◀第03章『灰色の残響、あるいは震えはじめた旋律(メロディ)』
▶第05章 『不完全な旋律、あるいは残酷な余命宣告』
|
|
第04章『深淵の鼓動、あるいは理論(ロジック)の果てにある音』
「VOICEVOX: 離途」「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 青山龍星」「VOICEVOX: もち子さん」「VOICEVOX: †聖騎士 紅桜†」
|
森の奥へ進むほど、空気は鉛のように重く沈み込んでいった。 ついさっきまで聞こえていた葉擦れの音も、虫の羽音も、すべてが唐突に途絶える。
――音が、死んでいる。
とん、とん、とん。 僕が指先で刻むリズムだけが、この真空のような世界で唯一の“生きた音”だった。
「……ここ、もう森じゃないね」
リンネが震える声で呟く。 彼女が命綱のように強く握りしめたネギは、その瑞々しい緑色が失われ、先端から病的な灰色へと変色していた。
 「おい……俺の筋肉まで変色してきてるんだが……!」
クロスの悲痛な声が響く。 見れば、彼の鋼のような前腕に、カビのような灰色の斑点が浮かび始めていた。
「クロス、それ……魂じゃどうにもならないよね?」
「馬鹿を言え! 魂で押し戻してやる!!」
クロスは腕に力を込める。血管が浮き上がり、筋肉が軋む。 だが、灰色の斑点は彼の意思を嘲笑うように、じわりと広がった。
「……筋肉が……俺の魂(カラー)を拒絶してやがるのか……?」
常に自信に満ちていたその顔から、血の気が引いていく。 それは、“魂の男”が初めて露呈した、生理的な“恐怖”だった。
「クロス……無理はしないで。これは魂とか筋肉とか、そういう次元じゃない」
僕はそう言いながら、視界の先を見据えた。 そこに――“それ”は鎮座していた。
巨大な、黒い塊。
まるで空間そのものをえぐり取ったような空洞。 周囲の光を貪り食い、ドロドロとした濃密な残滓(ざんし)が渦を巻いている。
“残滓の深淵”。 世界の病巣そのものが、そこで脈動していた。
「……あれが、心臓……?」
アイリスが僕の袖をつまむ。 その手は氷のように冷たく、小刻みに震えていた。
懐中時計が、とくん……とくん……と弱々しく脈動する。 まるで、上位捕食者を前にした小動物のように怯えている。
 (……波形が、壊れてる。 これは生命の鼓動じゃない。 周囲の音をすべて飲み込み、破壊だけを再生産する―― “最悪の律動(リズム)”だ)
「アリア……」
アイリスが僕を見上げる。 その瞳は、恐怖に揺れながらも――覚悟の色を宿していた。
「大丈夫。僕たちで……必ず浄化する」
そう言い切った、その時だった。
ドクン……ッ!!
心臓の塊が大きく収縮し、灰色の衝撃波が世界を揺らした。
リンネがネギを構え、クロスが大剣を握り直す。 沈黙の深淵が、ゆっくりと口を開いたのだ。
黒い渦の表面から、粘りつくような影が滲み出る。
「……来る!」
僕が叫ぶより早く、影は獣の形をとり、地を裂く速度で飛びかかってきた。 その輪郭は揺らぎ、まるでテレビの砂嵐のようにノイズが走っている。
「残像……?」
リンネが息を呑む。 実体がない。けれど、殺意だけが質量を持っている。
「魂の一撃だァァァ!!」
クロスが咆哮と共に大剣を振り下ろす。 ――しかし。
刃は獣をすり抜け、空を切った。 次の瞬間、クロスの腕に灰色の斑点が一気に侵食する。
「ぐっ……!? また……!」
(攻撃が通らないどころか…… 触れただけで“侵食が加速”してる……!?)
獣の口から、ギィィィ……ッ! とガラスを爪でひっかいたような不協和音が放たれた。
「アリア、魔法を……!」
「やってる!!」
僕は懐中時計を構え、いつものように構築式を展開する。 だが――
パリンッ!
展開した魔法式が、不協和音に触れた瞬間、硝子細工のように砕け散った。
 「……嘘だろ……!? 式が……組めない……!」
バチッ! 懐中時計が火花を散らし、青いレンズが完全に暗転する。
「アリア!? 装置が……!」
「停止した……! 魔力回路が焼き切れてる……!」
頭が真っ白になる。 僕の魔法は、緻密な計算と構築式があって初めて成立する。 それが通じないなら、僕はただの無力な子供だ。
(僕は……戦えない……?)
獣の残像が、次はリンネへ狙いを定める。
「リンネ!!」
彼女は必死にネギを構えるが、その膝は恐怖で笑っていた。 逃げ場はない。
「アリア……どうすれば……!」
(考えろ……考えろ……! でも……式が組めない……理論が通じない……!)
思考が焦げ付きそうになった、その瞬間。
「アリアァァァ!! 一瞬でいい、考える時間を稼ぐ!!」
クロスが叫び、獣の前に飛び出した。 大剣すら捨て身一つで。
「魂の――」
彼は両腕を広げ、仁王立ちになった。
「魂のポージング!!」
……は? いや、ただのポーズだ。攻撃ですらない。 だが。
獣の残像は、その“理解不能な挙動”に一瞬だけ反応し、軌道をわずかに逸らした。 未知の敵すら困惑させるほどの、純粋な非論理的行動。
「今だアリア!! 魂(ロジック)を捨てろ!! 理屈じゃねぇ時間を稼いだぞ!!」
「概念が雑すぎる……っ! でも――!」
その“雑さ”が、極限状態の僕に一瞬の空白を与えた。 思考のショートが治る。
(式が壊される……なら…… 式を使わない方法で……? そんなの……)
「アリア……!」
背後で、震える声がした。 振り返ると、アイリスが今にも崩れそうな身体を支えて立っている。
その指先は、恐怖で白くなっていた。 それでも――僕を見つめる瞳だけは、揺らいでいない。
「……私、まだ歌えるよ」
その言葉が、凍りついた思考を打ち砕いた。
僕は息を吸い、アイリスの手を取る。 触れた指先は、氷のように冷たく、そして激しく震えていた。
 「アイリス……無理しないで。君の魔法は――」
「ううん。アリアがいるなら、大丈夫だよ」
その笑顔は、いつもの太陽みたいな明るさじゃない。 どこか儚くて、触れたら壊れてしまいそうで―― それでも、まっすぐ僕を信じていた。
獣の残像が再び体勢を整え、迫ってくる。 リンネが盾を構え、クロスが必死に牽制するが、侵食はもう限界に近い。 このままじゃ、全員……。
(……僕が、何とかしないと)
構築式は壊される。 装置は死んでいる。 理論は通用しない。
そんな僕の迷いを断ち切るように、アイリスがそっと僕の手を握り直した。
「アリア。ねぇ……聞いて」
彼女は胸に手を当て、
「私ね……ずっと怖かったの。 自分の“音”が、いつか止まっちゃうんじゃないかって」
その告白に、胸が締めつけられる。
「でもね……アリアと一緒なら、 最後まで……歌える気がするの」
「アイリス……」
「だから――信じて。 私の音を、アリアの“受け皿”にして」
その瞬間、世界が静止したように感じた。
死の静寂。不協和音の渦。心臓の脈動。 そのすべてを切り裂くように――
ピロリン♪
たった一音。 だけど、確かに“生きた音”が響いた。
灰色の靄が震え、獣の残像が怯んだように揺らぐ。 アイリスの身体から溢れ出した光は、これまでの可愛らしい魔法とは違う。 命を削るような、痛いほどの輝き。
「アリア……手、離さないでね……?」
「離さない。絶対に」
僕は彼女の手を強く握り返す。
とん、とん、とん。 僕の指先が、アイリスの震えるリズムをなぞり始めた。
懐中時計は沈黙したままだ。 けれど、僕の中の何かがカチリと噛み合った。
(……そうか。 魔法式(コード)という“型”に嵌めようとするから、破壊されるんだ。 装置はいらない。 僕が刻むリズムそのものを、彼女の心臓(コア)に直接リンクさせる)
理論(ロジック)じゃない。 これは――本能のセッションだ!
(これが……僕たちの共鳴の“真価”だ)
ギィィィィィ……ッ!!
耳を裂く不協和音が、アイリスの光を押し潰そうと殺到する。
「っ……!」
アイリスの膝が崩れかける。 僕は慌てて彼女を抱き留めた。
「アイリス!!」
「だ、大丈夫……アリアが……いるから……」
気丈に振る舞う彼女だが、指先の震えは止まらない。 不協和音は、彼女の“命の音”そのものを削り取ろうとしている。
僕のリズムが乱れれば、彼女の命も尽きる。 極限の集中。
「アイリス……僕に合わせて」
「うん……アリアの音、聞こえるよ……」
アイリスが目を閉じ、祈るように僕の手を胸に抱く。
――とん、とん、とん。
僕が刻むリズムが、アイリスの心音と重なり、溶け合っていく。 理論も、装置も、恐怖さえも置き去りにして。 二つの音が、一つの“音楽”へと昇華される。
ピロリン……♪
その一音は、深淵の闇を切り裂く産声だった。
不協和音が揺らぐ。 黒い渦が悲鳴を上げて軋む。 世界の“毒の心臓”が、初めて僕たちに恐怖したのだ。
「アリア……いくよ……!」
「ああ。響かせよう、世界中に!」
重なる手から、黄金の光が爆ぜた。
それは青でも白でもない。 絶望の底でしか鳴らない、希望の音色(アンサンブル)。
光の奔流が、仲間たちを包み込んでいく。 クロスの腕に広がっていた死の斑点が、雪解けのように消えていく。 リンネの青ざめた頬に、赤みが戻る。
 「アリア……光が……あったかい……!」
「魂が……戻ってくる……!」
不協和音が浄化の旋律に塗り替えられ、深淵が震える。 獣の残像は断末魔すら上げられず、霧のように霧散した。
(これが……僕たちの“合奏”……! 解析不能の……グランドレゾナンス……!)
世界が、音で満たされていく。 黄金の光が深淵を満たし、毒の心臓は――崩れ落ちていった。
黒い渦がほどけ、灰色の空が晴れていく。
風が吹いた。 森に、久しぶりの“生きた風”が通り抜けた。
「……終わった、のか?」
クロスが自身の腕を見つめる。 そこにあったはずの灰色の斑点は、跡形もなく消えていた。
「クロス! 腕、治ってる!」
「おお……! 筋肉(マイソウル)が……帰ってきた……!」
「筋肉なの魂なの、どっちでもいいから無事でよかったよ……」
僕は大きく息を吐き出した。 リンネも、もとの緑色を取り戻したネギを抱きしめて涙ぐんでいる。
「ネギ……よかった……一時はどうなるかと……!」
「そこはまず自分の心配をしてほしいけどね」
そんな呆れたやり取りが、この地獄のような場所に、少しだけ“日常”を取り戻してくれた。
だけど――。
「アリア……」
腕の中のアイリスが、小さく僕を呼んだ。 その身体は驚くほど軽く、抱きしめたら消えてしまいそうで。
「アイリス、大丈夫? もう無理しなくて――」
「ううん……平気だよ……アリアが……守ってくれたから……」
そう言って彼女は微笑む。 でも、その指先は。
カタカタと、微かに震えていた。 さっきよりも、ずっと強く、不規則に。
「アイリス……?」
僕はそっと彼女の手を包み込む。 温かいはずの黄金の光の中でも、その震えだけは止まらない。
(……どうして……? 心臓は浄化した。残滓の波形も消えた。 なのに……どうしてこの震えは消えないんだ?)
アイリスは僕の胸に額を預け、かすかに息を吐いた。
「アリア……ねぇ……聞こえる……?」
「何が?」
「……私の音……すごく……小さくなってる……」
心臓を素手で握られたような衝撃が走った。
彼女の“命の音”。 短命種としての宿命。 そして――僕の魔法が、彼女の限界を超えさせてしまったという現実。
「大丈夫だよ、アリア…… 私ね……アリアと一緒に歌えたから……」
「やめてよ……そんな、お別れみたいな言い方……」
「ふふ……ごめん……でも……嬉しかったの…… アリアの音と……ひとつになれたから……」
アイリスの瞳は、どこまでも澄んでいて。 それが今は、残酷なほど痛々しかった。
(……違う。 終わってなんかいない。 ここからだ…… ここからが、僕たちの本当の戦いだ)
僕はアイリスの冷たい手を、祈るように強く握りしめた。
「絶対に……助けるから。 君の音が消えるなんて、僕が絶対に許さない」
アイリスは驚いたように目を瞬かせ、 そして――困ったように微笑んだ。
「うん……アリアなら……きっと……」
その声は、風に溶けるように小さかった。
森に鮮やかな色が戻る中、 僕の腕の中で震え続けるアイリスの指先だけが―― 世界のどんな音よりも強く、痛く、僕の胸に警鐘を鳴らし続けていた。
(……必ず守る。 君の音を――僕が、繋ぎ止める)

|
あらすじ 深い森の奥へ進むにつれて空気は鉛のように重く沈み、葉擦れも虫の羽音も途絶えて音が死んだ世界となり、僕が指で刻むリズムだけが唯一の生きた音として残った。 やがてリンネの握るネギやクロスの筋肉までもが灰色に変色し始め、魂で抗うクロスの気迫も虚しく侵食は意思を嘲笑うように広がって彼の自信を初めて打ち砕いた。 視界の先には空間を抉り取ったような黒い空洞が鎮座し、光を貪る残滓が渦を巻く“残滓の深淵”が世界の病巣として脈動していた。 アイリスはそれを心臓と恐れて僕の袖を掴み、懐中時計の脈動さえ上位捕食者の前で怯える小動物のように弱く震えた。 僕はその律動が生命の鼓動ではなく周囲の音を喰らい破壊だけを再生産する最悪のリズムで、波形そのものが壊れていると理解した。 アイリスの瞳に宿る覚悟に僕は必ず浄化すると応えたが、直後に心臓の塊が大きく収縮して灰色の衝撃波を放ち沈黙の深淵が口を開いた。 黒い渦から粘る影が滲み出て獣の形をとり、ノイズのように揺らぐ残像は実体を持たないが殺意だけに質量を宿して猛然と襲いかかった。 クロスの魂の一撃は空を切り、触れただけで彼の侵食が加速して攻撃不能と接触リスクの二重苦が露わになった。 獣はガラスを引っ掻く不協和音を放ち、僕の構築式魔法も展開と同時に粉砕され懐中時計の魔力回路が焼き切れて装置は完全停止した。 理論で組む式そのものが壊される以上、僕はただの子供同然に戦えず、焦燥の中でリンネも恐怖で膝を笑わせながら必死に構えるしかなかった。 思考が焼き付く刹那、クロスは大剣すら捨てて理解不能な“魂のポージング”で獣の軌道を逸らし、非論理的行動が未知の敵の反応を一瞬鈍らせて僕に考える時間をもたらした。 魂や理屈を捨てて空白を得た僕は、式が壊されるなら式を使わない方法はないかと直感に縋り、背後から震える声で支えるアイリスに振り向いた。 彼女は怖れに震えながらもまだ歌えると言い、僕がいれば大丈夫だと儚い笑みで信頼を示し、その言葉が凍った思考を砕いた。 獣が迫る極限の中で、彼女は自分の音がいつか止まる恐怖を告白し、最後まで僕となら歌えると願い、私の音を君の受け皿にしてと託した。 世界が静止したような沈黙を切り裂く一音が鳴り、灰色の靄が震えて獣の残像が怯む中、アイリスの光は命を削るほど痛切でこれまでの可憐な魔法とは明らかに質が違った。 僕は彼女の手を離さないと誓い、指先でなぞるとんとんのリズムを彼女の震える拍動に重ね、沈黙した装置を捨てて心拍と直結する方法を見出した。 魔法式という型に嵌めるから壊されるのだと悟り、装置も理論も越えて僕のリズムを彼女の心臓へ直接リンクさせる本能のセッションに踏み込んだ。 耳を裂く不協和音がアイリスの命の音を削ろうと押し寄せ、彼女の膝は折れかけたが僕は抱き留め、乱れれば命が尽きる極限下で二人の拍を同期させた。 アイリスは目を閉じて祈るように僕の手を胸に抱き、僕のとんとんが彼女の心音と溶け合って二つの音が一つの音楽に昇華し、深淵に産声のような音が走った。 不協和音が揺らぎ、黒い渦が悲鳴のように軋み、毒の心臓が初めて僕たちを恐れた瞬間、重ねた手から黄金の光が爆ぜて世界に希望の音色が満ちた。 光はクロスの灰色の斑点を雪解けのように消し、リンネの頬に血色を戻し、仲間全員を包み込んで魂の回復をもたらした。 浄化の旋律が不協和音を塗り替え、獣の残像は断末魔すら上げられず霧散し、解析不能の大共鳴たるグランドレゾナンスが深淵を満たした。 黄金の光に解かれた黒い渦と灰色の空が晴れ、久方ぶりの生きた風が森を駆け抜け、世界の毒の心臓はついに崩れ落ちた。 クロスは筋肉に戻る魂の感覚を確かめて歓喜し、リンネは緑を取り戻したネギを抱いて安堵の涙をこぼし、日常の軽口がこの地獄にかすかな温度を戻した。 しかし安堵の裏で、僕の腕にいるアイリスの身体は驚くほど軽く、抱けば壊れそうな儚さを帯びて小さく僕の名を呼んだ。 彼女は大丈夫だと微笑むが、指先はカタカタと強く不規則に震え続け、黄金の温もりの中でもその震えだけは止まらなかった。 心臓は浄化され残滓の波形も消えたのに震えが消えない理由が見えず、胸騒ぎのまま僕は彼女の手を包み込んで確かめた。 やがてアイリスは私の音がすごく小さくなっていると告げ、短命種としての宿命と、共鳴が彼女の限界を超えさせたかもしれない現実が僕の胸を締めつけた。 彼女はそれでもアリアと一緒に歌えたことに満ち足りて嬉しかったと語り、僕は別れを思わせる言葉にやめてと叫ぶほどの恐怖を覚えた。 アイリスはアリアの音とひとつになれた幸福を静かに微笑んで伝え、その澄んだ瞳の美しさが今は残酷に痛みを伴って僕に突き刺さった。 僕は終わりではないと自分に言い聞かせ、ここからが本当の戦いだと誓い直し、彼女の冷たい手を祈るように強く握った。 絶対に助ける、君の音が消えることは許さないと宣言した僕に、アイリスは小さく驚き困ったように微笑み、アリアならきっとと風に溶けるほどの声で応えた。 森に色彩が戻る一方で、僕の腕の中で震え続けるアイリスの指先だけが世界のどんな音より強く痛い警鐘となり、希望の後に残る危機を告げ続けた。 深淵の鼓動に打ち勝った僕たちは、理論の果てで見つけた音によって世界を救いかけたが、代償の影が静かに忍び寄っていることを知る。 ここまでの戦いは理屈を超えた共鳴が鍵で、非論理と本能の連携が敵の“破壊のリズム”を上書きし得ることを証明した。 だが同時に、命を削る音の力は使い手の寿命を蝕み、特に短命のアイリスには過酷で、震えはその徴候として消えない。 クロスの非論理的介入が戦局を開いた事実は、理論偏重の僕の弱点を照らし、仲間の多様な“在り方”が共鳴の幅を広げることを示した。 装置と式なしの手法は敵の反魔法環境を突破し得る一方、精密な制御と同期の維持という新たな難題と、奏者の負担をどう分散するかという課題を伴う。 残滓の深淵が消えて森に風が戻ったことで世界の表層は回復したが、心臓の源流や残滓の生成原理が未解明のままで再発の懸念は残る。 僕はアイリスの命の音を繋ぎ止める方法を必ず見つけると胸に誓い、理論と本能、魂と音楽のすべてを総動員して彼女を救う決意を固めた。 仲間は希望と不安を胸に次へ進む準備を整え、今度は代償を払わずに響かせる新たな“奏法”を探す必要があると心を一つにした。 そうして、深淵の鼓動を鎮めた僕たちの“合奏”は終わりではなく序章であり、世界と彼女の小さくなった音を守るための次の楽章が静かに始まった。
解説+感想この章、めちゃくちゃ引き込まれました! タイトルからして「深淵の鼓動、あるいは理論の果てにある音」って、哲学っぽい響きがすでにゾクゾクする。 全体の雰囲気は、ホラーとファンタジーが混ざった感じで、森の「音が死んでいる」描写から始まる重苦しい空気が、読んでて息苦しくなるくらいリアル。 鉛みたいな空気とか、ネギが灰色に変色するのとか、ビジュアルが強烈で想像しやすいです。 キャラクターたちの個性が光ってるよね。 特にクロス! 「魂のポージング」って何だよ(笑)。 あそこで獣の残像が一瞬戸惑うの、最高にシュールで、緊張のピークで笑っちゃった。 理論(ロジック)で戦うアリアが、装置が壊れて無力になるくだりもいい。 普段の賢者みたいなキャラがパニックになるの、リアルで共感できる。 でも、そこからアイリスとの「本能のセッション」へ移行する流れが美しくて、黄金の光が爆ぜるシーンはカタルシス満点。 音とリズムをテーマにしたバトルが、抽象的だけど感情的に響くんですよ。 リンネのネギ愛も相変わらず可愛いし、クロスの「筋肉(マイソウル)」発言でクスッと来る。 コメディとシリアスのバランスが絶妙。 でも、最後のアイリスの震えが消えないところで、ガツンとクリフハンガー! 「私の音……すごく小さくなってる」ってセリフ、胸が締めつけられる。 短命種の宿命がここで重くのしかかってきて、次章が待ちきれなくなる終わり方。 浄化はしたけど、本当の戦いはこれからだってアリアの決意が、希望と絶望の狭間で揺れてる感じがいい。 全体として、テーマの「理論の果てにある音」ってのが、理屈を超えた「共鳴」の大切さを描いてて深い。 アクションも心理描写も上手いし、続きが気になる!
|
◀第03章『灰色の残響、あるいは震えはじめた旋律(メロディ)』
▶第05章 『不完全な旋律、あるいは残酷な余命宣告』
|