小説:「真宮寺教授の秘密講義」(フェブラリーS編)《デブ猫競馬》
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第二章:重戦車とスピードスターの選別
(あんなに自信満々だった佐倉くんの顔が、少しずつ不安に歪んでいくのを見るのは、実験の成功を確認するよりずっと愉快ね。でも、ここからが本当の「断捨離」よ。能力があることと、この条件で勝つことは全く別の問題なんだから)
真宮寺は、白衣のポケットからミントタブレットを取り出し、一粒口に放り込んだ。
真宮寺
「さて、佐倉くん。第一段階で大物たちをゴミ箱へ放り込んだわけだけど、まだゴミ箱の蓋は閉まっていないわ。次はステップレースの代表格、『根岸ステークス』組を査定しましょうか」
佐倉
「根岸S組って、一番の王道じゃないですか! そこで負けた馬でも、本番で巻き返すのが競馬の醍醐味でしょう? ウェイワードアクトとか、根岸Sでは七着でしたけど、まだ見限るのは早いんじゃ……」
真宮寺
「甘いわね、佐倉くん。甘すぎてシロップを飲んでいる気分だわ。根岸Sは一四〇〇メートル。本番より短い距離でスピード負けして、おまけに上がりの脚(末脚)も使えなかった馬が、さらに二〇〇メートル延びて、相手がGⅠ級になる本番で何ができるというの? スプリント戦で置いていかれた馬が、マイル戦で急に覚醒してフェラーリに変身するとでも? そんなの、昨今の打ち切り漫画の最終回でも見ない展開よ」
佐倉
「……昨今の打ち切り漫画。教授、ジャンプの読みすぎですよ。でも、確かにウェイワードアクトは逃げて捕まってましたね。上がりのキレもなかったし」
真宮寺
「そういうこと。スピード不足の烙印を押された馬は、ここで一旦退場。そして、次がさらに面白いわ。佐倉くん、あなたは『ダブルハートボンド』をどう思う?」
佐倉
「え! チャンピオンズカップを勝った女王ですよ! 今回の主役候補じゃないですか! もちろん『買い』ですよね?」
真宮寺
「逆よ。データと論理は彼女に『死刑宣告』を下しているわ。彼女の直近のレースを思い出しなさい。一八〇〇メートル以上の距離で、ゆったりしたペースで先行して押し切る競馬。それは『スタミナ自慢の重戦車』の戦い方よ」
真宮寺
「フェブラリーSのスタートから芝を走る、あの殺人的なハイペースに揉まれたらどうなると思う? 一八〇〇メートルのリズムで走っていたら、直線に入る前にオーバーヒートして、ただの鉄屑になるわ。中距離の先行馬にとって、マイルGⅠの激流は毒なのよ」
佐倉
「重戦車が鉄屑に……。それ、ロードクロンヌも同じことが言えますよね。プロキオンSを一八〇〇メートルで先行して勝ってるし」
真宮寺
「冴えてるじゃない、佐倉くん。その通りよ。スタミナで粘るタイプは、東京の長い直線で、後ろから来るスピード狂たちに並ぶ間もなく差し切られる。そして最後、馬体重よ」
佐倉
「馬体重? それってダイエットの話ですか?」
真宮寺
「馬鹿ね。パワーの話よ。四八〇キロ未満の小柄な馬は、ダートの深い砂を跳ね除けるパワーが足りないの。キックバック、つまり前の馬が跳ね上げる砂の礫を食らったら、それだけで戦意喪失よ。ハッピーマンやペリエールは、能力はあっても馬格が足りない。五〇〇キロ前後の巨漢たちが砂を蹴立てて伸びてくる横で、彼らは砂に埋もれる運命にあるわ」
(ハッピーマン……名前はハッピーだけど、この条件に入った以上、結果はアンハッピーね。物理法則は、いつだって感情よりも正しいのよ。さて、これで有力馬のほとんどが振り落とされたわ)
佐倉
「教授、これ……残ってる馬、数えるほどしかいないですよ。あんなにいた登録馬が、まるでアベンジャーズの指パッチン後の世界みたいに消えていく……」
真宮寺
「その中から生き残るのが『真のヒーロー』なのよ。さて、佐倉くん。次はいよいよ適性の深淵、条件⑦から⑨。キレとコース実績、そして斤量の壁よ。ここを越えられる馬がいると思うかしら?」
佐倉
「斤量の壁……。なんだか『進撃の巨人』みたいになってきましたね。進んでいいですよ、教授。僕の心臓が保つうちに!」