勝つことより、誰も死なないことを優先する。それって、戦術士より詩人みたい『戦術士ですが、理想主義が過ぎて命がけです』【猫でも書ける戦記小説】


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【名無しさん】
2025年10月24日
18時22分51秒

猫でも書ける短編小説

第1章「戦術士、語りと精霊に包まれる」
【名無しさん】
2025年10月24日
17時27分36秒

第1章:「戦術士、詩集に逃げる。恋と椅子の硬さに悩む」

「……また、戦術書?」

月光が差し込む書庫の窓辺で、セリナ・ノクティアがユグ・サリオンの背後から声をかけた。
彼女の声は柔らかく、けれどどこかくすぐるような響きを持っている。

「これは戦術書じゃない。詩集だよ。戦術詩集だがね」

ユグは本から目を離さず、ページをめくる手を止めなかった。
その横顔は真剣そのものだが、耳がほんのり赤い。

「詩と戦術を混ぜるなんて、あなたくらいよ。恋の駆け引きも布陣で考えてそう」

「恋は戦より複雑だ。敵は予測できるが、君の笑顔は予測不能だ」

セリナはくすくすと笑った。
「それ、褒めてるの? 皮肉ってるの?」

「どちらでもない。ただの観察結果だ」

「ふふ、じゃあ私は“予測不能な微笑み”として、戦術書に載せておいて。
“敵軍の士気を乱す魔導姫の笑顔”って」

「……それは兵士の心を乱すだけでなく、戦術士の集中も乱す」

ユグはようやく本を閉じた。
その表紙には、古代語で『六星の残火』と刻まれている。

「ねえ、ユグ。あなた、本当に戦いたくないんでしょう?」

セリナの声が、ふと静かになった。
彼女はユグの隣に腰を下ろし、月光の中で彼の横顔を見つめる。

「戦いたくないよ。勝ちたいだけだ。できれば、誰も死なずに」

「それって、魔法みたいな理想ね」

「魔法よりも難しい。魔法は代償を払えば叶うが、理想は代償を払っても叶わないことがある」

セリナはしばらく黙っていた。
そして、そっとユグの肩に頭を預けた。

「……あなたの理想、好きよ。叶わなくても、好き」

ユグは驚いたように目を見開いたが、すぐに視線を逸らした。
「……君は、時々、爆撃より破壊力がある」

「それ、褒めてるの? 皮肉ってるの?」

「どちらでもない。ただの観察結果だ」

「またそれ! 新しい言い回し、探してよ」

「じゃあ……“君の言葉は、戦術士の心に直撃する魔導弾”」

「うん、それはちょっと嬉しい」

そのとき、書庫の扉が静かに開いた。
黒衣の影術士――リュミナ・ヴァルティアが、無言で二人を見つめていた。

「……戦術会議の時間です、ユグ様。セリナ殿も、そろそろ巫女の儀式の準備を」

彼女の声は冷たくはないが、感情の起伏を感じさせない。
月光に照らされた瞳は、どこか寂しげだった。

「ありがとう、リュミナ。すぐ行く」

ユグが立ち上がると、セリナもゆっくりと立ち上がった。
その瞬間、リュミナの視線がセリナに向けられる。

「……あなたの笑顔は、確かに予測不能ですね」

「え? それ、褒めてるの? 皮肉ってるの?」

「どちらでもありません。ただの観察結果です」

ユグが思わず吹き出した。
「流行ってるのか、その言い回し」

「ええ、あなたの影響です。戦術士の癖は、部下に伝染しますから」

セリナは笑いながら、ユグの袖を引いた。
「じゃあ、行きましょう。予測不能な笑顔と、理想主義の戦術士と、感情を隠す影術士で」

「……戦術的には最悪の組み合わせだ」

「でも、物語的には最高よ」

ユグは小さく笑った。
その笑顔は、戦場では決して見せない、静かな安らぎの色をしていた。

【名無しさん】
2025年10月24日
17時26分38秒

第2章:「戦術士、詩集に逃げる。恋と椅子の硬さに悩む」

「……椅子が硬い。戦術より先に、尻が壊れる」

ユグ・サリオンは会議室の椅子に腰を下ろすなり、ぼそりと呟いた。
その声は誰に向けたものでもなく、ただ空気に溶けるような独り言。

「じゃあ、戦術士様のために、次回は羽毛入りの椅子を用意しましょうか?」
セリナ・ノクティアがすかさず返す。
その笑顔は、まるで春の風のように軽やかだ。

「羽毛は戦場で燃える。尻が炎上する」

「それはそれで、紅蓮王国らしくて素敵じゃない?」

「……君の“素敵”は、時々命に関わる」

リュミナ・ヴァルティアは、二人のやり取りを黙って見ていた。
彼女の指は、机の上の地図をなぞっている。
焔の城を中心に、魔導帝国の軍勢がじわじわと迫っていた。

「……敵軍、南西の峡谷に布陣。三日以内に進軍開始と予測されます」
リュミナの声は冷静だった。
だが、その瞳はユグの表情を一瞬だけ探るように揺れた。

「峡谷か。狭い地形は、こちらの魔導砲が活きる。
ただし、民間の避難が間に合わなければ、勝っても意味がない」

ユグは地図を見つめながら、指先で六星紋章のペンダントを無意識に撫でていた。

「……あなたって、ほんとに戦術士なの?」
セリナがぽつりと呟いた。

「どういう意味だ?」

「勝つことより、誰も死なないことを優先する。
それって、戦術士より詩人みたい」

「詩人は戦場で役に立たない。
ただ、詩人の理想は、戦術士の苦悩になる」

リュミナが静かに口を開いた。
「……ですが、理想を捨てた戦術は、ただの殺戮です」

ユグは彼女を見た。
その瞳には、言葉にできない感情が宿っていた。

「……ありがとう、リュミナ。君の言葉は、時々、鋼より重い」

「それは褒め言葉ですか?」

「いや、腰にくる」

セリナが吹き出した。
「もう、あなたたちの会話、戦術士と影術士のくせに漫才みたい」

「漫才は戦術だ。敵の集中を乱す」

「じゃあ、私も参戦するわ。笑顔で敵軍を混乱させる魔導姫として」

「……君はすでに、味方の集中を乱している」

リュミナの指が、地図の一点を止めた。
「ここ。峡谷の北端に、古代の魔力が残る遺跡があります。
セリナ殿の魔導詠唱なら、封印を解ける可能性が」

セリナは目を見開いた。
「遺跡って……あの“月の祈りの祭壇”?」

「はい。もし魔力を引き出せれば、敵軍の進軍を遅らせることができます」

ユグはしばらく黙っていた。
そして、静かに言った。

「……君たちがいると、戦術が詩になる。
それは、僕にとって、救いだ」

セリナは微笑んだ。
リュミナは、ほんの一瞬だけ、目を伏せた。

「じゃあ、詩人の戦術士様。
次の作戦名は、“月と焔の協奏曲”なんてどう?」

「……敵軍が笑ってくれれば、勝てるかもしれない」

「それなら、私が笑わせてみせる。あなたの理想のために」

リュミナはその言葉に、何も言わなかった。
ただ、静かに地図を折りたたみ、ユグの前に差し出した。

「……作戦開始まで、あと二日。
準備は、詩人のように丁寧に。戦術士のように冷静に」

ユグは頷いた。
その瞳には、戦いへの恐れと、理想への希望が同居していた。

【名無しさん】
2025年10月24日
17時25分1秒

第3章:「魔導姫と影術士と、戦術士の胃痛と絶望的な戦力差」

「……胃が痛い。戦術より先に内臓が崩壊する」

ユグ・サリオンは、焔の城の作戦室で地図を睨みながらぼやいた。
その隣で、セリナ・ノクティアが魔導茶を差し出す。

「じゃあ、胃薬に“絶望耐性”でも加えておく?」

「それは効きすぎて現実逃避になる。副作用は妄想と希望」

「希望は副作用なの?」

「この国では、そうだ。希望は胃痛の原因になる」

リュミナ・ヴァルティアが冷静に報告を始めた。

「魔導帝国、北方から進軍。推定兵数、四万。
こちら、動員可能兵力は三千四百十二。
地形と魔導支援を除けば、勝率は……計算不能です」

ユグは地図を指で叩いた。

「つまり、胃痛と地形で戦う。理想主義者の戦術、始まるよ」

その言葉に、部屋の空気が少しだけ揺れた。
新たに編入された剣士隊長、ヴァルド・グレンハルトが腕を組んで唸る。

「三千で四万に挑むって、正気か?
俺は剣を振るうのは得意だが、理想で戦うのは苦手だ」

「安心して。僕も理想で戦うのは苦手だ。
でも、現実で戦うと胃が死ぬ」

セリナが笑いながら言った。

「ユグはね、理想を現実にする人なの。胃痛持ちだけど、天才よ」

若い魔導士が小声で呟いた。

「……あの人、本当に勝てるんですか?」

リュミナが静かに答える。

「彼は、非の打ちどころがありません。
ただし、打ちどころがない代わりに、胃が打たれています」

ユグは頭を抱えた。

「……君たちの信頼、重すぎて胃が潰れる」

ヴァルドが笑った。

「でもよ、あんたの戦術ってのは、どこか信じたくなる。
殺さずに勝つ? そんな馬鹿げた理想、俺は嫌いじゃねえ」

セリナが茶をすすりながら言った。

「ねえ、ユグ。敵って、魔導帝国でしょ?
あの“魔導兵器部隊”も来てるって噂よ」

「うん。胃痛が、魔導兵器に反応してる」

リュミナが地図を指差す。

「峡谷の地形を利用すれば、敵の進軍を分断できます。
セリナ殿の霧魔導で視界を遮断し、ヴァルド隊が側面を叩く。
ユグ様は、中央で指揮を」

ユグは深呼吸した。

「……三千で四万に挑む。
殺さずに勝つには、奇跡が必要だ」

セリナが微笑んだ。

「じゃあ、奇跡を起こす茶でも淹れようか?
副作用は、恋と妄想」

ユグは顔を背けた。耳が赤い。

「……君は、時々、魔導兵器より破壊力がある」

リュミナは何も言わなかった。
ただ、静かに剣を抜いた。

「作戦開始まで、あと一刻。
胃薬は、今のうちに」

ユグは地図を見つめながら、呟いた。

「……紅蓮王国は弱小国だ。
でも、理想は強い。
それを証明するために、胃痛と妄想で戦う」

そして、彼は立ち上がった。
三千の兵を率いて、四万の敵に挑むために。

【名無しさん】
2025年10月24日
17時24分24秒

第4章:「三千の理想、四万の現実に挑む」

「霧、展開完了。視界、五十歩先まで遮断」

セリナ・ノクティアの声が、魔導通信石を通じて響いた。
峡谷は幻想の霧に包まれ、敵も味方も、互いの姿を見失っている。

「影術、側面撹乱開始。敵隊列、分断成功」

リュミナ・ヴァルティアの報告は冷静だった。
だがその声の奥には、ユグ・サリオンへの信頼が滲んでいた。

ユグは、三千の兵士を前に立ち、静かに言った。

「……敵は四万。こちらは三千。
普通なら、勝てない。だから、普通じゃない方法で勝つ」

兵士たちは黙って頷いた。
彼らはユグの戦術に命を預けている。
殺さずに勝つ――その理想に、賭けている。

「第一陣、弓兵。霧の中、音で誘導。
第二陣、魔導士。幻影で敵を誘導。
第三陣、剣士。接触は避け、足を狙え。殺すな。止めろ」

「……胃痛が悪化する」

誰かがぼそりと呟いた。
ユグは笑った。

「それは、戦術士の宿命だ。胃薬は後で配る」

セリナの声が再び届いた。

「敵、混乱中。中央突破を諦めて、左右に分散してる。
あなたの作戦、詩みたいに綺麗よ」

「詩は戦場で役に立たない。
でも、詩のような戦術は、心を守る」

リュミナの声も続いた。

「敵指揮官、動揺中。こちらの兵数を誤認している可能性あり。
“三千の理想”とでも呼ぶべき状況です」

「……それ、ちょっと気に入った」

ユグは剣を抜いた。
彼自身が戦うことは少ない。だが、兵士たちの前に立つことで、理想を示す。

「僕らは、誰も死なせない。
敵も、味方も。
それが、戦術士としての誇りだ」

霧の中、弓が放たれ、幻影が踊り、剣が地を打つ。
叫び声はない。血の匂いも、ほとんどない。
ただ、混乱と静かな制圧が広がっていく。

セリナが魔導通信石に囁いた。

「ねえ、ユグ。あなたの理想、ほんとに届いてるよ。
この霧の中で、誰も死んでない。
あなたの“妄想”、現実になってる」

ユグは答えなかった。
ただ、霧の中で立ち尽くし、三千の動きを見守っていた。

リュミナが最後に報告した。

「敵軍、撤退開始。死者、ゼロ。
こちらの負傷者、軽傷三十名。
作戦名、“六星の残火”――成功です」

ユグは、そっと剣を納めた。
胃痛は、まだ残っていた。
だが、その痛みは、誇りに変わっていた。

「……奇跡じゃない。これは、理想の証明だ」

セリナとリュミナは、それぞれの場所で、静かに微笑んだ。
そして、霧の中に、三千の足音が響いた。

【名無しさん】
2025年10月24日
17時23分54秒

第5章:「魔導帝国、理想主義者に撤退を強いられる」

「……撤退、ですか?」

副官レイナ・ヴァルスは、言葉を選びながら問いかけた。
魔導帝国軍、第四方面軍。兵数四万。
対する紅蓮王国、三千余。
常識的に見れば、勝利は確定していた。

だが、現実は違った。

「そうだ。撤退だ」
統率者グラウス・エル=ヴァルドは、地図を睨みながら答えた。
その顔には、敗北の色ではなく、理解不能への苛立ちが浮かんでいた。

「敵は、紅蓮王国。弱小国。
兵力も、魔導資源も、我が帝国の十分の一以下。
なのに、我々は……先手を取られ続けた」

レイナは眉をひそめた。

「敵の指揮官、ユグ・サリオン。
報告によれば、胃痛持ちの理想主義者。
戦術より妄想を語る男だと」

「妄想? 違う。あれは――獰猛な魔獣だ」

グラウスは拳を握った。

「霧を操り、幻影を使い、我が軍の進軍を分断した。
地形を読み、兵の心理を突き、我々の動きを三手先まで読んでいた」

「まるで、理想を武器にするような……」

「そうだ。奴は“殺さずに勝つ”などとほざいていた。
だが、実際には――我が軍の士気を削り、陣形を崩し、
兵たちに“戦う意味”を見失わせた」

レイナは静かに言った。

「兵士たちは、彼を“鬼”と呼んでいました。
姿は見えず、声も届かず。
ただ、戦場の空気が、彼の理想に染まっていたと」

グラウスは椅子に沈み込んだ。

「我々は、勝てるはずだった。
だが、あの男は、戦術ではなく“信念”で戦った。
そして、それが兵士たちの心を奪った」

「次は、彼を殺すべきです」

「殺せるならな。だが、あの“鬼”は、殺さずに勝つ。
だから怖い。だから、撤退は最善だった」

レイナは地図を見つめた。
峡谷には、まだ霧が残っている。

「……彼の理想は、戦場を詩に変えた。
それが、我々の現実を崩した」

グラウスは目を閉じた。

「次に会う時は、理想ではなく、現実で叩く。
だが――胃痛持ちの魔獣に、現実が通じるかは、わからん」

【名無しさん】
2025年10月24日
18時23分31秒

第1章「戦術士、語りと精霊に包まれる」