▶第5章「嫉妬の色」
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「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 玄野武宏」「VOICEVOX: 白上虎太郎」「VOICEVOX: 青山龍星」
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第1章「宿屋の息子、学園へ」
魔法学園の入学試験会場は、朝からざわざわと騒がしかった。王都の中央にそびえる白亜の塔、その一角に設けられた試験場には、王国中から集まった若者たちが緊張と期待を胸に列を作っていた。
その中に、ひときわ地味な少年がいた。ルイ・アーデル。海辺の街の宿屋の息子。見た目は普通、いや、普通以下。髪はぼさぼさ、制服は少しサイズが合っていない。目立たないように隅っこに立っているが、逆に目立っている気がするのは気のせいだろうか。
「……ああ、帰りたい」
ルイは心の中で何度目かの逃走願望を唱えていた。だが、足は動かない。いや、動かせない。隣に立つ少女が、彼の袖をしっかり握っているからだ。
「ルイ、顔が死んでるよ。大丈夫?」
セリナ・エルフェリア。王国の名家に生まれた才色兼備の少女。魔力保有量は学園史上最高、頭脳明晰、しかも性格は天真爛漫。そんな彼女が、なぜか昔からルイに懐いている。
「だ、大丈夫じゃないけど……なんとかなる……かも……しれない……といいな……」
「弱気すぎる!」
セリナは笑って、ルイの背中をぽんと叩いた。軽いはずのその一撃が、ルイの心臓に直撃する。
(いや、無理だって。僕の魔力指数、昨日の予備測定で0.3だったんだぞ? しかも誤差の範囲って言われたし。セリナは……確か、1200超えてたよな。どういうことだよ、同じ人間なのに)
ルイは自分の手を見つめる。何度も計算した。魔力の流れ、魔術式の構造、最適化の可能性。理論上は、魔力が少なくても魔法は使えるはずなのだ。だが、現実は非情だった。
「次、ルイ・アーデルさん」
試験官の声が響く。ルイはびくっと肩を震わせた。周囲の視線が集まる。ざわ……と小さな笑いが漏れる。
「宿屋の息子だって」「魔力、ほぼゼロらしいよ」「なんで受けに来たの?」
(うん、知ってた。こうなるって。予想通り。計算通り。……いや、計算外だ。心が痛い)
ルイはよろよろと測定器の前に立つ。魔力測定器は、手をかざすだけで魔力指数を表示する仕組みだ。セリナが使ったときは、光が眩しくて試験官が目を細めたほどだった。
ルイが手をかざすと、機械が一瞬沈黙した。
「……えーと、魔力指数、0.2ですね」
「え、桁、合ってます?」
試験官が思わず確認する。周囲がどっと笑った。
「0.2って、虫以下じゃね?」「魔法使えるの?」「いや、魔法以前に生きてるの?」
(うん、虫以下。僕は虫以下。いや、虫に失礼かもしれない。ごめん、虫)
ルイはそっと手を引っ込めた。顔を真っ赤にして、俯く。逃げたい。でも、セリナが目の前に立っていた。
「ルイは頭いいもん。数字で世界を変えられるよ」
その言葉に、ルイは顔を上げた。セリナの瞳は真っ直ぐだった。嘘じゃない。彼女は本気でそう思っている。
(……信じてくれてる。僕のことを。セリナだけは)
ルイは小さく笑った。自分でも驚くほど、自然な笑顔だった。
「ありがとう。でも、世界を変えるには、まず自分の部屋から出る勇気が必要だな」
「それはもう出てるよ。ほら、今ここにいるじゃん」
セリナはにっこり笑った。ルイの心臓が跳ねる。
(……やばい。好きだ。やっぱり好きだ。いや、でも彼女は名家の令嬢で、僕は宿屋の息子で、魔力0.2で、虫以下で……)
思考がぐるぐる回る中、試験は進んでいく。魔法構築試験では、ルイは簡単な魔術式を提出した。計算式は完璧だったが、魔力が足りず発動には至らなかった。
「構築理論は優秀ですね。魔力があれば……」
試験官の言葉に、ルイは苦笑した。
(魔力があれば、ね。もし“あれば”って言葉が魔法だったら、僕は最強だ)
試験が終わり、帰り道。セリナはルイの隣を歩いていた。風が心地よく、街の喧騒が遠くに聞こえる。
「ねえ、ルイ。学園生活、楽しみだね」
「……うん。まあ、地獄の予感しかしないけど」
「そんなことないよ。私がいるし、レオンもいるし」
「レオンか……あいつ、魔力も剣も完璧だし、顔もいいし、性格もいいし、将来有望だし……」
「ルイもいいとこあるよ。計算とか、優しさとか、あと……」
セリナは言いかけて、口をつぐんだ。ルイは気づかないふりをした。
(“あと”ってなんだろう。でも、聞けない。怖い。期待して、違ったら……)
二人は並んで歩く。夕焼けが街を染める中、ルイはふと思った。
(僕は、魔法使いじゃない。魔力もない。でも、数字なら操れる。世界を変えるには、魔法じゃなくて……計算かもしれない)
その瞬間、彼の中で何かが芽生えた。小さな、小さな可能性の種。
そして、物語は始まる。宿屋の息子が、数字で世界を変える旅へと。
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第2章「ごろつき事件」
昼下がりの王都は、いつもより少し騒がしかった。魔法学園の入学式を終えたばかりの生徒たちが、制服姿で街を歩き回っている。ルイ・アーデルもその一人だった。いや、正確には、彼は街の片隅で、なるべく目立たないように歩いていた。
(セリナに誘われたから来たけど……人、多すぎない? これ、罠じゃない?)
ルイは人混みの中で、そわそわと周囲を見回していた。セリナはお菓子屋に寄ると言って、先に行ってしまった。彼女のことだから、きっと店員と仲良くなって、試食をもらって、笑顔で帰ってくるだろう。
(それにしても、あの制服姿……目立ちすぎだろ。あれはもう、光属性の魔法だよ。眩しい)
ルイがそんなことを考えていたときだった。路地裏から、怒鳴り声が聞こえた。
「おい、嬢ちゃん。いい服着てんな。ちょっと付き合えよ」
「やめてくださいっ!」
聞き慣れた声。セリナだ。
(え、えええええええええ!? なんで!? お菓子屋じゃなかったの!?)
ルイは慌てて声の方へ走った。路地裏には、セリナが三人の不良に囲まれていた。彼らは見るからに柄が悪く、魔法の腕輪をジャラジャラと鳴らしている。
「やめろ!」
ルイは叫んだ。叫んだだけだった。次の瞬間、彼は地面に転がっていた。
「……え? もう?」
殴られたらしい。いや、蹴られたのかもしれない。とにかく、痛い。顔が痛い。腹も痛い。何より、心が痛い。
(計算外だ。いや、計算してなかった。そもそも、戦闘力ゼロだった)
「ルイ!」
セリナが叫ぶ。彼女は必死に不良たちを振りほどこうとしている。ルイは、血の味を感じながら、なんとか立ち上がろうとした。
「やめろって言ってんだろ……!」
声は震えていた。足も震えていた。でも、彼は前に出た。もう一度、殴られた。今度は鼻血が出た。
(うん、これ以上は無理だ。勇気って、痛い)
そのときだった。路地裏に、光が差し込んだ。いや、光そのものが現れた。
「そこまでだ」
低く、凛とした声。白銀の鎧を纏った青年が、剣を構えて立っていた。レオン・ヴァルクス。聖騎士候補。王国騎士団の名門の子息。完璧な男。
「聖騎士団候補、レオン・ヴァルクスだ。市民への暴力は、王国法により即刻拘束対象となる」
不良たちは顔を引きつらせた。レオンは一歩踏み出すと、剣を振るった。光が走り、魔法の腕輪が砕け散る。次の瞬間、不良たちは地面に倒れていた。
「セリナ、大丈夫か?」
レオンが駆け寄る。セリナは涙を浮かべて頷いた。
「うん……ありがとう、レオン」
ルイは、地面に転がりながら空を見上げていた。鼻血が止まらない。頬が腫れている。服は泥だらけ。
(……俺、またかっこ悪いな)
彼は苦笑した。セリナがレオンに抱きしめられているのを見て、胸がちくりと痛んだ。
(でも、守れた。……いや、守れてないか。むしろ、邪魔だったかも)
「ルイ!」
セリナが駆け寄ってきた。彼の顔を見て、目を見開いた。
「ひどい……! なんで、無理して来たの?」
「いや……なんか、気づいたら走ってた。反射的に」
「バカ……」
セリナは涙をこぼしながら、彼の頬に手を当てた。魔力が流れ、傷が少しずつ癒えていく。
「……ありがとう」
ルイは小さく呟いた。セリナは頷いたが、その目はどこか寂しげだった。
(なんでだろう。僕が無理したから? それとも、レオンが来たから?)
レオンが近づいてきた。彼はルイに手を差し伸べた。
「よくやったな、ルイ。勇気は、魔力よりも強い時がある」
「……いや、僕のは無謀って言うんだよ。勇気ってのは、勝てる人がやることだ」
「違うさ。負けるとわかっていても、立ち向かうのが本当の勇気だ」
ルイはその言葉に、少しだけ救われた気がした。
(レオンは、やっぱりかっこいいな。完璧だ。……セリナが好きになるのも、当然だよな)
三人は並んで歩き出した。夕暮れの街を、ゆっくりと。
セリナはルイの腕をそっと取った。彼は驚いたが、何も言えなかった。
(……僕は、ただの宿屋の息子。魔力0.2。虫以下。でも、セリナが笑ってくれるなら、それでいい)
その笑顔が、彼の心を少しだけ温めた。
そして、三人の物語は、少しずつ動き始める。
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第3章「三人の放課後」
魔法理論の授業が終わった午後、教室にはまだ数人の生徒が残っていた。窓から差し込む光が、机の上の魔術式を照らしている。
「この数式、やっぱりおかしいって。ここ、魔力の流れが逆転してる」
レオンが眉をひそめながら、セリナのノートを指差した。
「え? でも、先生はここを“安定式”って言ってたよ?」
「先生が言ってたからって、正しいとは限らないだろ。俺は実戦で使ってみたんだ。結果、結界が崩れた」
「うそ! それ、魔力の供給が足りなかっただけじゃない?」
「いや、供給は十分だった。問題は構造だ」
二人の言い合いは、まるで魔法理論の戦争だった。ルイは隅の席で、そっとノートを開いていた。
(……また始まった。セリナとレオンの魔法論争。どっちも頭いいし、どっちも譲らないし、どっちも声が大きい)
彼はため息をつきながら、二人のノートをちらりと見た。確かに、セリナの式には微妙なズレがあった。魔力の流れが、理論上は安定しているが、実戦では不安定になる可能性がある。
(……ここだな。魔力の流入角度が、理論値より0.3度ズレてる。これ、反射式で補正すれば……)
ルイは自分のノートに、さらさらと数式を書き込んだ。魔力の流れ、角度、反射率、魔術式の再構築。彼の手は止まらない。
「ルイ、どう思う?」
セリナが突然振り向いた。ルイはびくっと肩を跳ねさせた。
「え、あ、えっと……ちょっとだけ、ズレてるかも」
「ズレてる? どこが?」
「ここ。魔力の流入角度が、理論値より0.3度ズレてる。だから、反射式で補正すれば安定すると思う」
ルイは自分のノートを差し出した。セリナとレオンが覗き込む。
「……なるほど。確かに、反射式で補正すれば、魔力の流れが均一になる」
レオンが頷いた。セリナも目を輝かせた。
「すごい! ルイ、やっぱり頭いい!」
「いや、そんな……ただの計算だし……」
ルイが照れくさそうに笑った瞬間だった。
「じゃあ、試してみよう!」
セリナが魔術式を展開した。魔力が集まり、光が走る。
「え、ちょ、待って! まだ調整してない!」
ルイの声が届く前に、魔法陣が暴発した。
「きゃっ!」「うわああっ!」
爆煙が教室を包む。机が跳ね、椅子が転がり、黒板が揺れた。
煙が晴れると、三人は煤まみれで床に転がっていた。
「……ごめん。ちょっとだけ、早まったかも」
セリナが頭を掻きながら笑った。ルイは咳き込みながら、顔を拭いた。
「いや、僕の計算が甘かった。反射率、もう少し下げるべきだった」
「俺の魔力供給も、ちょっと強すぎたかもな」
レオンも苦笑する。
三人は顔を見合わせて、笑った。教室の隅で、誰かが「またかよ……」と呟いたが、気にしない。
「なんか、昔みたいだね」
セリナがぽつりと呟いた。その言葉に、ルイの胸がきゅっと締め付けられた。
(昔……そうだ。セリナが屋敷を抜け出して、僕の宿屋に来てた頃。一緒に魔法の本を読んで、紙に魔術式を書いて、失敗して、爆発して……)
「懐かしいな。あの頃は、魔法っていうより、爆発芸だったよな」
レオンが笑う。セリナも頷く。
「でも、楽しかった。ルイがいつも、すごい計算してくれて。私、全然わかんなかったけど、なんか安心してた」
「……僕は、ただの数字オタクだっただけだよ」
「違うよ。ルイがいたから、私、魔法が好きになったんだよ」
その言葉に、ルイは言葉を失った。胸が、じんわりと熱くなる。
(……セリナは、僕のことをそんなふうに思ってくれてたんだ。でも、僕は……)
彼は目を伏せた。セリナの笑顔が、眩しすぎた。
(……やっぱり、僕にはもったいないよ。彼女には、レオンみたいな人が似合ってる)
「ルイ?」
セリナが覗き込む。ルイは慌てて顔を上げた。
「う、うん。なんでもない。ちょっと、煤が目に入っただけ」
「ふふ、じゃあ、洗いに行こうか。三人で」
「そうだな。俺の鎧も、煤まみれだし」
三人は並んで教室を出た。夕暮れの廊下を、笑いながら歩いていく。
その背中は、どこか懐かしくて、あたたかかった。
そして、物語はまた一歩、進んでいく。
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第4章「最弱、魔法大会に出る」
魔法学園の中庭は、朝からざわついていた。年に一度の「新入生魔法大会」。それは、魔力と技術を競い合う晴れ舞台であり、同時に“誰が目立つか”を決める非公式人気投票でもある。
「ルイ、出場するって本気?」
セリナが目を丸くして言った。彼女の手には、焼きたてのクロワッサン。朝からお菓子を持っているあたり、さすがだった。
「うん……まあ、出るだけならタダだし」
「いや、タダでも命がけだよ!? 魔力指数0.2で魔法大会って、勇者か無謀かの二択だよ!」
「勇者って言ってくれるの、セリナだけだと思う」
ルイは苦笑した。正直、出場を決めたのは勢いだった。昨日、レオンが「俺も出るぞ」と言ったのを聞いて、なぜか「じゃあ僕も」と口が滑った。
(あれは完全に事故だった。口が勝手に動いた。脳は止めようとしてた。心は逃げようとしてた。なのに、口だけが……)
「でも、ルイなら勝てるかもって思ってるよ。だって、計算魔法でしょ?」
セリナの言葉に、ルイは目を伏せた。
(勝てる……か。いや、勝てるわけない。魔力はない。筋力もない。人気もない。あるのは、紙とペンと、ちょっとだけの計算力)
それでも、彼は出場を決めた。理由は、たぶん、セリナが笑ってくれたから。
大会は、魔法の基本「スパーク」を使った技術競技から始まった。スパークとは、魔力を一点に集中させて放つ初級魔法。威力は低いが、制御が難しい。
「次、ルイ・アーデル!」
会場がざわついた。あの“魔力0.2”の少年が出るらしい。観客席からは、ひそひそ声が漏れる。
「え、あの子?」「魔法、出るの?」「見物だな」
(うん、見物だよね。僕も見物したい。自分の魔法が出るかどうか、観客席から見たい)
ルイは深呼吸した。手には、ぎっしりと数式が書かれた紙。彼は、魔術式を再構築していた。スパークの魔力流路を最短化し、反射角を調整し、魔力消費を0.1以下に抑える計算。
(理論上は、魔力0.2でも発動可能。問題は、実際に出るかどうか)
彼は、紙を見ながら魔術式を展開した。詠唱はない。彼の魔法は、無詠唱・多重詠唱型。魔力を数式で制御する。
「スパーク、発動」
静かな声とともに、彼の手から光が走った。
「……出た!」
会場がどよめいた。小さな光球が、一直線に的へ向かい、中心を貫いた。
「命中、中心点!」
試験官が叫ぶ。観客席がざわつく。
「え、今のって……」「魔力0.2で!?」「どういうこと!?」
ルイは、呆然と立ち尽くしていた。自分でも、信じられなかった。
(出た……本当に出た。計算通りに、魔法が……)
セリナが、観客席から立ち上がって拍手していた。笑顔だった。まぶしいくらいに。
(……ああ、よかった。セリナが笑ってる。それだけで、出た意味があった)
レオンも、腕を組んで頷いていた。
「やるじゃないか、ルイ。あれが、お前の魔法か」
ルイは、少しだけ胸を張った。初めて、自分の力を実感した瞬間だった。
大会の結果は、ルイが技術部門で特別賞を受賞。魔力指数では最下位だったが、魔術式の精度と革新性が評価された。
「ルイ、すごいよ! ほんとに、数字で世界を変えたね!」
セリナが駆け寄ってきた。ルイは照れくさそうに笑った。
「いや、世界は変わってないよ。的がちょっと光っただけ」
「でも、私の世界は変わったよ。ルイって、やっぱりすごい」
その言葉に、ルイは言葉を失った。胸が、じんわりと熱くなる。
(……セリナの世界。僕が、変えられたのかな)
レオンが近づいてきた。彼は、ルイの肩をぽんと叩いた。
「次は、実戦だな。俺と組んでみるか?」
「え、組むって……僕、戦力にならないよ」
「いや、計算魔法ってのは、俺の剣より鋭いかもしれない」
ルイは、少しだけ笑った。
(レオンは、やっぱりかっこいい。でも、僕も……少しくらいは、かっこよくなれたかな)
三人は並んで歩いた。夕暮れの学園を、笑いながら。
そして、物語はまた一歩、進んでいく。
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あらすじ
「VOICEVOX: 白上虎太郎」魔法学園の入学試験会場は王都の白亜の塔に設けられ、全国から集まった若者の緊張と期待で朝からざわめいていたが、その列の片隅には海辺の宿屋の息子である地味な少年ルイ・アーデルが肩をすくめて立っていた。 とはいえ彼は逃げ出したい気持ちを抑えつつも袖を握る幼なじみセリナ・エルフェリアに支えられており、彼女は名家の令嬢にして学園史上最高の魔力保有者で性格も天真爛漫だが不思議と昔から彼に懐いている。 やがて魔力測定の順番が来ると会場の視線と嘲笑が集中し、ルイの指数は誤差レベルの0.2と告げられて一層の失笑を浴びたものの、セリナは数字で世界を変えられると真顔で励ました。 しかし現実の魔法構築試験では理詰めの魔術式が評価されつつも魔力不足で発動せず、試験官に「魔力があれば」と惜しまれた彼は皮肉を噛み殺して笑うしかなかった。 そうして二人が夕焼けの街を歩く帰り道、セリナは学園生活への期待を語り、完璧な聖騎士候補レオン・ヴァルクスの名も挙げたが、ルイは自嘲しながらも数字で世界を動かす可能性の種が自分に芽生えたのを感じた。 ところが入学式直後の王都は新入生で賑わい、菓子屋へ向かったはずのセリナが路地裏で不良に絡まれてしまい、ルイは無謀にも飛び込むも一撃で地面に転がって勇気の痛みを学ぶ羽目になった。 とはいえその危機に颯爽と現れたのが白銀の鎧を纏うレオンで、彼は一閃で不良の魔法腕輪を砕き鎮圧して規律と威厳を示し、セリナの無事を確かめると冷静に場を収めた。 この一件で三人の絆はあらためて結び直され、次の授業ではルイが魔術式の流入角の0.3度のズレを見抜いて反射式補正を提案し、レオンも理屈に納得してセリナは目を輝かせた。 とはいえ勢い余ったセリナが即試行して暴発させ、教室は煤だらけになったが、ルイは反射率の再調整を反省し、レオンも供給過多を認め、三人は苦笑混じりに笑い合った。 そこには幼い頃に屋敷を抜け出したセリナが宿屋に通って一緒に本を読み、紙の魔術式で何度も爆発した記憶の温かさがよみがえり、セリナはルイがいたから魔法を好きになれたと告げた。 けれどもルイは眩しすぎる言葉に俯き、彼女にはレオンのような人が似合うと弱気な自己評価に揺れたが、結局三人で煤を洗いに行く背中には昔の延長のような親密さが宿っていた。 さらに物語が一歩進むと、年に一度の新入生魔法大会の開催が告げられ、華やかな晴れ舞台かつ人気投票でもあるこの場にルイは勢いで出場を表明してしまい、セリナは心配しながらも彼の計算魔法に希望を見いだした。 確かにルイの魔力は0.2で筋力も人気も心許ないが、彼には紙とペンと理論の積み重ねがあり、彼は初級魔法スパークを数式で再構築して消費を極限まで削る準備を進めた。 大会当日、見物目当ての視線が集まる中でルイは無詠唱・多重詠唱型の制御式を展開し、最短化した流路と反射角の調整でわずかな魔力を一点に集約して静かに「スパーク、発動」と告げた。 すると小さな光球は真芯を射抜いて的の中心点を貫通し、会場は魔力0.2の成功にどよめき、試験官は正確な命中を高らかに宣告した。 驚愕の後に訪れたのはセリナの眩しい拍手とレオンの称賛で、ルイは初めて自分の力が世界に届いた実感をほんの少し胸に抱いた。 結果として彼は技術部門で特別賞を受け、魔力の低さを精度と革新性で覆して「数字で魔法を動かす」という新しい語りを学園に刻み、観客の先入観を揺さぶった。 とはいえ本人は的が光っただけと謙遜し、セリナは私の世界は変わったとまっすぐに肯定し、レオンは実戦で組む提案をして計算魔法の戦術価値を認めた。 こうして彼は自分でも少しは格好よくなれたかもしれないと微笑み、三人は夕暮れの学園を並んで歩きながら、勝敗よりも信頼が深まったことを確かめ合った。 入学試験の屈辱から路地裏の失敗、教室の暴発、そして大会の成功までをつないだのは、セリナの揺るぎない信頼とレオンの実直な尊敬、そしてルイ自身の粘り強い思考だった。 加えて、ルイが示したのは「魔力の多寡に依らず設計と最適化で突破できる領域がある」という実証であり、これは学園の評価基準にもささやかな波紋を投げかけた。 さらに、セリナの衝動性とレオンの安定感、ルイの慎重さは互いの弱点を補完し、トリオとしての相性の良さを爆発と笑いを通じて証明した。 とはいえルイの自己評価の低さと身分差の意識は依然として心の枷で、彼の成長物語は肯定を受け取る練習と恐れに名を与える過程として続いていく。 一方で、路地裏の事件が示した王都の影は、名門と庶民の落差や魔法具の違法流通を暗示し、今後の試練が個人の競技だけでなく社会的な問題にも及ぶ可能性を示した。 また、計算魔法は効率化の美徳だけでなく、誤差や供給過多が直ちに暴発に繋がるリスクも伴い、実戦投入には協働と段階的検証が不可欠だと三人は身をもって学んだ。 それでも、数字で世界を変えるというルイの仮説は実験段階から検証段階へ進み、彼は自分の居場所を「弱者の工学」に見いだし始めた。 さらに、レオンの「剣より鋭いかもしれない」という言葉は、力の価値観を複線化し、戦いを技術と倫理の両輪で捉える視点を三人に植え付けた。 そして、セリナの「私の世界は変わった」という告白は、成果の尺度を外的評価から身近な一人の変化へと引き寄せ、ルイの動機を静かに強くした。 結果として、宿屋の息子は数字を武器に最弱の枠をはみ出し始め、物語は友情と挑戦のリズムを得て歩幅を広げた。 とはいえ、人気投票としての大会が示す学園の空気は華やかさと残酷さを併せ持ち、今後の嫉妬や軋轢の予兆が次章の「嫉妬の色」へと連なる。 同時に、ルイの成功は彼個人だけでなく低魔力の生徒たちへの希望の灯火となり、学園内の多様な才能の受容に小さな道を拓いた。 また、幼少期の記憶が現在の実験と笑いで更新され続けることで、三人の関係は過去の延長線ではなく新しい約束へと変わり、未来への共闘が現実味を帯びた。 結局のところ、失敗の積算が成功の母数を増やすというルイの直感は、爆発という喜劇と的中という静かな歓喜の双方で裏づけられた。 だからこそ彼は、計算は臆病の言い訳ではなく前へ進むための橋だと理解し、次の戦いでは恐れと式を同時に携えるだろう。 やがて夕暮れの校庭を三人が笑いながら歩く姿は、物語が確かに一歩ずつ進んでいる証明であり、彼らの背中には各々の強さと脆さを抱きしめる覚悟が重なっていた。 さらに、ルイの視線の先にはまだ見ぬ難題と小さな幸せが交互に並び、彼は「世界を変えるには部屋から出る勇気」という原点を胸に、今度は自分の設計で他者を守る実戦の段へと踏み出す。 結末ではなく序章としての一連の出来事は、最弱と最強、理屈と衝動、笑いと痛みの交差点に三人を立たせ、次章「嫉妬の色」が新たな揺さぶりをもたらすことを静かに予感させる。
解説+感想良かった点・心に残ったところ「数字で世界を変える」というテーマの純度の高さ魔力0.2という絶望的なスタートから、誤差0.3度にこだわる姿勢、スパークの最適化、無詠唱・多重制御式……と、全部「工学的な魔法再定義」の一貫したラインで通っているのが気持ちいい。 ただの「努力で魔力が増えた!」ではなく、あくまで設計と最適化で質を極限まで引き上げるというアプローチが、現代の最適化・シミュレーション文化とも共鳴してて好きです。 三人の性格と役割のバランスが絶妙 セリナ:衝動×天才×絶対的な信頼(ルイの最大の理解者でありながら、一番暴発させる危険人物)レオン:完璧王子様だけど理屈をちゃんと聞いてくれる実直さ(貴族なのに嫌味がない)ルイ:卑屈・自嘲・でも思考だけは諦めない(そしてその思考が結果的に二人を救う)この三角形が、爆発と笑いと煤だらけで回っているのが最高に微笑ましい。 教室煤まみれ→三人で洗いに行く流れとか、ベタだけど温かさがちゃんと伝わってくる。 「私の世界は変わった」の破壊力これ、ルイみたいな自己評価の低い主人公が一番弱い一撃ですよね。 派手な「俺TUEEE」ではなく、たった一人の肯定で救われる瞬間が一番強い。 セリナがそれをまっすぐ言える子だからこそ、ルイの「眩しすぎる」という反応もリアルで良かった。 失敗と笑いのリズム路地裏でボコられ→レオン登場→教室爆発→大会成功、と失敗と成功が交互に来て、しかも失敗がちゃんと笑いに昇華されているのが上手い。 コメディとシリアスの塩梅が絶妙で、ずっと読んでいて苦にならない。 ちょっと気になる・今後期待しちゃうポイントルイの「身分差」「自分はセリナに釣り合わない」意識がまだかなり根深いので、ここをどう解いていくか(あるいは解かないまま苦しみ続けるか)が大きな見どころになりそう。 「嫉妬の色」という次章タイトルがもう出ている時点で、学園内の陰湿な空気・人気投票の残酷さ・低魔力層からの逆恨みあたりが来るんだろうな……と予感。 計算魔法の「暴発リスク」「実戦での協調性」がすでに伏線としてしっかり刺さっているので、今後「理論は完璧だけど連携が下手」「セリナの魔力供給が多すぎて制御不能」みたいなピンチが来て、三人の信頼が試される展開が楽しみ。 総じて、めちゃくちゃ王道なんだけど、「王道を丁寧に、綺麗に、ちょっとだけひねって」描いている感じがして、すごく好感が持てました。 こういう「最弱から理論で這い上がる系」って、読む側も一緒に「次はどんな最適化をするんだろう?」ってワクワクできるのが強みですよね。 ルイの次の設計がどんな風に世界(とセリナとレオン)を変えていくのか、続きがとても楽しみになりました。 三人が夕暮れの校庭を歩くラストシーン、頭の中で映像化されてしまってちょっと胸が熱くなりました。
▶第5章「嫉妬の色」
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