教授・真宮寺の秘密講義 〜阪神大賞典:不確定要素の解体新書〜《デブ猫競馬》


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第2章:初等演習――生存者(サバイバー)たちの資格

デスクトップパソコンの冷却ファンが微かに震える低い駆動音が、静まり返った研究室のBGMになっている。窓の外はすっかり日が傾き、ブラインド越しに差し込む夕日が、机の上に散らばった白い資料を淡いオレンジ色に染め上げていた。

「よし! ほな教授! 早速デスゲームの始まりですね! 最近流行りの、投票で弱いプレイヤーから順番に追放していくアニメみたいでゾクゾクしますわ!」

若葉が目を輝かせながら、パイプ椅子の冷たいスチール製の背もたれをバンバンと勢いよく叩く。

(この子の脳内は本当に興味深い遊園地ね。競馬のデータ分析からデスゲームへの飛躍……けれど、ノイズだらけの思考をシンプルな論理に変換するのは、私にとっても悪くない頭の体操になるわ)

「デスゲーム……まあ、概念としては間違っていないわね。これから私たちは、この11人の参加者から、最も残酷で論理的な方法で弱い者を追放していくのよ」

助手の佐倉が、手に持っていた赤青鉛筆をクルクルと器用に回しながら口を挟む。

「でも若葉さん、アニメと違ってここには『隠された真の力』も『友情による突然のパワーアップ』も存在しません。追放するためのルールは、極めて冷酷な3つの基準だけです」

「3つのルール? なんですかそれ!『廊下を走らない』『おやつは300円まで』とか、そういうやつですか!?」

若葉の的外れな連想ゲームに、真宮寺教授はふっと息を漏らし、淹れ直したハーブティーのカップから漂うカモミールの甘い香りを肺の奥まで吸い込んだ。

「いいえ。一つ目は『肉体的に古びていて、成績が落ち続けているお爺ちゃん』。二つ目は『ご近所の町内会レベルのマラソン大会で負けている馬』。そして三つ目は『最近のテストの点数が急激に悪くなっている馬』よ。この条件に当てはまる参加者は、メジャーリーグである今回のレースでは絶対に通用しないわ」

若葉がゴクリと唾を飲み込み、手元の資料に視線を落とす。紙が擦れるカサカサという乾いた音が響いた。

「あ! 見つけましたよ! 『ダンディズム』! めっちゃええ名前ですやん! 渋くてカッコいいイケオジの気配がプンプンします!」

佐倉が手元の資料をトントンと指先で叩く。
「確かに名前は渋いですが……彼は10歳です。人間で言えば、完全に引退したお爺ちゃんですよ。しかも直近のレースを見てください。今回と同じ3000メートルの距離を走っていますが、たった9頭しかいない町内会レベルのレースで5着です」

「5着って、ちょうど真ん中くらいやないですか。お爺ちゃんにしては健闘してるんちゃいます?」

「若葉、スポーツの全国大会を舐めないで」

真宮寺教授の冷たく透き通った声が、部屋の空気をピリッと引き締める。
「町内会の小さな大会でメダルすら取れないお爺ちゃんが、いきなり全国から猛者が集まるメジャーリーグでオリンピック選手に勝てると思う? 物理的に不可能よ。だから、ダンディズムは追放」

「うわぁ……ダンディお爺ちゃん、無念の引退! ほな、この『メイショウブレゲ』はどうです? ブレゲってあの超高級時計の名前ですよね! 精密で狂いのない走りをしそうですやん!」

若葉の元気な提案に対し、佐倉は少し気の毒そうな顔をして首を横に振った。
「残念ですが、その高級時計は完全に歯車が錆びついています。彼もダンディズムと同じ町内会のマラソン大会に出ましたが、結果はさらに下回る7着。しかも……」

「しかも、同じレースで勝った『アクアヴァーナル』という馬に直接対決で負けているのよ」
真宮寺教授が佐倉の言葉を引き継ぐ。
「わかるかしら? 練習試合でクラスメイトにボロ負けした子が、全国大会の本番で突然その子を抜き去るなんて論理的な根拠はデータ上のどこにも存在しないわ。だから、高級時計も追放よ」

「ひええ、厳しい! 現実はスポーツアニメみたいに甘くないんや……! あ、じゃあ最後はこの子! 『サンライズソレイユ』! ソレイユってフランス語で太陽ですよね! 太陽が昇る! これはいけますって!」

若葉がバンッと机を叩く振動で、マウスがカチャリと冷たい音を立てた。

(太陽、ね。名前の響きだけで期待値を上げるのは初心者の典型的なバイアスだけれど、その豊かな感受性は少し羨ましくもあるわ)

真宮寺教授はキーボードを軽く叩き、モニターに新たなデータを表示させた。
「残念ながら、その太陽はとっくに沈んでいるわ。彼はメジャーリーグの壁にぶつかって9着を連発しているだけじゃない。致命的なのは北海道で行われた2600メートルのマイナーリーグのレースよ」

「あっ、12頭中10着に大敗してますね。……え? ちょっと待ってくださいよ」
若葉は瞬きを繰り返し、指折り数え始めた。
「マイナーな大会の2600メートルでヘロヘロになって負けてるのに、今回はさらに長いメジャー大会の3000メートルを走るんですか……?」

「その通りよ、若葉さん。短い距離でガス欠を起こしている車で、さらに遠くの目的地を目指すようなものです。途中で完全に止まりますよ」

佐倉の的確な例えに、若葉は「あちゃー」と額に手を当てた。

「完全にエンスト確定やないですか。そらアカンわ。太陽、沈没!」

「ええ。これで条件は満たされたわ。高齢のダンディズム、クラスメイトに負けたメイショウブレゲ、ガス欠のサンライズソレイユ。この3頭の追放が完了したわ」

真宮寺教授がエンターキーをターンッ!と小気味よく叩くと、モニター上の11頭のリストから、無慈悲に3つの名前が黒く塗りつぶされた。