阪神競馬場は負けヒロインが多すぎる!

~一着の報酬は特上ニンジン、二着はアイスに決まってますわ!~
フィリーズレビューの激闘(負けヒロインが多すぎる!編)
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フィリーズレビューの激闘

★ 出走馬 × キャラクター 対応表 ★

1着:ギリーズボール × 八奈見 杏菜(食いしん坊ヒロイン)
2着:サンアントワーヌ × 馬袴 ティアラ(計算高いお嬢様)
3着:アイニードユー × 焼塩 レモン(爽やか脳筋スポーツ系)
4着:デアヴェローチェ × 小鞠 知花(毒舌文芸部系)
5着:プレセピオ × 温水 佳樹(分析系・ブラコン)
8着:ショウナンカリス × 志喜屋 夢子(気怠い最強系?)
「馬名【キャラ名】有」
「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: もち子さん」「VOICEVOX: 雨晴はう」「VOICEVOX: 春日部つむぎ」「VOICEVOX: 波音リツ」「VOICEVOX: 冥鳴ひまり」 春の陽光が青々とした阪神の芝を明るく照らし出している。 土の匂いと青草の香りが混ざり合い、 熱気を帯びた風がスタンドから吹き下ろしてきていた。 ゲートの中で静かに前を見据える乙女たちがいる。 ガシャンという鋭い金属音と共に、 一斉に十四百メートルの戦いへと飛び出した。 最初の二百メートルはゆったりとした入りだった。 (あら、私をマークしてるつもり?悪いけど、次元が違うのよ)(4番 牝3) 好位の馬群の中で優雅に首を上げるのはショウナンカリスだ。 彼女の視線の先には誰もいないかのようだった。 (カメラのフラッシュが私を追っているわ。当然ね、私が主役なのだから) しかし、その静寂は次の瞬間に破られる。 「よっしゃあ!先頭独走!誰にもこの汗は触れさせないよ!」(7番 牝3) 弾けるような声と共に一気に加速して先頭に躍り出たのは、 生粋のスポーツ系逃げ馬のアイニードユーである。 一ハロン目の十二秒〇から、 二ハロン目は驚異の十秒八という急加速だ。 馬群が一気にばらけ、激しいポジション争いが勃発する。 (ちょっ、後ろの足音が多すぎるってば!もっと距離取ってよ、暑苦しいなー!) アイニードユーは風を切り裂きながら不満を漏らす。 そのすぐ後ろにはラスティングスノーが必死に食らいついている。 砂煙が舞い上がり、蹄の音が重なり合って地鳴りのように響く。 「あ、前の馬の尻尾、なんかチュロスっぽくない?追い越して確認しなきゃ!」(2番 牝3) 中団の少し内側で呑気な声を上げたのはギリーズボールだ。 (ねえ、阪神の芝って味気なくない?もっとイタリアンパセリとか植えてほしいんだけど) 周囲の殺気立った雰囲気などどこ吹く風で、 彼女の頭の中は食べ物のことばかりで満たされていた。 隣を走るショウナンカリスが信じられないという顔で睨みつける。 ツンとした鼻先を少しも崩さずにショウナンカリスが口を開いた。 「ちょっと、あなた。こんな神聖なレース中に食べ物の話ですって?信じられないわ」 「えっ、もしかしてチュロス隠し持ってるの?次元が違うチュロスってどんな味?」 ギリーズボールは目を輝かせてショウナンカリスにすり寄る。 「はあ!?誰がチュロスなんか持ってるって言ったのよ!私の気品ある走りの話よ!」 ショウナンカリスは苛立ちを隠せずにペースを乱しかける。 「なんだ、ケチ。じゃあ自力で前のチュロス捕まえるもん。別にいいし」 「キーッ!誰もケチなんて言ってないわよ!あとチュロスなんて走ってないわよ!」 ショウナンカリスが逆ギレして息を荒げる横で、 ギリーズボールは悠然とよだれを拭っていた。
***
三コーナーが近づく。 アイニードユーが単独先頭で後続を引っ張る。 (うっひょー!十四百メートルってこんなに短かったっけ!?まだまだ走れる……気がする!) 風切り音を全身で楽しみながら、彼女は無邪気に逃げる。 しかし、ペースは十一秒四から十一秒五と決して緩まない。 前傾ラップが先行勢の体力を真綿で首を絞めるように削っていく。 その集団の後方、外側で冷静に展開を分析している者がいた。 「私の計算によれば、このコーナーを曲がった瞬間に、全ての視線は私に釘付けになるはずですわ!」(17番 牝3) お嬢様気質のサンアントワーヌである。 (良馬場って言ったの誰ですの!?私の蹄鉄には少しだけ湿度が足りない気がしますわ!) 完璧な勝利の方程式を描きながらも、 彼女は些細な環境の違いに不満を募らせていた。 そして、馬群の中団の内側でひっそりと息を潜める者がもう一頭。 「う、うぅ……道が開かない……こ、これだから……体育会系の馬は嫌い……なんです……」(13番 牝3) デアヴェローチェは人混みに怯えながらも、 内に秘めた闘志をドロドロと燃やしていた。 (あ、足音が……騒音……公害……静かに走れないんですか……この野蛮人たちが……) 周囲の馬たちに心の中で毒を吐き続けながら、 彼女はひたすらに脚を溜めている。 「ちょっと、横の馬!砂かけないでよ、私の毛並みにソースがかかったらどうすんの!」 ギリーズボールが突然大声を上げた。 隣を走っていたプレセピオがビクッと肩を揺らす。 「あ、今のコーナー、私の美しさが一ミリ損なわれましたね。……絶望的です」(3番 牝3) プレセピオは自分の毛並みを気にしながらも、 じっとカメラの方向を探している。 (誰も私を理解してくれない……。いいんです、一人でゴールできればそれで) 「ねえねえ、ソースの話無視しないでよ!お好み焼きソース?それともデミグラス?」 ギリーズボールが執拗にプレセピオに絡んでいく。 「……ソースなんてかかっていません。あなたの食欲という名の幻想です」 「えー、幻想でもいいから舐めさせてよ。お腹減りすぎて力出ないかも」 「近寄らないでください!私の完璧な構図が台無しになります!」 プレセピオはドン引きしながら内ラチ沿いへと逃げていく。
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勝負の四コーナー。 アイニードユーのリードはまだ保たれているが、 後続との差がじわじわと縮まり始めた。 (あー!ゴール板が勝手に近づいてくる!私が止まってるんじゃなくて、地面が動いてるんだ!) アイニードユーの脚色が少しずつ鈍り始める。 持続力を試される厳しいペースが、 生粋の逃げ馬のスタミナを無情にも奪っていた。 その背後で、絶対の自信を持っていたショウナンカリスの様子がおかしい。 (……え?なんでみんな私を抜いていくの?スローモーションの魔法でもかかったのかしら?) 好位から抜け出そうとしたはずの脚が、 思うように前へ出ない。 (一番人気なんて、結局は重荷なだけよ。……ちょっと、誰か私の心臓のバクバクを止めてよ) プライドの高さとは裏腹に、 彼女の体は限界を訴えていた。 外へ持ち出そうとするが、推進力がない。 (掲示板にも載らないなんて……。このレース、明日もう一回やり直さない?) 現実に打ちのめされながら、彼女はズルズルと後退していく。 直線入り口。 三百五十六メートルの戦いと、ゴール前の急坂が待ち構える。 アイニードユーが最内を必死にキープする。 そこへ、馬群を縫うようにして一頭の影が忍び寄った。 内側のわずかな隙間、開いた空間へ滑り込むように抜け出したのは、 なんとギリーズボールだった。 「残り二百メートル!ここを乗り切れば、豪華な飼葉が待ってる……私の胃袋が、唸りを上げるわ!」 彼女の目に映っているのは勝利の栄光ではない。 ゴール板の向こう側に幻視した特上の人参の山である。 (よし、前のチュロスはもう手の届くところにある!あとは一口でパクリといくわよ!) 凄まじい食欲が瞬発力へと変換され、 彼女は三十四秒二という鬼のような末脚を繰り出した。 「も、猛追……しなきゃ……私の物語の結末は、ここじゃない……はずだから……!」 デアヴェローチェも中団から内から外へ進路を切り替え、 必死の形相で追いすがってくる。 (四着……し、知ってました……私なんて……所詮、端役……なんですよ……) ネガティブな思考を垂れ流しながらも、 彼女の脚は確実に前を捉えようとしていた。 そして、大外から全てを撫で斬りにしようと迫る者がいる。 「止まりなさい!十番人気の馬が私の前を走るなんて、校則違反……じゃなくて、展開違反です!」 サンアントワーヌだ。 外回りの距離ロスをものともせず、 三十四秒四の末脚で一気に先頭集団へと襲いかかる。 (ああ、もう!風が!私の鬣を左から右へ乱暴に扱って!失礼極まりないわ!) 彼女は強風に文句を言いながらも、 美しいストライドを決して崩さなかった。
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急坂を駆け上がる。 アイニードユーの脚がついに限界を迎えた。 ギリーズボールが並ぶ間もなくアイニードユーを抜き去る。 外からサンアントワーヌが猛然と差を詰める。 デアヴェローチェも内から迫る。 「あ、抜いちゃった。ごめんね、ゴールの先に人参の幻覚が見えたから本気出しちゃった」 ギリーズボールが涼しい顔で先頭に立つ。 サンアントワーヌが顔を真っ赤にして叫んだ。 「幻覚で重賞勝たないでください!私の完璧な追い上げが台無しですわ!」 「まあまあ、二着でも賞金でアイス買えるでしょ?私、バニラがいいな」 「なんで私が奢る前提なんですの!?……でも、バニラならストロベリー添えにしましょうか、もう!」 怒り心頭のサンアントワーヌだったが、 なぜか一緒にアイスを食べる約束を受け入れてしまっていた。 その横で、息も絶え絶えのアイニードユーが笑う。 「おっ、惜しかったね小鞠……じゃなくてデアヴェローチェ!最後すごかったじゃん!」 ハナ差で四着に敗れたデアヴェローチェが顔を背ける。 「ふ、ふん……あんたみたいに……脳筋で逃げるだけの人とは……違うから……」 「えー?私のこと褒めてるの?ありがとう!次は競走しようよ!」 アイニードユーの底抜けの明るさに、 デアヴェローチェは毒気を抜かれたように呟いた。 「……べ、別に……そんなんじゃないし……でも、次は……背中見せてあげても、いいけど……」 歓声が最高潮に達する中、 ギリーズボールが先頭でゴール板を駆け抜けた。 一馬身四分の三差の圧勝。 二着に猛追したサンアントワーヌ。 三着に粘り込んだアイニードユー。 四着にデアヴェローチェ。 一番人気のショウナンカリスは、 遠く後ろで八着に沈みながら天を仰いでいた。 レース後、検量室前は騒然としていた。 食欲という最も俗世的な動機で勝利を掴んだギリーズボールの姿は、 競馬ファンたちの心をがっちりと掴んで離さなかった。 計算を破壊されても気品を保とうとするサンアントワーヌ。 ガス欠になりながらも爽やかに笑うアイニードユー。 彼女たちの物語は、 まだ始まったばかりである。 (あーあ、結局チュロスじゃなくて尻尾だった。でも、特上人参はどこかなー?) ギリーズボールの腹の虫が、 勝利のファンファーレよりも高らかに鳴り響いていた。