《君のいない教室》―君のいない教室で、私はまだ君を待ってる―3【猫でも書ける短編小説】


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【名無しさん】
2025年10月17日
12時48分20秒

猫でも書ける短編小説

第8章:新しい朝が来ても
【名無しさん】
2025年10月17日
12時35分6秒

第9章:君のいない教室で

文化祭が終わった翌日、教室は少しだけ静かだった。
飾り付けの残骸が床に散らばり、誰かが描いたポスターが壁に斜めに貼られていた。
千紗は、朝早く登校し、誰もいない教室に入った。

律の席は、春からずっと空いたままだった。
誰も座らず、誰も触れず、ただ時間だけがその場所を通り過ぎていった。
千紗は、鞄から小さな花束を取り出した。
白いカスミソウと、淡い青のデルフィニウム。
律が好きだった色。

「おはよう、律」
千紗は、そっと花束を机の上に置いた。
誰にも見られないように、誰にも気づかれないように。
それは、彼女だけの“さよなら”だった。

春からずっと、千紗は律の不在を受け入れられずにいた。
教室のざわめきの中で、彼の声を探し続けた。
窓の外に、通学路に、図書室に、彼の影を追い続けた。
でも今は、少しだけ違っていた。

律がいないことは、もう変えられない。
それでも、彼がいたことは、確かにここに残っている。
彼の笑い声、彼の言葉、彼の癖。
それらすべてが、千紗の中で生きている。

「好きだったよ」
千紗は、もう一度だけ言葉にした。
それは、春に言えなかった言葉。
夏に願った言葉。
秋にようやく届いた言葉。

教室のドアが開く音がして、誰かが入ってきた。
千紗は、花束を見つめたまま、席に戻った。
誰も、律の席に触れない。
それが、彼の存在を守っているように感じた。

昼休み、千紗は窓際に座り、空を見上げた。
雲がゆっくりと流れていく。
季節は、また少しだけ進んでいた。

君のいない教室で、千紗は生きている。
君の記憶とともに、君の言葉とともに。
そして、君の不在を抱えながら、前を向いている。

【名無しさん】
2025年10月17日
12時34分36秒

第10章:君のいない世界で生きる

冬の朝は、空気が澄んでいて、吐く息が白く浮かんだ。
千紗は、マフラーをきゅっと巻き直しながら、通学路を歩いていた。
あの日と同じ道。
律と並んで歩いた、あの坂道。

季節は一巡し、また冬が来た。
でも、去年とは違う。
隣に律はいない。
それでも、千紗は歩いている。

教室に入ると、窓際の席に朝日が差し込んでいた。
律の席は、もう誰も見ないふりをしている。
けれど千紗は、毎朝そこに「おはよう」と心の中で声をかけていた。

彼がいないことに、慣れたわけじゃない。
ただ、彼がいたことを忘れないようにしているだけ。
それが、千紗にできる唯一のことだった。

放課後、千紗は図書室に立ち寄った。
律が最後に読んでいた本は、今も同じ場所にあった。
ページをめくると、彼の指が触れた気がした。
でも、それはもう記憶の中の感触だった。

「律、元気にしてる?」
誰もいない窓辺で、千紗はそっと呟いた。
返事はない。
でも、風がカーテンを揺らして、まるで彼が笑っているように思えた。

千紗は、もう泣かない。
涙は、春に置いてきた。
夏に願って、秋に言葉にして、冬にようやく受け入れた。

「好きだったよ」
その言葉は、もう何度も繰り返した。
届かなくてもいい。
でも、心にはちゃんと残っている。

君のいない世界は、やっぱり少し寂しい。
でも、君がいた世界を知っているから、私は前を向ける。

千紗は、空を見上げた。
雲ひとつない冬の空。
その青さは、律の目の色に似ていた。

「ありがとう、律」
そう言って、千紗は歩き出した。
君のいない世界で、君と過ごした記憶を胸に抱いて。

そして、これからの自分の物語を、少しずつ紡いでいく。