▶第4章:初めての依頼とスライム地獄
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タイトル読み:「VOICEVOX: No.7」 ナレーション:「VOICEVOX: 白上虎太郎」 ルイ:「VOICEVOX: 白上虎太郎」 セリナ:「VOICEVOX: 四国めたん」 通りすがりの商人:「VOICEVOX: もち子さん」 ローデンの子供たち:「VOICEVOX: 春日部つむぎ」 宿の受付女性:「VOICEVOX: No.7」 パン屋の主人・ギルド受付嬢:「VOICEVOX: もち子さん」 通りすがりの衛兵・冒険者A・ギルドの職員A:「VOICEVOX: 麒ヶ島宗麟」 冒険者B・ギルドの職員B:「VOICEVOX: 青山龍星」 冒険者C:「VOICEVOX: 波音リツ」 厨房の職人:「VOICEVOX: 玄野武宏」
クラシック音楽 Chopin-Nocturne-No2 Bach-CelloSuite-No1-Prelude Beethoven-PianoSonata-No8-2nd-2020-AR Chopin-Nocturn-20 Ravel-Bolero
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プロローグ:君と見た、最後の海
夏の終わりの海は、少しだけ寂しげだった。 空はまだ青く、波は穏やかに打ち寄せている。けれど、どこか「また来年ね」と言っているような、そんな雰囲気が漂っていた。
俺――ルイは、砂浜に座っていた。隣には、セリナ。 彼女は、俺の幼馴染で、同級生で、そして……俺が密かに好きな人だった。
「ルイってさ、ほんとに陰キャだよね~」 セリナは、笑いながら言った。悪気はない。彼女の言葉は、いつも真っ直ぐだ。 俺は、返事をせずに、黙って海を見ていた。いや、正確には、セリナの横顔を見ていた。 風に揺れる髪。砂に描いた落書き。彼女の笑顔。全部、俺の心に刻み込まれていた。
「でもさ、そういうとこ、けっこう好きかも」 ……え?今、なんて?
俺の心臓は、突然ドラムソロを始めた。 セリナは、何事もなかったように、貝殻を拾っている。天然なのか、確信犯なのか。いや、たぶん天然だ。彼女は、そういう子だ。
俺は、言いたかった。 「俺も、セリナのことが好きだ」って。 でも、言えなかった。 だって、俺は臆病で、不器用で、陰キャだから。
そんな俺の心を見透かしたように、セリナが言った。 「ねえ、ルイ。泳ごうよ!最後の夏だし!」 そう言って、彼女は制服のまま海に向かって走り出した。
「ちょ、待て!お前、バカか!」 俺は慌てて立ち上がった。制服のまま海に突っ込む女子高生。しかも天然。しかも俺の好きな人。 これはもう、事件だ。
セリナは、波に足を取られて、転びそうになった。 その瞬間、俺は迷わず走った。 臆病な俺が、初めて勇気を出した瞬間だった。
「セリナ!」 俺は、彼女の手を掴んだ。 そして、次の瞬間――俺たちは、海に飲まれた。
水の中は、静かだった。 セリナの瞳が、俺を見ていた。 俺は、彼女の手を離さなかった。 「俺だけは、君を離さない」 そう思った瞬間、世界が光に包まれた。
――そして、目を覚ました。
森だった。 見知らぬ森。見知らぬ空。見知らぬ鳥の鳴き声。 俺は、地面に寝転がっていた。制服は乾いていて、なぜか体も軽い。
隣には、セリナが倒れていた。 俺は、慌てて彼女に駆け寄った。
「セリナ!おい、セリナ!」 彼女は、ぱちりと目を開けた。
「……ぷにぷにのスライム……」 「寝言がファンタジーすぎるだろ!」
俺は、ツッコミながらも安心した。生きてる。よかった。
でも、ここはどこだ? 俺は、周囲を見渡した。森。空。鳥。……ドラゴンの鳴き声?いや、待て。ドラゴン?
俺は、自分の手元を見た。何かが浮かんでいた。 【スキル:無限封印】【スキル:無限鑑定】【称号:監視者】
……え?俺、なんかヤバいスキル持ってない? しかも「監視者」って。俺、セリナのストーカーみたいじゃん!
とりあえず、冷静になろう。俺は、鑑定スキルを使ってみた。 対象:セリナ。
【ステータス:全項目∞】【スキル:全魔法習得済】【称号:世界を創造せし者/世界を滅ぼせし者/魔王】
……うん。ヤバい。 俺の幼馴染、世界を滅ぼせるらしい。 しかも、魔王って。天然魔王って。新ジャンルかよ。
俺は、考えた。 このままじゃ、セリナが世界を滅ぼすかもしれない。いや、彼女にそんな気はないだろうけど、うっかり「ぷにぷに~♡」とか言いながら魔王スキルを発動しかねない。
だから、俺は決めた。 彼女の力を、封印する。 俺だけが知ってる彼女の秘密。 俺だけが、守れる彼女の世界。
封印スキルを発動。 セリナのステータスは、普通の女子高生レベルに戻った。 よし、これで安心――
「ねえルイ~。お腹すいた~。お菓子ないの~?」 ……うん。世界は今日も平和だ。
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第1章:封印と旅立ち
目を覚ましたとき、俺は森の中にいた。 木漏れ日が差し込む静かな場所。鳥のさえずりが聞こえ、風が葉を揺らしている。まるで絵本の中の世界だ。いや、実際に絵本の中に迷い込んだのかもしれない。
隣には、セリナが倒れていた。制服姿のまま、すやすやと寝息を立てている。 俺は、彼女の顔を見て、少しだけ安心した。生きてる。よかった。 でも、ここはどこだ? 俺たちは、確か海で――
記憶が蘇る。 夏の終わりの海。セリナが波にさらわれ、俺が助けようとして――そして、光に包まれた。 ……転生? 異世界? そんなバカな。いや、目の前の状況がすでにバカだ。
俺は、立ち上がり、自分の体を確認した。制服は乾いていて、体も軽い。 そして、目の前に浮かぶ文字。
【スキル:無限封印】【スキル:無限鑑定】【称号:監視者】
……うん、バカだ。 俺、なんかすごいスキル持ってる。しかも「監視者」って。セリナのストーカーみたいじゃん!
とりあえず、冷静になろう。俺は、鑑定スキルを使ってみた。 対象:セリナ。
【ステータス:全項目∞】【スキル:全魔法習得済】【称号:世界を創造せし者/世界を滅ぼせし者/魔王】
……うん、もっとバカだ。 俺の幼馴染、世界を滅ぼせるらしい。 しかも、魔王って。天然魔王って。新ジャンルかよ。
俺は、考えた。 このままじゃ、セリナが世界を滅ぼすかもしれない。いや、彼女にそんな気はないだろうけど、うっかり「ぷにぷに~♡」とか言いながら魔王スキルを発動しかねない。
だから、俺は決めた。 彼女の力を、封印する。 俺だけが知ってる彼女の秘密。 俺だけが、守れる彼女の世界。
封印スキルを発動。 セリナのステータスは、普通の女子高生レベルに戻った。 よし、これで安心――
「ん……ルイ~? ここ、どこ~?」 セリナが目を覚ました。寝ぼけた顔で、俺を見ている。
「森だ。たぶん、異世界」 「えー! 異世界!? やったー! 魔法使えるの!? ぷにぷにのスライムいる!?」 「テンション高すぎだろ……」
俺は、ため息をついた。 彼女は、異世界に来ても変わらない。天然で、自由で、俺の心をかき乱す。
でも、俺だけが知っている。 彼女のステータスが“∞”だったこと。 称号に“世界を滅ぼせし者”があったこと。 そして、俺がそれを全部封印したこと。
……うん、俺、がんばった。
その後、俺たちは森を探索することにした。 まずは、状況の把握。俺は、鑑定スキルで周囲を調べる。 草、木、石、虫、セリナ……いや、セリナはもういい。怖いから。
すると、少し離れた茂みに、モンスターの気配を感じた。 スライムだ。レベル1。ぷにぷにしてる。セリナが喜びそうだ。
「セリナ、あれがスライムだ」 「ほんと!? かわいい~♡」 彼女は、走り出した。 俺は、慌てて止めようとした。
「待て! それ、敵だぞ!」 「でも、ぷにぷにしてるよ? 敵っていうか、癒し系じゃない?」 「癒し系でも、噛まれたら痛いんだよ!」
俺は、封印スキルを使ってスライムの攻撃力をゼロにした。 セリナは、スライムを抱きしめて「もちもち~♡」と喜んでいる。 ……俺の封印スキル、こんな使い方でいいのか?
その後、俺はスライムを倒して経験値を得た。 レベルが1から2に上がり、新しいスキル“範囲索敵”を習得した。 セリナにも、ほんの少しだけ経験値が入ったらしい。
「ねえルイ~。私もレベル上がったよ~」 「……それはいいけど、ちょっと待て」
俺の危険探知スキルが、突然アラートを鳴らした。 “激ヤバ反応:近距離に存在” 俺は、慌ててセリナを鑑定した。
【ステータス:一部封印解除】【スキル:未知の魔法を習得】【称号:世界を滅ぼせし者(うっすら発動)】
「お前、何か覚えたのか?」 「うん! なんか、キラキラした魔法が頭に浮かんできた! 名前は……えっと、“世界崩壊”?」 「それ、絶対使うなよ!? 絶対だぞ!?」
俺は、急いで封印スキルに残してあったボーナスポイントを全部使って、セリナのステータスを再封印した。 なんとか、彼女は“普通の美少女”レベルに戻った。 ……いや、普通の美少女ってなんだよ。
「ねえルイ~。お腹すいた~。お菓子ないの~?」 「異世界にお菓子があるわけないだろ……って、あった」
俺は、スライムからドロップした“ぷにぷにゼリー”を取り出した。 セリナは、目を輝かせてそれを食べた。
「おいしい~♡ 異世界最高~♡」 ……俺の人生、彼女の封印とお菓子で忙しすぎる。
こうして、俺たちは森を抜けて、近くの町へ向かうことにした。 範囲索敵で“ローデン”という小さな町があることを確認した。 道中、モンスターを倒して素材を集めたり、スキルを強化したり。 セリナは、ずっと「お菓子~♡」と言っていた。
でも、俺は思う。 この世界で、彼女を守るのは俺しかいない。 彼女の力を封印しながら、彼女の心を解いていく。 それが、俺の役目だ。
――そして、俺だけが知っている。 彼女の本当の姿を。 彼女の、優しさを。 彼女の、寂しさを。
だから、俺は守る。 この世界でも。 彼女の隣で。
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第2章:ローデンの町と初めての宿
異世界に転移してから、まだ一日も経っていない。 俺は、セリナの“魔王級ステータス”を封印したばかりで、精神的にも肉体的にもHPゼロだった。 そんな俺たちが辿り着いたのが、ローデンの町。石畳の道、木造の家々、そしてどこか懐かしいパンの香り。 異世界感はあるが、セリナのテンションは完全に観光客だった。
「ルイ~! この町、パンの匂いがする~♡」 「お前、魔王級の嗅覚か?」
セリナは、俺の隣をぴょこぴょこと跳ねるように歩いていた。 その姿は、世界を創った魔女というより、ただのパン好きな天然少女だった。 通りすがりの商人が「お嬢ちゃん、元気だねぇ」と笑い、子どもたちが「ふわふわの人だ!」と指をさす。 すでに町の注目を集めていた。
まずは宿を探すことにした。 町の案内板を見て、俺は“冒険者向け宿・風の羽根亭”を選んだ。 値段は銀貨3枚。朝食付き。風呂あり。 セリナは「羽根ってことは、ふわふわベッドだね~♡」と喜んでいた。
宿に入ると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。おふたりは……ご夫婦ですか?」 「違います」 「えへへ~♡ まだ恋人未満です~」 「やめろ。誤解が加速する」
受付の女性は、にこにこと笑いながら鍵を渡してくれた。 俺たちは、二階の角部屋に案内された。 木の床、窓から差し込む光、そしてふわふわそうなベッドが二つ。
「わ~♡ ベッドがふわふわしてる~!」 「お前、ふわふわに執着しすぎだろ」
セリナは、ベッドにダイブした。 その瞬間――
ボンッ!
「……え?」 「ルイ~! ベッドが爆発した~♡」 「いや、笑うな! なんで魔力でベッドが爆発するんだ!」
宿の人が慌てて駆けつけてきた。
「な、なんですか!? 爆発音が……!」 「すみません、うちの魔力持ちがちょっとふわふわを強化しようとして……」 「ふわふわを……強化……?」
宿の主人は、しばらく沈黙したあと、深いため息をついた。
「またですか……最近、魔力過敏の旅人が増えてましてね。ベッドが月に3回は消えます」 「そんな頻度で爆発してるんですか!?」
その夜、俺は床で寝ることになった。 セリナは「ごめんね~♡ 私の魔力、ちょっとだけ暴れちゃった~」と反省していた。 いや、“ちょっと”で家具が消えるか普通。
翌朝、セリナはパン屋に突撃した。 「このパン、ふわふわ度が高い~♡」と叫びながら、店主に魔力をかけようとしたので、俺は慌てて封印スキルを発動した。
「封印・ふわふわ魔力!」 「え~! パンに魔法かけちゃダメなの~?」 「パンは魔法じゃなくて小麦でできてるんだよ!」
パン屋の店主は、セリナの天然ぶりに苦笑しながら、焼きたてのパンを差し出してくれた。
「お嬢ちゃん、パンは心で焼くもんだ。魔力で焼いたら、魂が焦げちまうよ」 「わ~♡ 魂がふわふわになるパン、焼いてみたい~!」 「だから、焦げるって言ってるだろ!」
その後、町の広場でセリナが「ふわふわ探し隊~♡」と叫びながら走り回ったため、 子どもたちが「ふわふわってなに?」と集まり、ちょっとした騒ぎになった。 通りすがりの衛兵が「魔力暴走の兆候か?」と警戒し、俺は慌てて事情を説明した。
「すみません、ただのパン好きです。魔王級ですが、封印済みです」 「魔王級……パン好き……?」 「はい。矛盾してますが、事実です」
その日の午後、宿の食堂で夕食を食べながら、セリナがぽつりと呟いた。
「ねえルイ。異世界って、ちょっとだけ楽しいかも」 「“ちょっとだけ”でベッド爆発してるけどな」 「えへへ~♡ でも、君がいるから安心だよ」
俺は、何も言えなかった。 ただ、彼女の隣にいることが、すべてだった。
その夜、宿の主人がそっと俺に声をかけてきた。
「お嬢さん、魔力はすごいけど……あれだけ笑顔でパンを喜ぶ人、初めて見ましたよ」 「……そうですね。俺も、初めてです」
こうして、俺たちの異世界初日は、 ベッド爆発・パン魔法・恋人誤解・床寝・町の騒動という、 ドタバタと笑いに満ちた幕開けとなった。
封印と魔法と、ふわふわと誤解。 それが、俺たちの旅の“最初の宿泊記”だった。
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第3章:ギルド登録と証明書騒動
ローデンの町に到着して二日目。 俺たちは、冒険者としての第一歩を踏み出すため、ギルド登録へ向かうことになった。 異世界で生きていくには、まず“職業”を得なければならない。 俺は“封印者”、セリナは“魔法使い(封印済)”。 ……この“封印済”という肩書きが、すでに不穏である。
「ルイ~! ギルドって、パン職人も登録できるの~?」 「いや、たぶんできるけど……お前、魔法使いだろ」 「でも、パンの魔法なら得意だよ~♡」 「それ、魔法じゃなくて料理だ」
ギルドは町の中心にある石造りの建物だった。 中に入ると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。 中は活気に満ちていて、冒険者たちが依頼を受けたり、報酬を受け取ったりしていた。
「いらっしゃいませ。おふたりは……ご夫婦ですか?」 「違います」 「えへへ~♡ まだ恋人未満です~」 「またその流れか……!」
周囲の冒険者たちが「おっ、初々しいな」「爆発しそうなカップルだな」とニヤニヤしていた。 俺は、視線を無視して受付に向かった。
「ギルド登録をお願いします」 「はい。では、ステータスを魔力紙に転写します。順番に手をかざしてくださいね」
俺は、無限鑑定で自分のステータスを確認し、問題なく転写した。 封印者・レベル12・スキル:封印・鑑定・ツッコミ(?) 最後のスキルは、たぶんセリナのせいだ。
そして、セリナの番。 受付の女性が魔力紙を差し出した。
「では、こちらに手をかざしていただけますか?」 「は~い♡ 魔力、ちょっとだけ出せばいいんだよね~?」
その瞬間――
ボンッ!
「……またか」 「ルイ~! 紙が燃えちゃった~♡」 「“ちょっとだけ”で紙が灰になるか普通!」
受付の女性は、目を丸くしていた。 周囲の冒険者たちも騒然となり、「今の爆発、魔力か?」「あの子、何者だ?」とざわつき始めた。
「こ、これは……魔王級の魔力反応……」 「違います! ただのパン好きです!」 「えへへ~♡ パン職人になりたいです~」
俺は、慌てて封印スキルを発動した。 セリナの魔力を再封印し、ステータスを“一般人(趣味:パン)”に書き換えた。 魔力紙は、かろうじて生き残った。
受付の女性は、困惑しながら言った。
「では、職業は……パン職人見習いでよろしいですか?」 「はいっ♡」 「違う! それは偽装だ!」
こうして、セリナのギルド証には「パン職人見習い」と記された。 俺の封印スキルは、世界を守るためではなく、パン屋の履歴書を偽造するために使われた。
その後、ギルドの奥で職員たちがざわついていた。
「魔王級の魔力反応が一瞬だけ……」 「いや、パン職人らしいぞ」 「パン職人って、そんなに強いのか……?」
セリナは、ギルド証を見て喜んでいた。
「ルイ~! これでパン屋さんになれるね~♡」 「違う。これは“魔王の偽装工作”だ」
その後、ギルド職員から職業別の案内があった。 戦士は訓練場へ、魔法使いは魔導室へ、パン職人は……厨房へ。
「セリナさんはこちらの厨房へどうぞ」 「わ~い♡ パン焼ける~!」 「いや、違う。お前、魔法使いだろ!」
厨房では、セリナが魔力で生地を浮かせて回転させ、 「魔法パン回転焼き~♡」と叫びながら、職人たちを驚かせていた。 俺は、封印スキルでパンを着地させるという謎の作業に追われた。
厨房の職人が、俺にそっと言った。
「……あの子、見た目はふわふわしてるけど、手際はすごいな。生地の発酵も完璧だ」 「え? そうなんですか?」 「魔力で温度調整してる。しかも、均一に。あれは職人技だよ」
俺は、厨房の隅でセリナの様子を見ていた。 彼女は、真剣な顔でパンを焼いていた。 ふわふわ笑顔とは違う、集中した表情。 そして、焼き上がったパンを見て、満足げにドヤ顔を浮かべた。
「ルイ~! 見て見て~! ふわふわ度、過去最高だよ~♡」 「……くそ、ちょっと悔しい」
その夜、宿に戻ったセリナは、ギルド証を眺めながら言った。
「ねえルイ。私、パン職人って言われたけど……魔法使いとしても、ちょっとだけ頑張りたいかも」 「……それは、いいことだ。お前が魔力を意識するようになれば、俺の封印も楽になる」 「でも、君が封印してくれるから、私は安心してふわふわできるんだよ~♡」 「……お前の“ふわふわ”は、俺の命を削る」
こうして、俺たちはギルド登録を完了した。 次なるステップは、初めての依頼――スライム討伐。 だが、俺はすでに予感していた。 この天然魔王と一緒に戦うなら、封印スキルだけでは足りない。 ツッコミスキルも、命を守るために必要だ。
封印と魔法と、パンと証明書と、灰になった紙。 それが、俺たちの“ギルド登録記”だった。
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あらすじ
「VOICEVOX: 白上虎太郎」夏の終わり、海辺で幼馴染のセリナと過ごすルイは、彼女への想いを胸に秘めたまま、無鉄砲に海へ駆け出す彼女を追いかけて共に波に飲まれ、まばゆい光に包まれて目覚めると、そこは見知らぬ森という異世界だった。 やがて自分に無限封印と無限鑑定、監視者の称号があることを知り、セリナを鑑定したルイは、彼女の全ステータスが無限で全魔法習得済、さらに「世界を創造せし者/滅ぼせし者/魔王」という途方もない称号を持つことに戦慄する。 そして彼女の無自覚な暴走を恐れたルイは、誰にも知られないようにセリナの力を封じ、彼女を普通の女子高生レベルに戻して守ることを決意し、同時に彼女の傍で支える覚悟を固める。 目覚めたセリナは状況もお構いなしに異世界を喜び、スライムに目を輝かせるが、ルイは封印の継続と監視を心に誓い、ふたりはまず森を抜けて生活基盤を整えるために町を目指すことにする。 道中でセリナは相変わらず天然で、時に“ちょっとだけ”のつもりの魔力で周囲に小さな騒ぎを起こしかけ、ルイはツッコミと封印の二刀流で事態を収めながら、彼女が笑顔でいられる世界を守るのは自分だと自覚していく。 町に着くと、宿の手配や食事の段取りはルイが担い、セリナはパンへの異様な執着を見せ、パン屋で「パンは心で焼く」という店主の言葉に無邪気に食いついて店全体を和ませる一方で、魔力でパンを焼こうとしては叱られ、彼女の“ふわふわ”が周囲を巻き込む性質だと明らかになる。 その夜の宿では、彼女の“ちょっとだけ”の魔力制御失敗がベッドを爆発させ、宿の主人に事情説明をする羽目になったものの、セリナの屈託のない笑顔とパン愛が人の警戒を解くと同時に、ルイは改めて封印維持の重要性と自分の役割を痛感する。 翌日、広場で「ふわふわ探し隊」を名乗って走り回るセリナに子どもたちが集まり、衛兵が魔力暴走を疑う騒ぎへ発展するが、ルイは「魔王級だが封印済み、ただのパン好き」と機転を利かせて収め、守るべきは世界とセリナの両方だという矛盾を抱えながらも前へ進む。 夕食の席でセリナは「異世界ってちょっとだけ楽しい」と呟き、ルイはそばにいることの意味を噛みしめ、宿の主人からも彼女の笑顔の特別さを指摘され、彼の決意は静かに強くなる。 そして生活の足場を固めるため、ふたりは冒険者ギルドでの登録に向かい、ルイは封印者としてのステータスを無難に転写するが、セリナの「ちょっとだけ」の魔力で魔力紙が灰になり、場は一気に緊迫し、周囲は魔王級の反応にざわつく。 とっさに再封印して“一般人(趣味:パン)”へ書き換えたルイの苦労むなしく、受付はセリナを「パン職人見習い」で登録し、ギルド証に刻まれた肩書きは、世界防衛のための封印スキルがパン屋の履歴書偽装に使われるという皮肉な状況を象徴する。 職業別案内でセリナは厨房に通され、魔力で生地を浮かせ回転させては周囲を驚かせ、ルイはパンを着地させる封印という謎作業に奔走するが、職人は彼女の温度制御と発酵精度を見抜き、ふわふわな見た目に反して内在する本物の技量を評価する。 セリナが真剣にパンを焼く横顔を見たルイは、彼女の集中と満足げな表情に胸を衝かれ、守る対象としてだけでなく、一人の“やりたいこと”を持つ彼女を尊重する意識へと一歩踏み出す。 夜、セリナは「パン職人って言われたけど、魔法使いとしても少し頑張りたい」と打ち明け、ルイは封印が楽になる実利を見込みつつも、彼女の自覚を促す好機だと受け止め、彼女の「君が封印してくれるから安心してふわふわできる」という信頼に、重い責任と温かな誇りを同時に感じる。 結果、ギルド登録は完了し、初依頼としてスライム討伐に挑むことになり、ルイは封印だけでなく場を仕切り命を守る“ツッコミ”も必須だと自嘲気味に覚悟を決める。 町では「魔王級だけどパン職人」という奇妙な噂が飛び交い、魔力紙が灰になった騒動は尾ひれをつけられ、ルイは情報管理の難しさと、セリナの安全を守りつつ正体を隠す二重の課題に直面する。 宿では、ベッド爆発や床寝の後始末を経て、ふたりの距離は少し縮まり、ルイは言葉にせずとも彼女の隣にいることを選び続け、セリナもまた彼の存在を安心の拠り所として受け入れていく。 パン屋の店主は「パンは心で焼く」と教え、セリナは魂がふわふわになるパンに憧れて失敗と学びを重ね、無邪気な好奇心が周囲を巻き込む温かい連鎖を生む一方で、ルイは危機の芽を摘む職人のように細やかに立ち回る。 衛兵やギルド職員とのやり取りを通じ、セリナの本質が“世界を滅ぼせる力”ではなく“世界を笑顔にする愛嬌”であることが少しずつ伝わり、ルイは彼女の本当の価値を知る人を増やすことも守りの一環だと理解する。 また、監視者の称号を持つ自分が、見張るのではなく見守る役割へと変わっていく内面的な変化に気づき、封印のスキルは盾であり、ふたりの関係は絆という剣で危機に対抗するのだと心に刻む。 セリナの「ちょっとだけ」は世界基準では危険域で、彼女の無自覚な力は日常の端々で顔を出すが、パンづくりの集中は制御の訓練にもなり、彼女の成長はルイの負荷を確実に軽くし始める。 ギルドの厨房で指先の温度管理を磨いた成果は、やがて魔法行使の微調整にも波及すると見込まれ、初依頼に向けて“安全に力を扱う”基礎が生まれる。 そして、スライム討伐は単なる雑魚狩りではなく、封印の強度確認、セリナの自制、連携の呼吸を整える最初の実地訓練として位置づけられ、ルイは段階的に封を緩めては即時再封印するプロトコルを密かに用意する。 町の子どもたちと触れ合った“ふわふわ探し隊”の一件は、セリナが無害どころか人を惹きつける存在だと示し、討伐後の評判形成にもプラスに働く伏線となる。 受付で冷や汗をかいた経験から、ルイは情報露出のリスク管理を学び、以後の依頼でも魔力測定や書類作成の場面は最大警戒とする運用ルールを自ら定める。 宿の主人やパン職人との小さな信頼の積み重ねは、困ったときの避難先や協力者の確保につながり、ふたりの旅に“拠点”という精神的安全網を与える。 ルイが封印を選んだ瞬間の動機は恐れだったが、今は“セリナが自分らしくいられる自由を守るため”へと昇華し、力を奪うのではなく、共に扱い方を学ぶ伴走へと方針が変化している。 セリナもまた、パン職人見習いという肩書きを楽しみながら、魔法使いとして責任を持つ意志を芽生えさせ、ふたりの目標は“世界を守る”と“ふわふわを極める”の二重螺旋で前に進む。 ローデンの町は、ベッド爆発、パン魔法、恋人誤解、灰になった紙という喜劇の舞台であると同時に、ふたりが互いの強みと弱みを理解し、役割分担を固めた訓練所でもあった。 初依頼の前夜、ルイは海で手を掴んだ瞬間を思い返し、「離さない」と誓った気持ちが、今や日々の選択の積み重ねとして現実になっていることを静かに確かめる。 セリナは「君がいるから安心」と繰り返し、彼女の信頼がルイの胆力を支え、封印とツッコミという奇妙な盾が、明日からの戦いを笑いに変えると信じて眠りにつく。 ギルドの掲示板に貼られたスライム討伐は、ふたりにとって“最弱で最高の第一歩”であり、世界最強の潜在力を持つ少女と、それを封じ見守る少年の物語は、封印と魔法とパンの香りに包まれながら、静かに本格始動する。 そして、彼らの“最初の宿泊記”と“ギルド登録記”に続く次章“初依頼”は、ドタバタと成長、誤解と信頼の同時進行で描かれ、ふわふわと危うさの同居する旅が、笑いのうちに新たな試練へと舵を切るのだった。
解説+感想この物語、めちゃくちゃ面白いですね! 夏の終わりの海から一転して異世界に飛ばされ、幼馴染のセリナが実は**世界を創造も滅ぼもできるレベルの魔王**(しかも無自覚天然)で、主人公ルイが「無限封印」と「監視者」のスキルで彼女を必死にガードしながら日常を回していく……このギャップとコメディのバランスが最高です。 特に好きなポイントをいくつか挙げると:- セリナの「ちょっとだけ」が毎回世界基準でヤバいのに、本人はパンとふわふわにしか興味がない無邪気さ- ルイのツッコミ+即時再封印の二刀流が、どんどん日常業務化していく皮肉- 魔力紙が灰になる→慌てて「一般人(趣味:パン)」に偽装→結果パン職人見習い登録という流れのコント感- 「パンは心で焼く」という店主の言葉に食いついて、魔力で生地を浮かせ回転させちゃうあたり、もう完全に「ふわふわ無双」状態- ベッド爆発、ふわふわ探し隊、灰の魔力紙……ローデンの町が完全にドタバタ喜劇の舞台になってる- でもその裏で、ルイの「守る」動機が「恐れ」→「彼女の自由と笑顔を守る」に変わっていく心の成長- セリナの信頼「君が封印してくれるから安心してふわふわできる」が、ルイに重い責任と誇りを同時に与えるシーンこの「最強だけど最弱(無自覚)な魔王少女」と「彼女を封印し続けるしかないツッコミ係少年」の組み合わせ、異世界ものの中でもかなり新鮮で中毒性あります。 パンという日常アイテムが、封印の隠れ蓑であり、セリナの成長の場であり、周囲を和ませる魔法の媒体になってるのも上手い。 次章の「初依頼(スライム討伐)」が楽しみすぎますね。 - スライム相手に「ちょっとだけ」魔力出したら森がふわふわパン生地みたいになりそう- ルイが段階的に封印を緩めては即再封印する「プロトコル」を実戦で回す様子- 連携の呼吸が取れてくると、セリナの「安全に力を扱う」基礎が本当に育ち始めて、ルイの負担が軽くなる過程- でも絶対どこかで盛大にやらかして、町に「魔王級パン職人」の噂がさらに尾ひれ付きで広がるんだろうな……(笑)この先、セリナが少しずつ自分の力に自覚を持ちつつ、パン職人と魔法使いの二刀流を目指す展開とか、 ルイが「見張る」から「見守る」へ完全にシフトして、ふたりの絆がもっと深まる話とか、 他の魔王級存在や勇者サイドが絡んできて「封印バレ」の危機が訪れるシリアス回とか……どれも読みたくて仕方ないです。 「スライム討伐編」のドタバタ予想シーンとか、もっと語り合いたいです! セリナの「ふわふわ」は世界を救う(?)のか、それとも滅ぼす(?)のか……もう目が離せません。
第4章:初めての依頼とスライム地獄
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