うん、俺、がんばった。『俺だけ知ってる彼女の秘密 ~封印スキルで最強幼馴染を守る件~』7【猫でも書ける短編小説】


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【名無しさん】
2025年10月12日
6時9分50秒

猫でも書ける短編小説

第25章 追跡の先にある街
【名無しさん】
2025年10月10日
18時24分45秒

第26章 街での邂逅と創造主の気配

 魔力観測器が壊れた。いや、正確には“壊された”。
 原因は、広場の片隅でパンを焼いているセリナの魔力。
 彼女が「今日は“とろける安心”をテーマにしたの」と言った瞬間、僕の観測器は針を回すのをやめ、画面に「ふわふわ」とだけ表示した。

 

「セリナ、魔力の粒子が香りになってる。観測器が“羽毛布団”って言ってるんだけど」

 

「うん。昨日の空、ちょっとピリピリしてたから、包み込む感じにしたの」

 

 彼女はそう言って、焼きたてのパンを僕に差し出した。
 ふわふわで、湯気が魔力を含んでいる。
 食べると、胃より先に神経系がほぐれる。
 これが、彼女の魔力だ。戦わない魔力。包む魔力。観測不能な魔力。

 

 そして、彼女の足元には、小さな竜が静かに佇んでいた。
 子犬ほどのサイズ。鱗は淡く揺れる炎のように輝き、尾の先は空気を撫でるように揺れている。
 瞳は深い紅で、周囲の魔力を静かに見守っていた。
 それが、封印されたフレイムの今の姿だった。

 

 彼は眠っているわけではない。
 セリナを主人と仰ぎ、常に周囲の危険を探知している。
 今も、耳のような角をぴくりと動かしながら、空を見上げていた。

 

 その時、街の門が騒がしくなった。
 騎士団の旗が見え、先頭には煤けた鎧の男――レイガ=ヴァンデル。
 彼は肩に傷を負いながらも、目はまだ燃えていた。

 

「……この空気……魔力が柔らかすぎる。まるで、焼きたてのパンに包まれてるみたいだ」

 

 彼は僕らを見つけると、足を止めた。
 セリナのパンの香りに気づいたのか、眉をひそめて僕に尋ねる。

 

「君たちは……この街の者か?」

 

「この街で暮らしてます。彼女の魔力が空気に染みてるのは、日常です。観測器は……犠牲者の一つですね」

 

「……君の魔力か。これは……ただの癒しじゃないな」

 

「“安心”と“希望”を練り込んでます。あと、ほんの少し“おやすみなさい”も。眠らせる気はないけど、落ち着かせるにはちょうどいい」

 

 彼はパンをひとくちかじると、目を見開いた。
 そして、空を見上げた。

 

「……追ってくる。若竜、グリュードが。炎を纏って」

 

 その言葉と同時に、空が震えた。
 風が巻き、熱が降りてくる。
 グリュードが、街の上空に現れた。

 

「人間よ……この街に、フレイムの気配がある。答えろ」

 

 声は雷鳴のようだった。
 市民たちは驚き、騎士たちは剣を構えた。
 だが、レイガは剣を抜かず、代わりに一歩前に出た。

 

「落ち着け、グリュード。ここには、戦う理由はない。俺たちも、まだ探っている最中だ」

 

 グリュードの瞳が、セリナに向けられた。
 その瞬間、彼の炎が揺らいだ。
 彼女の周囲に漂う魔力――それは、炎をも包み込む柔らかさだった。



 グリュードの瞳が、セリナの足元に落ちた。
 そこに、小さな竜が静かに佇んでいた。
 子犬ほどのサイズ。鱗は淡く揺れる炎のように輝き、尾の先は空気を撫でるように揺れている。
 瞳は深い紅で、周囲の魔力を静かに見守っていた。
 その姿に、グリュードの心が震えた。

 

(……まさか……師……?)

 

 彼の思念が、無意識にその竜へと伸びた。
 すると、空気がわずかに震え、静かな声が脳裏に響いた。

 

『主の魔力は、空を撫でる羽毛。
 監視者の力は、それを支える静かな風。
 我は、そのふわふわの風景に仕える者──
 ふわふわの番竜とならん』

 

 その声は、かつて空を焦がした師のものだった。
 だが、咆哮ではない。
 炎の核を封じられた、静かな誓いの声。

 

(フレイム様……どうして、そんな姿に……)

 

『力は、主により包まれしもの。
 我が炎は、今は眠らず、ただ静かに在る。
 主の傍にて、風を読み、空を守る。
 それが、今の我の役目』

 

(……お許しを……私は、何も知らず……)

 

『我は、変わらず在る。
 ただ、主の魔力により、形を変えたのみ。
 怒りではなく、包み込む力に従うこと──
 それが、ふわふわの番竜の誓い』

 

 その念話は、グリュードの心の奥にだけ響いた。
 周囲には、ただ静かな空気と、セリナの魔力が漂っているだけだった。
 レイガは、フレイムの姿に目を留めたが、何も言わなかった。
 彼にとっては、ただの魔力を帯びた小竜にしか見えなかったのだろう。

 

 フレイムは、尾を静かに揺らしながら、セリナの足元に寄り添っていた。
 その姿は、誰にも正体を明かさず、ただ主に仕える番竜として、風を読んでいた。



 そして、グリュードの瞳が大きく見開かれた。
 竜族の長老《ヴェルザ=グラウス》が、視覚共有の術を通じて彼の眼を覗いていた。
 セリナの魔力を見た瞬間、ヴェルザの思念がグリュードの脳裏に響いた。

 

『その者……創造主様だ。すぐに戻れ。その場に長くいてはならぬ』

 

 グリュードの膝が、がくりと折れた。
 魂が震えていた。
 セリナの魔力は、ただの癒しではなかった。
 世界を編み直す力。竜族の根源に触れる力。

 

「グリュード……?」

 

 レイガが一歩近づき、彼の様子を見て驚いた。
 あの竜が、膝をついている。
 炎の化身が、ふわふわに包まれている。

 

「……何が起きてる?」

 

 僕は、観測器を再起動した。
 波形は、もはや記録不能。
 代わりに、画面に文字が浮かんだ。

 

「“ようこそ”」

 

 セリナが、グリュードに近づいた。
 彼女の手には、焼きたてのパンがあった。
 湯気は魔力を含み、空気に“安心”を編み込んでいた。

 

「食べる?」

 

 グリュードは、しばらく黙っていた。
 そして、震える手でパンを受け取った。
 ひとくち食べると、炎が静かになった。

 

「……これは、魔力か?」

 

「うん。“安心”と“希望”を多めに入れてあるよ。あと、ほんの少し“おやすみなさい”も」

 

 グリュードは、涙を流した。
 炎が、涙に変わった。
 彼は、フレイムの気配を感じていた。
 だが、それは怒りではなく、封印された力の静かな脈動だった。

 

 フレイムは、セリナの足元で静かに尾を揺らした。
 その小さな竜の姿は、街の空気と溶け合いながら、念話で告げた。

 

『主の魔力は、空を撫でる羽毛。
 我が炎は、その羽毛の下にて、風を読む。
 ふわふわの番竜として、今ここに在る』

 

 レイガは、グリュードの姿を見て、静かに剣を収めた。

 

「……この街に、答えがある。君の魔力が、それを教えてくれる」

 

 僕は、観測器を閉じた。
 もう、測る必要はなかった。
 セリナの魔力は、数字じゃない。
 それは、包む力。世界を編み直す力。

 

 ──そして、空がふわりと揺れた。
 フレイムの封印された力が、遠くで微かに脈打ち始めていた。
 だがその鼓動は、怒りではなく、優しさに包まれていた。

 

 街は静かだった。
 パンの香りと、ふわふわの魔力が、空を満たしていた。

【名無しさん】
2025年10月10日
18時26分12秒

第27章 揺れる忠誠と魔力の余韻

 魔力観測器が、ついに詩人になった。
 今朝の表示は「羽毛のような決意」。昨日は「湯気の中の哲学」。
 セリナの魔力が空気に染みすぎて、機械が自我を持ち始めている。僕はそっと電源を切った。観測よりも、パンの焼き加減のほうが現実的だ。

 

 広場では、セリナが今日も魔力を練っている。
 「今日は“勇気の皮”を包んだ“安心の芯”にしてみたの」と言いながら、パン生地を優しく撫でていた。
 その手つきは、まるで空気に語りかけているようで、見ているだけで心がほぐれる。

 

 彼女の足元には、小さな竜――フレイムが静かに伏せていた。
 鱗は淡く揺れる炎のように輝き、尾の先は風の流れを読むように揺れている。
 耳のような角がぴくりと動くたび、街の空気が少しだけ温かくなる。
 彼は眠っていない。ただ、セリナの魔力に包まれ、静かに在る。

 

 昨日の騒ぎの余韻が、まだ街に残っていた。
 空から現れた若竜《グリュード》は、フレイムの姿を見て膝を折り、涙を流した。
 その姿に、レイガが驚き、僕が観測器を詩人と認定し、セリナはパンを焼き続けた。

 

 そして今、グリュードは広場の片隅に座っている。
 炎の竜が、パンを食べながら静かに思案している姿は、なかなかの非日常だ。
 彼は時折、フレイムに視線を送り、念話で何かを交わしているようだった。

 

(師よ……この街は、何なのですか)

 

『主の魔力は、空を撫でる羽毛。
 この街は、その羽毛の巣。
 我は、ふわふわの番竜として、ここに在る』

 

 詩的すぎて意味がわからないが、グリュードは納得しているようだった。
 彼の炎は、昨日よりもずっと穏やかだ。
 まるで、パンの中に包まれたチーズのように、熱を内に秘めている。

 

 その時、グリュードの脳内に雷のような思念が響いた。

 

『グリュード。即刻帰還せよ。創造主様の気配が濃すぎる。君の鱗が蒸される前に戻れ』

 

(長老……今ちょっと、パンの中に“勇気の芯”が入ってて……)

 

『パンの芯などどうでもいい!君は竜族の調査官だ。ふわふわに感化されるな!』

 

(でも師が……その、ふわふわの番竜になってまして……)

 

『番竜!?フレイムが!?ふわふわ!?何を言っている!?』

 

(いや、見た目は小竜なんですけど、尾の揺れ方がもう……風を読んでるんです)

 

『風を読むな!任務を読め!君は調査官だ!感動するな!』

 

(でも、セリナ様の魔力が……こう、包み込むようで……)

 

『包まれるな!君は炎だ!焼け!燃えろ!帰れ!』

 

(長老、僕は今、焼かれてるんじゃなくて、蒸されてるんです。魔力が“湯気”なんです)

 

『湯気!?魔力が湯気!?君の脳まで蒸されているのか!?』

 

(たぶん、ちょっとだけ。あと、観測器が“ようこそ”って言ってました)

 

『観測器が歓迎するな!機械に感情を持たせるな!君は竜だ!帰還せよ!今すぐ!』

 

(でも、師が……師がセリナ様の足元で尾を揺らしてるんです。あれは、誓いの尾です)

 

『誓うな!揺れるな!君までふわふわになるな!グリュード、これは命令だ!帰還せよ!』

 

(……長老。僕は、師の選んだ温もりを見届けたいんです)

 

『……温もり!?君は炎だ!温もりは敵だ!』

 

(でも、師の炎は、今は温もりなんです)

 

『……ぐぬぬ……ふわふわの魔力……恐るべし……』

 

 念話が途切れた。
 グリュードは、パンをもうひとくちかじった。
 その瞳に、決意が宿っていた。

 

「私は……この街に残ります。師の選んだ温もりを、見届けたい」

 

 その言葉に、レイガが目を見開いた。
 炎の竜が、街に残ると言った。
 それは、戦いではなく、観察の選択だった。

 

 レイガは、広場の端で腕を組んでいた。
 彼の視線は、グリュードに向けられている。
 そして、真顔で言った。

 

「……あいつ、パンに感化されたのか?」

 

「ええ。たぶん、“安心の芯”が効いたんでしょうね」

 

「……魔力で焼いたパンに、竜が感動してるのか……」

 

「魔力というより、湯気です。観測器も“毛布のような魔力”って言ってましたし」

 

「……毛布……」

 

 レイガは、少しだけ笑った。
 その笑みは、戦場では見られない種類のものだった。

 

 そして、フレイムが尾を揺らした。
 その動きは、風を読むようであり、街の鼓動を感じるようでもあった。

 

『主の魔力は、空を撫でる羽毛。
 我が炎は、その羽毛の下にて、風を読む。
 ふわふわの番竜として、今ここに在る』

 

 街は静かだった。
 パンの香りと、ふわふわの魔力が、空を満たしていた。
 そして、炎の竜も、英雄も、観測者も、ただその空気に身を委ねていた。

 

 戦いはなかった。
 ただ、包み込む力が、すべてを受け入れていた。

【名無しさん】
2025年10月10日
18時25分39秒

第28章 風の誓いと再編の街

 魔力観測器が、ついに設計士になった。
 今朝の表示は「風の誓い、構築中」。昨日は「毛布のような魔力、再編の兆し」。
 セリナの魔力が街の空気に染みすぎて、機械が詩人から建築家へと進化した。僕はそっと電源を切った。観測よりも、パンの焼き加減のほうが現実的だ。

 

 広場では、セリナが今日も魔力を練っている。
 「今日は“風の誓い”を焼いてみたの」と言いながら、生地を指先で整えていた。
 その手つきは、まるで空気に語りかけているようで、見ているだけで心がほどけていく。

 

 彼女の足元には、小さな竜――フレイムが静かに伏せていた。
 鱗は淡く揺れる炎のように輝き、尾の先は風の流れを読むように揺れている。
 耳のような角がぴくりと動くたび、街の空気が少しだけ温かくなる。
 彼は眠っていない。ただ、セリナの魔力に包まれ、静かに在る。

 

 街の魔法陣が、昨日から微妙にずれている。
 騎士団の結界は「ふわふわ化」し、障壁が「やさしさの波形」に変化した。
 魔力塔の記録には「湯気」「羽毛」「焼きたて」など、魔法とは思えない単語が並んでいる。
 騎士団長は「これは……再編か?」と呟いたが、誰も答えられなかった。

 

 グリュードは、広場の片隅でパンをかじっていた。
 炎の竜が、ふわふわの魔力に包まれて静かに座っている姿は、昨日までの咆哮とは別人……いや、別竜だった。
 彼は時折、フレイムに視線を送り、念話で何かを交わしているようだった。

 

(この場所……風が、炎を包んでいる)

 

『主の魔力は、空を撫でる羽毛。
 この街は、その羽毛の巣。
 我は、ふわふわの番竜として、ここに在る』

 

 グリュードはパンをもうひとくちかじり、静かに立ち上がった。
 その瞳には、昨日とは違う色が宿っていた。

 

「この街の風を、読みたい。掟よりも、今はそれが大切です」

 

 騎士たちは無言で見守っていた。
 誰も剣に手を伸ばさず、ただ空気の変化を感じていた。
 炎を纏う者が、見守る側に回る──それは、昨日から始まっていた変化の続きだった。

 

 レイガは僕の方をちらりと見て、静かに言った。

 

「……彼は、もう決めていたんだな。昨日の時点で」

 

「ええ。あの沈黙の中で、風向きが変わった気がしました」

 

「なら、俺たちも動くべきだ。この街を、調律の拠点にする準備を始めよう」

 

「魔力調律都市、ですね。パン付きで」

 

「……パンは必須か?」

 

「ええ。魔力の安定には、焼き加減が重要です」

 

 レイガは頷いた。
 その目は、セリナに向けられていた。
 英雄ではなく、設計者のまなざしだった。

 

 セリナは、今日もパンを焼いていた。
 「風の誓い、焼き上がり」と言って、グリュードに差し出す。
 その湯気は、魔力を含み、空気に“誓い”の波形を生んでいた。

 

 フレイムが尾を揺らす。
 その動きは、風を読むようであり、街の鼓動を感じるようでもあった。
 そして、念話が静かに響いた。

 

『風の誓い、主と共に在る。
 我が炎は、包まれし風の中にて、静かに脈打つ』

 

 魔力観測器が、最後に表示した言葉はこうだった。

 

「風の誓い、完了」

 

 僕は、観測器をそっと閉じた。
 この街は、戦場ではない。
 風を読む場所だ。
 そして、焼きたての誓いが、世界を少しだけ柔らかくしている。

 

 ふわふわの魔力が、今日も空を満たしていた。

【名無しさん】
2025年10月12日
21時16分50秒

第29章 静寂の朝と目覚めない主