佐倉:「教授、どうしました? 自分の予想に疑念があるなんて、らしくないですね」
若葉:「せやで! あんなに理詰めで消去法とかランキングとかやって、完璧やなかったん?」
(私の論理は常に完璧だ。だが、完璧な論理を構築すればするほど、その論理をあざ笑うかのように発生する『バグ』の存在を、経験則として知っている。競馬はデータではない。生き物が走るスポーツなのだから)
神宮寺:「……競馬は生き物だ。カラマティアノスがゲートで出遅れる確率、チェルヴィニアが観客の歓声に怯える確率。レーベンスティールが急に走りたくなくなる確率。データという美しい数式に、たった一滴の『アクシデント』が混ざるだけで、すべてが瓦解する」
若葉:「ヒエッ……なんかどれも起こりそうやな。馬も人間と一緒で、その日の気分があるんか」
神宮寺:「そうだ。だから私は、自分が弾き出した予想すら、最後は疑ってかかる。投資家として最も危険な状態は、自分の分析を100%信じ切ってしまうことだ」
佐倉:「なるほど。だからこそ、本命の手堅い馬券で資金を運用しつつ、穴馬の選択肢も残してリスクヘッジするわけですね」
神宮寺:「その通りだ、佐倉くん。どんな展開になっても、論理の網から抜け落ちる確率を最小限に抑える。それがプロの作法だ」
若葉:「おおー! 完璧や! ウチ、これでお金持ちになれる気がしてきたで! ……あ、そういや教授! さっき言ってた、あの『0.001%の確率のガチャ』、結局どうなったん?」
若葉の無邪気な質問に、神宮寺の表情がピシリと固まった。
佐倉:「……若葉さん、それは禁句ですよ。教授の論理が通用するのは、現実の物理法則がある場所だけなんです」
神宮寺:「……私の完璧な計算をもってしても、あの一千年生きるエルフは私の端末には顕現しなかった。運営の確率操作という名の、ね。……佐倉くん! 次のレースのデータを用意しろ! 週末の投資でこの赤字を完璧に回収してやる……!!」
若葉:「なるほどなぁ……。投資の世界も、オタクの世界も、世の中思い通りにいかへんもんやな!」
若葉の明るい笑い声が研究室に響く。完璧な論理と、ほんの少しのバグを抱えながら、彼らの週末の戦いは続いていく。