うん、俺、がんばった。『俺だけ知ってる彼女の秘密 ~封印スキルで最強幼馴染を守る件~』【猫でも書ける短編小説】


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記事一覧
【名無しさん】
2025年10月4日
20時48分46秒

猫でも書ける短編小説
【名無しさん】
2025年10月7日
9時50分22秒

プロローグ:君と見た、最後の海

 夏の終わりの海は、少しだけ寂しげだった。
 空はまだ青く、波は穏やかに打ち寄せている。けれど、どこか「また来年ね」と言っているような、そんな雰囲気が漂っていた。

 俺――ルイは、砂浜に座っていた。隣には、セリナ。
 彼女は、俺の幼馴染で、同級生で、そして……俺が密かに好きな人だった。

「ルイってさ、ほんとに陰キャだよね~」
 セリナは、笑いながら言った。悪気はない。彼女の言葉は、いつも真っ直ぐだ。
 俺は、返事をせずに、黙って海を見ていた。いや、正確には、セリナの横顔を見ていた。
 風に揺れる髪。砂に描いた落書き。彼女の笑顔。全部、俺の心に刻み込まれていた。

「でもさ、そういうとこ、けっこう好きかも」
 ……え?今、なんて?

 俺の心臓は、突然ドラムソロを始めた。
 セリナは、何事もなかったように、貝殻を拾っている。天然なのか、確信犯なのか。いや、たぶん天然だ。彼女は、そういう子だ。

 俺は、言いたかった。
 「俺も、セリナのことが好きだ」って。
 でも、言えなかった。
 だって、俺は臆病で、不器用で、陰キャだから。

 そんな俺の心を見透かしたように、セリナが言った。
「ねえ、ルイ。泳ごうよ!最後の夏だし!」
 そう言って、彼女は制服のまま海に向かって走り出した。

「ちょ、待て!お前、バカか!」
 俺は慌てて立ち上がった。制服のまま海に突っ込む女子高生。しかも天然。しかも俺の好きな人。
 これはもう、事件だ。

 セリナは、波に足を取られて、転びそうになった。
 その瞬間、俺は迷わず走った。
 臆病な俺が、初めて勇気を出した瞬間だった。

「セリナ!」
 俺は、彼女の手を掴んだ。
 そして、次の瞬間――俺たちは、海に飲まれた。

 水の中は、静かだった。
 セリナの瞳が、俺を見ていた。
 俺は、彼女の手を離さなかった。
 「俺だけは、君を離さない」
 そう思った瞬間、世界が光に包まれた。

 ――そして、目を覚ました。

 

 森だった。
 見知らぬ森。見知らぬ空。見知らぬ鳥の鳴き声。
 俺は、地面に寝転がっていた。制服は乾いていて、なぜか体も軽い。

 隣には、セリナが倒れていた。
 俺は、慌てて彼女に駆け寄った。

「セリナ!おい、セリナ!」
 彼女は、ぱちりと目を開けた。

「……ぷにぷにのスライム……」
「寝言がファンタジーすぎるだろ!」

 俺は、ツッコミながらも安心した。生きてる。よかった。

 でも、ここはどこだ?
 俺は、周囲を見渡した。森。空。鳥。……ドラゴンの鳴き声?いや、待て。ドラゴン?

 俺は、自分の手元を見た。何かが浮かんでいた。
 【スキル:無限封印】【スキル:無限鑑定】【称号:監視者】

 ……え?俺、なんかヤバいスキル持ってない?
 しかも「監視者」って。俺、セリナのストーカーみたいじゃん!

 とりあえず、冷静になろう。俺は、鑑定スキルを使ってみた。
 対象:セリナ。

 【ステータス:全項目∞】【スキル:全魔法習得済】【称号:世界を創造せし者/世界を滅ぼせし者/魔王】

 ……うん。ヤバい。
 俺の幼馴染、世界を滅ぼせるらしい。
 しかも、魔王って。天然魔王って。新ジャンルかよ。

 俺は、考えた。
 このままじゃ、セリナが世界を滅ぼすかもしれない。いや、彼女にそんな気はないだろうけど、うっかり「ぷにぷに~♡」とか言いながら魔王スキルを発動しかねない。

 だから、俺は決めた。
 彼女の力を、封印する。
 俺だけが知ってる彼女の秘密。
 俺だけが、守れる彼女の世界。

 封印スキルを発動。
 セリナのステータスは、普通の女子高生レベルに戻った。
 よし、これで安心――

「ねえルイ~。お腹すいた~。お菓子ないの~?」
 ……うん。世界は今日も平和だ。

【名無しさん】
2025年10月7日
9時51分13秒

第1章:封印と旅立ち

 目を覚ましたとき、俺は森の中にいた。
 木漏れ日が差し込む静かな場所。鳥のさえずりが聞こえ、風が葉を揺らしている。まるで絵本の中の世界だ。いや、実際に絵本の中に迷い込んだのかもしれない。

 隣には、セリナが倒れていた。制服姿のまま、すやすやと寝息を立てている。
 俺は、彼女の顔を見て、少しだけ安心した。生きてる。よかった。
 でも、ここはどこだ? 俺たちは、確か海で――

 記憶が蘇る。
 夏の終わりの海。セリナが波にさらわれ、俺が助けようとして――そして、光に包まれた。
 ……転生? 異世界? そんなバカな。いや、目の前の状況がすでにバカだ。

 俺は、立ち上がり、自分の体を確認した。制服は乾いていて、体も軽い。
 そして、目の前に浮かぶ文字。

 【スキル:無限封印】【スキル:無限鑑定】【称号:監視者】

 ……うん、バカだ。
 俺、なんかすごいスキル持ってる。しかも「監視者」って。セリナのストーカーみたいじゃん!

 とりあえず、冷静になろう。俺は、鑑定スキルを使ってみた。
 対象:セリナ。

 【ステータス:全項目∞】【スキル:全魔法習得済】【称号:世界を創造せし者/世界を滅ぼせし者/魔王】

 ……うん、もっとバカだ。
 俺の幼馴染、世界を滅ぼせるらしい。
 しかも、魔王って。天然魔王って。新ジャンルかよ。

 俺は、考えた。
 このままじゃ、セリナが世界を滅ぼすかもしれない。いや、彼女にそんな気はないだろうけど、うっかり「ぷにぷに~♡」とか言いながら魔王スキルを発動しかねない。

 だから、俺は決めた。
 彼女の力を、封印する。
 俺だけが知ってる彼女の秘密。
 俺だけが、守れる彼女の世界。

 封印スキルを発動。
 セリナのステータスは、普通の女子高生レベルに戻った。
 よし、これで安心――

「ん……ルイ~? ここ、どこ~?」
 セリナが目を覚ました。寝ぼけた顔で、俺を見ている。

「森だ。たぶん、異世界」
「えー! 異世界!? やったー! 魔法使えるの!? ぷにぷにのスライムいる!?」
「テンション高すぎだろ……」

 俺は、ため息をついた。
 彼女は、異世界に来ても変わらない。天然で、自由で、俺の心をかき乱す。

 でも、俺だけが知っている。
 彼女のステータスが“∞”だったこと。
 称号に“世界を滅ぼせし者”があったこと。
 そして、俺がそれを全部封印したこと。

 ……うん、俺、がんばった。

 

 その後、俺たちは森を探索することにした。
 まずは、状況の把握。俺は、鑑定スキルで周囲を調べる。
 草、木、石、虫、セリナ……いや、セリナはもういい。怖いから。

 すると、少し離れた茂みに、モンスターの気配を感じた。
 スライムだ。レベル1。ぷにぷにしてる。セリナが喜びそうだ。

「セリナ、あれがスライムだ」
「ほんと!? かわいい~♡」
 彼女は、走り出した。
 俺は、慌てて止めようとした。

「待て! それ、敵だぞ!」
「でも、ぷにぷにしてるよ? 敵っていうか、癒し系じゃない?」
「癒し系でも、噛まれたら痛いんだよ!」

 俺は、封印スキルを使ってスライムの攻撃力をゼロにした。
 セリナは、スライムを抱きしめて「もちもち~♡」と喜んでいる。
 ……俺の封印スキル、こんな使い方でいいのか?

 その後、俺はスライムを倒して経験値を得た。
 レベルが1から2に上がり、新しいスキル“範囲索敵”を習得した。
 セリナにも、ほんの少しだけ経験値が入ったらしい。

「ねえルイ~。私もレベル上がったよ~」
「……それはいいけど、ちょっと待て」

 俺の危険探知スキルが、突然アラートを鳴らした。
 “激ヤバ反応:近距離に存在”
 俺は、慌ててセリナを鑑定した。

 【ステータス:一部封印解除】【スキル:未知の魔法を習得】【称号:世界を滅ぼせし者(うっすら発動)】

「お前、何か覚えたのか?」
「うん! なんか、キラキラした魔法が頭に浮かんできた! 名前は……えっと、“世界崩壊”?」
「それ、絶対使うなよ!? 絶対だぞ!?」

 俺は、急いで封印スキルに残してあったボーナスポイントを全部使って、セリナのステータスを再封印した。
 なんとか、彼女は“普通の美少女”レベルに戻った。
 ……いや、普通の美少女ってなんだよ。

「ねえルイ~。お腹すいた~。お菓子ないの~?」
「異世界にお菓子があるわけないだろ……って、あった」

 俺は、スライムからドロップした“ぷにぷにゼリー”を取り出した。
 セリナは、目を輝かせてそれを食べた。

「おいしい~♡ 異世界最高~♡」
 ……俺の人生、彼女の封印とお菓子で忙しすぎる。

 

 こうして、俺たちは森を抜けて、近くの町へ向かうことにした。
 範囲索敵で“ローデン”という小さな町があることを確認した。
 道中、モンスターを倒して素材を集めたり、スキルを強化したり。
 セリナは、ずっと「お菓子~♡」と言っていた。

 でも、俺は思う。
 この世界で、彼女を守るのは俺しかいない。
 彼女の力を封印しながら、彼女の心を解いていく。
 それが、俺の役目だ。

 ――そして、俺だけが知っている。
 彼女の本当の姿を。
 彼女の、優しさを。
 彼女の、寂しさを。

 だから、俺は守る。
 この世界でも。
 彼女の隣で。

【名無しさん】
2025年10月7日
9時52分1秒

第2章:ローデンの町と初めての宿

 異世界に転移してから、まだ一日も経っていない。
 俺は、セリナの“魔王級ステータス”を封印したばかりで、精神的にも肉体的にもHPゼロだった。
 そんな俺たちが辿り着いたのが、ローデンの町。石畳の道、木造の家々、そしてどこか懐かしいパンの香り。
 異世界感はあるが、セリナのテンションは完全に観光客だった。

「ルイ~! この町、パンの匂いがする~♡」
「お前、魔王級の嗅覚か?」

 セリナは、俺の隣をぴょこぴょこと跳ねるように歩いていた。
 その姿は、世界を創った魔女というより、ただのパン好きな天然少女だった。
 通りすがりの商人が「お嬢ちゃん、元気だねぇ」と笑い、子どもたちが「ふわふわの人だ!」と指をさす。
 すでに町の注目を集めていた。

 

 まずは宿を探すことにした。
 町の案内板を見て、俺は“冒険者向け宿・風の羽根亭”を選んだ。
 値段は銀貨3枚。朝食付き。風呂あり。
 セリナは「羽根ってことは、ふわふわベッドだね~♡」と喜んでいた。

 

 宿に入ると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。おふたりは……ご夫婦ですか?」
「違います」
「えへへ~♡ まだ恋人未満です~」
「やめろ。誤解が加速する」

 受付の女性は、にこにこと笑いながら鍵を渡してくれた。
 俺たちは、二階の角部屋に案内された。
 木の床、窓から差し込む光、そしてふわふわそうなベッドが二つ。

「わ~♡ ベッドがふわふわしてる~!」
「お前、ふわふわに執着しすぎだろ」

 

 セリナは、ベッドにダイブした。
 その瞬間――

 ボンッ!

「……え?」
「ルイ~! ベッドが爆発した~♡」
「いや、笑うな! なんで魔力でベッドが爆発するんだ!」

 

 宿の人が慌てて駆けつけてきた。

「な、なんですか!? 爆発音が……!」
「すみません、うちの魔力持ちがちょっとふわふわを強化しようとして……」
「ふわふわを……強化……?」

 宿の主人は、しばらく沈黙したあと、深いため息をついた。

「またですか……最近、魔力過敏の旅人が増えてましてね。ベッドが月に3回は消えます」
「そんな頻度で爆発してるんですか!?」

 

 その夜、俺は床で寝ることになった。
 セリナは「ごめんね~♡ 私の魔力、ちょっとだけ暴れちゃった~」と反省していた。
 いや、“ちょっと”で家具が消えるか普通。

 

 翌朝、セリナはパン屋に突撃した。
 「このパン、ふわふわ度が高い~♡」と叫びながら、店主に魔力をかけようとしたので、俺は慌てて封印スキルを発動した。

「封印・ふわふわ魔力!」
「え~! パンに魔法かけちゃダメなの~?」
「パンは魔法じゃなくて小麦でできてるんだよ!」

 

 パン屋の店主は、セリナの天然ぶりに苦笑しながら、焼きたてのパンを差し出してくれた。

「お嬢ちゃん、パンは心で焼くもんだ。魔力で焼いたら、魂が焦げちまうよ」
「わ~♡ 魂がふわふわになるパン、焼いてみたい~!」
「だから、焦げるって言ってるだろ!」

 

 その後、町の広場でセリナが「ふわふわ探し隊~♡」と叫びながら走り回ったため、
 子どもたちが「ふわふわってなに?」と集まり、ちょっとした騒ぎになった。
 通りすがりの衛兵が「魔力暴走の兆候か?」と警戒し、俺は慌てて事情を説明した。

「すみません、ただのパン好きです。魔王級ですが、封印済みです」
「魔王級……パン好き……?」
「はい。矛盾してますが、事実です」

 

 その日の午後、宿の食堂で夕食を食べながら、セリナがぽつりと呟いた。

「ねえルイ。異世界って、ちょっとだけ楽しいかも」
「“ちょっとだけ”でベッド爆発してるけどな」
「えへへ~♡ でも、君がいるから安心だよ」

 俺は、何も言えなかった。
 ただ、彼女の隣にいることが、すべてだった。

 

 その夜、宿の主人がそっと俺に声をかけてきた。

「お嬢さん、魔力はすごいけど……あれだけ笑顔でパンを喜ぶ人、初めて見ましたよ」
「……そうですね。俺も、初めてです」

 

 こうして、俺たちの異世界初日は、
 ベッド爆発・パン魔法・恋人誤解・床寝・町の騒動という、
 ドタバタと笑いに満ちた幕開けとなった。

 

 封印と魔法と、ふわふわと誤解。
 それが、俺たちの旅の“最初の宿泊記”だった。

【名無しさん】
2025年10月7日
9時52分51秒

第3章:ギルド登録と証明書騒動

ローデンの町に到着して二日目。
 俺たちは、冒険者としての第一歩を踏み出すため、ギルド登録へ向かうことになった。
 異世界で生きていくには、まず“職業”を得なければならない。
 俺は“封印者”、セリナは“魔法使い(封印済)”。
 ……この“封印済”という肩書きが、すでに不穏である。

「ルイ~! ギルドって、パン職人も登録できるの~?」
「いや、たぶんできるけど……お前、魔法使いだろ」
「でも、パンの魔法なら得意だよ~♡」
「それ、魔法じゃなくて料理だ」

 

 ギルドは町の中心にある石造りの建物だった。
 中に入ると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。
 中は活気に満ちていて、冒険者たちが依頼を受けたり、報酬を受け取ったりしていた。

「いらっしゃいませ。おふたりは……ご夫婦ですか?」
「違います」
「えへへ~♡ まだ恋人未満です~」
「またその流れか……!」

 周囲の冒険者たちが「おっ、初々しいな」「爆発しそうなカップルだな」とニヤニヤしていた。
 俺は、視線を無視して受付に向かった。

 

「ギルド登録をお願いします」
「はい。では、ステータスを魔力紙に転写します。順番に手をかざしてくださいね」

 俺は、無限鑑定で自分のステータスを確認し、問題なく転写した。
 封印者・レベル12・スキル:封印・鑑定・ツッコミ(?)
 最後のスキルは、たぶんセリナのせいだ。

 

 そして、セリナの番。
 受付の女性が魔力紙を差し出した。

「では、こちらに手をかざしていただけますか?」
「は~い♡ 魔力、ちょっとだけ出せばいいんだよね~?」

 その瞬間――

 ボンッ!

「……またか」
「ルイ~! 紙が燃えちゃった~♡」
「“ちょっとだけ”で紙が灰になるか普通!」

 

 受付の女性は、目を丸くしていた。
 周囲の冒険者たちも騒然となり、「今の爆発、魔力か?」「あの子、何者だ?」とざわつき始めた。

「こ、これは……魔王級の魔力反応……」
「違います! ただのパン好きです!」
「えへへ~♡ パン職人になりたいです~」

 

 俺は、慌てて封印スキルを発動した。
 セリナの魔力を再封印し、ステータスを“一般人(趣味:パン)”に書き換えた。
 魔力紙は、かろうじて生き残った。

 

 受付の女性は、困惑しながら言った。

「では、職業は……パン職人見習いでよろしいですか?」
「はいっ♡」
「違う! それは偽装だ!」

 

 こうして、セリナのギルド証には「パン職人見習い」と記された。
 俺の封印スキルは、世界を守るためではなく、パン屋の履歴書を偽造するために使われた。

 

 その後、ギルドの奥で職員たちがざわついていた。

「魔王級の魔力反応が一瞬だけ……」
「いや、パン職人らしいぞ」
「パン職人って、そんなに強いのか……?」

 

 セリナは、ギルド証を見て喜んでいた。

「ルイ~! これでパン屋さんになれるね~♡」
「違う。これは“魔王の偽装工作”だ」

 

 その後、ギルド職員から職業別の案内があった。
 戦士は訓練場へ、魔法使いは魔導室へ、パン職人は……厨房へ。

「セリナさんはこちらの厨房へどうぞ」
「わ~い♡ パン焼ける~!」
「いや、違う。お前、魔法使いだろ!」

 

 厨房では、セリナが魔力で生地を浮かせて回転させ、
 「魔法パン回転焼き~♡」と叫びながら、職人たちを驚かせていた。
 俺は、封印スキルでパンを着地させるという謎の作業に追われた。

 

 厨房の職人が、俺にそっと言った。

「……あの子、見た目はふわふわしてるけど、手際はすごいな。生地の発酵も完璧だ」
「え? そうなんですか?」
「魔力で温度調整してる。しかも、均一に。あれは職人技だよ」

 

 俺は、厨房の隅でセリナの様子を見ていた。
 彼女は、真剣な顔でパンを焼いていた。
 ふわふわ笑顔とは違う、集中した表情。
 そして、焼き上がったパンを見て、満足げにドヤ顔を浮かべた。

「ルイ~! 見て見て~! ふわふわ度、過去最高だよ~♡」
「……くそ、ちょっと悔しい」

 

 その夜、宿に戻ったセリナは、ギルド証を眺めながら言った。

「ねえルイ。私、パン職人って言われたけど……魔法使いとしても、ちょっとだけ頑張りたいかも」
「……それは、いいことだ。お前が魔力を意識するようになれば、俺の封印も楽になる」
「でも、君が封印してくれるから、私は安心してふわふわできるんだよ~♡」
「……お前の“ふわふわ”は、俺の命を削る」

 

 こうして、俺たちはギルド登録を完了した。
 次なるステップは、初めての依頼――スライム討伐。
 だが、俺はすでに予感していた。
 この天然魔王と一緒に戦うなら、封印スキルだけでは足りない。
 ツッコミスキルも、命を守るために必要だ。

 

 封印と魔法と、パンと証明書と、灰になった紙。
 それが、俺たちの“ギルド登録記”だった。

【名無しさん】
2025年10月6日
18時52分17秒

第4章:初めての依頼とスライム地獄