| 【名無しさん】 2025年10月28日 19時33分16秒 | 猫でも書ける短編小説 ▶第5章 見つかった秘密 |
| 【名無しさん】 2025年10月29日 20時35分44秒 | 音声 「VOICEVOX:四国めたん」 制作動画 YMM4Lite フリーBGM BGM:ベートーヴェン:ピアノソナタ 第8番ハ短調 Op.13 「悲愴」 第2楽章 背景 フリーAI画像 イラスト:意識低い系デブ猫 |
| 【名無しさん】 2025年10月27日 20時17分22秒 | 第1章 雨の日の出会い 雨が降ると、世界が静かになる。 誰もが家に閉じこもり、傘の下に隠れて、足早に通り過ぎていく。 そんな日が、私は好きだった。 誰にも話しかけられないし、誰にも見られない。 濡れたアスファルトの匂いと、ぽつぽつと傘を叩く音だけが、私の世界を満たしてくれる。 中学二年の春。 私は、家でも学校でも、居場所を見つけられずにいた。 母は朝早くに出て、夜遅くに帰ってくる。 「おかえり」と言っても、返事は曖昧で、すぐに部屋にこもってしまう。 父のことは、もう思い出せない。 写真もないし、話題にもならない。 私は、ただ静かに、誰にも迷惑をかけないように生きていた。 その日も、雨だった。 学校からの帰り道、傘をさして、いつものように公園を通り抜けようとした。 誰もいないはずのベンチの下に、何かがいた。 小さな、濡れた塊。 近づくと、それは犬だった。 痩せていて、毛は泥で汚れていて、震えていた。 目だけが、まっすぐに私を見ていた。 その目に、私は立ち止まった。 「……どうしたの?」 声をかけても、犬は動かない。 ただ、じっと私を見ていた。 その瞳は、何かを訴えているようで、でも何も言わない。 私も、何も言えなかった。 傘をそっと差し出すと、犬は少しだけ顔を上げた。 雨が当たらなくなったせいか、震えが少しだけ収まった気がした。 私はしゃがみ込んで、犬と同じ目線になった。 「……うちには、連れて帰れないんだ」 それが、最初に言った言葉だった。 本当は、連れて帰りたかった。 でも、母が許すはずがない。 それに、私には犬を飼う知識も、力も、何もなかった。 それでも、何かをしてあげたくて、私はリュックサックの中を探った。 ポケットに入れていたハンカチを取り出して、そっと犬の背中にかけた。 濡れていて、あまり意味はなかったかもしれない。 でも、何かをしてあげたかった。 「明日、また来るから」 そう言って、私は立ち上がった。 犬は、またじっと私を見ていた。 その目が、少しだけ柔らかくなった気がした。 帰り道、私は何度も振り返った。 ベンチの下の犬は、動かずに、ただそこにいた。 雨は止む気配もなく、空は灰色のままだった。 家に帰ると、母はまだいなかった。 部屋の電気をつけて、制服を脱いで、濡れたハンカチを洗った。 犬の匂いが、少しだけ残っていた。 それが、なぜか嬉しかった。 布団に入っても、犬の目が頭から離れなかった。 あの静かな瞳。 何も言わないけれど、何かを伝えようとしていた。 私は、枕に顔を埋めて、そっと呟いた。 「この子も、私と同じで、ひとりぼっちだ」 その言葉が、胸の奥に沈んでいった。 誰にも言えなかった気持ちが、初めて形になった気がした。 雨の音が、遠くで続いていた。 そして私は、明日が少しだけ待ち遠しくなった。 |
| 【名無しさん】 2025年10月27日 20時16分15秒 | 第2章 名前のない友達 朝、目が覚めると、胸の奥が少しだけ温かかった。 昨日の雨の中で出会ったあの犬のことが、夢のように思い出された。 でも、夢じゃない。 濡れたハンカチも、犬の瞳も、ちゃんと現実だった。 学校では、いつも通り誰とも話さなかった。 教室のざわめきの中で、私は自分の席に座り、窓の外ばかり見ていた。 雨は止んで、空は薄曇り。 あの子は、まだあの場所にいるだろうか。 そればかりが気になって、授業の内容は頭に入らなかった。 放課後、私は急いで公園へ向かった。 リュックサックの中には、朝こっそり持ち出したパンが入っている。 母が買ってきた食パンを、二枚だけ。 怒られるかもしれないけど、あの子に食べさせたかった。 公園に着くと、昨日と同じベンチの下に、あの犬はいた。 少しだけ丸まって、でも昨日よりも穏やかな顔をしていた。 私の姿を見つけると、耳がぴくりと動いた。 「……来たよ」 そう言ってしゃがみ込むと、犬はゆっくりと顔を上げた。 私はリュックからパンを取り出し、ちぎって差し出した。 犬は警戒しながらも、そっと近づいてきて、私の手からパンを食べた。 その瞬間、胸がぎゅっとなった。 誰かに必要とされるって、こんな気持ちなんだ。 私の手を、誰かが受け入れてくれる。 それだけで、涙が出そうになった。 「名前、つけてもいい?」 犬は答えないけれど、じっと私を見ていた。 その瞳は、昨日よりも少しだけ柔らかくて、あたたかかった。 「……ココ、ってどうかな」 “ここにいてほしい” そんな気持ちを込めて、私はそう言った。 この子が、どこにも行かずに、私のそばにいてくれたら。 そんな願いを、名前に込めた。 「ココ。今日から、君はココだよ」 犬は、パンを食べ終えると、私の膝に顔を乗せた。 その重みが、なんだか嬉しくて、私はそっと頭を撫でた。 そのとき、背後から声がした。 「いい名前だな」 振り返ると、近所の老人が立っていた。 公園の掃除をしている人で、何度か見かけたことがある。 でも、話したことはなかった。 「ココか。ここにいてほしい……か。いい意味だ」 老人はそう言って、にこりと笑った。 私は、少しだけ恥ずかしくなって、うつむいた。 でも、心の中は、ぽっと灯りがともったようだった。 誰かが、私の言葉を受け止めてくれた。 誰かが、私の気持ちを「いい」と言ってくれた。 それが、こんなにも嬉しいなんて、知らなかった。 ココは、私の膝の上で目を閉じていた。 安心しているように見えた。 私も、少しだけ安心していた。 帰り道、私はココに「また明日ね」と言った。 ココは、小さく尻尾を振った。 その動きが、私の胸に優しく響いた。 家に帰ると、母はまだ仕事中だった。 静かな部屋で、私は今日のことを思い出しながら、日記を書いた。 「ココに名前をつけた。パンを食べてくれた。 おじいさんが、いい名前だって言ってくれた。 なんだか、今日は少しだけ、誰かと繋がれた気がした。」 ページを閉じると、心が少しだけ軽くなった。 ココの瞳も、老人の言葉も、私の中に残っていた。 そして私は、明日がもっと楽しみになった。 |
| 【名無しさん】 2025年10月27日 20時15分41秒 | 第3章 家の中の沈黙 ココと過ごす時間が、私の中で少しずつ特別なものになっていった。 公園で会うたびに、ココは尻尾を振ってくれるようになった。 パンを食べるときのくちゃくちゃという音も、私の耳に心地よく響いた。 誰かと一緒にいることが、こんなにも安心できるなんて、知らなかった。 でも、家に帰ると、その温かさはすぐに冷えてしまう。 玄関を開けると、部屋の空気がひんやりしていて、母の気配はない。 リビングの電気は消えていて、キッチンには洗い物が残ったまま。 母はいつも仕事で忙しくて、帰ってくるのは夜遅くだ。 「ただいま」と言っても、返事はない。 それが当たり前になっていた。 私の声は、壁に吸い込まれていくみたいだった。 夕食は、冷蔵庫にあるものを適当に温めて済ませる。 テレビの音だけが部屋に響いていて、私はそれをBGMみたいに聞き流す。 母が帰ってくる頃には、私はもう布団の中にいる。 顔を合わせても、会話はほとんどない。 「学校、どうだった?」 たまにそう聞かれても、「ふつう」としか答えられない。 それ以上、話が続くことはない。 母も、私も、何かを話すことに慣れていなかった。 そんな日々の中で、私はココのことを誰にも言えずにいた。 「犬なんて飼えない」 母が昔そう言っていたのを、私は覚えていた。 だから、ココの存在は、私だけの秘密だった。 放課後、公園でココに会って、パンを分けて、頭を撫でて。 その時間だけが、私の心を満たしてくれた。 帰り道、ココの匂いが手に残っていて、それを嗅ぐと、少しだけ笑顔になれた。 ある夜、布団に入ってから、私はそっと呟いた。 「ココの匂い、まだ残ってる……」 その言葉が、胸の奥にじんわりと広がった。 誰にも言えないけれど、誰かと繋がっている気がした。 それだけで、孤独が少しだけ薄れていくようだった。 次の日も、私はココに会いに行った。 公園のベンチの下で、ココは待っていてくれた。 私の姿を見つけると、立ち上がって、尻尾を振った。 「おはよう、ココ」 そう言うと、ココは小さく吠えた。 まるで返事をしてくれたみたいで、私は思わず笑った。 その笑顔を、誰かに見られていた。 公園の隅にいた老人が、私に近づいてきた。 「今日も会いに来たんだな」 「はい……」 私は少しだけ恥ずかしくなって、うつむいた。 でも、老人は優しく笑って言った。 「ココも、君に会えるのが嬉しいんだろうな」 その言葉が、心にすっと染み込んだ。 誰かが、私とココの関係を認めてくれた。 それだけで、世界が少しだけ優しくなった気がした。 家に帰ると、母はまだ仕事中だった。 私は、今日のことを日記に書いた。 「ココの匂いが、私の手に残ってる。 それだけで、心があたたかくなる。 おじいさんが、ココのことを褒めてくれた。 誰かに見てもらえるって、嬉しい。」 ページを閉じると、静かな部屋の中で、私はそっと微笑んだ。 ココは、私の孤独を埋めてくれる存在になっていた。 誰にも言えないけれど、確かに心に根を下ろしていた。 そして私は、明日もまた、ココに会えることを願いながら、眠りについた。 |
| 【名無しさん】 2025年10月27日 20時15分2秒 | 第4章 走る日々 春の風が、少しずつ冷たさを手放していく。 公園の木々が芽吹き始め、空の色も柔らかくなってきた。 私は、放課後になると自然と足が公園へ向かうようになっていた。 誰かに呼ばれているわけじゃない。 でも、そこに行けば、私を待っていてくれる存在がいる。 それだけで、心が軽くなる。 ココは、日に日に元気になっていった。 最初はベンチの下から出てこなかったのに、今では私の姿を見つけると、ぴょんと跳ねるように駆け寄ってくる。 尻尾をぶんぶん振って、私の足元に顔をすり寄せる。 その仕草が、なんとも言えず愛おしかった。 「今日も元気だね、ココ」 そう言いながら、私はリュックからパンの袋を取り出す。 母には言えないままだけど、こっそりと少しずつ持ち出している。 ココは、ちぎったパンを嬉しそうに食べる。 その姿を見ているだけで、胸がぽかぽかと温かくなる。 ある日、公園の隅で遊んでいた小さな男の子が、ココに気づいて近づいてきた。 「わんちゃん、かわいいね」 そう言って、そっと手を伸ばす。 ココは少し警戒しながらも、男の子の手を舐めた。 私は、少しだけ緊張していた。 誰かとココを共有するのが、怖かった。 でも、男の子の笑顔を見て、少しだけ安心した。 「名前、あるの?」 「……ココっていうの。ここにいてほしいって意味で」 男の子は「いい名前だね」と言って、また笑った。 その笑顔が、なんだか嬉しくて、私は初めて自分から誰かに話しかけた気がした。 それから、少しずつ公園での時間が広がっていった。 ココと走ったり、ボールを投げたり。 他の子どもたちも興味を持って、少しずつ輪ができていった。 私は、いつの間にか笑っていた。 声を出して、笑っていた。 「ココ、すごいね。みんなと仲良くできるなんて」 ココは、私の言葉に応えるように、尻尾を振った。 その動きが、まるで「君もだよ」と言っているようで、胸がじんとした。 家では相変わらず母との会話は少なかったけれど、私は日記を書くようになった。 誰にも見せない、私だけのノート。 そこには、ココとの日々が綴られていく。 「今日はココが尻尾をいっぱい振った。 男の子がココに触って、笑ってくれた。 私も、少しだけ笑えた。 ココがいると、世界が優しくなる気がする。」 ページを閉じると、心が静かに満たされていく。 誰かに話せなくても、書くことで気持ちが整理される。 そして、ココの存在が、私の中でどんどん大きくなっていった。 ある夕方、公園のベンチに座っていると、あの老人がまた声をかけてきた。 「ココ、元気になったな」 「はい。すごく、元気です」 私は、自然に笑っていた。 老人は、私の顔を見て、少しだけ目を細めた。 「君も、いい顔になった。ココのおかげだな」 その言葉に、胸がきゅっとなった。 誰かに、私の変化を気づいてもらえた。 それが、こんなにも嬉しいなんて。 「……ココがいてくれて、本当に良かったです」 そう言うと、ココが私の膝に顔を乗せた。 その重みが、私を支えてくれているようで、涙が少しだけ滲んだ。 帰り道、私は空を見上げた。 夕焼けが広がっていて、雲が金色に染まっていた。 ココと並んで歩くその時間が、ずっと続けばいいのに。 そんなことを、ふと思った。 でも、どこかでわかっていた。 この時間が、永遠じゃないこと。 ココが、いつかいなくなるかもしれないこと。 それでも、今は考えたくなかった。 私は、ココの頭を撫でながら、そっと呟いた。 「明日も、走ろうね」 ココは、静かに尻尾を振った。 その動きが、私の心に優しく響いた。 そして私は、明日がまた楽しみになった。 |
| 【名無しさん】 2025年10月28日 19時31分32秒 | ▶第5章 見つかった秘密 |