【名無しさん】 2025年10月12日 6時6分33秒 | 猫でも書ける短編小説 第7章:ギルド証の裏面と謎の評価 |
【名無しさん】 2025年10月7日 15時36分58秒 | 第8章:セリナ、初仕事で覚醒する ギルド証の裏面に「爆発注意」マークがついた翌日。 セリナは、パン屋の店主から「よかったら手伝ってみないか」と声をかけられた。 スライム団子の報酬で割引券を使いまくった結果、店主に顔を覚えられたらしい。 「ルイ~! パン屋さんで働けるって~♡」 「お前、ギルド証には“見習い”って書いてあるけど、実務経験ゼロだろ」 「でも、ふわふわの情熱はあるよ~!」 「情熱でパンは焼けない。たぶん」 パン屋「麦のしずく」は、町でも評判の店だった。 朝から行列ができるほど人気で、店主の腕も確か。 セリナは、エプロンを渡されると、目を輝かせていた。 「わ~♡ これ、ふわふわ素材だ~!」 「エプロンにふわふわ求めるな。機能性重視しろ」 厨房に入ると、店主が生地のこね方を教えてくれた。 セリナは、魔力を使わずに手でこね始めた。 その手つきは、驚くほど丁寧だった。 「……あれ? 意外と上手いな」 「えへへ~♡ パンはね、気持ちでこねるんだよ~」 店主が目を丸くした。 「君、魔力使ってないのに、発酵のタイミングが完璧だ。温度も湿度も、まるで見えてるみたいだ」 「うん、パンの声が聞こえるから~♡」 「パンと会話するな。しかも、通じてるのが怖い」 セリナは、次々と生地を整え、焼き上げ、仕上げにふわっと魔力をかけて香りを引き立てた。 そのパンは、店主も驚くほどの出来だった。 「……これ、俺が焼いたのより美味いかもしれん」 「ルイ~! 見て見て~! ふわふわ度、過去最高だよ~♡」 「……くそ、ちょっと悔しい」 店の前には、いつも以上の行列ができていた。 客たちは「今日のパン、なんか幸せの味がする」「ふわふわが心に染みる」と口々に言っていた。 セリナは、厨房の隅でドヤ顔を浮かべていた。 「ルイ~♡ 私、パン職人として覚醒したかも~!」 「お前、昨日まで“爆発注意”だったのに、今日は“ふわふわ神”かよ」 そのとき、ギルド職員がパンを買いに来た。 セリナのパンを一口食べて、目を見開いた。 「……このパン、魔力が安定してる。昨日の暴走が嘘みたいだ」 「パンを持ってると安定するって、ほんとだったんですね」 「つまり、彼女は“パンを持つことで人格が安定する魔法使い”……」 「それ、なんか複雑な肩書きだな」 セリナは、パンを焼きながらふと呟いた。 「ねえルイ。私、パンを焼いてるときだけは、自分の魔力が怖くないんだ」 「……それは、すごいことだ。お前が自分を制御できる瞬間ってことだ」 「うん。でも、君が隣にいてくれるから、もっと安心できるよ~♡」 「……俺はパンじゃないぞ」 その夜、宿に戻った俺は、セリナの焼いたパンをかじりながら思った。 ふわふわで、爆発して、しゃべる鍋と会話して、でもパンを焼くときだけは真剣で、 そんな彼女が、少しずつ“自分の力”と向き合い始めている。 そして、俺は静かに呟いた。 「……くそ、俺より有能じゃねぇか」 クッションが、ハート型になった。 鍋が、静かに「……今日のパン、泣けるほど美味かった」と呟いた。 こうして、セリナの初仕事は、 パン屋覚醒→ドヤ顔→ルイ嫉妬→町の絶賛という、 異世界ラブコメらしい成長記で幕を閉じた。 封印と魔法と、パンとドヤ顔と、ちょっと悔しい俺。 それが、俺たちの“初仕事記”だった。 |
【名無しさん】 2025年10月8日 19時29分41秒 | 第9章:ふわふわと泣き虫と、ちょっとだけ本音 夜のローデンは静かだった。 宿屋の窓から見える星空は、まるでパンの粉砂糖みたいにきらきらしていて──セリナはそれを見ながら、クッションをぎゅっと抱えていた。 「ルイ……ねぇ、ちょっとだけ、いい?」 彼女の声は、いつもより少しだけ小さかった。 パンの話じゃないときは、だいたい真面目な話だ。 「うん。パンの話じゃないなら、覚悟して聞く」 「えっ、パンの話じゃないと怖いの?」 「いや、パンの話はだいたい平和だからな。世界を救うし」 「……それは私の持論だよ?」 セリナは、ふわふわのクッションに顔をうずめたまま、ぽつりと呟いた。 「私さ……最近、ちょっと変なの。魔力が、時々勝手に動くの。 この前も、スライムが勝手に焼きスライムになってたし……」 「それはお前が『焼いたら美味しそう』って言ったからだろ」 「でも、言っただけで魔法が出るって、ちょっと怖くない?」 「……うん。怖い。俺も、ちょっとだけ、びっくりした。 スライムが『ジュワッ』って言ったときは、俺の心も焼かれた」 セリナは、クッションをぎゅっと抱きしめた。 その仕草は、まるで自分を守るようだった。 「ねぇ、ルイ……私、壊れてるのかな」 「……違う。お前は、ちょっとだけ、ふわふわしてるだけだ」 「ふわふわって、褒めてる?それとも、バグってる?」 「褒めてる。俺は、ふわふわが好きだ」 沈黙が落ちた。 でも、それは重たいものじゃなくて、パンの発酵みたいに、じんわりと膨らむ静けさだった。 「……ルイって、たまに優しいよね」 「たまに、って言うな。俺は常に優しい。陰キャなだけだ」 「陰キャって、優しさとセットなの?」 「俺の場合は、セット売りだ。お得パック」 「じゃあ、私が買ってもいい?」 「……売り物じゃないけど、買われるなら、ちょっと嬉しい」 セリナは、ふわっと笑った。 その笑顔は、星空よりも柔らかかった。 「ねぇ、ルイ。私、君の隣にいてもいい?」 「……うん。お前が隣にいると、俺の世界がちょっとだけ明るくなる」 「それって、パンの効果?」 「違う。セリナの効果だ」 その夜、セリナは少しだけ泣いた。 でも、それは悲しみじゃなくて、安心の涙だった。 クッションに顔をうずめながら、パンを抱えたまま、ぽろぽろと涙をこぼした。 「ルイ……ありがとう。君がいてくれて、よかった」 「俺も、お前がいてくれて、助かってる。 スライムが焼かれても、俺の心は焼かれない」 「それ、ちょっとだけロマンチックだね」 「ちょっとだけ、が俺の限界だ」 こうして、ふたりの夜は静かに過ぎていった。 魔力の暴走も、記憶の揺らぎも、精霊のささやきも──まだ遠くにある。 でも、ふたりの絆は、パンとクッションと涙で、少しだけ深まった。 この夜が試したのは、魔力じゃなくて──“心の柔らかさ”だった。 そして俺は、セリナの涙を見て、そっと思った。 「俺は、たぶん……この子を守るために、ここにいるんだ」って。 |
【名無しさん】 2025年10月8日 19時29分15秒 | 第10章:ギルドの焼き菓子と灼熱の依頼 ローデンのギルドは、昼下がりの焼き菓子の香りに包まれていた。 受付嬢ミルフィが焼いたという「ふわふわマフィン」が、カウンターの隅で湯気を立てている。 セリナはその香りに吸い寄せられるように、ルイの袖を引いた。 「ルイ、あれ……絶対に魔法で焼いてるよね。ふわふわの密度が違う」 「いや、たぶん普通にオーブンで焼いてると思う」 「でも、魔力で焼いたらもっとふわふわになると思うの。空気の粒子が、こう……優しく包まれて」 セリナの魔力が、マフィンの湯気に反応してふわりと広がった。 空気が甘くなり、ギルドの空間が一瞬だけ柔らかく揺れる。 ルイはすかさず無限鑑定を起動した。 《魔力状態:感情共鳴型。属性:風・光・甘味。干渉性:高。空間影響:微発動》 《備考:焼き菓子に反応しやすい傾向あり》 「……セリナ、君の魔力、マフィンに共鳴してる」 「えっ、じゃあ私って……マフィン属性?」 「いや、たぶん“ふわふわ属性”」 そのとき、ミルフィが依頼書を差し出した。 そこには「灼熱の魔窟:炎哭の洞」と記されていた。 「この依頼、セリナさんの魔力なら、焼き直しが可能なのです!」 「焼き直しって、モンスターを?」 「いえ、空間そのものを“魔力で包み直す”のです!」 セリナは目を輝かせた。 「……包み直すって、マフィンみたいに?」 「そうです! 焼きすぎた空間を、セリナさんの魔力でふわっと包み直して、再調整するんです」 「じゃあ、私がふわっとすればいいの?」 「はい。ただし、洞窟の魔力は非常に荒れているので、護衛として上位パーティ《紅蓮の牙》が同行します」 ルイは眉をひそめた。 《紅蓮の牙》──ギルドでも名の知れた実力派。 彼らが同行するということは、セリナの魔力が暴走する可能性を見越しての措置だ。 「……俺がいるのに、護衛が必要ってことか」 「ルイ?」 「いや、なんでもない。君の魔力を包めるのは、俺だけだと思ってたから」 セリナはそっとルイの手を握った。 その手は、少しだけ震えていた。 「ルイ、私……最近、魔力が勝手に動くことがあるの。怖いの」 「……君の魔力は、君の心に従ってる。だから、君が優しくすれば、魔力も優しくなる」 「でも、もし私が優しくできなくなったら……?」 「そのときは、俺が君を包む。マフィンより柔らかく、しっかりと」 ミルフィが微笑んだ。 「ふたりの魔力は、きっと空間を癒します。焼き直しは、ただの修復じゃない。感情の再調整でもあるんです」 「感情の……再調整?」 「はい。炎哭の洞は、かつて精霊たちが住んでいた場所。でも、今は怒りと熱に満ちている。セリナさんの魔力なら、精霊たちの記憶に触れられるかもしれません」 セリナは少しだけ目を伏せた。 その瞳には、懐かしさのようなものが浮かんでいた。 「……記憶って、どんな匂いがするんだろう」 「たぶん、焼きたてのパンの匂い」 「じゃあ、私の魔力って、記憶を焼き直す力なのかな」 「……かもしれない。君の魔力は、世界の空気をふわっと包む力だから」 依頼書を受け取ったルイは、ふと胸ポケットに手を入れた。 そこには、セリナが焼いた“ふわふわの誓い”という名のパンが入っている。 彼はそれをそっと握りしめた。 「これ、君の“ふわふわ”が詰まってる気がする。俺のポケットに入れておけば、魔力も焼きすぎない……はず」 「うん……でも、もし焦げちゃったら?」 「そのときは、俺が君を包む。パンより柔らかく、しっかりと」 ギルドの扉が開き、紅蓮の牙のメンバーが姿を現した。 その背には、炎の紋章が揺れている。 「準備は整ったか? 新人ふたりと、ふわふわの空間焼き直し。面白い依頼だ」 「……ふわふわって、依頼名になってるの?」 「いや、俺たちの中でのコードネームだ。ふわふわ作戦」 セリナは笑った。 ルイも、少しだけ口元を緩めた。 灼熱の魔窟への挑戦。 それは、空間の修復だけでなく、ふたりの絆の再調整でもある。 |
【名無しさん】 2025年10月8日 19時28分35秒 | 第11章:灼熱の魔窟への入り口 ギルドの依頼書には、こう書かれていた。 「炎哭の洞にて空間の焼き直しを希望。魔力干渉による地形の歪み、精霊の感情残滓あり。ふわっと優しく、焦がさずにお願いします」 ふわっと優しく。焦がさずに。 それは、セリナの魔力にぴったりの依頼だった。 炎哭の洞は、火山の内部に広がるダンジョン。 入口に立った瞬間、ルイのメガネが曇った。 空気は熱いというより、焼きたてのパンの中に顔を突っ込んだような感覚だった。 「ルイ、ここって……パン屋さん?」 「違う。火山ダンジョンだよ」 「でも、空気がバターの香りしてる気がする……」 「それ、たぶん君の魔力のせい」 セリナの魔力は、空間に触れるたびに“味”を変える。 今は、ほんのり甘くて、少し焦げかけたカスタードのような気配。 ルイは無限鑑定を起動した。 《魔力状態:空間共鳴型。属性:風・光・感情・香味。干渉性:中。》 《備考:空間の“味”を変える能力あり。記憶領域に微接触》 護衛パーティ《紅蓮の牙》が後方で準備を整えていた。 リーダーのヴァルは、セリナの魔力に目を細めて言った。 「……この空間、魔力が甘くなってる。精霊が寄ってくるぞ」 「セリナさん、魔力の制御は大丈夫ですか?」 魔術師のリズが心配そうに声をかける。 セリナは、少しだけ不安そうにルイを見た。 その瞳は、焼きたてのパンのように柔らかく、でも揺れていた。 「ルイ……私、最近、魔力が勝手に動くの。怖いの」 「……君の魔力は、君の心に寄り添ってる。だから、君が優しくすれば、魔力も優しくなる」 「でも、もし私が優しくできなくなったら……?」 「そのときは、俺が君を包む。マフィンより柔らかく、しっかりと」 セリナは、ふっと笑った。 でもその笑顔の奥に、ほんの少しだけ涙が滲んでいた。 「……ありがとう。ルイの言葉、あったかい。ちょっと焦げ目ついてるけど」 「それ、褒めてるのか微妙だけど……ありがとう」 洞窟の中に一歩踏み出すと、空間がざわめいた。 熱だけでなく、感情の粒子が揺れている。 セリナの魔力が、それに反応して微細に震え始めた。 ふわりと光が舞った。 炎の精霊だった。 小さな羽を持ち、赤く輝くその存在は、セリナの魔力に引き寄せられるように近づいてきた。 「……この子、泣いてるみたい」 「精霊は感情に敏感だから。君の不安に反応してるのかも」 「じゃあ、私が笑えば、精霊も笑う?」 「たぶん。君の魔力は、空気を甘くする力があるから」 リズが精霊に目を細めた。 「精霊が出るとはな……この洞窟、ただの火山じゃない。感情の記憶が染みついてる」 「セリナさん、無理に触れないでください。精霊の記憶は、時に魔力を引き裂きます」 ガルドが剣を抜きながら前に出る。 セリナはそっと精霊に触れた。 その瞬間、彼女の魔力がふわっと広がり、洞窟の空気が甘く香った。 壁の色が一瞬だけ柔らかな光に包まれ、岩肌の脈動が静まった。 「ルイ……私、ちょっとだけ思い出しそうになった。何か、大事なこと」 「思い出してもいい。でも、無理に思い出さなくてもいい。君が笑ってくれるなら、それでいい」 「……でも、もし思い出したら、私、変わっちゃうかも」 「それでも、俺は君を見てる。君の中にある優しさも、ふわふわも、全部知ってるから」 ヴァルがふたりの背中を見て、静かに呟いた。 「……あのふたり、ただの新人じゃないな。魔力の質が違いすぎる」 「でも、あの絆がある限り、暴走はしない。俺たちは、ただの焦げ止めでいい」 セリナは、少しだけ涙ぐんだ。 でもすぐに、笑顔を取り戻した。 「じゃあ、焼き直し開始だね。ふわっと、優しく、焦がさないように」 「うん。君の魔力で、空間を包み直す。俺はその隣で、君を見守る」 ふたりは、炎哭の洞の入り口に立った。 その先には、灼熱の試練が待っている。 でも、ふたりの絆は、マフィンのようにじっくりと焼き上がっていた。 そして、セリナの魔力は──ふわふわと、甘く、でも芯は熱く── 空間を包み直す準備を、静かに始めていた。 |
【名無しさん】 2025年10月8日 19時36分55秒 | 第12章:精霊の記憶と魔力の揺らぎ |