ここにいてほしい「君が残してくれた日々」『孤独な少女と孤独な老人と孤独な捨て犬が偶然出会った奇跡の物語』2【猫でも書ける短編小説】


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記事一覧
【名無しさん】
2025年10月28日
19時42分53秒

猫でも書ける短編小説

第1章 雨の日の出会い

第9章 空の下の沈黙
【名無しさん】
2025年10月28日
19時40分24秒

第5章 見つかった秘密

春の風が、少しずつ暖かくなってきた。
公園の桜はまだ蕾のままだけれど、空の色は冬よりも柔らかく、光が差し込む時間が長くなっていた。
私は、今日もココに会いに行く。
それが、私の日常になっていた。

ココは元気だった。
尻尾を振って、私の足元に駆け寄ってくる。
パンを食べるときのくちゃくちゃという音も、耳に心地よく響く。
誰かと一緒にいることが、こんなにも安心できるなんて。
私は、ココと過ごす時間が、何よりも大切になっていた。

その日も、いつものように公園でココと遊んでいた。
ボールを投げると、ココは嬉しそうに走って取りに行く。
私は笑って、ココも笑っているように見えた。

でも、その笑顔が突然止まった。

「遥?」

振り返ると、母が立っていた。
仕事帰りなのか、スーツ姿で、手には買い物袋を持っていた。
その目が、私とココを見て、驚きと困惑で揺れていた。

「……その犬、どうしたの?」

私は、言葉が出なかった。
ずっと隠していたことが、突然目の前に現れてしまった。
ココは、母の顔を見て、少しだけ尻尾を振った。
でも、母は動かなかった。

「ダメでしょ。ちゃんと責任を取れないなら関われない」

その言葉が、胸に突き刺さった。
私は、ココを見て、そして母を見た。
何かを言わなきゃと思ったけれど、言葉が出なかった。

「……でも、この子がいないと、私……寂しい」

ようやく絞り出した言葉は、涙と一緒にこぼれた。
母は、少しだけ目を見開いて、黙ったままだった。

「ずっとひとりだった。家でも、学校でも。
 でも、ココがいてくれて、初めて……誰かと繋がれた気がしたの。
 この子がいないと、また、ひとりぼっちになる」

涙が止まらなかった。
ココは、私の足元に寄り添って、静かに座っていた。
その姿が、私を守ってくれているようで、余計に涙が溢れた。

母は、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりとしゃがみ込んで、ココの顔を見た。

「……名前は?」

「ココ。“ここにいてほしい”って意味で」

母は、小さく息を吐いて、立ち上がった。
「家には連れて帰れない。仕事もあるし、世話もできない。
 でも……」

その言葉の続きを、私は待った。
心臓がどくどくと鳴っていた。

「……一度、ちゃんと考える。その代わり、責任は持つこと。
 ごはん、散歩、病院。全部、ちゃんとやるって約束できる?」

私は、何度も頷いた。
涙でぐしゃぐしゃになりながら、「うん」と言った。

その夜、家に帰っても、母は何も言わなかった。
でも、私の部屋の前に、小さなタオルと空の容器が置かれていた。
それが、母からの答えのように思えた。

翌日、公園で老人に会った。
いつものように掃除をしていたその人は、私とココを見て、にこりと笑った。

「お母さんに見つかったか」
「……はい。でも、少しだけ、わかってくれたみたいです」

老人は、ココの頭を撫でながら言った。

「人は、誰かを守りたいと思ったとき、強くなれる。
 君は、ココを守りたいと思った。
 それが、きっとお母さんにも伝わったんだろう」

その言葉が、胸にじんと響いた。
私は、ココの頭を撫でながら、そっと呟いた。

「ありがとう、ココ。私、ちゃんと守るからね」

ココは、静かに尻尾を振った。
その動きが、私の心に優しく響いた。

そして私は、初めて「家族」という言葉を、少しだけ信じてみようと思った。

【名無しさん】
2025年10月28日
19時39分46秒

第6章 あたたかな冬

冬の朝は、空気が澄んでいて、音が遠くに感じる。
窓の外に広がる白い息と、吐くたびに曇るガラス。
そんな季節が、私は少しだけ好きになった。
理由は、ココがそばにいるから。

あの日、公園で母に見つかってから、ココは家に来ることになった。
「責任を持つなら」という条件付きだったけれど、私にとっては夢のような出来事だった。
玄関にココのためのタオルを敷いて、空の容器に水を入れて。
それだけで、家の空気が少しだけ柔らかくなった気がした。

母は相変わらず忙しくて、会話は多くない。
でも、ココのことになると、少しだけ立ち止まってくれる。
「ごはん、ちゃんとあげた?」
「散歩は行ったの?」
そんな言葉が、私には嬉しかった。

ココは、家の中でも静かだった。
吠えることはほとんどなくて、私の後をちょこちょことついてくる。
私が勉強していると、足元で丸くなって眠る。
その寝息が、部屋の静けさを優しく包んでくれる。

ある日、学校から帰ると、母がリビングにいた。
珍しく早く帰ってきたらしく、テーブルの上には小さな箱が置かれていた。

「誕生日、おめでとう」

母がそう言った瞬間、私は一瞬言葉を失った。
誕生日を覚えていてくれたことが、驚きだった。
箱を開けると、中には赤い首輪が入っていた。
小さくて、柔らかい革でできた、ココにぴったりのサイズ。

「これで正式に、うちの子ね」

母の言葉に、胸がじんとした。
ココは、私の隣で尻尾を振っていた。
まるで、自分の名前を呼ばれたように。

私は、首輪をそっとココの首に巻いた。
ココは嫌がることもなく、むしろ誇らしげに見えた。
その姿を見て、母が少しだけ笑った。

「似合ってるね」

その言葉が、私の心に深く染み込んだ。
家族って、こういう瞬間の積み重ねなのかもしれない。
誰かが誰かを思って、何かを贈る。
それが、絆になる。

その夜、私は日記を書いた。

「今日、ココに首輪をつけた。
 母がくれた。
 “うちの子”って言ってくれた。
 ココが家族になった日。
 私の誕生日が、初めて嬉しかった。」

ページを閉じると、涙が少しだけこぼれた。
でも、それは悲しさじゃなくて、あたたかさの涙だった。

冬の夜は冷えるけれど、ストーブの前はぽかぽかしている。
私は毛布を広げて、ココと並んで座った。
ココは、私の膝に顔を乗せて、目を閉じた。
その寝顔が、何よりのプレゼントだった。

母がキッチンで何かを温めている音が、遠くで聞こえる。
その音も、今は心地よく感じる。
家の中に、誰かがいる。
それだけで、安心できる。

私は、ココの頭を撫でながら、そっと呟いた。

「ありがとう、ココ。
 私、少しずつ変われてる気がするよ」

ココは、寝たまま尻尾をふりふりと動かした。
その動きが、私の言葉に応えてくれているようで、胸があたたかくなった。

窓の外には、雪がちらちらと舞っていた。
静かな夜。
でも、心の中には、確かな灯りがともっていた。

そして私は、明日もまた、ココと一緒に過ごせることを願いながら、眠りについた。

【名無しさん】
2025年10月28日
19時39分7秒

第7章 春の異変

春が来た。
窓を開けると、風がやわらかく頬を撫でていく。
庭の隅に植えられたチューリップが、つぼみを膨らませていた。
空は高く、雲は薄く、世界が少しずつ色づいていく。
でも、私の心は、なぜか晴れなかった。

ココの様子が、少しずつ変わってきた。
朝、起きるのが遅くなった。
ごはんを出しても、前みたいに飛びついてこない。
散歩に誘っても、玄関で立ち止まることが増えた。

「ココ、どうしたの?」

何度も声をかけた。
頭を撫でても、尻尾はゆっくりとしか動かない。
それでも、私の顔を見て、静かに寄り添ってくれる。
その優しさが、逆に不安を大きくした。

母に相談すると、すぐに動物病院に連れて行こうと言ってくれた。
車に乗って、ココを膝に抱えながら、私はずっと胸がざわざわしていた。
病院の待合室で、他の犬たちの元気な声が響く中、ココは静かに私の腕の中にいた。

診察室で、獣医さんがココを優しく撫でながら言った。

「老犬ですね。年齢的にも、そろそろ体に負担が出てくる頃です。
 食欲の低下やふらつきは、老化のサインかもしれません。
 ……もう長くはないかもしれません」

その言葉が、頭の中で何度も繰り返された。
「長くはない」
「老犬」
「負担」

私は、何も言えなかった。
ココの背中を撫でながら、ただ涙がこぼれていった。

帰り道、車の窓から見える桜の並木が、満開に近づいていた。
ピンク色の花びらが風に舞って、道を染めていた。
でも、その美しさが、今は苦しかった。

「春は嫌いになりそう」

私は、そう呟いた。
ココは、私の膝の上で目を閉じていた。
その寝顔が、あまりにも静かで、あまりにも優しくて。
私は、どうしても現実を受け入れられなかった。

家に帰ってからも、私はずっとココのそばにいた。
ごはんを食べない日は、スープを作ってスプーンで口元に運んだ。
散歩に行けない日は、庭に出て、日向ぼっこをした。
それでも、ココは少しずつ、静かになっていった。

日記には、こんな言葉を書いた。

「ココが、あまり食べなくなった。
 病院で、老犬だって言われた。
 そんなはずない。
 ココは、ずっと元気でいてくれると思ってた。
 でも、春が来るたびに、心がざわざわする。
 花が咲くのに、私は泣きそうになる。」

ページを閉じると、涙がぽろぽろと落ちた。
ココの寝息が、隣で静かに響いていた。
その音が、私を現実に引き戻す。

母は、何も言わずにそっと毛布をかけてくれた。
その手の温かさが、少しだけ私を支えてくれた。

「ココ……お願い、もう少しだけ、そばにいて」

私は、そう願った。
春の風が、窓の隙間からそっと吹き込んできた。
その風が、ココの毛を揺らした。

そして私は、春が怖くなった。

【名無しさん】
2025年10月28日
19時38分30秒

第8章 最後の散歩

春の陽射しが、窓辺にやわらかく差し込んでいた。
部屋の空気は穏やかで、ストーブの温もりがまだ少し残っている。
私は、ココの寝顔を見つめながら、そっと息を吐いた。

ココは、もうほとんど歩けなくなっていた。
ごはんも、ほんの少ししか食べられない。
水を飲むのも、私がスプーンで口元に運ばないと、うまく飲めない。
それでも、ココは私の目を見て、静かに尻尾を振ってくれる。
その動きが、まるで「ここにいるよ」と言ってくれているようで、胸がぎゅっと締めつけられた。

「ココ、外に行こうか」

私は、そう声をかけた。
もう歩けないことはわかっていた。
でも、どうしても、もう一度だけ、あの公園に行きたかった。
あの日、雨の中で出会った場所。
ココが震えていたベンチの下。
私が初めて、誰かに心を向けた場所。

母に頼んで、古い毛布を一枚借りた。
それでココを包んで、そっと抱きかかえる。
ココは、私の腕の中で目を閉じていたけれど、時折、私の顔を見上げてくれた。

公園までの道は、春の匂いが満ちていた。
花壇にはパンジーが咲き、桜の花びらが風に舞っていた。
私は、ココを抱えながら、ゆっくりと歩いた。
一歩一歩が、胸に深く刻まれていく。

公園に着くと、ベンチの下には誰もいなかった。
私は、そこに腰を下ろして、ココを膝の上に乗せた。
風が吹いて、ココの毛がふわりと揺れた。

「覚えてる? ココ。あの日、ここで出会ったんだよ」

私は、静かに話しかけた。
ココは、目を細めて、私の手を舐めた。
その舌の感触が、涙を誘った。

「私、あの時、ひとりぼっちだった。
 誰にも言えないことがいっぱいあって、
 誰にも頼れなくて、
 でも、ココがいてくれて、変われたんだよ」

言葉が、ぽつぽつとこぼれていく。
ココは、空を見上げていた。
その瞳が、どこか遠くを見ているようで、私はそっと抱きしめた。

「ありがとう、ココ。
 あの時、雨の中で出会ってくれて、本当に良かった」

風が、桜の花びらを運んできた。
それが、ココの鼻先にふわりと舞い降りる。
ココは、ゆっくりと目を閉じた。

帰り道、私は何度も振り返った。
公園のベンチが、静かにそこにあった。
あの日と同じように、誰もいない。
でも、私の心には、たしかに誰かがいた。

家に戻ると、母が玄関で待っていてくれた。
「おかえり」
その言葉が、今までで一番優しく聞こえた。

夜、私はココのそばに布団を敷いて、一緒に眠ることにした。
ココは、毛布の中で丸くなっていた。
私は、そっと手を伸ばして、ココの背中を撫でた。

「おやすみ、ココ。
 また明日も、一緒にいようね」

その言葉に、ココは小さく尻尾を振った。
その動きが、私の胸に深く響いた。

夜が静かに更けていく。
窓の外では、風が木々を揺らしていた。
私は、ココの寝息を聞きながら、目を閉じた。

そして、朝が来る前に、ココは静かに息を引き取った。

その瞬間、私は何も言えなかった。
涙も、声も、動きも、すべてが止まった。
ただ、ココの温もりだけが、私の腕の中に残っていた。

「ありがとう、ココ。
 私、あなたに出会えて、本当に幸せだったよ」

その言葉が、部屋の中に静かに響いた。
そして私は、ココの命が、私の中に確かに残っていることを感じていた。

【名無しさん】
2025年10月28日
20時18分33秒

▶第9章 空の下の沈黙