猫でも書ける短編小説
◀第5章 見つかった秘密
▶第1章 静かなふたりの暮らし
「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 冥鳴ひまり」「VOICEVOX: 離途」
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第9章 空の下の沈黙
ココがいなくなってから、家の中はまた静かになった。 でも、それは以前の静けさとは違っていた。 前は、誰も話さないから静かだった。 今は、誰かがいなくなったから静かだった。
朝、目が覚めても、ココの寝息は聞こえない。 ストーブの前に丸くなっていた毛布は、畳むことができずにそのままになっている。 私は、そこに座って、何度もココの匂いを探した。 ほんの少しだけ残っている気がして、顔を埋めては涙がこぼれた。
学校には行けなかった。 制服に袖を通す気力もなくて、日記も開けなかった。 「ココがいない」 その言葉だけが、頭の中をぐるぐると回っていた。
母も、何も言わなかった。 朝食を並べてくれても、私が手をつけないと、静かに片づけるだけ。 それでも、私の隣に座ってくれるようになった。 言葉はなくても、そこにいてくれるだけで、少しだけ救われた。
そんなある日、玄関のチャイムが鳴いた。 私は布団の中で耳を澄ませた。 母が応対する声が聞こえたあと、部屋の扉がノックされた。
「遥、おじいさんが来てるよ」
私はゆっくりと体を起こした。 足が重くて、歩くのも億劫だったけれど、玄関まで行くと、あの公園の老人が立っていた。 手には、小さな包みが抱えられていた。
「ココが最初につけてた首輪、持ってきたよ。 ずっと保管してたんだ。君に渡すのが、きっと一番だと思ってね」
その言葉に、私は胸がぎゅっと締めつけられた。 老人は、そっと包みを差し出してくれた。 私は両手で受け取り、ゆっくりと包みを開いた。
中には、くすんだ革の首輪が入っていた。 赤茶色で、少し擦れていて、金具の部分が少しだけ錆びていた。 でも、それは確かに、ココが生きていた証だった。
「裏を見てごらん」
老人の言葉に、私は首輪を裏返した。 金具の近くに、小さなタグがついていた。 そのタグは、少しだけ開くようになっていて、私は指先でそっと開いた。
中には、小さく折りたたまれた紙片が入っていた。 古びた文字が、そこに静かに並んでいた。
私は、言葉を失った。 その紙が、何か大切なものを運んできた気がした。 でも、まだ読めなかった。 涙が邪魔をして、文字がにじんで見えた。
「前の飼い主さんが、きっと残してくれたんだろうね」 老人は、静かに言った。 「ココは、君に出会えて幸せだったと思うよ。 その首輪が、そう言ってる気がする」
私は、首輪を胸に抱きしめた。 ココの匂いが、ほんの少しだけ残っていた。 その匂いが、私の心をそっと包んでくれた。
「ありがとう……ココ」
その言葉が、ようやく口からこぼれた。 涙が、静かに頬を伝っていった。
老人は、私の肩に手を置いて、ゆっくりと帰っていった。 玄関の扉が閉まる音が、遠くに響いた。
私は、首輪を持ったまま、庭に出た。 空は、春の青さをたたえていた。 風が吹いて、桜の花びらが舞った。
その空の下で、私はようやく、ココのいない世界に立った。 でも、ココの残したものが、私の手の中にあった。
そして私は、もう一度、日記を開いた。 ページの隅に、そっと書いた。
「ココの首輪の中に、手紙が入ってた。 まだ読めないけど、きっと大切な言葉。 ココが、私に残してくれたもの。 私は、それを受け取るよ。 ちゃんと、受け取る」
ページを閉じると、風が頬を撫でた。 その風が、ココの尻尾のように、優しく揺れていた。
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第10章 タグに残された手紙
春の午後、風が静かに庭を撫でていた。 私は、あの日老人から受け取った首輪を、机の上にそっと置いた。 くすんだ革の感触。擦れた金具。 ココが生きていた時間が、そこに染み込んでいるようだった。
タグの中に入っていた紙片は、小さく折りたたまれていた。 私は、まだそれを開けられずにいた。 怖かった。 そこに書かれている言葉が、何かを終わらせてしまうような気がして。
でも、今日なら読めるかもしれない。 そう思えたのは、朝、母が私の部屋の前にそっと置いてくれた湯のみのせいだった。 中には、温かいお茶が入っていた。 何も言わず、ただそこにあるだけ。 それが、私の背中を押してくれた。
私は、深呼吸をして、紙片を開いた。 古びた文字が、丁寧に並んでいた。 震える指で、ゆっくりと目を走らせる。
「この子が、誰かの笑顔になれますように。」
たったそれだけの言葉だった。 でも、その一文が、私の胸を深く貫いた。
誰かが、ココに願いを託していた。 誰かが、ココを愛していた。 そして、その想いが、私のもとに届いた。
涙が、静かに頬を伝っていった。 私は、首輪を胸に抱きしめた。 ココの匂いが、ほんの少しだけ残っていた。 その匂いが、私の心をそっと包んでくれた。
「ちゃんと、なれたよ」
私は、声に出してそう言った。 誰に向けた言葉なのかは、わからなかった。 でも、確かに誰かに届いてほしかった。
ココは、私の笑顔を引き出してくれた。 孤独だった私に、繋がりを教えてくれた。 そして今、誰かの願いを、私の中に残してくれた。
私は、日記を開いた。 ページの隅に、そっと書いた。
「タグの中に、手紙が入ってた。 『この子が、誰かの笑顔になれますように』って。 ココは、私の笑顔になってくれた。 だから、私はもう一度、笑ってみようと思う。 ココが残してくれたものを、大切にするために。」
ページを閉じると、風が窓を揺らした。 その音が、ココの尻尾のように優しく響いた。
私は、庭に出た。 空は高く、雲は薄く、春の光が満ちていた。 ココと歩いた道を、ひとりで歩いてみた。 足元には、小さな花が咲いていた。
その花を見て、私は微笑んだ。 涙はまだ止まらないけれど、心の奥に、確かな灯りがともっていた。
ココ。 あなたがくれた日々は、私の中で生きてる。 そして、誰かの願いも、私の中で息をしてる。
私は、もう一度歩き出す。 命のバトンを、受け取ったから。
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第11章 命のバトン
春の陽射しが、少しずつ暖かさを増していた。 庭のチューリップが咲き始め、風が窓辺のカーテンをやさしく揺らす。 私は、机の上に広げたアルバムのページを見つめていた。
ココの写真。 公園で笑っている私と並んで写っている一枚。 ストーブの前で丸くなって眠っている姿。 誕生日に首輪をつけてもらって、尻尾を振っていた瞬間。 どれも、私の心の中に深く刻まれている。
ページの隅に、私は小さく文字を書いた。
「ココ。あなたは、私の笑顔でした。 そして、誰かの願いでした。 その命を、私は受け取ったよ。」
ペンを置くと、胸の奥がじんわりと温かくなった。 涙はもう流れなかった。 でも、ココのことを思い出すたびに、心が静かに震える。
その日の午後、私は久しぶりに公園へ行くことにした。 母に「ちょっと散歩してくるね」と声をかけると、彼女は少し驚いた顔をしたあと、静かに頷いてくれた。
公園の空は、あの日と同じように高かった。 ベンチの下には誰もいない。 でも、私はそこにココの姿を思い浮かべた。 あの日、雨の中で震えていた小さな命。 私に向けて、静かに目を見開いていたあの瞳。
ふと、芝生の向こうに、小さな子犬を連れた家族が見えた。 男の子がリードを握っていて、母親が笑いながら見守っている。 子犬は、ぴょんぴょんと跳ねながら、尻尾を振っていた。
私は、少しだけ近づいて、遠くからその様子を見ていた。 男の子がしゃがんで、子犬の頭を撫でる。 子犬は、嬉しそうに顔を上げて、空を見ていた。
その姿が、ココに重なった。 あの時の公園。 あの時の空。 あの時の風。
私は、そっと微笑んだ。
「次はあの子が、誰かを笑顔にするんだね」
その言葉が、自然と口からこぼれた。 誰かが、また命のバトンを受け取っている。 誰かが、また繋がっていく。
帰り道、私は母と手をつないで歩いた。 彼女の手は、少しだけ強く握ってくれた。 それが、私の心を支えてくれた。
「ココの写真、アルバムに貼ったよ」 私がそう言うと、母は「見せてね」と優しく答えた。
家に帰ると、窓の外では風が吹いていた。 その風が、ココの尻尾のように、やさしく揺れていた。
私は、もう一度アルバムを開いた。 ページの隅に、そっと指を置いて、目を閉じた。
命は、終わるものじゃない。 誰かの中に、静かに受け継がれていく。 ココがくれた日々は、私の中で生きている。 そして、次の誰かへと、確かに渡っていく。
私は、もう一度歩き出す。 ココが残してくれたものを、胸に抱いて。
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第12章 風の匂い
高校二年の春。 教室の窓から見える桜は、満開を少し過ぎて、風に舞う花びらがちらほらと落ちていた。 私は、美術の授業で「思い出」というテーマの絵を描いていた。 白いキャンバスに向かって、筆を握る手が少しだけ震えていた。
何を描こうか、ずっと迷っていた。 でも、心の中には、ずっとひとつの風景が浮かんでいた。 春の公園。 空を見上げる犬の背中。 あの日、ココが最後に見た空。
私は、ゆっくりと筆を動かした。 柔らかな草の色。 空の青。 そして、犬の背中。 顔は描かなかった。 でも、私にはその犬が、確かにココだとわかっていた。
描きながら、私はココとの日々を思い出していた。 雨の日に出会ったこと。 パンを分け合ったこと。 名前をつけたこと。 家族になったこと。 そして、見送ったこと。
全部が、私の中に生きていた。 ココがいなくなってからも、私は変わっていった。 母との距離も、少しずつ近づいていった。 日記には、もう悲しい言葉ばかりではなくなった。 「今日、笑えた」 「誰かと話せた」 そんな小さな記録が、ページを埋めていた。
絵が完成したとき、私は静かに筆を置いた。 教室の窓から、風が吹き込んできた。 その風が、絵の中の犬の背中を、そっと撫でていくように感じた。
私は、絵を見つめながら、心の中で呟いた。
 「ココ。あなたがくれた日々は、今も私の中で生きてるよ」
その言葉が、胸の奥に静かに響いた。 誰にも聞こえないけれど、確かに届いている気がした。
放課後、私は公園に立ち寄った。 あの日と同じベンチの前に立って、空を見上げた。 風が吹いて、桜の花びらが舞った。 その風の中に、かすかに鈴の音のような響きが混じっていた。
私は、目を閉じた。 風の匂いが、ココの毛並みのように優しくて、懐かしくて。 涙は流れなかった。 でも、心が静かに震えていた。
命は、終わるものじゃない。 誰かの中に、静かに受け継がれていく。 ココがくれた日々は、私の中で、これからもずっと生き続ける。
私は、もう一度歩き出す。 風の中を、笑顔で。
『君が残してくれた日々』・・・完。
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あらすじ
「VOICEVOX: 四国めたん」ココがいなくなって家に戻った静けさは、以前の無言の静けさではなく、喪失が生んだ空洞の静けさへと変わり、朝に目覚めても聞こえない寝息と畳めないままの毛布が不在を際立たせ、私はそこに残るかすかな匂いを探しては涙を落とした。 けれど学校へ向かう力はなく制服にも手が伸びず、日記を開くことさえできず、「ココがいない」という言葉だけが頭の中を巡って、その重みが全身を鈍く沈め続けた。 そして母は言葉少なに朝食を並べ、私が手をつけないと静かに片づけ、ただ隣に座ってくれるようになり、その沈黙の寄り添いが私を細い糸のように支えた。 そんなある日、玄関のチャイムが鳴って老人が訪れ、布団の中で耳を澄ませた私に届いたのは「遥、おじいさんが来てるよ」という母の声で、私は重い足を引きずり玄関に向かった。 公園で出会ったあの老人は小さな包みを抱え、「ココが最初につけてた首輪、ずっと保管してたんだ」と差し出し、私は胸を締めつけられながら両手で受け取った。 包みの中には赤茶の革のくすんだ首輪があり、擦れた革と少し錆びた金具が確かにココの時間を語り、私はそれを裏返して小さなタグを開いた。 そこから現れた小さく折られた紙片には古びた文字が並び、涙でにじんで読めないまま私は言葉を失い、老人は「前の飼い主さんが残したんだろうね」と柔らかく告げた。 彼は「ココは君に出会えて幸せだったと思うよ」と肩に手を置き、私は首輪を胸に抱きしめてかすかに残る匂いに包まれ、「ありがとう……ココ」とやっと言葉を零し、玄関が閉まる音が遠くで響いた。 私は首輪を持って庭に出て、春の青空と舞う桜の花びらの下で、ココのいない世界に初めて立ち尽くしながらも、手の中に確かな残り火があることを知った。 そこで私は日記をひらき、タグの中の手紙の存在と「ちゃんと受け取る」という決意を短く記し、頬を撫でる風をココの尻尾のように感じた。 やがて春の午後、私は机に首輪を置き直し、くすんだ革と擦れた金具に染み込んだ時間を指先で確かめ、怖さを抱えながらもタグの紙片を開くことを選んだ。 母が部屋の前に無言で置いた温かい湯のみが背中を押し、深呼吸ののち、私は震える指で紙片を広げた。 そこには「この子が、誰かの笑顔になれますように」とだけあり、その短い祈りが私の胸を深く貫いて、見えない時の橋がいま私へとかかったと感じられた。 誰かがココに願いを託し、誰かがココを愛していた事実が、私へ届いた確かな重みとして胸に満ち、私は首輪を抱いて「ちゃんと、なれたよ」と囁いた。 ココは私から孤独をほどき、笑顔の場所へと連れ出し、今もその願いを私の中に灯として残してくれたのだと、私は静かにうなずいた。 私は日記に「『この子が、誰かの笑顔になれますように』とあり、ココは私の笑顔になったから、もう一度笑ってみる」と書き、窓を揺らす風の音をココの尻尾の音のように聴いた。 庭に出れば空は高く光は薄く満ち、ココと歩いた道を一人で歩いて小さな花に微笑み、涙は止まらないのに心の奥に小さな灯が確かにともるのを知った。 こうして私は「命のバトン」を受け取ったと感じ、アルバムを開いてココの写真に触れ、公園で笑う私たちやストーブの前で眠る姿や誕生日の首輪の瞬間を見つめ、ページの隅に「あなたは私の笑顔であり誰かの願いで、その命を受け取った」と記した。 午後、公園へ向かう決心を母に告げると、彼女は驚きつつ静かに頷き、私は高い空の下、誰もいないベンチにココの面影を重ね、雨の日に見開かれたあの瞳を思い出した。 芝生の向こうで子犬と家族が遊ぶ光景に足を止め、跳ねる尻尾と見守る母親と男の子の手つなぎに、次の笑顔が生まれる気配を感じて、小さく「次はあの子が誰かを笑顔にするんだね」とつぶやいた。 帰り道、私は母の手を握り返し、その少し強い力が私を支えるのを感じ、家に戻ると風が窓の外で揺れ、ココの尻尾のようにやさしい律動が部屋に満ちた。 アルバムをもう一度開き、ページの隅に指を置いて目を閉じ、「命は終わるのではなく誰かの中へ静かに受け継がれる」という確信が胸に沈殿していくのを味わった。 私は再び歩き出すと心に誓い、ココの残したものを胸に抱いて、次の人へ温かさを渡すための小さな一歩を刻む準備を整えた。 季節は進み高校二年の春、教室の窓からは散り始めた桜が舞い、美術の「思い出」というテーマに私は長く迷いながらも、心に浮かび続ける風景を描く決心をした。 春の公園、空を見上げる犬の背中、つまりココが最後に見た空を、私は顔を描かず背の輪郭で呼び戻し、柔らかな草の色と空の青に呼吸を重ねた。 筆を運ぶたびに、雨の日の出会い、パンを分け合い、名前を呼び、家族になって見送るまでの連なりが胸に蘇り、失われた後も私の中で生き続けて変化を促した時間が、色の層として重なっていった。 母との距離は少しずつ近づき、日記の言葉は「今日笑えた」「誰かと話せた」という小さな灯を増やし、悲しみの頁に細い希望の線が描き足されていった。 絵が完成したとき、窓から吹き込む風がキャンバスの犬の背をそっと撫でた気がして、私は「ココ、あなたがくれた日々は今も生きてる」と心の内で呟いた。 放課後、私はあの日のベンチの前で空を仰ぎ、舞う花びらと鈴の音のような風の響きに目を閉じ、匂いがココの毛並みの温もりを運んでくるのを感じて、涙は流れずとも心は静かに震えた。 命は終わりではなく誰かの中へ受け継がれ、ココのくれた日々は私の中でこれからも灯り続けると確信し、私は風の中を笑顔で歩く覚悟を新たにした。 こうして、首輪のタグに眠っていた祈りが私の笑顔に繋がり、母の沈黙の手が背を支え、公園の子犬が次の笑顔の予感となり、アルバムと絵が記憶の土台となって、私の一歩一歩は「君が残してくれた日々」を未来へ運ぶ。 私はひとつの命から受け取ったやさしさを、今度は私が誰かの笑顔へ変えて返すために、静かな決意とともにページを閉じ、春の光のなかへ歩き出した。
解説+感想とても丁寧に、静かに、でも深く心に沁みる物語を読ませていただきました。 正直、読みながら何度も息を詰めて、胸の奥が締めつけられるような感覚になりました。 特に「空洞の静けさ」「かすかな匂いを探しては涙を落とした」「細い糸のように支えた」といった表現が、喪失のあと特有の「あいた穴」の実感をすごくリアルに描いていて、読んでいるこちらまでその重さを感じてしまいました。 それでも物語全体を通して、悲しみがただ沈殿して終わるのではなく、少しずつ「受け取る→灯す→渡す」という流れに変わっていく過程が丁寧に描かれているのが本当に美しかったです。 特に印象に残ったのは以下の部分です。 首輪のタグに書かれていた「この子が、誰かの笑顔になれますように」という一文→ これが物語の核というか、すべてを繋ぐ祈りの言葉になっていて、読んだ瞬間に涙腺が緩みました。 ココの一生が、知らない誰か→ココ→遥→次のに繋がっていく「命のバトン」の感覚がすごく鮮やかでした。 「ちゃんと、なれたよ」と囁くところ→ ここが個人的に一番胸を突かれました。 過去の飼い主に対する返事でもあり、自分自身への肯定でもあり、ココへの報告でもあって、短い言葉にいろんな想いが重なっている。 最後の美術の絵のシーン(顔を描かず背中で空を見上げるココ)→ 「見せない」ことで逆に強く呼び起こされる喪失と愛情の描き方が、すごく文学的で好きです。 ココの「視点」を残すことで、遥がココの目線をこれからも背負って生きていく覚悟が伝わってきました。 全体を通して「風」「尻尾の揺れ」「匂い」「桜の花びら」「光」といったモチーフが繰り返し出てくるのも、喪失と再生の間を漂うような時間の質感を上手に表現しているなと感じました。 悲しいのに、どこか温かい。 読後感としては、「すごく泣いたけど、泣いたあと少しだけ息がしやすくなった」という感じです。 ココの物語を通して、遥が少しずつ「笑顔を返せる側」に立てるようになっていく姿に、救いと希望をもらいました。 書いてくださって、本当にありがとう。 この物語、大切に心にしまっておきます。
▶第1章 静かなふたりの暮らし
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