(17頭……。文字通り多士済々の顔ぶれだが、データという名のフィルターを通せば、半分以上は単なる『景色』に過ぎない。投資において最も愚かなのは、全頭に平等な可能性を感じてしまうことだ)
神宮寺はデスクに広げられた17頭の登録馬リストを見下ろし、眼鏡のブリッジを中指でくいっと押し上げた。
若葉:「うわぁ……教授、リスト見たら17頭もいてるやん! こんなん、1クールのアニメの第1話でキャラが17人も一気に出てくるみたいなもんやで!? 誰が主人公か全然わからへん!」
佐倉:「若葉さんの言う通り、初見だと混乱しますよね。だからこそ、まずは情報を整理するんです。教授、一次スクリーニング……つまり『最初に消す馬』の条件からでよろしいですか?」
神宮寺:「ああ。若葉、よく聞け。1クールのアニメで17人のキャラを全員深掘りしたら、確実に脚本が破綻するだろう? だから有能な監督は、最初の3話くらいで『モブキャラ』を物語のメインストリームから容赦なくフェードアウトさせる。競馬のデータ分析も全く同じだ」
若葉:「モブキャラのフェードアウト……! 残酷やけど、わかりやすいわ! ほな、どうやってその『モブ』を見分けるん?」
神宮寺:「条件は3つだ。まず一つ目。【主戦場が『芝』の平地競走ではない馬】をリストから消せ」
若葉:「芝生ちゃうってことは……砂の上とか、障害物をぴょんぴょん飛ぶヤツってこと? えっ、でもそれって色んなことできて器用ってことちゃうの? 魔法剣士みたいでカッコええやん!」
佐倉:「魔法剣士はファンタジーでは最強かもしれませんが、ここは陸上競技場だと思ってください。中山記念は、開幕したばかりの非常に走りやすい綺麗な『芝』の上で行われます」
(砂のコースや障害レースは持久力やパワーが求められる。逆に言えば、トップレベルの芝のレースで求められる『絶対的なスピード』が足りないからこそ、そういう別路線を使われているのだ。論理的に見て勝ち目は薄い)
神宮寺:「例えるなら、重いリュックを背負って山登りをしていた選手が、急に『100メートル走の全国大会』に混ざるようなものだ。スピードの次元が違うよ」
若葉:「ヒィッ! それはアカン! 出遅れたら即死のゲームやん! ……佐倉助手、そんな無謀なチャレンジャー、この中にいてるん?」
佐倉:「はい、若葉さん。該当するのは『サトノエピック』ですね。前走は障害レース、それより前はすべて砂のレースを使われています。スピードについていけず論理的に完全に『消し』となります」
若葉:「よし、サトノエピックくん、フェードアウトや!」
神宮寺:「では次だ。消し条件の二つ目。【『オープンクラス』の壁を越えられていない馬】だ」
若葉:「オープンクラス? なんやそれ、オープンワールドのゲームみたいで自由そうやな!」
佐倉:「違いますよ、若葉さん。競馬には実力に応じた『クラス分け』があるんです。今回の中山記念は、トップリーグのオープンクラスの中でも格の高い『GⅡ』。まだ下のクラスでくすぶっている馬が勝つのは非常に難しいんです」
若葉:「なるほど! 高校の地方大会で一回戦負けしてる野球部が、いきなりプロのオールスターに混ざるようなもんか! そりゃ打てへんわ!」
佐倉:「その通りです。該当馬は『スパークリシャール』。直近4レースすべてが下の条件戦で、そこでも勝ちきれていません。基礎能力が絶対的に足りていないため、これも消しです」
若葉:「スパークリシャールくん、出直してこい! バツ印や!」
神宮寺:「さて、最後だ。消し条件の三つ目。【直近の3レースすべてで『10着以下』に大敗している馬】だ」
若葉:「ちょっと待ってや教授! それって、完全に主人公の覚醒フラグちゃうの!? ボロボロに負け続けて、急に謎の力を覚醒させて大逆転勝利するヤツ! ウチ、そういうの大好きやねん!」
(アニメや漫画ならその『覚醒』がカタルシスを生むが、データ分析の世界において『連続する大敗』は単なる底なし沼だ。モチベーションの喪失、あるいは肉体的なピークを過ぎた現実を示すシグナルでしかない)
神宮寺:「若葉……現実の競馬に突然の覚醒イベントは実装されていない。3回連続で10位以下に沈んでいるというのは、馬自身が走る気を無くしているか、根本的にスランプに陥っている証拠だ」
佐倉:「はい、若葉さん。そんな状態から突如として大復活を遂げる確率は著しく低いんです。該当馬は『マテンロウオリオン』と『ニシノエージェント』の2頭です」
若葉:「しゃーないな……。マテンロウオリオンくんとニシノエージェントくんも……バツや! これで4頭消えたな!」
神宮寺:「よくやった、若葉。ギャンブルとは『当たるかもしれない馬』を探す作業だが、投資とは『絶対に来ない馬』を論理的に切り捨てる作業から始まる。ノイズが減ったところで、次はさらに網の目を細かくしていくぞ」