歌まじりに静寂を踏み荒らす、眩しすぎる少女・エリナ。 王国に選ばれた「神託の巫女」でありながら、どこまでも無邪気で、どこか儚い存在。
レモンのように鋭く、そして甘く残る彼女の気配は、 「観察者」であるはずのルイの心を、静かに、しかし確実に侵食していく。
触れた指先の熱。 交わした言葉の違和感。 そして、彼女の奥に潜む“限られた時間”という影――。
これは、世界に関わることを拒んだ少年が、 たった一人の少女によって“色”を取り戻していく物語。
静寂の塔で始まるのは、 逃避ではなく「現実へ踏み出す」ための第一歩。
やがて訪れる別離の予感と、抗えない感情の渦の中で、 彼は観察者であり続けるのか――それとも。
灰色の世界が、今、レモン色に染まり始める。
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あらすじ
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レモンの果実~聖域の観察者が魔法を捨てて、灰色の世界で君と色づく旅に出るまで~ 第01章「神託の巫女と静寂の塔」
光の粒が、埃と一緒に踊っていた。
霧深き王国リュミエールの北端。 図書塔最上階――世界で一番静かで、一番退屈で、そして僕にとって唯一まともに呼吸できる場所。
ここは、僕の聖域だ。
「……今日も見事に灰色だな」
窓から差し込む春の光はやたらと眩しいくせに、僕の世界は相変わらずモノトーンのまま。
僕の名前はルイ。 魔法学院所属の落ちこぼれ――そして自称『観察者』。
魔法? あんなキラキラした連中の遊びに付き合う気はない。
今頃、下ではカイルが爽やかに笑ってるはずだ。 歩くだけで祝福をばら撒くような男。あれは人間じゃない、自然災害だ。
だから僕はここにいる。 世界を“観るだけ”の、安全な場所に。
『午前九時:カラス一羽。僕を無視。正しい判断』 『午前十時:転倒した生徒。誰も助けない。世界は正常』
……完璧だ。 現実なんて、記録するだけでいい。
――そのはずだった。
ギィ、と。
塔の扉が開く音がした瞬間、心臓が嫌な跳ね方をした。
「……誰だ」
この場所に来る人間なんていない。 いや、ひとつだけ例外がある。
今朝聞いた噂。
『神託の巫女が来るらしい』
……いや、来るわけがない。
トントン、と軽い足音。 ありえないくらい軽いリズム。
そして――
「ふふーん♪」
「……は?」
鼻歌?
ここで?
正気か?
――バタン!!
「こんにちはー! あれ、誰もいないの?」
光と一緒に、そいつは入ってきた。
白い服。 少し乱れたリボン。 泥のついた裾。
そして。
「……レモンの匂い?」
籠を持った少女が、そこに立っていた。
「……君は誰だ。ここは立ち入り禁止だ」
僕は記録帳を抱えながら睨む。
すると彼女は、あっさり笑った。
「えー、冷たくない? ここまで登るの大変だったんだよ?」
話が通じない。
「神託の巫女が来る場所じゃない。帰れ」
「んー? でも私、その巫女なんだけど」
……。
「……は?」
「エリナ。よろしくね、ルイくん!」
彼女は当然のように距離を詰めてきた。
近い。 というか、近すぎる。
青い瞳。
――その瞬間。
僕の灰色の世界に、インクを落としたみたいに色が広がった。
「……下がれ」
「えー、なんで?」
「観察の邪魔だ」
「観察?」
首をかしげる。
「僕は観察者だ。君みたいな騒音源は――」
「ふーん。じゃあ、私のことも観察してるの?」
「……してない」
「嘘だね」
即答だった。
「だって今、ずっと見てた」
……否定できない。
「まあいいや!」
彼女は勝手に窓辺に座った。
僕の席だ。
「……そこ、僕の場所なんだけど」
「名前書いてないよ?」
終わってる。
完全に終わってる。
「……何しに来た」
「お勉強。でもつまんないからサボり!」
満面の笑みで言うな。
「……帰れ」
「やだ」
即答。
詰んだ。
「じゃあさ」
エリナは籠を机に置いた。
「これ食べて」
広がる甘い匂い。
レモン。
やたら強い。
「いらない」
「えー?」
「僕は観察者だ。供物は受け取らない」
「供物って……」
呆れながらも、彼女は菓子をつまむ。
そして――
「はい、あーん」
「やめろ」
反射的に手を出した。
その瞬間。
触れた。
彼女の指に。
熱い。
驚くほど。
「……あ」
一瞬、時間が止まる。
「ごめん、自分で食べる?」
そう言って、彼女は僕の手に菓子を乗せた。
逃げ場がない。
僕はそれを――食べた。
サクッ。
苦い。
酸っぱい。
最悪だ。
「……不快だ」
「まだだよ」
噛む。
――甘い。
「……なんだこれ」
「でしょ?」
エリナは笑った。
「苦いあとに甘くなるの。私、これ好きなんだ」
その笑顔が。
やけに、引っかかった。
「……君は僕の聖域を壊すつもりか」
「壊さないよ」
彼女は窓の外を見た。
「ちょっとだけ、色をつけるだけ」
――その言葉は、妙に残った。
「じゃあね、ルイくん」
帰り際、彼女は振り返る。
「次来たときは、“邪魔者”以外で書いてよ?」
「……無理だな」
「えー、じゃあ頑張って!」
軽い足音が遠ざかる。
静寂が戻る。
……はずだった。
でも。
世界はもう、元に戻らなかった。
僕は記録帳を開く。
四十二ページ。
『被検体:巫女』
それを、塗り潰す。
そして書いた。
『エリナ――僕の聖域を壊した侵入者』
少し迷って、もう一行。
『……レモンみたいなやつ』
ページを閉じる。
指先に残る熱。
消えない。
――これが、全部の始まりだった。
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